発表・掲載日:2020/01/23

塗布構造吸収器を採用した車載向け小型吸収冷凍機を開発

-2020年1月から商用車での車両評価を開始、実用化を目指す-

NEDOは、「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に取り組んでおり、今般、同事業で未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合、アイシン精機(株)、産業技術総合研究所、東京大学は、世界で初めて「塗布構造吸収器」と吸収器全体を水蒸気透過膜で覆う「メンブレンラッピングアブソーバー」を採用したエンジン車両搭載型小型吸収冷凍機を開発しました。

開発した冷凍機は、車両の排ガス熱を回収し、冷熱を発生する吸収冷凍機を車両に搭載するために小型・軽量化したほか、「塗布構造吸収器」や「メンブレンラッピングアブソーバー」の採用により、走行時の傾斜や揺れなどの影響を防止します。これにより、車両環境に対応でき、圧縮式冷凍機からの置き換えにより、エンジン車の冷房運転時の大幅な燃費向上が期待できます。

2020年1月から、吸収冷凍機を搭載した車両の評価を開始し、商用車の排ガスを利用した車室空調の性能を確認して吸収冷凍機を車両システムに組み込むための課題を抽出します。これらを通じて車載吸収冷凍機の実用化を目指します。

図1

図1 車両搭載外観

図2

図2 搭載システム



概要

従来の自動車の冷房は圧縮式冷凍機を用いているため、冷房時には走行以外にエンジンでコンプレッサーを作動させる燃料が必要となり、その燃費は非冷房時に比べて5~50%程度悪化するとの報告(JARI Research Journal 2013.3による)があります。一方、エンジン車では燃料の持つ熱エネルギーの約60%(未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)調べ)が未利用の熱エネルギーとして捨てられています。このような未利用熱をエネルギー源として冷房運転を行う吸収冷凍機※1を用いることができれば年間約12%の燃費向上が期待できます。

一般的な吸収冷凍機は、主に燃料を燃焼させた熱をエネルギー源とし、水を蒸発させたときの気化熱を利用して冷房をする方式で、大型のシステムを中心に設置されており、オフィスビルなどで使われています。吸収冷凍機をエンジン車に用いる場合、必要とされる冷房能力は、オフィスビルなどに用いられる据置型に比べて一桁以上小さい数kW程度ですが、エンジン車の排熱利用と車載可能な条件を考えると、容積および重量あたりの冷房能力をそれぞれ20~40%、130%程度高めなければならず、大幅な小型化と軽量化が必須条件となります。さらに、車両走行時特有の傾斜、振動、高温など据置型では考慮する必要のない制約条件への対応も必要となります。これらの課題が予想されるため、これまで車載吸収冷凍機は実用化が困難でした。

このような背景のもと、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発※2」の中で、2015年から「車両用小型吸収冷凍機の研究開発」に取り組んでおり、今般、同事業でTherMAT、アイシン精機株式会社、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)、国立大学法人東京大学(東京大学)は、「塗布構造吸収器」と吸収器全体を水蒸気透過膜で覆う「メンブレンラッピングアブソーバー※3」を世界で初めて採用したエンジン車両向け小型吸収冷凍機を開発しました。

開発した冷凍機は、車両の排ガス熱を回収し、冷熱を発生する吸収冷凍機を車両に搭載するために小型・軽量化したほか、「塗布構造吸収器」と「メンブレンラッピングアブソーバー」の採用により、車両の傾斜や振動、高温などの車両環境に対応できます。



今回の成果

従来の据置型吸収冷凍機は、[1]構造材として鉄や銅などが主に使用されているため重い、[2]重力を利用して作動媒体※4を熱交換器に滴下する構造(図3(a))のため、大型となり車両が走行中などに傾斜した場合、性能を保持することが困難である、[3]車両の走行中に揺れや加減速がある場合、作動媒体が混合して動作が困難になる、[4]冷却塔※5を用いているが、車載は困難なため作動媒体温度が高くなる、など車載用としては課題がありました。

今回、[1]容器の薄肉化や、構造材に腐食対策を施した軽金属を用いることで軽量化、[2]作動媒体を熱交換器に回転塗布体※6で塗布する新たな構造の「塗布構造吸収器」を採用することで小型化し、傾斜による影響を抑える(図3(b))、[3]作動媒体の混合を防ぐため水蒸気透過膜を用いる構造の「メンブレンラッピングアブソーバー」を新規開発、[4]通常の作動媒体に水溶性の添加物を加えて40℃以上の高温でも性能を維持できる新媒体を開発しました。これらについてラボ評価で回転塗布体の回転数に対する性能を確認し(図4)、車両搭載時の排ガス熱による冷熱出力性能をシミュレーション(図5)で確認し、目標冷熱量が期待できることを確認しました。さらに、商用車に搭載するために、吸収冷凍機の各要素機器を搭載スペースに収まるようレイアウトしたシステムを開発し、排ガス熱を回収して冷熱を発生する試作機を完成しました。

図3

図3 従来構造と開発構造の比較

図4

図4 ラボ性能評価結果



図5
図5 車両搭載性能シミュレーションの一例

今後の予定

本事業でTherMATらは、商用車の排ガスを利用した車室空調の性能評価を行うために、2020年1月から車載した吸収冷凍機システムの車両評価を開始します。

開発した車載吸収冷凍機を評価し、車両排ガス、走行風、環境などによる影響や、吸収冷凍機の車両への影響を調べ、吸収冷凍機を車両システムに組み込むための課題を抽出し、これらを通じて車載吸収冷凍機システムを確立、実用化し、将来的に燃費を大幅に向上することを目指します。



注釈

※1 吸収冷凍機
熱をエネルギー源として冷房する機器です。吸収液が冷媒を吸収する際に生じる気化熱を利用して冷房します。冷媒で薄まった吸収液を濃縮するために排熱を使用します。[参照元へ戻る]
※2 未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発
プロジェクトリーダー:小原春彦氏(産総研 企画本部 副本部長)
事業期間:2013年度~2022年度(うち2013年度~2014年度は経済産業省にて実施)[参照元へ戻る]
※3 メンブレンラッピングアブソーバー
熱交換器(吸収器)を水蒸気透過膜で覆い、膜内側の吸収液の流出を抑えます。膜外側の冷媒蒸気は膜を透過し吸収液に吸収されます。膜の抵抗による蒸気透過への影響を抑えつつ作動媒体の混合抑制を実現しています。[参照元へ戻る]
※4 作動媒体
吸収冷凍機システム内の冷媒と吸収液です。[参照元へ戻る]
※5 冷却塔
吸収冷凍機で生じた熱により作動媒体の温度が上昇します。作動媒体を冷ますために用いる冷却水を、大気接触などにより気化して大気温程度にする装置です。[参照元へ戻る]
※6 回転塗布体
回転軸に垂直に複数固定した塗布体(ブラシなど)をいいます。軸を回転する事で塗布体に接する熱交換器表面に作動媒体を塗布します。[参照元へ戻る]



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