発表・掲載日:2020/11/04

ポリマー半導体の「隙間」を制御してドーピング量を100倍に向上

-分子ドーピングと立体障害の相関を解明-

発表のポイント

  • ポリマー半導体の電子の数や流れやすさを制御する分子ドーピングは、フレキシブルエレクトロニクスの基盤技術です。しかしながら、分子の「形」や「大きさ」に由来する立体障害と分子ドーピングの関係は未解明でした。
  • ポリマー半導体の「隙間」のサイズを精密に制御することで、分子ドーピングの量を100倍程度向上することに成功しました。
  • 分子ドーピングと立体障害の相関が明らかになったことで、これまで達成することができなかった最密充填された分子の複合体を用いて、金属のように電気が流れる導体を製造する指針が明確になりました。

発表概要

東京大学大学院新領域創成科学研究科、同連携研究機構マテリアルイノベーション研究センター、科学技術振興機構(JST)さきがけ、産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ(注1)、広島大学大学院先進理工系科学研究科の共同研究グループは、世界で初めてポリマー半導体の立体障害と分子ドーピングの相関を明らかにし、ポリマー半導体の「隙間」のサイズを制御することでドーピング量を100倍向上させることに成功しました。

本研究成果は、国際科学雑誌「Communications Materials」2020年11月4日版に掲載されます。本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(さきがけ)研究領域「超空間制御と革新的機能創成」(研究総括:黒田 一幸)研究課題「分子インプランテーションによる超分子エレクトロニクスの創成」(研究者:渡邉 峻一郎 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 准教授)の一環として行われました。


発表内容

<背景>

半導体の結晶中に不純物(ドーパント)を添加することで、半導体中の電子の数やエネルギーを精密に制御することができます。不純物ドーピングは、シリコンエレクトロニクスを支える最も重要な半導体技術です。プラスチックやゴムなどに代表されるポリマーにおいても、半導体的な特性が発見されて以来、不純物ドーピングが適用されており、さまざまな電子機能性材料として産業応用も拡大されつつあります。シリコンにおける不純物ドーピングは、格子を形成するシリコン原子を別の原子に置き換えることで達成されていました。一方で、ポリマー半導体をドーピングする際には、ユニークな形やサイズを有するポリマー分子とドーパント分子を複合化する必要があり、複雑な立体障害を制御することが必要不可欠でした。

本研究グループはポリマー半導体の中でも特に高い結晶性を有する結晶性ポリマー半導体に着目し、不純物ドーピングの研究を行ってきました(S. Watanabe, et al., Nature 2019, http://www.k.u-tokyo.ac.jp/info/entry/22_entry760/)。本質的に一次元的な鎖であるポリマーは、茹でたスパゲッティの様に鎖どうしが複雑に絡み合った構造をとりますが、結晶性ポリマー半導体は、比較的剛直な骨格をデザインすることで茹でる前のスパゲッティの様に鎖が規則正しく配列することが特徴的です。本研究グループは、結晶性ポリマー半導体の1ユニットあたり、1ドーパント分子を高密度に複合化する技術を世界に先駆けて報告しています。このような高密度な分子複合状態において、不純物ドーピングの効果を最大化する分子設計指針は明らかになっていませんでした。

<手法と成果>

このような課題を解決するため、本研究グループは結晶性ポリマー半導体のナノメートルサイズの「隙間」に着目し、立体障害と分子ドーピングの相関を系統的に調査しました。その結果、電気を流す骨格に周期的に付与された側鎖の密度を精密に制御し、適切に隙間を拡張することで(図)、分子ドーピング量を100倍程度向上させることに成功しました。また、この隙間が拡張された結晶性ポリマー半導体では、従来のドーパント分子よりも3倍程度体積の大きなドーパント分子を複合化することが可能となり、ほぼ最密充填された分子複合体を作製することにも成功しています。

<今後の展望>

結晶性ポリマー半導体の隙間とドーパント分子の大きさの関係が明らかとなったことで、これまでに実現できなかったさまざまな分子複合体材料を設計する指針が明確になりました。また、最密充填された分子複合体は、金属のように電気が流れやすくなり、熱耐久性や環境耐久性も向上することがわかってきています。今後、異なる分子の複合化という極めて単純な化学操作によって、革新的な電子・イオン材料を創製できると期待されます。

模式図

隙間のサイズを制御した結晶性ポリマー半導体PNDTBT-4C16とPNDTBT-C20の化学構造と分子集合体の模式図。隙間を拡張することで、ドーパント分子が格納されるスペースが確保されている。

発表者

河野 真弥(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 修士課程1年生)
山下 侑(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 博士研究員)
竹谷 純一(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 教授/
 連携研究機構マテリアルイノベーション研究センター(MIRC)特任教授/
 産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ 客員研究員 兼務)
尾坂 格(広島大学大学院先進理工系科学研究科応用化学プログラム 教授)
渡邉 峻一郎(東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻 准教授/
 科学技術振興機構(JST)さきがけ研究員/
 産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ 客員研究員 兼務)

発表雑誌

雑誌名:「Communications Materials」(オンライン版:11月4日)
論文タイトル:Controlled steric selectivity in molecular doping towards closest-packed supramolecular conductors
著者:Shinya Kohno, Yu Yamashita, Naotaka Kasuya, Tsubasa Mikie, Itaru Osaka, Kazuo Takimiya, Jun Takeya, and Shun Watanabe*
DOI番号:10.1038/s43246-020-00081-3


用語解説

(注1)産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリオペランドOILのロゴ画像
平成28年6月1日、東大柏キャンパス内に設置した産総研と東大の研究拠点。相互のシーズ技術を合わせ、産学官ネットワークの構築による「橋渡し」につながる目的基礎研究の強化や、先端オペランド計測技術を活用した生体機能性材料、新素材、革新デバイスなどの産業化・実用化のための研究開発を行っている。[参照元へ戻る]


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