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発表・掲載日:2010/01/04

単層カーボンナノチューブで比表面積の大きな材料を開発

-高エネルギー密度・高パワー密度の高性能キャパシタを実現-

ポイント

  • 単層カーボンナノチューブを酸化処理し、比表面積2240 m2/gを持つ繊維状材料を開発
  • キャパシタの電極に用いることで、従来の材料をしのぐ高エネルギー、高パワー密度を実現
  • エネルギーや物質の貯蔵体としての幅広い応用も期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)ナノチューブ応用研究センター【研究センター長 飯島 澄男】スーパーグロースCNTチーム 畠 賢治 研究チーム長、エネルギー技術研究部門【研究部門長 長谷川 裕夫】エネルギー貯蔵材料グループ 羽鳥 浩章 主任研究員らは、単層カーボンナノチューブ(単層CNT)を用いて、比表面積が2240 m2/gの繊維状材料を開発した。

 比表面積の大きな材料は、キャパシタに代表される蓄電デバイスなどエネルギーの貯蔵や、物質の貯蔵・精製・分離に利用されている。しかし、従来の材料の多くはもろく、比表面積の大きさを保ちつつ、取り扱いやすい固形状態にすることが難しかった。

 今回、スーパーグロース法で合成した単層CNTの配向構造体に対し、酸化によってナノチューブの先端や壁面に穴をあける「開口処理」を施すことにより、比表面積2240 m2/gの繊維状材料を実現した。この値は従来の高比表面積材料である多孔質シリカや、活性炭よりも大きい。この材料を電極として試作したキャパシタは24.7 Wh/kgの高エネルギー密度、98.9 kW/kgの高パワー密度を示した。これは、従来のキャパシタをしのぐ性能である。また、開口処理温度を変えることで開口直径の大きさを調節し、単層CNT中に吸蔵する物質を選択することもできる。今後は、コンパクトで軽く高性能なキャパシタの、電極材料としての実用化が期待される。それ以外の物質やエネルギーの貯蔵体としての幅広い応用も期待できる。

 詳細な成果は、ドイツの学術誌「Advanced Functional Materials」に掲載される。

1gの単層CNT高比表面積材料と透過型電子顕微鏡画像
1gの単層CNT高比表面積材料(左は500円硬貨)と透過型電子顕微鏡画像

社会的背景

 比表面積の大きな物質は、その吸着能力を利用し除湿・消臭剤として、あるいは相互作用の大きさを生かしセンサーや物質の精製・分離に使われており、日常生活から産業利用まで広く用いられている。特に最近では、ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池自動車が注目を集め、キャパシタ・燃料電池の電極材料などのエネルギー貯蔵材料としての応用が関心を集めている。

 比表面積の大きな物質には多孔質シリカや活性炭などがあるが、これらは非晶質物質であるため、もろい。また多くは粉状であり、利用しやすい固形状態にすると比表面積が小さくなってしまうという問題があった。高性能蓄電デバイスへの関心が高まるなか、これらに換わる高比表面積材料の開発が求められている。

研究の経緯

 単層CNTは、凝集しても比表面積が小さくならず、従来の高比表面積材料の欠点を補う物質として注目されていたが、これまで理論値(2630 m2/g)に近い比表面積は実現されず、240~1250 m2/gの小さい値しか報告されていない。

 産総研では、これまで単層CNT合成法であるスーパーグロース法を開発し、さらに高純度の単層CNTが垂直配向したCNT配向構造体(通称 CNTフォレスト)を開発してきた。最近では、この配向構造体を高密度化する技術を開発するなど、キャパシタの電極材料に応用する研究を行っている。

 産総研ナノチューブ応用研究センターとエネルギー技術研究部門は連携して、比表面積を向上させる処理方法などキャパシタ電極への応用についての研究を進め、今回の成果を得た。

 なお、本研究開発は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業である「ナノテクノロジープログラム:カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」で得られた成果である。

研究の内容

 スーパーグロース法によるCNTフォレストは99.5 %単層CNTで構成され、一方向に配向した構造体である。ほかの単層CNTに比べて直径が大きく、高純度である。これらの特性に注目し、酸化によってナノチューブの先端や壁面に穴をあける「開口処理」を行い、比表面積を増大させることを試みた。空気中の酸素によってCNTフォレストを酸化させることとし、乾燥空気中で1 ℃/分の速度で加熱し、高温による酸化によって開口処理を行った。加熱温度は350 ℃から600 ℃である。

 比表面積の測定には、窒素分子の吸着現象を利用したBrunauer-Emmett-Teller (BET)法を用いた。空気酸化により開口処理した試料の比表面積を図1に示す。ここで、青はCNT外側、赤はCNT内側の比表面積である。また、○印(白丸)は処理によるCNTの重量減少を示している。500 ℃まで加熱して開口処理を行った試料では、顕著な重量減少、すなわちCNTの燃焼による減量がほとんどみられない。しかも、その比表面積は2240 m2/gと、未処理試料の比表面積1300 m2/gから大幅に増大していた。理論値(2630 m2/g)との比較から、CNTの炭素原子のうち約85%が表面原子として作用していると考えられる。

開口処理温度とCNTフォレストの比表面積、重量減少率の変化の図
図1 開口処理温度とCNTフォレストの比表面積、重量減少率の変化
青:外側の比表面積、赤:内側の比表面積、白丸:重量減少率

 CNT配向構造体は、溶媒によって処理することで高密度化することができる。高密度化したCNT配向構造体(通称 CNT固体)についても同様の開口処理を行ったところ、その比表面積は2190 m2/gとなった。(なお、単位体積あたりに換算すると1310 m2/cm3となる。)

 いずれのCNT試料の比表面積も、市販の多孔質シリカ(SBA-15、750 m2/g)や、活性炭(YP17、 1700 m2/g)と比較して十分大きな表面積であるといえる(図2)。

従来材料との比表面積の比較の図
図2 従来材料との比表面積の比較

 今回開発した材料の、キャパシタの電極としての性能を調べた。加熱温度の異なる材料を電極として、テトラフルオロホウ酸テトラメチルアンモニウム/炭酸プロピレンを電解質として用いた場合、525 ℃に加熱した電極でエネルギー密度24.7 Wh/kg、パワー密度98.9 kW/kgを示した。これは従来の活性炭電極を用いたキャパシタ(16.9 Wh/kg、35.7 kW/kg)や、比表面積が小さく、純度の低いCNTを用いた高性能キャパシタより良い性能であり、電気自動車用途をはじめとした蓄電デバイスへの応用が期待できる(図3)。

今回試作した高性能キャパシタと従来品の性能比較の図
図3 今回試作した高性能キャパシタと従来品の性能比較

 窒素分子を用いて測定した比表面積が最大となる加熱温度(500 ℃)と、電解質イオンを用いて試作したキャパシタの性能が最高となる加熱温度(525 ℃)が異なるのは、酸化によってCNT壁面に生じる開口部の大きさが高温での処理の方が広がり、より大きな分子に適したサイズになったためと推察できる。これは、開口処理の条件をコントロールすることで、CNT内部に貯蔵する物質を選択できる可能性を示唆する。

開口処理後の単層CNT 透過型電子顕微鏡画像
図4 開口処理後の単層CNT 透過型電子顕微鏡画像

今後の予定

 産総研は、今回開発した単層CNT高比表面積材料の用途開発を促進するため、企業・団体等に対しても、研究用の試料をグラム単位で提供する予定である。また、NEDOの委託事業「カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」の中で、日本ゼオン株式会社と共同で、今回の高比表面積材料の原料となるCNTフォレストの工業的量産技術を開発し、それを用いて日本ケミコン株式会社と共同で、高性能キャパシタを開発する。


用語の説明

◆単層カーボンナノチューブ(SWCNT:Single-Walled Carbon Nanotube
カーボンナノチューブは炭素原子のみからなり、直径が0.4~50 nm(1ナノメートル:10億分の1メートル)、長さがおよそ1~数10 µmの一次元性のナノ材料である。その化学構造はグラファイト層を丸めてつなぎ合わせたもので表され、層の数が1枚だけのものを単層カーボンナノチューブと呼び、グラファイト層の巻き方(らせん度)に依存して電子構造が金属的になったり半導体的になったりする。[参照元へ戻る]
◆比表面積
一般には物質の単位質量あたりの表面積を指す用語であるが、場合によっては単位体積あたりの表面積を求めたものを表す場合もある。[参照元へ戻る]
◆スーパーグロース法
単層カーボンナノチューブの合成手法の一つであるCVD法で、水分を極微量添加することにより、触媒の活性時間および活性度を大幅に改善した方法。従来の 500倍の長さに達する高効率成長、従来の2000倍の高純度単層カーボンナノチューブを合成することが可能である。さらに、配向性も高く、マクロ構造体も作製できる。[参照元へ戻る]
◆キャパシタ
電気二重層という、固体と液体との界面に正負のイオンが対となって層状に並ぶ現象を利用したエネルギー蓄積デバイスを電気二重層キャパシタと呼ぶ。充放電時には電解質イオンが移動し、電極に吸脱着するだけなので、化学反応を行う二次電池よりも急速充放電ができるという特長があり、また劣化も少ない。近年では、二次電池的な化学反応をともなうにもかかわらず、キャパシタ的な急速充放電が可能な疑似キャパシタなど、さまざまなタイプの次世代キャパシタが開発されている。[参照元へ戻る]

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