賞の概要
産総研研究者は、科学技術におけるイノベーション創出の先導者として、自ら向上心と使命感を持って研究を遂行し、質の高い論文を世界に向けて発信していきます。そこで、産総研として誇れる高水準の論文を発表した研究者に対して、2014年度より毎年「産総研論文賞」として顕彰しております。
※受賞者の所属は受賞時点のものです。
過去の受賞一覧
大賞
Drone-based displacement measurement of infrastructures utilizing phase information
(遠距離の微小変形をドローンで計測 - 老朽インフラ点検の新技術)
Nature Communications Volume 15, Article number: 395 (2024)
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受賞者
- 李 志遠(分析計測標準研究部門)
- 叶 嘉星(分析計測標準研究部門)
- 遠山 暢之(レジリエントインフラ実装研究センター)
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選出理由
産総研独自技術であるサンプリングモアレ法による変位計測技術を基にして、ドローン空撮による高精度かつ簡便な橋梁の健全性評価技術を開発した論文である。これを活用した橋梁点検サービスが民間企業(CORE技研)により事業化され、国土交通省の点検支援技術性能カタログにも掲載されるなど、社会実装が進められており、産総研のプレゼンス向上に大きく貢献した。
また、Nature系列紙に掲載されただけでなく、Research Highlightへの選出、学会賞の受賞など国内外で学術的にも高く評価されている。
受賞論文の選定にあたり、老朽インフラ点検に資するドローンによる微小変形計測という新規性・実用性が際立ち、産業界への波及性と学際的な貢献を高く評価されているとともに、論文における定量指標も高く大賞とした。
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李 志遠 |
優秀賞
Integrated CO2 capture and selective conversion to syngas using transitionmetal-free Na/Al2O3 dual-function material
(遷移金属不使用のNa/Al2O3 二元機能触媒を用いた統合型CO2 回収と合成ガスへの選択的変換)
Journal of CO2 Utilization Volume 60, June 2022, 102049
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受賞者
- 笹山 知嶺(CCUS実装研究センター・エネルギープロセス研究部門)
- 高坂 文彦(経営企画本部企画部・CCUS実装研究センター・エネルギープロセス研究部門)
- 劉 彦勇(CCUS実装研究センター)
- 山口 十志明(地域部・CCUS実装研究センター・エネルギープロセス研究部門)
- 陳 仕元(CCUS実装研究センター・エネルギープロセス研究部門)
- 望月 剛久(研究戦略本部企画部・CCUS実装研究センター・エネルギープロセス研究部門)
- 倉本 浩司(CCUS実装研究センター・エネルギープロセス研究部門)
選出理由
産総研のプレゼンス向上への貢献:Na/Al2O3系二元機能触媒を用いて90%以上の転化率・選択率で回収CO2を合成ガスの主成分であるCOに変換するという革新的な成果を世界に先駆けて発信したことで、当該分野における産総研のプレゼンス向上に大きく貢献した。また、本論文はCO2有効利用に関するジャーナルとして世界的に評価の高いJournal of CO2 Utilizationに掲載された。遷移金属不使用でもCO2変換に対して高い活性を発現できるということは従来の常識から逸脱した知見であり、類似組成の触媒を用いた後続研究も誘発していることから、学術領域の拡張に寄与している。加えて、触媒開発にとどまらず、エンジニアリングの視点を取り入れた研究であり、今後の社会実装に向けてさらなる進展が期待される。
受賞論文の選定にあたり、脱炭素実装への寄与が明確となっていたこと、また、その実用ポテンシャルが高く認められることから優秀賞とした。
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笹山 知嶺(中央)
劉 彦勇(左)
倉本 浩司(右) |
Lyric App Framework: A Web-based Framework for Developing Interactive Lyric-driven Musical Applications
(インタラクティブな歌詞駆動型視覚表現「リリックアプリ」を可能にする開発用フレームワーク)
Proceedings of the 2023 CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (ACMCHI 2023), April 2023
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受賞者
- 加藤 淳(人間情報インタラクション研究部門)
- 後藤 真孝(情報・人間工学領域)
選出理由
大規模な商業イベント「マジカルミライ」(2025年は8.5万人が来場)で、このリリックアプリを初めて募集するプログラミング・コンテストが、当該技術を用いて2020年から毎年開催されて計6回で318作品の応募があった。フレームワークの一般公開により、論文の内容を超えて継続的に産総研のプレゼンス向上に貢献している。また、本論文はCORE A* / HCI分野GTop20第一位国際会議ACM CHI 2023で受賞している。さらに、本研究は国内でも発表して7件受賞し、特に、情報処理学会 山下記念研究賞は音楽情報科学研究会とHCI研究会から個別に推薦された稀有なダブル受賞である。筆頭著者は、2024年、こうした「現場に根差す」研究アプローチが評価されて、文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術への顕著な貢献2024【ナイスステップな研究者】に選定された。産総研発の、ポストAI時代のコンテンツ研究の代表事例に位置づけられ、本論文がテレコム学際研究賞 奨励賞を受賞するなど高く評価されてきた。
受賞論文の選定にあたり、ユーザー体験設計や開発生産性への貢献が高いこと、国内外での顕著な賞受賞歴が複数あり、学術的貢献と将来展開性も認められたことから優秀賞とした。
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加藤 淳(左)
後藤 真孝(右) |
Depolymerization of Polyester Fibers with Dimethyl Carbonate-Aided Methanolysis
(炭酸ジメチルを促進剤とするポリエステル繊維の低温メタノリシス解重合法)
ACS Materials Au, 2024 Volume 4, Issue 3, 335-345
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受賞者
- 田中 真司(サーキュラーテクノロジー実装研究センター・化学プロセス研究部門)
- 古賀 舞都(機能化学研究部門)
- 倉賀野 隆(化学プロセス研究部門)
- 小川 敦子(化学プロセス研究部門)
- 荻原 響(化学プロセス研究部門)
- 佐藤 一彦(材料・化学領域)
- 中島 裕美子(触媒化学研究部門)
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選出理由
本論文は、産総研独自技術である『穏和な条件でのPET解重合法』の適用範囲をPET繊維へ拡張し、実材料(高結晶・難分解繊維、綿/ポリウレタン混紡、着色繊維)を対象に高効率で分解できることを実証した点で、学術的・社会的インパクトが極めて大きい。特に、複合・着色系から高純度テレフタル酸ジメチル(PET原料)を回収しつつ、綿やポリウレタンを繊維のまま分別回収できるプロセス設計は、既存技術との差別化ポイントが明確であり、PETのケミカルリサイクル技術の高度化に大きく貢献する成果である。基盤となる学理の丁寧な記述から技術の適用可能性を検証する段階までを一貫して示しており、今後の応用展開や汎用化の観点でも高く評価できる。
学術面でのインパクトの観点では、2024年の発表にもかかわらず短期間で20件超の被引用を獲得しており、今後のさらなる引用増加が期待される。また、本論文のCategory Normalized Citation Impact(CNCI)は、世界平均値1を大きく上回る3.2に達し、当該分野における大きな影響力が裏付けられている。産業界へのインパクトの観点では、産総研のプレゼンス向上に資するとともに、AISol等との連携を通じて社会実装への具体的な道筋を示しており、産業界への波及効果も着実に進展している。本論文の成果を起点として、実証試験や産業連携等の展開により社会実装に向けたロードマップを確立し、加えて短期間で顕著な学術的波及と技術的独創性を示している。 受賞論文の選定にあたり、資源循環・省エネに資する技術であることを評価。論文における定量指標も高く、学術的貢献と産業応用の即応性が委員会で高く認められたため、優秀賞とした。
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田中 真司 |
奨励賞
Single mutation makes Escherichia coli an insect mutualist
(大腸菌が単一突然変異でカメムシの生存を支える必須共生細菌になる)
Nature Microbiology 7 (8) 1141-1150 (2022)
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受賞者
- 古賀 隆一(モレキュラーバイオシステム研究部門)
- 森山 実(モレキュラーバイオシステム研究部門)
- 深津 武馬(モレキュラーバイオシステム研究部門)
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選出理由
本論文は従来の常識を覆す画期的な発見を報告したもので将来的な産業応用の可能性も十分期待できるものである。
産総研のプレゼンス向上への貢献について、プレス発表の初動3日間のアクセス数は1800を超え、Altmetric値も147まで達していた背景から、本論文は社会的に非常に注目されたと言え、産総研の社会的認知度とプレゼンス向上に多大な貢献をしたと評価できる。
また、学術分野での評価について、本論文が掲載されたNature Microbiologyは、微生物学分野のトップジャーナルであり、掲載年(2022)のIFは28.3と極めて高い。これまでに47回引用されており、分野間の差を補正したInCitesのCategory Normalized Citation Impact(CNC)も3.86と上位数%に相当する優れた値を示していることから、学術分野での評価は非常に高いといえる。
さらに、産業界への貢献について、関連特許2件が出願されており、将来的には共生微生物による害虫駆除や、共生微生物と宿主昆虫によるハイブリッドバイオものづくりなどにつながる成果である。
受賞論文の選定にあたり、単一突然変異により共生必須化が生じる現象を示し、微生物−宿主相互作用研究に新しい視座が与えられており、将来の発展性が期待されるため、奨励賞とした。
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古賀 隆一(左)
森山 実(中央)
深津 武馬(右) |
On-chip bacterial foraging training in silicon photonic circuits for projection-enabled nonlinear classification
(シリコンフォトニクス回路でのバクテリア採餌を模倣した学習によるプロジェクション機能を備えた非線形分類)
Nature Communications volume 13, Article number: 3261(2022), 30 June 2022
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受賞者
- Cong Guangwei(光電融合研究センター)
- 山本 宗継(光電融合研究センター)
- 井上 崇(光電融合研究センター)
- 前神 有里子(光電融合研究センター)
- 大野 守史(光電融合研究センター)
- 北 翔太(光電融合研究センター)
- 並木 周(光電融合研究センター)
- 山田 浩治(量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター)
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選出理由
本論文は、光伝搬のみで動作する新しい光ニューラルネットワーク(光NN)演算方式を世界で初めて実証し、電子回路の千分の一以下の遅延、数十分の一の消費電力という圧倒的に低いエネルギー特性を達成した点に高い独創性がある。非線形写像原理を光NNに初めて導入し、光集積回路のみでニューラルネットワーク演算を完結させる新しい光NN体系を創出したことは、従来の光NNモデルを根本的に拡張するものであり、光演算分野に大きなインパクトを与えている。本成果はNature Communicationsというトップジャーナルに掲載され、発表後3年半で被引 用数29、閲覧回数6,536件と学術的に高い評価を得ている。また、OFC2025 のチュートリアル、IEDM2025 の招待講演を含む主要国際会議で10件以上の招待講演に招かれ、十社以上のメディアにも取り上げられるなど、産総研のプレゼンス向上に大きく貢献した。また、本成果を基盤に発展した多種演算子を活用する「光ストリーミングプロセッサ」を提案し、昨年度JST-CREST課題に採択された。
受賞論文の選定にあたり、シリコンフォトニクス×機械学習による非線形分類を示し、次世代フォトニックAI基盤への展開可能性を評価し奨励賞とした。
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Cong Guangwei |
Long-Living Earthquake Swarm and Intermittent Seismicity in the Northeastern Tip of the Noto Peninsula, Japan
(能登半島北東部で長期継続している群発地震と間欠的地震活動)
Geophysical Research Letters volume 50, issue 8, 2023
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受賞者
- 雨澤 勇太(活断層・火山研究部門)
- 宮川 歩夢(地質情報研究部門)
- 今西 和俊(活断層・火山研究部門)
- 大坪 誠(地質調査総合センター研究企画室)
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選出理由
本論文は、地球物理学分野のトップジャーナル Geophysical Research Letters(IF 5.1)に掲載され、同誌2023年の閲覧数で上位10%に入るなど、国際的に高い注目を集めている。さらに、被引用数は50件(Web of Science, 2025/11/10)に達しており、掲載からわずか2年半でこの水準に到達することは、当該分野では極めて稀であり、論文の質と影響力を客観的に示すものである。本研究は、従来十分に解明されてこなかった群発地震の発生メカニズムに関する重要な知見を提供し、さらに大地震の数年前から継続する要因を初めて明らかにした点で、地震学・防災科学を横 断する学際的価値が高いものである。さらに、この成果は、米国地球物理学連合2023年秋季大会において招待講演として取り上げられるなど、国際的評価も確固たるものとなっている。
受賞論文の選定にあたり、地域防災への社会的意義が大きい成果であること及び論文における定量指標も高く、学術・社会の両面での貢献を評価し奨励賞とした。
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雨澤 勇太 |
Generative quantum combinatorial optimization by means of a novel conditional generative quantum eigensolver
(生成AIを用いた量子計算回路の自動設計)
Digital Discovery, 4, 2229-2243 (2025)
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受賞者
- 南 俊匠(量子AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター)
- 鈴木 洋一(量子AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター)
- 門脇 正史(量子AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター)
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選出理由
量子×AI統合による革新的な回路生成手法であり、初期FT量子計算への実応用を加速する基盤技術として高い波及効果が期待できる。他分野への展開可能性も大きく、国内外で競争力の高い先導的研究として強く推奨できる。さらに、本研究は産総研主導で創出された独自技術であり、量子・AI・最適化・HPCを融合した学際的成果として学術的評価も高く、産業界への応用性も極めて高い。
受賞論文の選定にあたり、生成AIを用いた量子計算回路の自動設計という研究の先駆性と将来波及効果が高く認められ奨励賞とした。
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南 俊匠 |