発表・掲載日:2004/03/23

気相合成法による大型ダイヤモンド単結晶合成技術を開発

-ダイヤモンドデバイス実現への道を拓く-

ポイント

  • 気相合成法により1カラットダイヤモンド単結晶の合成に成功
  • 成長条件の最適化により、毎時40~120マイクロメーターの成長速度を達成(日本における従来技術の5倍以上に相当)
  • ダイヤモンドデバイス実現のための大型ダイヤモンド単結晶合成技術として有望


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ダイヤモンド研究センター【センター長 藤森 直治】は、気相合成法による、ダイヤモンドの大型単結晶製造技術を開発し、ダイヤモンドデバイスへの応用へ大きな一歩を踏み出した。

 ダイヤモンドは、高硬度、熱伝導率の大きさ、光透過波長帯の広さ、誘電率の小ささ、化学的安定性 などの特性を有しており、半導体デバイス、電子放出デバイス、バイオセンサー、発光素子等への幅広い応用が期待されている。

 このようなデバイスへの応用を切り拓くためには様々な要素技術の開発が必要であり、産総研は昨年4月にダイヤモンド研究センターを設立し、基礎的研究から製品開発研究までの幅広い研究を進めている。

 ダイヤモンド単結晶をデバイスに応用するには、不純物や格子欠陥の制御が不可欠である。気相合成法(ガス(水素、メタン)からダイヤモンドを作る技術)による単結晶の合成は、純度の制御がし易く、大型の単結晶を作れる可能性があり、いくつかの研究機関で研究開発が行われてきた。今回、ダイヤモンド研究センターではマイクロ波プラズマCVD法によって、1カラットダイヤモンド【写真参照】を従来の5倍以上(毎時50マイクロメーター)の合成速度で得られる技術の開発に成功した。現在までの日本での報告では、毎時1~10マイクロメーターの成長速度であったが、本研究では最大で毎時120マイクロメーターの高い成長速度も得られている。

 本研究では、通常のメタンと水素の反応ガスに0.3% の窒素を添加した反応ガスを用いて、種結晶を設置する基板のホルダー形状を検討し、成長温度を1200℃付近で精密に制御することによって安定して上記の成長速度を達成できた。写真の結晶は4×4×0.5mmの高温高圧合成法により合成された単結晶を種結晶とし、55時間の成長後の状態を示している。結晶の上面は7×7mmにまで大型化されており、この手法でさらなる大型化が出来る可能性を示すことが出来た。厚さ方向には2.8mmまで成長したが、大きな結晶の乱れは見られなかった。結晶が黄色みを帯びているのは窒素を添加させた反応ガスを用いたため、ダイヤモンド中に微量の窒素が混入したことによるが、反応ガス中の窒素の存在が結晶方位の異なる異常な粒子の生成を抑える効果があることも明らかにできた。

 本研究成果は、2004年3月26~29日の期間に、早稲田大学(東京都新宿区西早稲田)で開催される第9回ニューダイヤモンド科学技術国際会議(ICNDST-9)で発表される。

気相合成法により合成した大型ダイヤモンド単結晶の写真

写真 気相合成法により合成した大型ダイヤモンド単結晶

研究の背景

 ダイヤモンドは、高硬度、熱伝導率の大きさ、光透過波長帯の広さ、誘電率の小ささ、化学的安定性などの有用な物性を有しており、様々なデバイスへの応用が期待されている。特に半導体としての応用が期待されているが、そのためにはダイヤモンドの優れた特性を活かせる単結晶ダイヤモンドが必要である。高温高圧合成法では、数mm以下の結晶を作る技術はあるが、ダイヤモンドデバイス開発に向けた10mmを越える実用的な大きさのダイヤモンドの合成は難しいとされている。そのため、ガスからダイヤモンドを合成する気相合成法によるダイヤモンド単結晶の大型化に向けた研究が他の研究機関においても進められている。

研究の経緯

 ダイヤモンド研究センター 単結晶基板開発チームでは、デバイス製造に必要な大型単結晶ウェーハーの開発を目標としている。昨年からマイクロ波プラズマCVD法による大型単結晶ダイヤモンドの合成に関する研究を行っている(産総研独自の研究)。

 気相合成法の最大の問題点は、成長速度がメタンと水素の反応ガスの場合、毎時10マイクロメーター以下であることで、実用的な単結晶の合成速度としては、毎時100マイクロメーター以上にすることが必要と考えられる。

 米国の研究機関から窒素を反応ガスに混入させることとプラズマ条件を検討することで毎時40マイクロメーター、最大では毎時150マイクロメーターの高速成長が可能であるとの報告があった。しかし、窒素添加が単結晶成長にとってどのような効果を生んでいるかや、プラズマの状態をどのように制御したのかが全く明らかにされていない。

研究の内容

 本研究では様々な基板ホルダーの形状を検討し、反応系のどのような要素を制御することが良質な結晶成長に資するかを検討した。その結果、プラズマと種結晶の位置関係を一定として表面温度を1200℃付近で精密に制御することが重要であることを見出した。また、窒素添加量を変化させて成長したダイヤモンド表面の詳細な観察によって、反応ガスへの窒素の混入は、方位の異なった異常な結晶の成長を抑制する効果があることを発見した。

 このような成長条件の最適化により、高温高圧合成法で合成された4×4×0.5mmの単結晶を種結晶としてマイクロ波プラズマCVD法により、55時間の成長を行った。1カラットダイヤモンドを従来の5倍以上(毎時50マイクロメーター)の合成速度で得ることに成功した。従来の技術では毎時1~10マイクロメーターの成長速度であったが、本研究では最大で毎時120マイクロメーターの高い成長速度も得られている。単結晶ダイヤモンドの成長上面は7×7mmにまで大きくなっており、目指していた大型化の可能性が見えてきた。窒素を反応系に入れているために出来上がった単結晶にも微量の窒素が含まれており、黄色の結晶となっている。厚さは約2.8mmまで成長しているが、成長面は平滑さを保っている。成長したダイヤモンド単結晶は1カラット(0.2g)であった。側面で成長した結晶の品質が劣るなどの問題点があるが、本手法がさらなる大型化に向けて有望であると考えている。

今後の予定

 ダイヤモンドの半導体への応用を切り拓くために必要な、1インチ以上のウェーハーの開発に向け、プラズマ発生装置の改良によって大面積への均一な成長の実現を目指し研究開発を行う。また、結晶品質の向上も重要な課題であり、結晶成長時のその場観察技術の導入などで、高品質形成条件を作り上げて行く。ダイヤモンドの幅広い応用展開へも、本単結晶合成技術が貢献できると考えているが、その為に必要な加工技術の高度化も含めて、総合的な取り組みを行っていく予定である。


用語の説明

◆気相合成法・高温高圧合成法
天然ダイヤモンドは、地中の非常に深い場所で形成され、地球の造山活動で地上近くまで出てきたものが採掘されている。産業用に使用されるダイヤモンドは人工的に安価に大量生産されたもので、人工合成ダイヤモンドと呼ばれる。合成法には2種類あり、高圧(約5万気圧)と高温(約1500℃)で作る高温高圧合成法と、低圧(約0.1気圧)のメタンと水素から成る原料ガスをプラズマ中で反応させ、約1000℃の基板上に堆積させる気相合成法がある。気相合成法では比較的小型の真空装置を用いて、大面積にダイヤモンドを形成でき、純度も反応ガスで制御できる利点がある。[参照元へ戻る]
◆マイクロ波プラズマCVD法
2.5GHzのマイクロ波でメタンなどの気体をプラズマ状態にし、基板にダイヤモンドを堆積させる方法。CVDとはChemical Vapor Depositionの略で、化学反応により薄膜を形成する技術である。[参照元へ戻る]
◆カラット (carat)
ダイヤモンドなどの宝石の質量を表す単位で、1カラットは200mgに相当する。略号はct、またはcar。[参照元へ戻る]
◆ダイヤモンド中の窒素
ほとんどの天然ダイヤモンドは0.1% 以上の窒素を含有しているが、特殊な結晶中の状態発色はしない。一部の天然ダイヤモンドや高温高圧合成法により合成されたダイヤモンドは0.001~0.03% 程度の窒素を含有し、黄色を呈する。純度としては優れているが炭素との結合状態がこのような発色をさせる。天然にも人工にも窒素をほとんど含まないダイヤモンドがあり、気相合成法により合成されたダイヤモンドはこのようなダイヤモンドを作ることが出来る。[参照元へ戻る]

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