- 波風や産業活動の影響で生じる地面の微小な揺れを観測し、その地点の揺れやすさを評価
- 埼玉県南東部853地点の観測データから、地質図には表しきれなかった軟弱地盤の分布を表したマップを作成・公開
- 自治体等のハザードマップ作成や地震被害想定の高度化に貢献

(左)都市域の地質地盤図「埼玉県南東部」の位置図、(右)微動データに基づく軟弱地盤(赤部)の分布
※長ら(2025)の図を引用・改変したものを使用しています。
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」)と国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下「防災科研」)は、地震で揺れやすい地盤の分布を示す埼玉県南東部の軟弱地盤マップを作成・公開しました。このマップは、地盤の揺れ方の特徴(共振周波数)をもとに、揺れが大きくなりやすい軟弱地盤の分布を示したものです。軟弱地盤は、地震の揺れを強めたり、道路下の空洞化や地盤沈下の原因となることがあります。このため、本マップは、自治体によるハザードマップの作成や地震被害の想定、防災対策の検討に役立つと期待されます。
これは、産総研が公開している都市部の地下地質図(都市域の地質地盤図)に、地震の際の地盤の揺れやすさに関する情報を新たに加える取り組みの一環です。これにより、地質図だけでは定性的にしか把握できなかったリスクを定量的に評価することが可能となりました。
本マップは、埼玉県南東部853地点で観測した常時微動(以下、「微動」)のデータを解析して得られた微動H/Vスペクトルのピーク周波数を地図上に落とし込んだものです。地震工学的研究により、微動H/Vスペクトルのピーク周波数は、理論的・経験的に、地盤の共振周波数に近い値になることが分かっています。したがって、このマップは、埼玉県南東部の地下数十メートル程度までの地盤の特徴を反映し、地震時の揺れやすさの違いを示した共振周波数マップと考えられます。
一般に、固い地盤は高い周波数で、軟らかい地盤は低い周波数で揺れる特徴があります。このため、地盤が揺れやすい周波数(共振周波数)を調べることで、地盤の固さを評価できます。本マップでは、微動から求めた地盤の共振周波数をもとに、耐震設計で用いられる基準(公益社団法人日本道路協会「道路橋示方書・同解説(V耐震設計編)」平成29年刊行版)に沿って軟弱地盤の分布を示しています。
こうして得られた軟弱地盤マップは、地質地盤図における低地の沖積層および地盤の強度を示すN値の分布、防災科研における浅部・深部統合地盤構造モデルとおおむね整合することが明らかとなりました。N値は地盤の固さを示す量ですが、必ずしも地盤の揺れ方を示すわけではないので、地震ハザード評価の観点からは、今回のように、揺れを直接表現する定量的なデータを確認することが重要です。また、N値は地盤を破壊する貫入試験で得られるので、データが存在する地点は建設現場等に偏りがちです。これに対し、微動はいつでもどこでも簡単に測定できるので、本マップは、対象地域内でほぼ均質な間隔(平均約1 km)で測定したデータに基づいて作成しました。本成果は、防災科学技術研究所が整備してきた浅部・深部統合地盤構造モデルを観測データに基づいて検証・補完する新たな基盤情報となり、地震防災研究を一段前進させるものです。
長 郁夫(産総研 地質情報研究部門 上級主任研究員)
先名 重樹(防災科研 巨大地変災害研究領域 地震津波複合災害研究部門 主任専門研究員)
野々垣 進(産総研 地質情報研究部門 情報地質研究グループ 研究グループ長)
本地質地盤図は、産総研地質調査総合センターのウェブサイト「都市域の地質地盤図」から閲覧できます(https://gbank.gsj.jp/urbangeol/)。
掲載誌:日本地震工学会論文集(2025年25巻12号)
タイトル:微動H/Vスペクトルのピーク周波数マップ:埼玉県南東部における3次元地質地盤図との比較事例
著者:長郁夫、先名重樹、野々垣進
DOI:https://doi.org/10.5610/jaee.25.12_121