発表・掲載日:2019/03/04

音源方向の可視化システムの開発

-360度全方向からの音を可視化した音配図を安価な装置で実現-

ポイント

  • 市販の3Dマイクロホンを用いて360度すべての音源の方向情報を収録・分析
  • 音がどの方向からどのくらいの強さで到来するかを可視化
  • 音源探査の簡易・省力化、日常生活見守り技術への貢献に期待


概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)バイオメディカル研究部門【研究部門長 近江谷 克裕】細胞・生体医工学研究グループ 添田 喜治 主任研究員は、佐藤工業株式会社【代表取締役社長 宮本 雅文】(以下「佐藤工業」という)、株式会社 長谷工コーポレーション【代表取締役社長 辻 範明】(以下「長谷工」という)、株式会社 CAEソリューションズ【代表取締役社長 今木 敏雄】(以下「CAEソリューションズ」という)、株式会社 安藤・間【代表取締役社長 福富 正人】(以下「安藤ハザマ」という)と共同で、3Dマイクロホンを用いた音の収録・分析・可視化技術を開発した。

今回開発した技術は、3Dマイクロホンで録音したデータから到来する音の強さの空間分布を計算することにより、安価で簡単に、360度全方向の空間内の各音源の位置を可視化できる。この音源を音配図として可視化する技術は、広範囲の音響情報を必要とする建設・建築現場などへの貢献が期待される。

なお、この技術の詳細は、2019年3月5~7日に東京都調布市で開催される日本音響学会春季研究発表会で発表される。

概要図
全天球カメラで撮影した360度画像(左図)に音源方向の解析結果を重ね合わせた図(右図)
4階建ての建物屋上で測定した道路騒音の解析例。青から赤になるにつれて音が強くなることを示す。240度もの広範囲から到来する道路騒音全体を捕捉できている。色がついていない部分は、音が非常に弱いか存在しないことを示す。


開発の社会的背景

従来の音環境評価は、主として1本の無指向性マイクロホンを備えたサウンドレベルメーターを用いて行われてきた。サウンドレベルメーターは、その環境の音の音圧レベルを計測できるが、その音がどの方向からどのくらいの強さでくるのかは計れない。そのため、サウンドレベルメーターを用いる音環境評価では、効率的に騒音対策を行えない。しかし、どの場所にどの程度の騒音対策を行うかを決めるために、音源の方向を測定する装置の現場導入は遅れていた。特に建設業界では、周囲の騒音を360度可視化でき、現場で使いやすく安価な測定装置の導入が求められていた。

音源の方向を可視化するシステムはあるが、高価で、マイクロホンアレーなどの複数のマイクロホンが必要なため大規模であり、可視化範囲も180度程度と狭いなどの理由から、日常的に現場で使えるシステムではないため、安価で360度全方向にある音源の方向を可視化するシステムが求められていた。

研究の経緯

産総研は、駅構内や寺院・教会内の音環境で3Dマイクロホンを用いて、壁・天井・床などの室内の音の到来方向を解析し、快適な音環境を設計するための基礎研究を推進してきた。近年、バーチャルリアリティー技術の普及により、3Dマイクロホンの価格が低下し、10万円以下のものも販売されるようになってきた。これにより、従来の大規模な測定装置に比べ、小型で10分の1程度の価格、半分以下の短い作業時間で、360度全方向の音源を可視化することが現実的になってきた。

そこで、産総研が音源方向の解析アルゴリズムの評価やサンプルデータの解析・評価、佐藤工業、長谷工、安藤ハザマが音のサンプルデータ収集と技術評価、CAEソリューションズがシステムの開発をそれぞれ担当して音源方向の可視化システムの開発に取り組んだ。

研究の内容

今回、市販の10万円程度の簡単に持ち運びや設置ができる1本の3Dマイクロホンを用い、音の強度を求め、音源の方位角と仰角、マイクロホンの位置(受音点)を中心とする球面での音の強度分布図(音配図)を作成するアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムは、さまざまな音源に対して最適な周波数帯域や空間分割幅を自由に設定できるように工夫されている。このアルゴリズムを用い、一つの3Dマイクロホンとパーソナルコンピューター程度の簡便な装置でシステムを構成した。

今回開発したシステムの精度を検証するため、無響室で真正面と左右45度に設置したスピーカーから、自動車(右45度)、バックホウ(ショベルカー)(正面)、電車(左45度)の音を出して各音源方向の解析を行った。各音を一つずつ出したり、二つ、三つの音を同時に出したりして、音源の方位角仰角を解析したところ、音源が一つであれば正確に各音源の方向を分離できた(図1、0~60秒)。また、複数の音を同時に出している時の音の強度分布図(音配図)を算出し、全天球カメラで撮影した360度画像に重ね合わせると、高精度で音源の方向を可視化できた(図2)。

今回開発したシステムは、安価で迅速・簡単に360度全方向の音源の方向を可視化でき、現場での音源探査時間を大幅に短縮できる。また、建設現場だけではなく、プライバシー保護の観点からカメラが使用できない場所での乳幼児や高齢者の見守りや、小型・ウェアラブル化して耳の不自由な方への情報提示など、幅広い分野での活用が期待される。

図1
図1 3音源の方位角・仰角解析例
スペクトログラム(上図)は、縦軸が周波数、横軸が時間を示し、各周波数の音の強度の時間変化がわかる。青から赤になるにつれて音が強いことを示す。中図と下図はそれぞれ音源の方位角と、仰角を示す。青から赤になるにつれて音源の方位角が右から左に、仰角が下から上になる。

図2
図2 音の強度分布図(音配図)の解析例
(a)図1の140秒付近で自動車(右スピーカー)、バックホウ(中央スピーカー)の音が卓越している時の音配図。(b)図1の145秒付近で電車(左スピーカー)の音が卓越している時の音配図。青から赤になるにつれて音が強くなることを示し、強い音源の方向が可視化できている。

今後の予定

今後は、主に建築現場を対象に試験利用して、このシステムの音源方向や音量の計算精度や作業効率などの有効性の検証と音源方向算出アルゴリズムの改良を行うとともに、リアルタイム化に取り組む。



用語の説明

◆3Dマイクロホン
複数のマイクロホンで構成される、360度全周からの音を録音できるマイクロホン。例えば、前方左上向き、前方右下向き、後方左下向き、後方右上向きに配置された4本のマイクロホンで構成される。各マイクロホンは正面に対しての感度が良い単一指向性というタイプ。[参照元へ戻る]
◆音配図(商願 2018-25629)
ある期間にある地点に到来する、音の方向とその強さを表した図。 その場所の顕著な音源や、その他音の特徴を知ることを主な目的として作成される。[参照元へ戻る]
◆無指向性マイクロホン
全ての方向からの音を同じ感度で収音できるマイクロホン。[参照元へ戻る]
◆サウンドレベルメーター
音の大きさ(音圧)を計測する装置。[参照元へ戻る]
◆マイクロホンアレー
複数のマイクロホンを並べた装置。[参照元へ戻る]
◆方位角
目標とする点が東西南北など水平方向のどの方位にあるかを表すために使われる角度。 [参照元へ戻る]
◆仰角
水平を基準として上方向の角度。[参照元へ戻る]



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