発表・掲載日:2026/09/28

埼玉県主要都市部の軟弱地盤を高密度で見える化

-地震で揺れやすい場所の可視化マップを作成・公開-

ポイント

  • 波風や産業活動の影響で生じる地面の微小な揺れを観測し、その地点の揺れやすさを評価
  • 埼玉県南東部853地点の観測データから、地質図には表しきれなかった軟弱地盤の分布を表したマップを作成・公開
  • 自治体等のハザードマップ作成や地震被害想定の高度化に貢献

概要図

(左)都市域の地質地盤図「埼玉県南東部」の位置図、(右)微動データに基づく軟弱地盤(赤部)の分布
※長ら(2025)の図を引用・改変したものを使用しています。


国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」)と国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下「防災科研」)は、地震で揺れやすい地盤の分布を示す埼玉県南東部の軟弱地盤マップを作成・公開しました。このマップは、地盤の揺れ方の特徴(共振周波数)をもとに、揺れが大きくなりやすい軟弱地盤の分布を示したものです。軟弱地盤は、地震の揺れを強めたり、道路下の空洞化や地盤沈下の原因となることがあります。このため、本マップは、自治体によるハザードマップの作成や地震被害の想定、防災対策の検討に役立つと期待されます。

これは、産総研が公開している都市部の地下地質図(都市域の地質地盤図)に、地震の際の地盤の揺れやすさに関する情報を新たに加える取り組みの一環です。これにより、地質図だけでは定性的にしか把握できなかったリスクを定量的に評価することが可能となりました。

本マップは、埼玉県南東部853地点で観測した常時微動(以下、「微動」)のデータを解析して得られた微動H/Vスペクトルのピーク周波数を地図上に落とし込んだものです。地震工学的研究により、微動H/Vスペクトルのピーク周波数は、理論的・経験的に、地盤の共振周波数に近い値になることが分かっています。したがって、このマップは、埼玉県南東部の地下数十メートル程度までの地盤の特徴を反映し、地震時の揺れやすさの違いを示した共振周波数マップと考えられます。

一般に、固い地盤は高い周波数で、軟らかい地盤は低い周波数で揺れる特徴があります。このため、地盤が揺れやすい周波数(共振周波数)を調べることで、地盤の固さを評価できます。本マップでは、微動から求めた地盤の共振周波数をもとに、耐震設計で用いられる基準(公益社団法人日本道路協会「道路橋示方書・同解説(V耐震設計編)」平成29年刊行版)に沿って軟弱地盤の分布を示しています。

こうして得られた軟弱地盤マップは、地質地盤図における低地の沖積層および地盤の強度を示すN値の分布、防災科研における浅部・深部統合地盤構造モデルとおおむね整合することが明らかとなりました。N値は地盤の固さを示す量ですが、必ずしも地盤の揺れ方を示すわけではないので、地震ハザード評価の観点からは、今回のように、揺れを直接表現する定量的なデータを確認することが重要です。また、N値は地盤を破壊する貫入試験で得られるので、データが存在する地点は建設現場等に偏りがちです。これに対し、微動はいつでもどこでも簡単に測定できるので、本マップは、対象地域内でほぼ均質な間隔(平均約1 km)で測定したデータに基づいて作成しました。本成果は、防災科学技術研究所が整備してきた浅部・深部統合地盤構造モデルを観測データに基づいて検証・補完する新たな基盤情報となり、地震防災研究を一段前進させるものです。


メンバー

長 郁夫(産総研 地質情報研究部門 上級主任研究員)
先名 重樹(防災科研 巨大地変災害研究領域 地震津波複合災害研究部門 主任専門研究員)
野々垣 進(産総研 地質情報研究部門 情報地質研究グループ 研究グループ長)

 

入手先

本地質地盤図は、産総研地質調査総合センターのウェブサイト「都市域の地質地盤図」から閲覧できます(https://gbank.gsj.jp/urbangeol/)。

 

関連する論文

掲載誌:日本地震工学会論文集(2025年25巻12号)
タイトル:微動H/Vスペクトルのピーク周波数マップ:埼玉県南東部における3次元地質地盤図との比較事例
著者:長郁夫、先名重樹、野々垣進
DOI:https://doi.org/10.5610/jaee.25.12_121


用語解説

軟弱地盤
一般に、表層地盤が柔らかいと共振周波数は低く、固いと高くなる傾向がある。地盤の共振周波数を用いた耐震設計の基準(本文参照)では共振周波数が1.7 Hz以下となる地盤は良くない地盤と判断されている。本稿ではこのような地盤を軟弱地盤と呼んでいる。[参照元へ戻る]
共振周波数
地盤に地震波などが伝わった際にその地盤が最も大きく揺れやすい(共振する)特定の周波数を地盤の共振周波数と呼んでいる。[参照元へ戻る]
都市域の地質地盤図
ボーリングデータ等をもとに都市域の地下の地層の分布を3次元解析することによって作成した産総研の地質図シリーズ。地層の3次元の分布形態を平面図・断面図・立体図で表示したり、解析に使用したボーリングデータを閲覧したりできる。[参照元へ戻る]
常時微動(微動)
波浪や風、車両や産業活動等の不特定多数の震動源で励起される地面の微小な揺れ。震動源で励起された揺れは弾性波と呼ばれる波として地面を伝播する。[参照元へ戻る]
微動H/Vスペクトル
微動の揺れを水平動と上下動に分けた時の周波数ごとの振幅比または振幅2乗比。そのピーク周波数は経験的に地盤の共振周波数を良く近似するとされている。[参照元へ戻る]
低地
河川沿いや沿岸域に発達する標高の低い平坦な土地。河川や沿岸域の堆積作用により形成される。埼玉県南東部では、中川・古利根川沿いに発達する「中川低地」、荒川沿いに発達する「荒川低地」のほか、台地を開析する小河川沿いにも狭い低地(谷底低地)が発達する。[参照元へ戻る]
沖積層
最終氷期最盛期(約2万年前)以降に河川沿いや沿岸域に堆積した地層。新しい時代に形成された地層で、水分も多く含むため、軟らかいことが多い。沖積層は低地の地盤を構成し、東京下町から埼玉県南東部の低地の地下には、最終氷期に形成された深い谷を埋めて沖積層が厚く分布している。[参照元へ戻る]
N値
地盤の強度等を調べる標準貫入試験の値。63.5 kgのおもり(ドライブハンマー)を76 cmの高さから落として、地面に垂直に立てたロッドの頭をたたき、ロッドの先端に付けたサンプラーが地盤に30 cm貫入するのに必要なおもりの落下回数をN値として表す。N値が大きいほど固い地盤、小さいほど軟らかい地盤を示す。新しい時代の泥層はN値が小さい(軟らかい)ことが多く、それに比べて砂層や礫層はN値が大きい(固い)傾向にある。[参照元へ戻る]
浅部・深部統合地盤構造モデル
強震動予測に活用することを目的として、浅部地盤構造と深部地盤構造を切れ目なくスムーズに接合した浅部・深部統合地盤構造モデル。地震調査研究推進本部の地下構造モデル検討分科会によって審議され、主に防災科学技術研究所(地震ハザードステーションJ-SHIS)より公表されている。[参照元へ戻る]


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