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2022/03/16

【訃報】近藤 淳 名誉フェロー

故・近藤 淳 名誉フェローの写真

 産業技術総合研究所(以下産総研)名誉フェロー 近藤 淳氏が、令和4年3月11日に誤えん性肺炎のため92歳で逝去されました。ここに生前のご功績を偲び、謹んで哀悼の意を表します。

同氏は1963年に産総研の前身の一つである通商産業省工業技術院電気試験所に入所し、物性物理の研究に取り組まれました。

金属中では温度が低くなるほど伝導電子が流れやすく(電気抵抗が小さく)なるという一般原則があります。しかし、純粋に近い金や銅などでは、温度を下げていくとある温度以下で電気抵抗が増大する「電気抵抗の極小現象」が存在し、長年、低温物理学上の謎でした。

これに対して、同氏は、1964年、金属中に微量に含まれる磁性原子の電子スピンによる伝導電子散乱が、低温領域では電気抵抗を温度の対数関数として上昇させることを発見し、温度が下がるとともに減少する原子振動による散乱との和が電気抵抗に極小を出現させることを明らかにすることで「電気抵抗の極小現象」を理論的に解明しました。その後、電気抵抗極小現象に関連した多くの異常特性が明らかになり、「近藤効果」と呼ばれています。

「近藤効果」の理論は、金属内に存在する多数の電子と、不純物として存在する局在スピンとの相互作用を扱うものであり、電気抵抗、磁性、超伝導などの物性を解明するための理論的基礎となっています。また、学術的に見て「量子多体問題」と呼ばれる分野に属し、同じ多体問題研究のフロンティアである素粒子物理学や理論化学などの固体物理学以外の研究分野にも大きなインパクトを与えました。

これらの業績により、同氏は仁科記念賞、日本学士院賞・恩賜賞などを受賞、2020年には、文化勲章を受章されました。

このように同氏は物性物理学の分野での科学の発展に多大な貢献を果たされました。同氏の功績を讃えるとともに、心からご冥福をお祈りいたします。