English

 

発表・掲載日:2012/06/08

ポリアミノ酸からフレキシブル圧力センサーアレイを開発

-印刷法による安価で大量生産可能な大面積センサー-

ポイント

  • 印刷形成できる圧電体インクを開発し、フレキシブル基板上にセンサーをアレイ化
  • センサーアレイシートを貼り合わせることで、大面積化を実現
  • 見守りセンサーなどの安全・安心センサーネットワークデバイスの実現に貢献

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)フレキシブルエレクトロニクス研究センター【研究センター長 鎌田 俊英】印刷エレクトロニクスデバイスチーム 植村 聖 研究員は、味の素株式会社【代表取締役 伊藤 雅俊】(以下「味の素」という)と共同で、全印刷フレキシブル圧力センサーを開発した。

 産総研は、味の素と共同で圧電性を示すポリアミノ酸材料を開発、それをインク化し、さらにリーク電流を抑える素子構造を適用することで、フレキシブル基板上に印刷法でセンサーアレイを作製することに成功した。今回の印刷法によるセンサーアレイの作製技術と大面積化により、安価なセンサーが大量に供給できるようになる。見守りセンサーなどのセンサーネットワーク用デバイスの普及への貢献が期待される。

 なお、この技術の詳細を、2012年6月13~15日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催される第42回 国際電子回路産業展(JPCA Show 2012)で展示する。

全印刷フレキシブル圧力センサーの写真
全印刷フレキシブル圧力センサー


開発の社会的背景

 近年、安心・安全社会の実現に向けて、人々がいつでもどこにいても電子デバイスと情報の出入力を行えるセンサーネットワークが注目されてきている。特に社会で周囲に意識されずに存在するセンサーが、人の移動など必要な情報をネットワークに提供するシステムの構築が期待されている。このようなセンサーには多種多様な用途に対応でき、安価で大量生産できることが求められる。しかし、既存の圧力センサーは非常に高価であり、アレイ化に適していないものが多く、また大面積化が困難な構造であったため、社会への普及が進まないことが課題となっていた。

研究の経緯

 産総研ではフレキシブル電子デバイスの研究開発を進めている。特に、全ての製造工程を印刷で行う技術の開発を目指しており、これまでに全印刷メモリーアレイ、RFタグ、蒸散量センサーなどを開発してきた。一方、味の素はアミノ酸やポリアミノ酸などの機能性有機材料の研究開発やその生産技術について長年にわたる蓄積をもっている。

 産総研がこれまでに開発した全印刷メモリーアレイは、強誘電性のポリアミノ酸をトランジスタの誘電体層に用いた強誘電体メモリーのアレイである。ポリアミノ酸は強誘電性だけではなく、主鎖がもつ大きな双極子モーメントを効率的に利用することで優れた圧電性も示すことから、今回、味の素と共同で圧電素子に適したポリアミノ酸材料を開発し、それを材料インクとし、印刷法に適した素子構造を適用することで圧力センサーのアレイを作製した。

研究の内容

◇ 新規ポリアミノ酸圧電材料の開発

 ポリアミノ酸材料はα-へリックスという剛直な棒状の分子構造をとっており、この材料を塗布して製膜すると、この棒状の構造がメソゲンとして働き、分子軸が基板面と平行になるように配列する(図1)。この膜は強誘電性を示すので、これまでにその性質を利用して強誘電体メモリー素子の作製を行ってきた。圧電材料として用いるにはこの規則的な配列のほかに、圧力を加えた際の分極量を大きくすることが重要である。今回試作した圧電素子では、ポリアミノ酸の分子軸に沿った主鎖中の双極子モーメントを大きくするように分子設計し、さらにインク化するために可溶化できるような分子設計を行った。これらの分子設計に基づいて合成したポリアミノ酸は10 cm2の面積、6 kgの荷重で数十Vの起電力を示した(図2)。

ポリアミノ酸の主鎖構造図
図1 ポリアミノ酸の主鎖構造
素子断面図、圧力を加えた際の起電力測定結果図
図2 素子断面図、圧力を加えた際の起電力測定結果

◇ 印刷デバイスに適した素子構造の採用

 フレキシブル電子デバイスの中で最も単純な構造は、図2に示した素子断面図のようにフレキシブル基板上に電極を形成し、その上に誘電体層などの薄膜層、さらにその上に直接電極を印刷形成あるいは電極を印刷した基板を貼り合わせた構造になる。このような単純な構造でも印刷法による素子形成には困難を伴う。今回開発したフレキシブル圧電センサーではプラスチック基板上にスクリーン印刷によって作製した2枚の銀電極で圧電体膜を挟み込む構造をしている。これを印刷法によって作製する場合、下部電極上に圧電体膜を形成する必要があるが、この印刷電極表面には大きな凹凸があり、また立体形状は精密に制御することが難しいため、その上に形成した圧電体膜は下地の影響を強く受け、高品質な薄膜を製膜することが非常に難しい。今回スクリーン印刷によって作製した下部電極の厚さは約50 µmあり、その上に形成した圧電体膜は電極を完全にカバーすることが難しく、上部電極と下部電極が接触して大きなリーク電流が発生してしまうか、必要以上に圧電体膜を厚膜化する必要があるためセンサー駆動に必要な電圧が著しく増大してしまうという問題が生じた。特に下部電極のエッジ部分ではリーク電流の影響が顕著であったため、その部分の絶縁性の担保が必要であった。そこで、下部電極のエッジ部分のリーク電流を抑制できる新たな素子構造を採用することで、圧電体膜の薄膜化を可能にした。その結果リーク電流は実用上問題ないレベルまで減少し、数%だった素子の歩留まり率は、ほぼ100 %にまで改善された。


◇ シートデバイスに適した貼り合わせの方法

 センサーアレイの大面積化の方法には、大面積の基板上に直接作製する方法と、小さい基板上にセンサーアレイを複数作製して、それらを貼り合わせる方法がある。同一素子を大量に製造するような場合には大面積基板上に作製する方法が適しているが、小さい基板上への作製では装置の小型化や多種多様な要求に対してさまざまな素子を任意に配列することができるなどのメリットがある。

 今回は、大面積化の方法として基板を貼り合わせる方法を採用した(図3)。圧力センサーは素子上部から圧力がかかるため、それに耐えられる貼り合わせ強度が必要である。これまで、フレキシブル基板の貼り合わせは接着剤で行われてきたが、今回はフレキシブル基板の接合部を構造的に高強度化する技術を開発した。

大面積圧力センサーの写真
図3 大面積圧力センサー(縦:80 cm、横:80 cm)

今後の予定

 今後は圧電センサーの高感度化、高微細化等の高性能化を行い、他のデバイスとの組み合わせやネットワークとのインターフェースを整備することで新たな圧電センサーデバイスの用途を提案していく。また、今回開発した圧電センサーアレイは振動発電にも応用できるため、蓄電池と組み合わせて自己発電型のセンサーの構築などを目指す。


用語の説明

◆圧電性

圧力を加えると電流または電圧が発生する現象。圧電性を有する結晶や膜に外部から圧力を加えるとその中で電荷の偏り(分極)が発生し、起電力が発生する。この現象を用いた圧電素子はインクジェットプリンターのヘッド、スピーカー、電子ライターなどで製品化されている。[参照元へ戻る]

◆リーク電流
絶縁体や誘電体などの電流を流したくない部分に意図せずに流れてしまう(漏れ)電流。このリーク電流が大きいと消費電力が増加する。さらに大きくなると外部からの電圧もかけることができなくなる、圧電素子では起電力が発生しないなど、素子を正常に動作させることが難しくなる。[参照元へ戻る]
◆センサーアレイ
複数の小さなセンサーを一つの基板上に並べたもの(アレイ化)。センサーシート内で圧力の分布を観察するためには、アレイ化する必要がある。[参照元へ戻る]
◆強誘電体メモリー
強誘電体材料の薄膜を用いたメモリー。電圧をかけなくても双極子モーメントが一定の方向に向いており(自発分極)、その双極子モーメントの方向に電圧をかけることで制御することができる材料を強誘電体という。その分極の状態が保持されるため不揮発性メモリーとして利用される。[参照元へ戻る]
◆双極子モーメント
正と負の対の電荷を双極子といい、電荷の偏りと方向を表すベクトル。分子中の原子によって電子を引き寄せる能力(電気陰性度)に違いがあるため、分子中には正と負に帯電する部分(分極)が生じる。ここでは、ポリアミノ酸分子中の分極の大きさと方向を意味している。[参照元へ戻る]
◆α-へリックス
タンパク質の立体構造で、バネのようならせん状の構造のこと。タンパク質は分子主鎖中にアミノ基(-HN2)とカルボキシル基(-COOH)が規則的に配置されているが、その一つのアミノ基が4ユニット離れたカルボキシル基と水素結合することで主鎖がらせん状になる。この構造は非常に安定である。[参照元へ戻る]
◆メソゲン
液晶相などを形成する分子全体あるいはその一部分のことで、一般的には剛直な棒状あるいは板状の分子構造をとっている。ここではポリアミノ酸が棒状のα-へリックス構造をとっているため、分子そのものがメソゲンとして働く。[参照元へ戻る]

関連記事


お問い合わせ

お問い合わせフォーム

▲ ページトップへ