県立柏の葉高校情報理数科1年生が2026年1月29日、校外学習として産総研柏センターを訪れました。
見学会の冒頭、柏センター所長代理の森郁惠さんが、産総研と柏センターの概要とともに、7年前に柏の葉高校情報理数科の生徒さんと一緒に実施したワークショップについて紹介をしました。
プログラムにより様々な動きをさせることが可能な市販のロボットキットと産総研技術の高精度マーカーを使って、高校生があらかじめ作成した簡単な動作から小学生がダンスの動きを考え、その場でロボットにプログラミングを行い、最後にはロボットと皆で一緒に踊るという手の込んだ内容です。
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今回の見学会は、「研究紹介」「研究者とのディスカッション」に加え、自己探求を目的とした「振り返り」の体験を組み込みました。
担当の小島一浩さん(人間社会拡張研究部門総括研究主幹)から、まずはメモの取り方について説明。
実はこのメモが、色々な場面で応用できる素敵な技術だということを後で体験していただくことになります。
研究紹介
生活機能ロボティクス研究グループ
研究グループ長の田中秀幸さんが、研究テーマと3つのデモンストレーションを紹介しました。
人間社会拡張研究部門における生活機能拡張とは、人の身体構造や心身機能、活動、社会参加などを含めた生活機能を拡張することと話しました。
そのために、計測、分析・評価、システム化、介入といった技術の開発を進めています。
今回は、「計測技術」の中からニットを用いたセンサウェアデバイス、フレキシブルセンサによる生体・動作計測、高精度マーカによる位置・姿勢計測およびロボット制御について紹介しました。
デモンストレーションでは、各センサ技術を応用した簡単なゲームによって、それぞれのセンサの特性や感度を体験してもらいました。
ニットウェアセンサ技術を体験
弓矢でリンゴを射るゲームです。
ニットセンサを弓に見立て、センサの伸び縮みによる電気抵抗変化の大きさによって、矢の飛ぶ速さや距離を変えます。
フレキシブルセンサによる動作計測技術を体験
板に乗った複数の球状キャラクターを弾いてその動きを楽しむゲームです。
フィルムの上向き・下向きの両方向へ曲がりを計測できる曲げセンサを指で触ると、その曲げの大きさに応じて、モニタ上の板が動きます。
高精度マーカによる位置計測技術を体験
マーカから出ている仮想ビームによって敵を打つシューティングゲームです。
PCのカメラにマーカを映し、その位置や姿勢を変えるとビームの方向が変わります。
その場で研究者に質問する生徒さんたち、しっかりメモも取っていました。
身体情報力学研究グループ
研究グループ長の村井昭彦さんは、モーションキャプチャを使った人の動作解析・介入技術について紹介しました。
「3,2,1」
村井さんの掛け声とともに、思い思いのポーズをとる生徒さんたち。
従来のセンサやマーカを使った光学式モーションキャプチャとは異なり、映像式モーションキャプチャで人の骨格運動を学習させたモデルを使った動作解析技術は、準備からデータ解析までにかかる時間もコストも少なく、大きなメリットがあります。
実験室に入って直ぐに撮影した画像のデータ解析結果は、数分でモニターに表示されていました。
「どっちの方向から音が聞こえているか、指で示してみてください」
さらに、マーカと光学式モーションキャプチャを使った立体音響システムによる運動介入技術を体験。
デモンストレーションの後に、村井さんが「身体情報力学とは」研究内容について紹介を始めると、真剣な表情でメモを取りだしました。
恒例ディスカッションタイム
毎回、高校生からの質問は、研究内容のことだけでなく、進路決めや研究者になるための情報収集という側面があり多岐にわたります。
今回は、5人の研究者が高校生からの質問シャワーを浴びました。
自己紹介を兼ねて「研究を始めたきっかけ」を披露。
エレクトロニクス・製造領域センシング技術研究部門
スマートインタラクションデバイス研究グループ
主任研究員 古志知也さん
大学に入った頃は研究者になるつもりはありませんでした。
しかし、研究室に配属されて色々な分野の研究に触れていくうちに、研究の面白さを知りました。
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情報・人間工学領域人間社会拡張研究部門
生活機能ロボティクス研究グループ
研究員 後藤大輔さん
高校1年生の時、大けがでサッカーができないという経験をしました。けがの状態や体調に合わせて、どんな動きなら可能かを判断できるようにしたいという思いがあって、人の体の状態を測るセンサの開発に取り組んでいます。
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情報・人間工学領域人間社会拡張研究部門
生活機能ロボティクス研究グループ
研究グループ長 田中秀幸さん
高校生の時、地学の授業で彗星に探査機を着陸させるという話を聞いて、宇宙に興味を持ちました。
大学の研究室で宇宙ロボットの研究を始めましたが、ロボットの制御技術はなかなか難しく、制御するためのマーカがあればいいのにと思ったことが、高精度マーカ開発を始めるきっかけになりました。
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情報・人間工学領域人間社会拡張研究部門
ソシオデジタルサービスシステム研究グループ
主任研究員 三輪洋靖さん
私の研究テーマはサービス工学で、特に介護サービスに力を入れています。
高校時代からものづくりが好きで、大学ではロボットづくりを学んでいました。
しかし、「社会に役立つロボット」を作るには、人や社会のことを深く理解することの必要性を感じ、産総研では人の生活に近いサービス分野の研究に取り組んでいます。
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情報・人間工学領域人間社会拡張研究部門
総括研究主幹 小島 一浩さん
「人は何に価値を感じるのか」が、僕の研究テーマです。
人にとっての価値の本質がわかると、例えば、企業がものを売るためのヒントになったり、学ぶことの意味がわかったりすると思っています。
僕は元々は物理をやっていましたが、産総研で企業と関わるなかで、街づくりの仕事をするようになり、東日本大震災の復興支援へ携わることになって、人が「そこに住むことの価値」について考えました。
皆さんも、どこかのタイミングで自分なりの価値を感じる場面があったら、路線変更することは、全然ありだと思います。
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質疑応答から抜粋
「ウェアラブルセンサ」の付いた服の着心地は?
後藤さん:
ご紹介したニットセンサウェアは、電池が付いている以外はほとんど違和感がありません。
一方で、私が現在作っているフィルム型のウェアは、引っ張りすぎると壊れてしまうため、着るときにまだ少し気を使います。
ここは今後どんどん改良していきたいと思っています。
「マーカ」と「曲げセンサ」の強みの違い
後藤さん:
マーカはカメラを使うことで高い精度が得られますが、カメラから離れてしまうと使えなくなる弱点があります。
一方の曲げセンサは、マーカほどの精度はありませんが、カメラの撮影範囲外でも使えるので、日常的にデータを取りたい場面ではとても有効だと思います。
震災復興支援で自治体と取り組んだワークショップとはどういうもの?
小島さん:
「そこに住むことの価値」を考えるために、住民、支援者、自治体の方々と一緒に、10年後にどんな街にしたいかを話し合うワークショップを行いました。
「10年後、どんな生活をしていたいのか」そして「そのために何が必要か」を議論する、未来志向の取り組みです。
産総研の研究者になるには、どのような道がありますか?
古志さん:
私は大学の研究室で研究の面白さを知り、研究者という選択肢を意識するようになりました。
産総研では「こういう研究をする人を募集します」という形で公募が出ます。
自分の研究テーマとマッチしていないと応募できないのは、大学や企業の研究所と同じで、めぐり合わせの面もあると思います。
三輪さん:
産総研に入るには博士号が必要です。
私は博士取得後、企業で研究を続けることも考えていましたが、ある学会の懇親会で産総研の研究者から「こういうテーマで公募していますが、どなたかいませんか」と声をかけていただきました。
それをきっかけに応募し、今に至ります。
あの瞬間に声をかけていただかなければ、ここにはいなかったかもしれません。
研究の世界では、人とのつながりが大きな“縁”を生むと実感しています。
製品を実社会実装することを想定して技術の研究開発をすることはある? その重要度は?
田中さん:
社会実装を見据えた研究は、産総研で働く研究者なら全員が意識していることだと思います。
産総研のミッションは、「社会に役立つ技術を作ること」。
私たちはその実現に向けて日々研究をしています。
ただし、社会実装だけが重要というわけではありません。
基礎研究、応用研究、製品化のための研究のどれもが重要な研究として、取り組んでいます。
振返りを体験
「今日の学びを深めるワークをします」
小島さんからワークについての説明が始まりました。
産総研に足を踏み入れてから、今までのワクワクした感情の動きをグラフ化する感情グラフの作成。
自分の取ったメモを見ながら、感情のゆれをグラフ化します。
どんなことが学べたのかを感情グラフと結び付けて、「体験作文」を書いてみてください。
ワクワクという自分の感情に注目して、自分が何に関心があるのかを探究します。
他の人と共有することで、多様性を体感することができます。
科学者とエンジニアの違いとは 産総研の研究者の想い
小島さんは、なぜ、産総研の研究を紹介するうえで、自己探求の体験を取りいれたのでしょうか。
科学者は、不思議と思うことに対して、なぜそうなるのかを研究します。
しかし、産総研の研究者はエンジニアで、目的に向けて人工物を作り出す研究をしています。
情報理数科の生徒さんたちは、プログラミングの勉強をしていますが、それはこうなって欲しいという思いに向けたプログラム作りだと思います。
自分の中の感情の引っかかりに敏感になることで、自分が何を作り出したいのかが明確になっていきます。
将来、研究で社会の役に立ちたいと思ったら、「自分からこうあって欲しいという思いで取り組んで欲しい。そのための自分の内面を知る練習をしていただきました」と小島さんは話しました。
産総研研究者の研究愛をしっかり受け取っていただけたのではないでしょうか。
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所長代理 森郁惠さんよりコメント
最後のコメント:柏の葉高校の情報理数科の生徒さんとは、冒頭にご紹介した産総研デザインスクールのワークショップをはじめ、毎年の見学会だけでなく、研究部門のシンポジウムで研究発表を行って貰うなど、柏センター設立当初から交流を続けてきました。
将来は、研究者の仲間として加わって頂けると嬉しいなと毎年思っています。