発表・掲載日:2026/10/07

排ガスからアンモニア資源を製造、社会実装に向けた活動を加速

-有害な窒素酸化物(NOx)からアンモニア(NH3)資源を回収する技術、ベンチスケールの実証試験に成功-

ポイント

  • 有害なNOxを有価資源であるNH3として回収するベンチスケールの反応試験に成功
  • NOxを含む大流量の排ガス処理に向けたハニカム触媒やペレット触媒を開発
  • 産業活動由来の低濃度なNOxを吸蔵、NH3への資源化により、エネルギー問題、環境問題の同時解決に期待

概要図

※原論文の図を引用・改変したものを使用しています。


概要

国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)マルチマテリアル研究部門 若林 隆太郎 研究グループ付、冨田 衷子 主任研究員、木村 辰雄 上級主任研究員は、産総研福島再生可能エネルギー研究所(FREA)に整備されている大型(ベンチスケール)装置を使用し、燃焼排ガスと還元ガスを交互に切り替えて燃焼排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)をアンモニア(NH3)に変換する、吸蔵NTA反応の実証に成功しました。

火力発電施設やごみ焼却場などの燃焼排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)は、通常は無害化して窒素(N2)へ戻します。本研究は、NOxをアンモニア(NH3)へ変換し、排ガス浄化と資源回収を同時に実現することを目指すものです。研究グループはこれまで、実験室の小型(ラボスケール)装置を使い、NOxをNH3に変換する吸蔵NTA反応用のナノ複合触媒材料の開発と基本原理の実証、材料組成の最適化、利用技術の高度化に取り組んできました[1,2]。

今回、吸蔵NTA反応によるNOxの資源化技術の社会実装を進めるため、FREAに整備されている大型(ベンチスケール)装置を活用しました。ベンチプラントでの実験を重ね、燃焼排ガスと還元ガスを交互に切り替える吸蔵NTA反応の実証に成功しました。ラボスケールからベンチスケールへのスケールアップを通じて触媒材料を部材化したことによる利用効率の変化や導入ガスの処理能力を把握することで明らかとなる技術的課題の解決の先に、本技術の社会実装による環境問題の解決と有価資源の確保が期待されます。


研究の社会的背景

火力発電施設やごみ焼却場などでは、高温燃焼の過程で空気中の窒素(N2)と酸素(O2)が反応してNOxが発生します。NOxは、人体や環境に悪影響を与えるため、世界中で法令に基づき、排出濃度や排出総量が規制されています。そのため、現在はNOxをN2へ触媒変換する「無害化」技術が広く採用されています。一方で、この無害化にはNH3や尿素(CO(NH2) 2)などの還元剤が必要です。NH3は、空気中のN2とメタン(CH4)の水蒸気改質などで合成した水素(H2)から多大なエネルギーを必要とする高温・高圧反応(ハーバー・ボッシュ法)により製造され、尿素もNH3から合成します。つまり、現在主流のNOxの処理は、エネルギーを使って製造したNH3などを用いてNOxをN2に戻すプロセスになります。

他方、農作物を育てる際の肥料として大量の窒素化合物がN2を原料として製造されていますが、その確保に要するエネルギーは世界のエネルギー消費の1〜2 %を占めるとされています。さらに、火力発電燃料としてのNH3についても、2050年に年間3,000万トン(H2換算:500万トン)の国内需要を見込んでおり[3]、その確保に必要なエネルギーもまた膨大になることが懸念されます。N2と比較して反応性が格段に高いNOxを廃棄物として「無害化」するのでなく、化学原料としてNH3などに「資源化」できれば排ガスの浄化と有価資源の製造を同時に達成できます。

 

研究の経緯

産総研では、2019年頃から、燃焼排ガスと還元ガスを交互に切り替えて導入する吸蔵NTA反応を提案し、NOxを化学原料とするNH3の選択合成に取り組んでいます[1,2]。研究グループで独自開発した多孔質材料(酸化物系メソポーラス材料)を活用し、多孔性を保持したまま金属触媒と吸蔵成分を精密に複合化したナノ複合触媒材料の設計を中心に、材料組成の選定や反応条件の最適化を進めてきました[2]。ラボスケールの実験では、90 %を超えるNOxの回収とそのNH3化が可能なプロセス条件も見いだしています。しかし、産総研が研究を進めてきた吸蔵NTA反応の社会実装には解決すべきいくつかの技術的な課題があります。特に、産業由来の排ガスに含まれるNOx濃度は0.1 %以下と低く、低濃度のNOxを確実に回収するためには、触媒を保持する機構(担体)を含め、緻密に設計された反応プロセスを確立する必要があります。単位時間あたりに処理する排ガス量が増え、反応管の容積が大きくなるにつれ、この課題は顕在化します。

今回、ラボスケールでの反応試験の結果を精査しながら、FREAに整備されているベンチプラントを活用し、スケールアップした場合の吸蔵NTA反応によるNH3製造を検証しました。

なお、本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出―プラネタリーバウンダリー問題の解決に向けて」(2020~2025年度)による支援を受けました。

 

研究の内容

図1に、吸蔵NTA反応に使用するラボスケール装置と大型ベンチスケール装置の実物写真、装置仕様の比較を示しました。ラボスケールの反応装置で使用する反応管の容積はわずか1 cm3程度ですが、FREAに整備されているベンチスケールの反応装置で使用する反応管は約100倍スケール(容積:100 cm3、内径:16 mmφ、長さ:500 mm)です。反応試験を実施する際のガス流量は最大44 L min-1(最大ガス量:2.64 Nm3 h-1、ラボスケールの400倍以上)です。ラボスケール装置よりも10倍以上長い反応管の内部全体に触媒材料を充填します。スケールアップによる、反応の状況の違いをガス組成の変化や反応管内の温度分布を分析、観察することで、実プロセスに必要な情報が収集できます。

図1

図1 ラボスケールとベンチスケールの反応装置の比較
導入ガス切替式のNOx吸蔵還元反応に対応したラボスケールの反応装置と導入ガス切替式の2塔式反応試験への展開も見据えたベンチスケールの反応装置、反応管の設置場所は赤枠で記載
 

ベンチスケールの反応試験に使用するハニカム触媒を調製するため、反応管(内径:16 mmφ)にモジュール式で充填するハニカム基材(外径:16 mmφ×長さ:62.5 mm)を設計しました。メソポーラスアルミナ(mAl2O3)を触媒担体として、触媒の白金(Pt)と吸蔵成分の酸化バリウム(BaO)を複合化したナノ複合触媒材料(BaO/Pt@mAl2O3)を含むスラリーをその基材に塗布しました。以前の研究でBaO/Pt@mAl2O3を用いたラボスケールの反応試験を実施しており、吸蔵したNOxの90 %超をNH3化する触媒性能を有することを確認しています[2]。超高感度のガス検出器を接続して反応試験を実施した結果、ベンチスケールでの吸蔵NTA反応の実証に成功しました(図2)。吸蔵工程では、NOとO2を含むガスを導入すると、NOがPt触媒上で酸化されてNO2へと変化した後にBaO種と化学的に反応して捕捉されます(動画1)。還元工程では、H2を含む還元ガスに切り替えると、Pt触媒上で解離した水素種により吸蔵したNOxが水素化されてNH3が生成します(動画1)。還元工程の初期にNH3が多く生成している様子が確認できます。8本のハニカム触媒を充填した反応管を用いた場合、NH3化率は20 %程度になりました。また、ラボスケールの反応装置を併用することで、ガス流速を下げてNOxと触媒材料との接触時間を長くするとNH3化率が改善することや反応試験を40回程度まで繰り返しても触媒性能が安定していることを確認しています。それらの実験結果を踏まえて現在、NH3化率のさらなる改善や大流量の燃焼排ガスの処理に対応するため、再生可能エネルギー研究センターとともにベンチスケール装置の改良を進めています。

図2

図2 アルミナ系ハニカム触媒を使用したベンチスケールの反応試験
[反応温度:250 ℃、触媒量:1.6 g(アルミナ系ハニカム触媒8本)、ガス流量:8.8 L min-1、反応時間:60 min、ガス組成:(導入ガス1:吸蔵過程)200 ppm NO + 10 % O2 + 10 % CO2 + 10 % H2O ⇆(導入ガス2:還元過程)5 % H2 ]
 

動画1 多孔質触媒材料を用いた吸蔵NTA反応の様子

市販のアルミナ粒子に金属触媒や吸蔵成分を複合化するような既存技術を利用した量産化や部材化も想定し、BaO/Pt@mAl2O3と同等性能を示す、アルミナ系ペレット触媒の開発も進めています。ペレット触媒の設計には、Pt触媒の平均粒径を調節する必要があり、Pt源(例えば塩化白金酸)を担持した後の焼成温度を適切に選択することが重要です[4]。大型反応管に充填した触媒量[ペレット触媒:44 g]を考慮し、ラボスケールの反応試験とガス流量に対する触媒量が同一となる条件[反応温度:250 ℃、反応時間:60 min、ガス流量 44 L min-1]を決定しました。ごみ焼却場を意識した排ガス組成[(導入ガス1:吸蔵過程、ごみ焼却場を想定した排ガス)200 ppm NO + 10 % O2 + 10 % CO2 + 10 % H2O ⇆ (導入ガス2:還元過程)5 % H2]は固定し、ベンチスケールの反応試験による吸蔵NTA反応の進行を確認しました。触媒量がハニカム触媒の27.5倍に増えたことを反映し、NH3化率は60 %程度に改善されました。また、ガス流量を44 L min-1から8.8 L min-1に下げると、NOxと触媒の接触時間が増え、NH3化率が90 %程度に達することも実証しました(図3)。

図3

図3 アルミナ系ペレット触媒を使用したベンチスケールの反応試験
[反応温度:250 ℃、触媒量:44 g、ガス流量:8.8 L min-1、反応時間:60 min、ガス組成:(導入ガス1:吸蔵過程)200 ppm NO + 10 % O2 + 10 % CO2 + 10 % H2O ⇆(導入ガス2:還元過程) 5 % H2 ]
 

以上のように、独自開発したナノ複合触媒材料のハニカム部材化や開発材料と類似性能を示すアルミナ系ペレット触媒を用いて、ベンチスケール装置における反応時間を十分に確保するための技術的な課題を解決すれば、吸蔵NTA反応によるNH3化を高効率化できることを確認しました。

 

今後の予定

今後、実際のごみ焼却場などの排ガス総量の処理に適用することを視野に、反応器の大型化などを通じた技術的な課題を整理し、ベンチスケール反応装置の100倍スケール程度(ごみ焼却場の排ガス総量に対して100分の1スケールに相当)のパイロットスケールの装置構成を検討していきます。

吸蔵NTA反応、あるいは周辺技術の社会実装を加速するため、企業連携を含め、ガスタービンやボイラーなどの燃焼設備やその後段に設置してある排ガス処理施設に本技術を接続することを想定し、ライフサイクルアセスメントの評価も進め、環境問題、資源問題、エネルギー問題の解決に資する本技術による窒素問題の解決やサーキュラーエコノミーへの貢献を目指します。

 

参考情報

[1] Kimura, T. Utilization of reactive nitrogen compounds for nitrogen circular economy, The Chemical Record 2024, vol. 24, no. 8, e202400094. DOI: https://doi.org/10.1002/tcr.202400094
[2] Tomita, A. et al. Catalytic conversion to ammonia through solid-state nitrate as a proposal for emerging usage of nitrogen oxides, Catalysis Science & Technology 2023, vol. 13, no. 10, p. 2927-2936. DOI: https://doi.org/10.1039/d3cy00169e
[3] グリーンイノベーション基金事業「燃料アンモニアサプライチェーンの構築」プロジェクトの研究開発・社会実装計画(経済産業省/資源エネルギー庁、2021年9月)
[4] Tomita, A. et al. Size-dependent properties of Pt catalysts for the synthesis of NH3 during a gas-switching NOxstorage and reduction process using BaO/Pt/γ-Al2O3. Catalysis Science & Technology 2025, vol. 15, no. 21, p. 6477-6485. DOI: https://doi.org/10.1039/d5cy00778j


用語解説

窒素酸化物
一酸化窒素(NO)や二酸化窒素(NO2)などの窒素酸化物(NOx)の総称。NO2は光化学スモッグや酸性雨の原因物質であり、環境中への排出が規制されている化学物質である。窒素成分を含む物質が燃焼する時に生成するフューエルNOxの他、高温燃焼により空気中のN2とO2が反応して生成するサーマルNOxがある。[参照元へ戻る]
アンモニア
常温常圧では無色透明の気体で刺激臭があり、窒素肥料やさまざまな化学製品の原料となる。容易に液化できることから水素キャリアとしても注目されている他、二酸化炭素を排出しない発電用の燃料とする利用技術の開発も進められている。[参照元へ戻る]
吸蔵NTA反応
NOx吸蔵還元(NOx storage-reduction、NSR)反応の一つ。NTAは「NOx to Ammonia」の頭文字に由来する略称である。希薄燃焼ガソリンエンジン車に搭載されている排ガス浄化触媒に採用されているNSR反応による無害化プロセスに学び、排ガス中に含まれるNOxを化学的に捕捉した後にH2などのガスを導入して還元反応を選択的に進行するよう改良した化学反応を指す。[参照元へ戻る]
ハーバー・ボッシュ法
高温・高圧でN2とH2を鉄系触媒と反応させてNH3を工業的に製造する方法。100年以上前にドイツの化学者フリッツ・ハーバーと技術者カール・ボッシュが開発し、現在も空気中のN2からNH3を合成する主な方法である。[参照元へ戻る]
メソポーラス材料
ミクロ孔(孔径:2 nm未満)とマクロ孔(孔径:50 nm以上)の中間の孔径(2~50 nmの範囲、メソ孔)を有する多孔質材料。[参照元へ戻る]
金属触媒
化学反応の前後で状態は変化しないが、主に化学反応を促進する効果を示す金属成分。触媒の多くには白金などの貴金属が用いられる。[参照元へ戻る]
吸蔵成分
NOxと反応して捕捉(吸蔵)するための化学成分を指す。硝酸塩や亜硝酸塩を形成するアルカリ土類金属やアルカリ金属が主に利用される。代表的な化学成分には、それぞれバリウムやカリウムがある。[参照元へ戻る]
ハニカム触媒・ペレット触媒
ガスの流通を妨げないような一軸方向に貫通した穴の開いたハニカム支持体、またはペレットに触媒を塗布したものをハニカム触媒・ペレット触媒と呼ぶ。[参照元へ戻る]
ライフサイクルアセスメント(LCA)
製品の調達から廃棄に至るまでの一連の環境負荷を客観的かつ定量的に評価すること。[参照元へ戻る]

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