産総研 未来志向ワークショップ 未来スケッチ 2050プロジェクトレポート
「2050年の世界ってどうなってる?」
未来をデザインし、社会とともに未来を創る。そうしたビジョンの下で働く産総研グループのメンバーが、未来を語り合ったらどうなるだろう?
どんなに技術が発達しても、社会課題がゼロになることはあり得ません。新たな課題が発生し、人々は技術によるメリットを享受するだけでなく、さまざまなデメリットにも直面しているはずです。社会課題の解決をミッションとする産総研は、単に新技術を創出するだけでなく、さまざまな未来社会の課題を先回りして考える必要があります。
そんな背景の下、去る7月8日、産総研つくばセンターにて、設立25周年を記念したワークショップ「未来スケッチ 2050」が開催されました。このワークショップでは、実現可能性や現在の価値観から一度離れ、今まで考えたこともなかった未来の姿を想像することを通して、思考を飛躍させる力を得ることを目指しました。想像した未来は、現代ショートショート(超短編小説)の第一人者として知られる作家、田丸雅智さんをゲストに迎え、物語としてまとめました。
産総研の各地の拠点から集まった職員30名が、分野や所属の垣根を超えて議論を重ねた、この一日の全貌をレポートします。
未来志向ワークショップで行うこと、狙い
2001年の春。異なる分野、異なる視点が集まって、産総研は生まれました。あれから25年が経ち、さまざまな物事や常識が変わった2026年。では次の25年後、2050年はどうなるのか?
この「未来スケッチ
2050」は、産総研の研究職と事務職やグループ会社の職員が交わり、それぞれが持つ専門知識や生活感覚を共有し合いながら、ともに「2050年の日常はどうなっているか?」を自由に想像してみる試みです。
参加者は5つのグループに分かれて議論を行い、2050年の世界を描いた1000字ほどのショートショートを創作することを目指します。
開会に先立ち、ワークショップ運営チームの篠原 彬さんが、次のように挨拶を行いました。
「皆さんの頭の中には、なかなか想像し得ないような未来やイメージが、きっとあると思います。今日はそれを存分に、表に出してOKな日。いつもの10倍増しでぶっ飛んだ議論をして、産総研だから描ける、未来の姿を浮かび上がらせましょう! それが今後の研究やディスカッション、日々の業務の中に生かせる学びとなれば、心から嬉しく思います」
ワークショップでは5つのSTEPをたどり、ショートショートを創作していきます。
まずは今感じていることを共有し、日常の価値観を掘り下げていきます。それが未来ではどのように変化しているのか?を考えることで、2050年の世界を描き出していきました。
アイスブレイク:作家から学ぶ「物語の紡ぎ方」
「ささいな今の日常」をどうやって「未来の人々のリアルな日常の物語」へと落とし込んでいくのか。作り方の例として、ショートショート作家の田丸さんが、即興でショートショートを作ってくれました。
まずは参加者から、自由に思い付いた名詞を募り、不思議なキーワードを作っていきます。そして集まった言葉から良い面、悪い面などの想像を広げ、物語としてのあらすじを作りました。即興でできたショートショートにもしっかりとオチがあり、参加者の中で、ショートショート作りのイメージが湧いてきたようです。
グループワーク:1班6名|未来が“自分ごと”になっていく
即興ショートショートのアイスブレイクを経てグループワークがスタートしました。
5つのグループには、「健康・老い」、「環境・気候」、「食」、「住まい・ファッション」、「移動・物流」と、それぞれ異なるテーマが設けられ、このテーマを基に2050年の世界を想像していきました。
STEP1:エピソード2026
まずSTEP1「エピソード2026」では、テーマに関する近頃の自身の体験を付箋に書き出し、1人ずつグループにシェア。気になったことや困りごとなど、さまざまなエピソードが飛び出しました。
例えば「環境・気候」がテーマとなった班では、「自転車通勤で、汗だくになりながら出社するのが大変」
「南国の生物が増えてきて驚き」などのエピソードが共有されていました。
この中で物語としておもしろそう、飛躍しそう、深掘りしたい、と感じたエピソードをグループごとに選択。このエピソードを未来の物語のトリガーとし、STEPごとに徐々に未来への話へと飛躍させていきます。
STEP2:エピソード2026深掘り
STEP2では各グループのエピソード発案者に、他のメンバーがインタビュー。エピソードについて、「こうだったらいいのに」というニーズや、その奥にある、喜びや価値観を深掘りしていきます。
そして未来へと話を飛躍させる前に、エピソードやその中のキーワードの「そもそも」も考えてみました。
例えば「住まい・ファッション」がテーマとなった班では
「隣家との間の柵を付け忘れて、フリーアクセス状態」というお困りエピソードをピックアップ。そのエピソードに対し
「そもそも柵ってなんだ?」という問いが出現し、「責任を区別するためのもの」「越えるもの」「そもそも柵はなくてもいいのでは?」などの意見が出ました。こちらの「そもそも」も、未来の世界を創造するためのキーワードとします。
STEP3:エピソード2035
STEP3では、少し時を進めて2035年のエピソードへ。2026年現在の技術の延長線上で、STEP2で見つかったニーズや譲れない願いが叶った近未来の場面を描きました。
このSTEPで、例えば「健康・老い」がテーマの班では
「2035年 五感、意思などを調整できる、人間の『ツマミ』が生まれている」というアイデアが。
アイデアの種が、具体性を帯びてきました。
STEP4:飛躍カードで2050へ
STEP4では2035年の世界を一気に飛躍させるために、「飛躍カード」が提示されました。
飛躍カードはいわば、思考をほぐす装置。各グループ共通のカードの発想をヒントに、エピソード2035と組み合わせて、2050年の世界へ向けて、さらに想像を飛躍させます。
例えば「移動・物流」がテーマの班では、2035年には「自分の分身を作れるようになっている」というアイデアがあり、そこからさらに「2050年には分身がいろんな場所に存在し、そこを自由にジャンプすることで、実質的に移動の必要がなくなるのでは?」というイメージを膨らませました。
STEP5:ショートショート作成
ここからはいよいよ、ショートショートの作成に入ります。これまで出てきた数多の付箋を眺めながら、付箋をパズルのように並べて、あらすじとストーリー性をイメージ。
さらにメンバーが追加で思い付いた発想や抑揚を加えながら、文章を推敲し、ショートショートの形に仕上げます。形に落とし込んでいく段階でも、ゲストの田丸さんも交えた議論が白熱しました。
発表会:5つの「2050年の日常」
ワークショップの締めくくりは、各グループが創作したショートショートの発表会です。紡がれた5つのストーリーは、どれも産総研メンバーならではのリアリティとユーモアが融合した作品。あるかもしれない「25年後の私たちの日常」が会場に描き出され、物語を読み上げるたびに大きな拍手と笑い声が湧き起こりました。今日の振り返りを行う時間では、ワークショップを通じて、新しい視点や考え方を得られた、という声も聞こえました。
心、身体、つながり、孤独、テクノロジー。テーマは異なれど、5つのストーリーには共通するキーワードが内包されており、参加者がいま感じている社会への問いのように見受けられました。ファシリテーターが「自分たちのショートショートで作った2050年の世界に暮らしたいか?」と問いかけると、「うーん……」と悩む人がちらほら。ただ「私はぜひ暮らしてみたい。楽しそう!」という明るい声もあり、ワークショップを通じて、新しい視点や考え方、多様性を共創することができました。
ワークショップで生まれたショートショートは、田丸さん監修の下編集・リライトし、11月に公開予定です!
参加者の声①:研究者へのインタビュー
かねてからゲストの田丸さんのファンで、今回のワークショップに参加したという「移動・物流」班の福間早紀さん。「私はリチウムイオン電池の研究をしていますが、例えばいっぱい充電できて長い時間使えるなど、技術予測としてはわかりやすく、良くしようとする面が多い。ただ改めて気付かされたのが、技術の発達によって、社会の価値観や人間の考え方も変わる。それによって電池の技術ニーズも変わる。そうした頭の使い方が学びになりました。もともとSF小説が好きだったのですが、田丸さんのアドバイスを聞いて、技術を言語化するすべも大事だと感じましたね。私は関西センターから唯一の参加だったので、戻ったらみんなにも『とてもいいワークショップだった』と、フィードバックしておきます!」
量子センサーの研究者である貝沼雄太さんは、「環境・気候」班に参加。「イノベーションを起こそうとする際、飛躍したアイデアにいろいろな分野から意見を取り入れ、徐々に現実を植え付けることが大事だと思います。ですので研究者にとっては、今日のような機会を作っていくことも課題だと思っていました」
完成したショートショートについて、「僕一人では作れない世界でしたね。物語にあった、生体からエネルギーを取り出すことは現実的なテクノロジーだと思う。もちろん生体なので倫理観が並行することも大事。そういった部分も、いろんな意見が出るグループワークのよさだと思いました。ちなみに僕は、作った2050年の世界に住みたい派。健康的に過ごせそうですし、技術的な発展も見てみたいですね」と感想を寄せてくれました。
参加者の声②:研究職×事務職クロスインタビュー
共に「住まい・ファッション」班に参加した、研究職の馬場宗明さん(左)と事務職の佐藤純子さん(右)。普段はなかなか交わらない職務ですが、化学反応のほどはいかに?
佐藤さん「事務職の私にとって、今回のワークショップに参加した理由は、まさに研究職の方とお話してみたかったから。ほとんど話す機会がないので、同じ産総研にいるのに遠い存在に感じていたんです」
馬場さん「僕も一緒ですね。以前あったワークショップに参加して、いろんな分野の方の意見を聞けて、すごくおもしろかったからです」
佐藤さん「今日はグループワークだけでなく、ランチでも知らないお話がいっぱい聞けて、とても有意義でした。産総研の敷地内に結構、食べられるキノコが自生しているんですが、キノコ好きな研究者の方が採って食べてるとか。そんな話もおもしろかったな(笑)」
- ※菌類専門の研究者が、自己責任で実施したエピソードです。読者の皆さまは絶対に真似しないでください。
グループワークはSTEP1から砕けた雰囲気で進み、自由な意見交換が広がっていたようです。研究職と事務職という立場の違いから、発想の仕方に違いを感じたかを尋ねると、馬場さんはこう振り返ります。
馬場さん「私は普段から100 %の発想にはならず、リアリスティックな面があります。でもグループワークでは、ほとんど制約なく意見が飛び交って、ハッとしましたね」
佐藤さん「STEP1のエピソードで、中古の救急車を自家用車にしようと思った、なんて話もありましたよね(笑)」
馬場さん「そんな人もいるんだ!と思いましたね(笑)」
ではワークショップを終えて、産総研が目指す未来への共感や、業務への意識の変化はありましたか?
馬場さん「ありました。2050年や未来のことを考えるなら、これくらい突飛な発想もした方がいいなって。直近で役立つだけでなく、今まで以上に長期的な視点も必要だと感じました」
佐藤さん「でもグループワークでの研究者の方の意見には、だいぶ共感できましたよ」
馬場さん「私としては、いつもは似たような分野、よく会う人ばかりと議論を深めているなと思い返して、一から意見を出し合うグループワークが新鮮でしたね。佐藤さんは意識の変化はありました?」
佐藤さん「私は主に研修を企画する部署にいるのですが、そこでもAIが台頭してきています。そんななかで、産総研がどう強みを生かしていくか? それはグループワークのような、人と人との対話から生まれる発想が、やはり大事だと思いました。どう研修に生かしていけるか?など、普段の業務に持ち帰りたいですね」
馬場さん「そうですよね。AIに頼り切りじゃなく、グループワークのように、自分から出てきた何かを拾う。それが未来にも大事なんだなと感じますね」
ゲストの声:ショートショート作家から見た産総研
田丸さんはこれまで小学校から企業まで、全国で誰でもショートショートが書ける講座を行ってきました。今回は産総研グループの研究職と事務職という、少し特殊なチームとワークショップを行い、違いや意外性はあったのでしょうか?
「まず事前に運営の方から、『研究者は普段は実現可能性を考えて地に足がついた発想をします。もしかしたら、空想をするのがちょっと苦手。現実からなかなか離れられない、という方がいるかもしれません』そんな話を伺っていましたが、フタを開けたら杞憂でした(笑)。分野や職務も関係なく、かなり盛り上がっていて最高でしたね!僕は日頃から『あなたの空想が世界を変える』とお伝えしているのですが、今回も皆さんが存分に空想してくださって、すごく嬉しかったです。僕は大学院まで理系だったこともあり、サイエンスをリスペクトしています。産総研ならではと感じたのは、未来を描きつつも完全に荒唐無稽なわけではなく、現実を踏まえてのさまざまなバックグラウンドからのロジックがあるところ。飛躍はしているけれど実現可能性も十分にあるストーリーが、さすがでした」
グループワークでできたショートショートの中で、ここはおもしろいと感じたポイントを聞いてみました。
「どのストーリーもおもしろかったのですが、個人的には「環境・気候」班の作品に出てきていた『電力は、自分の生活から自然に湧き出るものになった』という表現に惹かれました。
電力には大なり小なり人工的なイメージがあったのですが、湧き水のようにごく自然に生まれてくるようになるという感覚が新鮮でした。よくこの短時間でここまで踏み込んでくださったなと思います。それから、同じ作品に登場していた、人が発電できることを表した『身体が社会に返す小さな供給』という表現もいいなと思いました。生きているだけで素晴らしいわけですが、さらに自分の命がおのずと誰かのためになる。慈愛に満ちた、なんだか命を讃えてもらっているような感覚にもなった作品でした」
ショートショート作家 田丸雅智さん
東京大学工学部・同大学院を修了。2011年に作家デビュー。短く読みやすい中に、日常を少し不思議な世界へと変える。そんな現代人のアイデアを刺激する作品が魅力です。執筆活動にとどまらず、誰でも簡単に物語が書ける独自の「アイデア発想法」を確立し、全国で書き方講座を展開しています。
会場の様子・参加者たちの表情
ワークショップの参加者は研究分野も役職もバラバラで、ワークショップ開始前、運営チームのメンバーには「どんな会話になるのか」と、期待と不安が入り混じっていました。しかし冒頭から予想以上に、みんな自由に和気あいあい、ときに真剣な表情で議論を展開。どんどん意見を出し合い、グイグイと未来像を描き進めていく。そうした展開が多く見られました。
そんな様子について、運営チームであるブランディング・広報部の石川明由子さんに話を伺ってみました。
「今回のワークショップはショートショートがゴールでしたが、隠れた一番の目標は、産総研にはこんな人がいたんだと、私たちの多様性を感じてもらうことです。普段の業務ではどうしても、この技術があったらこうなる。そんな風に考えがちなんですが、もうちょっと夢を持って、発想を飛ばしてみよう。産総研にはいろんなバックグラウンド、専門性を持った人がいますし、職種を越えた発想源に出会ってほしい。その上で、今後25年間の挑戦に生かせたら幸いです。グループワークでは、北海道や関西、海外など、職場や出身の地域で違う感覚の話もおもしろかったですし、皆さんの臨む姿勢や笑顔からも、今回のワークショップを開催できてよかったと思います」
結び:この物語は、まだ続く
設立25周年を迎えた産総研が挑んだ、未来志向ワークショップ。このワークショップとショートショートの完成で、終わりではありません。産総研の職員、そして現代に生きる皆さんの想像力を刺激し、明るく持続的な未来を切り開いていく。そんなイノベーションを生むきっかけとなることを願っています。
ここで生まれた5つのショートショートは、精鋭のクリエイターによって描かれるイラストとともに、11月21日の#産総研25周年特別公開にて公開予定! 特別公開では他にもさまざまな企画が実施されますので、皆さまぜひお越しください!