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お知らせ記事2018/07/24

国際標準模式地の審査状況について
-地層「千葉セクション」の認定へ向けて-

22機関35名の研究者からなる研究チームは、千葉県市原市の地層「千葉セクション(注1)」の、地質時代の下部−中部更新統境界(注2、3)国際標準模式地(GSSP、注4)認定に向け、本日、国際地質科学連合(IUGS)の中の第四紀層序小委員会(SQS)に提案申請書を提出しました。SQSでの審査はGSSPの審査の4ステップ(注5)中、2つめのステップにあたります。千葉セクションは、昨年11月に行われた下部−中部更新統境界作業部会(WG)で、申請された3つの地層の中からGSSP候補に選ばれています。SQSはWGの上部に位置する小委員会で、今回提出した提案申請書は、WGに提出したものに新たな研究成果(注6)を追加し改訂したものであり、この提出をもって、SQSでの審査が開始されます。SQSでは、WGの答申を認めるかどうかの投票が行われ、3つめのステップであるICS(国際層序委員会)での審査に進むためには、60%以上の得票が必要です(注5の②)。

今後、IUGSでの全4ステップの審査で千葉セクションがGSSPとして選定された場合、申請チームは、約77万年前~12万6千年前の地質時代の名称として「チバニアン」(「千葉時代」の意)を提案する予定です。現在、日本にGSSPはありません。千葉セクションが日本初のGSSPになり、地質時代の名称が日本の地名に由来したものになれば、地質学だけでなく、日本の科学史においても大きな出来事になります。また、地質学の一般への普及や小・中・高校生などへの教育においても大きな波及効果が期待されます。

注1 千葉セクション
千葉県市原市にある養老川セクション(35˚17.41’N; 140˚8.48’E)の中の地層の名。提案申請書では養老川セクションのほかに、養老田淵セクション(35˚17.41’N; 140˚8.49’E)、柳川セクション(35˚17.15’N; 140˚7.88’E)、浦白セクション(35°16.85’N; 140°7.47’E)、小草畑セクション(35˚18.52’N; 140˚11.89’E)から得られたデータが用いられている。これらのセクションをまとめて千葉複合セクションと呼ぶ。 [参照元へ戻る]
注2 下部−中部更新統境界
「更新統」とは、地質時代の「更新世」に堆積した地層のことで、同様に、「下部更新統」は「前期更新世」に、「中部更新統」は「中期更新世」にそれぞれ対応している。更新世の前期と中期の境界は、これまでで最後の地球の磁場逆転(注3)が起きた時期である。[参照元へ戻る]
注3 磁場逆転
地球を大きな磁石に見立てたときのN極とS極の向きは、過去に何度も逆転を繰り返している。今までで最後に起こった地磁気の逆転は「松山-ブルン境界」(Matuyama-Brunhes境界)と呼ばれ、その年代は海底堆積物の古地磁気記録から約78.1万年前とされていたが、本研究チームが千葉セクションの白尾(びゃくび)火山灰層を高精度に分析したことにより、約77万年前であることが示された(関連論文2)。[参照元へ戻る]
注4 GSSP
Global Boundary Stratotype Section and Point(国際標準模式層断面及び地点。国際標準模式地ともいう)。IUGSは、それぞれの地質時代の境界を地球上で最もよく示す地層を1つだけ選び、GSSPに認定している。GSSPは現在、世界に68カ所あるが、日本にはまだない。[参照元へ戻る]
注5
GSSP決定までの審査ステップは以下のとおり。
①下部−中部更新統境界作業部会で審査。
 審査結果をSQSへ答申。

②SQSで答申を認めるか投票。60%以上の得票が必要。

③ICS(国際層序委員会)にて投票。60%以上の得票が必要。

④IUGS(国際地質科学連合)にて投票。60%以上の得票が必要。

GSSP決定
※それぞれのステップの投票の時期などは通知されていない。
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注6 新たな研究成果
千葉複合セクションのサンプルを用いて、陸域の環境変動を復元するために超高解像度での花粉化石の分析、海域の環境変動を復元するための微化石の分析、および地球化学的分析をそれぞれ行い、千葉複合セクションでは堆積した当時の日本周辺の気候変動が詳細に復元可能であり、千葉複合セクションが世界の気候変動を研究する上で非常に適した場所であることを明らかにした(関連論文5)。これまでの研究結果とあわせ、「千葉セクション」が前期-中期更新世境界のGSSPの申請に必要な条件を高いレベルでクリアしていることを明確に示していると言える。[参照元へ戻る]

提案申請書について

タイトル:The Chiba Composite Section, Japan: a proposed Global Boundary Stratotype Section and Point (GSSP) for the base of the Middle Pleistocene Subseries
申請者:
千葉セクション申請チームメンバー(姓のアルファベット順)
羽田 裕貴(茨城大学大学院理工学研究科)
林 広樹(島根大学大学院総合理工学研究科)
本郷 美佐緒(有限会社アルプス調査所)
堀江 憲路(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻)
兵頭 政幸(神戸大学内海域環境教育研究センター)
五十嵐 厚夫(復建調査設計株式会社)
入月 俊明(島根大学大学院総合理工学研究科)
石塚 治(産業技術総合研究所地質調査総合センター)
板木 拓也(産業技術総合研究所地質調査総合センター)
泉 賢太郎(千葉大学教育学部)
亀尾 浩司(千葉大学大学院理学研究院)
川又 基人(総合研究大学院大学極域科学専攻)
川村 賢二(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻/海洋研究開発機構)
木村 純一(海洋研究開発機構)
小島 隆宏(茨城大学理学部)
久保田 好美(国立科学博物館)
熊井 久雄(大阪市立大学名誉教授)
中里 裕臣(農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究部門)
西田 尚央(東京学芸大学教育学部)
荻津 達(千葉県環境研究センター)
岡田 誠(茨城大学理学部)
奥田 昌明(千葉県立中央博物館)
奥野 淳一(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻)
里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)
仙田 量子(九州大学大学院比較社会文化研究院)
紫谷 築(島根大学大学院総合理工学研究科(研究実施当時))
Quentin SimonAix-Marseille University(フランス))
末吉 哲雄(国立極地研究所)
菅沼 悠介(国立極地研究所/総合研究大学院大学極域科学専攻)
菅谷 真奈美(技研コンサル株式会社)
竹下 欣宏(信州大学教育学部)
竹原 真美(国立極地研究所)
渡邉 正巳(文化財調査コンサルタント株式会社)
八武崎 寿史(千葉県環境研究センター)
吉田 剛(千葉県環境研究センター)
 

関連論文

【関連論文1】
Kazaoka O., Suganuma Y.*, Okada M., Kameo K., Head M. J., Yoshida T., Sugaya M., Kameyama S., Ogitsu I., Nirei H., Aida N., Kumai H., Stratigraphy of the Kazusa Group, Boso Peninsula: an expanded and highly-resolved marine sedimentary record from the Lower and Middle Pleistocene of central Japan, Quaternary International (2015) 
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1040618215002128

【関連論文2】
Suganuma Y.*, Okada M., Horie K., Kaiden H., Takehara M., Senda R., Kimura J., Kawamura K., Haneda Y., Kazaoka O., Head J. M., Age of Matuyama-Brunhes boundary constrained by U-Pb zircon dating of a widespread tephra, Geology (2015)
http://geology.gsapubs.org/content/early/2015/04/24/G36625.1.abstract

【関連論文3】
Nishida N.*, Kazaoka O., Izumi K., Suganuma Y., Okada M., Yoshida T., Ogitsu I., Nakazato H., Kameyama S., Kagawa A., Morisaki M., Nirei H., Sedimentary processes and depositional environments of a continuous marine succession across the Lower-Middle Pleistocene boundary: Kokumoto Formation, Kazusa Group, central Japan, Quaternary International (2015)
https://doi.org/10.1016/j.quaint.2015.06.045

【関連論文4】
Okada M.*, Suganuma Y., Haneda Y., Kazaoka O., Paleomagnetic direction and paleointensity variations during the Matuyama-Brunhes polarity transition from a marine succession in the Chiba composite section of the Boso Peninsula, central Japan, Earth, Planets and Space (2017) 
https://earth-planets-space.springeropen.com/articles/10.1186/s40623-017-0627-1

【関連論文5】
Suganuma Y.*, Haneda Y., Kameo K., Kubota Y., Hayashi H., Itaki T., Okuda M., Head J. M., Sugaya M., Nakazato H., Igarashi A., Shikoku K., Hongo M., Watanabe M., Satoguchi Y., Takeshita Y., Nishida N., Izumi K., Kawamura K., Kawamata M., Okuno J., Yoshida T., Ogitsu I., Yabusaki H., Okada M., Paleoclimatic and paleoceanographic records through Marine Isotope Stage 19 at the Chiba composite section, central Japan: A key reference for the Early–Middle Pleistocene Subseries boundary, Quaternary Science Reviews (2018)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0277379117302251

* は責任著者。

参考

これまでの経緯については、過去のプレスリリースをご参照ください。

国立極地研究所、茨城大学、海洋研究開発機構プレスリリース「地球最後の磁場逆転は従来説より1万年以上遅かった~千葉県市原市の火山灰層の超微量・高精度分析により判明」2015年5月20日
http://www.nipr.ac.jp/info/notice/20150520.html

国立極地研究所、茨城大学、千葉大学、国立科学博物館ほかプレスリリース「千葉県市原市の地層を地質時代の国際標準として申請 認定されれば地質時代のひとつが『チバニアン』に」2017年6月7日
http://www.nipr.ac.jp/info/notice/20170607.html

国立極地研究所、茨城大学、千葉大学、国立科学博物館ほかプレスリリース「国際標準模式地の審査状況について ~地層「千葉セクション」の認定へ向けて~」2017年11月14日
http://www.nipr.ac.jp/info/notice/20171114.html

国立極地研究所、茨城大学プレスリリース「千葉時代(チバニアン)提案に不可欠な環境変動記録の復元」2018年7月5日
http://www.nipr.ac.jp/info/notice/20180705.html