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発表・掲載日:2009/01/08

高温で動作するパワーデバイス用の新しい素子を開発

-ルテニウムとダイヤモンドの組み合わせで冷却系が不要に-

ポイント

  • 400℃以上の高温でも動作する、冷却系不要なパワーデバイス用ダイオード整流素子を開発
  • ルテニウム(Ru)を新規ショットキー電極材料とし、ダイヤモンド基板に組み合わせ
  • 省エネルギー型パワーデバイスの実現に期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ダイヤモンド研究センター【研究センター長 藤森 直治】鹿田 真一 副研究センター長(兼 デバイス開発チーム研究チーム長)と同研究センター デバイス開発チーム 梅澤 仁 研究員は、ルテニウム(Ru)ダイヤモンドを組み合わせ、400℃以上の高温でも長時間動作するパワーデバイスダイオード整流素子を開発した。

 ダイヤモンドは、硬度、熱伝導率の大きさ、光透過波長帯の広さ、化学的安定性などで物質中の最高性能を示し、また半導体としても絶縁破壊電界や移動度などで、極めて優れた特性を有するため、機械応用以外に光学部品、電気化学や半導体デバイス等への応用が期待されている。特に電力を制御するパワーデバイス(電力用半導体素子)として、高温動作・冷却フリーデバイス、高耐圧、大電流密度など高性能化が期待できる。

 本研究では、パワーデバイスの基本部品であるダイオード整流素子を試作し、冷却せずに高温で長時間動作させることに成功した。従来、ダイオード整流素子のショットキー電極は高温で長時間の使用には耐えられなかったが、新たな電極材料を探索し、ルテニウムが耐熱性、低抵抗、密着性、ショットキー接合という4つの課題を同時にクリアできる優れた特性を有すること、さらに高温でも全く変化しないことを見いだした。ルテニウムを用いたショットキー電極をダイヤモンド基板と組み合わせた新規ダイオード整流素子を試作し、400℃で1500時間および500℃で250時間の動作試験を行ったところ、全く劣化のないことが確認できた。これらの試験データから、少なくとも自己発熱温度レベル(200℃~250℃)では、冷却せずに数十年も動作し続けることが可能であると推定できる。将来、本技術が実用化されれば、冷却系を必要としない省エネルギー型パワーデバイスの実現が期待できる。本研究成果は、2009年1月9日に応用物理学会の「Applied Physics Express」オンライン版(http://www.jsap.or.jp/publish/apex/index.html)に掲載される予定。

試作したダイオード整流素子の外観写真
試作したダイオード整流素子の外観

開発の社会的背景

 パワーデバイスは、電気機器の電力制御に不可欠な半導体デバイスであり、インバーター化の進展とともに、省エネルギー技術の基盤となっている。また、最近では大電流動作が可能になり、例えばハイブリッド自動車のモーター駆動にも使われるなど急速に普及しており、その市場規模も2兆円に及ぶといわれる。パワーデバイスの高性能化による電力エネルギーの削減は、CO2の大幅削減に向けた対応において、経済産業省が策定した「Cool Earth-エネルギー革新技術計画」の中でも、重点的に取り組むべきエネルギー革新技術の一つとして重要な位置を占めている。

 現在、パワーデバイスにはシリコン(Si)半導体が用いられているものの、耐熱、耐圧、電力損失、電流密度などで課題を抱えるため、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)などの新材料開発の研究が進められている。ダイヤモンドもこれら新材料の一つであるが、材料自体が熱を放散する最高のヒートシンク(放熱部)材料であり、また高温に耐える、高温で電流密度が上がるなど、極めて特異な物性を有する。これらのことからダイヤモンドは、高温動作・冷却フリーデバイス、高耐圧、大電流密度などを実現する材料として、パワーデバイスへの応用に期待されている。

研究の経緯

 産総研ダイヤモンド研究センターでは、硬度、熱伝導率、弾性定数、光学的透過率、化学的安定性、電気化学特性など物質中で最も優れた特性を有するダイヤモンドについて、半導体特性と組み合わせることにより新しい技術応用を拓(ひら)くための研究を行っている。また、材料技術として大型単結晶ダイヤモンド作製技術を開発している(2007年3月20日産総研プレス発表)。各種デバイスとそれに関する材料基礎研究も行っており、ダイヤモンドを適用したパワーデバイスの開発を目指している。

研究の内容

 本研究は、高温動作・冷却フリーおよび大電流密度動作を可能とするショットキー型のダイオード整流素子に関するものである。従来、ダイヤモンドのショットキー接合には、アルミニウム(Al)、金(Au)、モリブデン(Mo)、白金(Pt)などの金属、またはタングステンカーバイド(WC)化合物などが用いられてきた。前者の金属の中で、白金を用いたショットキー接合は耐熱性があるものの、界面で剥離(はくり)するため実際には使用できなかった。後者のタングステンカーバイドは、耐熱性に関しては、未だ詳細な検討はなされていないが、500℃だと3時間で特性が変化するという報告がある。また、前者の金属に比べて抵抗が1けた以上高い、ワイヤ接合のため金など別の金属を必要とする、等の問題を有する。

 図1に今回試作した、ダイオード整流素子の全体外観写真と、開発した部分の構造断面図を示す。ダイヤモンド基板上に活性層を積層し、その上にオーミック電極とショットキー電極を形成した構造である。このオーミック電極には耐熱Ti/Mo/Au積層オーミック金属を用いている。

 本研究では、高温動作が可能となるショットキー電極材料を、数多くの金属の中から探索した。抵抗率、耐熱性の優れた金属のショットキー接合の諸特性を試験し、さらに密着性を検討し、耐熱試験を行った。従来、耐熱性、低抵抗、良好な密着性、良好なショットキー接合を有し、かつ、高温で界面反応による劣化が全く起こらないという条件を同時に解決する金属は見いだされていなかったが、今回この課題をすべてクリアする金属であるルテニウム(Ru)を見いだし、ダイヤモンドと組み合わせた新規ダイオード整流素子を開発した。

試作したダイオード整流素子の全外観と開発部分の拡大模式断面図
図1.試作したダイオード整流素子の全外観(左)と開発部分の拡大模式断面図(右)
(左写真中央部分(丸印)が開発部分:2mm×2mm)

 このルテニウムをショットキー電極に用いたダイオード整流素子で、400℃で1500時間および500℃で250時間の高温保存試験を行った後も、素子に全く劣化のないことが確認できた(図2)。ショットキー接合の諸特性についても詳細に測定した結果、400℃で1500時間の試験後でも、全く特性の変化がないことがわかった。これらのデータを基に推定すると、通常のパワーデバイスの自己発熱温度レベル(200~250℃)では、全く冷却せずに数十年も動作し続けることが可能であり、このことは冷却系に必要であった電力エネルギーを削減できる可能性があることを示唆する。

400℃高温保存試験による特性変化の図
図2.400℃高温保存試験による特性変化

今後の予定

 ダイヤモンドの実用パワーデバイスへの適用には、大電流が流せる1cm角級のデバイス実現が必要である。このために、大面積の基板製造技術、高品質エピタキシャル膜成長技術、デバイス設計技術などに取り組む。また今回の開発はショットキー型のダイオード整流素子であるが、トランジスタ素子についても並行して研究を進め、冷却のための電力が不要となる省エネルギー型パワーデバイスの実現を目指す。


用語の説明

半導体の説明図
◆ルテニウム(Ru)
原子番号44。白金属の元素。貴金属でもある。白金(Pt)鉱石からの副産物として得られる。[参照元へ戻る]
◆ダイヤモンド
産業用に使用されるダイヤモンドはほとんどが人工的に大量生産されたものである。主な合成法には、高圧(約5万気圧)・高温(約1500℃)で作る高温高圧合成法と、低圧(約0.1気圧)のメタンと水素からなる原料ガスをプラズマ等で反応させる気相合成法との2種類がある。気相合成法は大面積、薄膜形成、不純物制御等の他の方法では実現できない技術に適用が可能で、既に単結晶ダイヤモンドの製造技術として工具、通信用弾性表面波デバイス、フィルター、センサー等への適用が進められている。[参照元へ戻る]
◆パワーデバイス
電源系を制御する半導体デバイスで、電気を使って動作するすべての機器に使用されている基本デバイスである。最近では、自動車のモーター駆動などにも使われてきており、心臓部品となっている。半導体材料としては通常シリコン(Si)が用いられているが、動作速度、電圧、電流、冷却系などで、ほぼ限界に近くなってきている。そのため、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンドなど新しい半導体材料の開発が期待されている。[参照元へ戻る]
◆ダイオード整流素子
片側だけに電流を流すスイッチング素子。pn型とショットキー型があり、本研究では後者を用いた。[参照元へ戻る]
◆半導体
電気を通す導体と通さない絶縁体との中間的な性質を持つものを半導体という。半導体としてのダイヤモンドは、右図のように、絶縁破壊電界が高く、耐電圧に優れる。また、電子移動度が高く熱伝導も高いため、大電流駆動が可能などの特徴がある。[参照元へ戻る]

 

◆ショットキー電極
 
半導体と金属電極を接合させると、半導体から金属またはその逆のどちらか一方向に電子が流れやすくなる。この金属電極をショットキー電極というが、ここに電圧をかけることによって電流の向きを変えられる。この整流現象を利用して、交流を直流に変えるなど工業的に利用されている。[参照元へ戻る]
◆自己発熱
 
半導体デバイスは、動作を開始すると電子・ホールの運動エネルギーで自己発熱し、150から250℃程度に上昇する。この熱により、シリコンでは性能が変わったり、暴走したりするため、冷却を行う。[参照元へ戻る]
◆冷却系
 
通常のシリコン(Si)パワーデバイスは、冷却しないと自己発熱により暴走動作するため、下左図のようにAlN/CuMoCuというヒートシンク(放熱部)を介して、水冷系で冷却している。例えばハイブリッドカーを例に取れば、右図のようにラジエーター以外に専用冷却系を有しているためにその分エネルギーを浪費している。また、部品にモリブデン(Mo)など希少資源を用いるなどの問題もある。これをデバイスの自己発熱温度(200~250℃)で動作させることができれば、省エネルギーに極めて有益である。[参照元へ戻る]
冷却系の説明図(左) 冷却系の説明図(右)
◆インバーター
 
直流電力から交流電力に変換する電源回路を持つ電力変換装置のこと。制御装置と組み合わせることなどにより、省エネルギー効果が大きく、応用が拡大している。[参照元へ戻る]
Cool Earth-エネルギー革新技術計画
 
経済産業省が中心に策定した地球環境問題対応プログラムで、2050年にCO2を50%削減するためのエネルギー革新技術計画。2008年の北海道洞爺湖サミットで提案された。[参照元へ戻る]
◆オーミック電極
 
オームの法則に従って低抵抗で、電流を注入したり、電圧をかけたりする電極で、ダイヤモンド基板の場合では、材料としてTi/Mo/Au(チタン/モリブデン/金)やTi/Pt/Au(チタン/白金/金)が用いられることが多い。なお、これらも耐熱性があることは、十数年前に確認されている。[参照元へ戻る]
◆エピタキシャル膜
 
単結晶基板の結晶方向に対して、ある特定の方向に結晶成長した膜のこと。[参照元へ戻る]

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