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発表・掲載日:2007/02/07

単層カーボンナノチューブの安価な大量合成法を開発

-高純度の単層カーボンナノチューブの量産に弾み-

ポイント

  • 大面積金属板(A4サイズ)上に垂直に配向した単層カーボンナノチューブを高速成長。
  • 世界最高レベルの高純度、高比表面積、長尺を達成。
  • 産業用の単層カーボンナノチューブの安価な大量生産を可能に。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ナノカーボン研究センター【センター長 飯島 澄男】ナノカーボンチーム 畠 賢治 チーム長、平岡 樹 産総研特別研究員および日本ゼオン 株式会社【代表取締役社長 古河 直純】(以下「日本ゼオン」という)は、共同で単層カーボンナノチューブの合成手法の一つであるスーパーグロース法を用いて、初めて大面積金属板上に直接大量の単層カーボンナノチューブを合成する技術を開発した。

 これまでスーパーグロース法は高価なシリコン基板を用いて単層カーボンナノチューブを合成していたが、今回、安価なニッケル合金基板上での合成に成功した。さらに、日本ゼオンと共同で、今回開発した技術を適用できる合成炉を設計・試作し、A4サイズの金属板の全面に均一な単層カーボンナノチューブ構造体を合成することに成功した。これは成長面積として従来の100倍のスケールアップであり、生産量はグラム単位である。合成された単層カーボンナノチューブは、金属板フォイル上で、垂直に起立した形で成長し、高さ1ミリメートルの構造体をわずか10分で形成する。構造体中の単層カーボンナノチューブは、シリコン基板上で合成されたものと同程度、すなわち世界最高レベルの高純度、高比表面積、長尺といった優れた特性を示し、スーパーキャパシタ、アクチュエータなど様々な用途において非常に有用と考えられる。今回の成果は、基板コストを従来の100分の1に抑えることができるもので、カーボンナノチューブの大面積・連続生産技術を開発する上でのキー技術であり、単層カーボンナノチューブの工業的量産への大きな礎となる。本研究成果の一部は、米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society, Vol.128, p13338, 2006年)に掲載された。

A4サイズの金属フォイル上に合成された単層カーボンナノチューブ構造体の写真
 

インコネル上での垂直配向単層カーボンナノチューブ構造体の写真
 

図1 A4サイズの金属フォイル上に合成された単層カーボンナノチューブ構造体   図2 インコネル(ニッケル合金)上での垂直配向単層カーボンナノチューブ構造体

開発の社会的背景

 単層カーボンナノチューブは、高導電性、柔軟性、異方性、低次元性等の新しい機能を持つ炭素材料である。そのため、次世代のナノデバイス材料として大きな注目を集めており、21世紀におけるナノテクノロジーの中核となる基盤材料として期待されている。単層カーボンナノチューブの応用研究開発は世界中でしのぎを削る激しい競争状態にあるが、単層カーボンナノチューブ合成技術が未成熟なために非常に高価であり、未だ産業的材料としての使用の目処がたってない。単層カーボンナノチューブの優れた可能性を最大限に活用するためには、単層カーボンナノチューブに高配向性、高密度、高比表面積、長尺、高純度といった性質を持たせる合成法の開発が不可欠である。しかもこのような高次構造制御された単層カーボンナノチューブを産業的材料として用いるために、成長効率を大幅に向上させ、安価な基板の上で大面積かつ連続に製造する大量生産技術を開発することが必要とされている。

研究の経緯

 産総研は、2004年度に発表した世界最高の成長効率を誇る、スーパーグロース法をもとに、単層カーボンナノチューブの安価な大量合成技術の開発に精力的に取り組んできた。畠賢治チーム長、平岡樹産総研特別研究員らは、従来、高価なシリコン基板上で行われていたスーパーグロース単層カーボンナノチューブ合成法を、より安価な金属板上で合成できるよう改良に取り組んできた。また、日本ゼオンと共同で大面積かつ連続に製造する大量生産技術に取り組んでいる。

 なお、本研究は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という)の委託事業、ナノテクノロジープログラム「カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」(平成18~22年度)」の支援を得て実施されたものである。

研究の内容

 触媒を担持させて、カーボンナノチューブを成長させる基板として、従来のシリコンウェハのような高価な基板ではなく、比較的安価な材料よりなる基板を用いて、品質に優れたカーボンナノチューブを大量に製造する技術について検討を重ねた。CVD(化学気相成長)技術として、産総研ナノカーボンチームが開発したスーパーグロース法を適用した。スーパーグロース法は、基板上で単層カーボンナノチューブを合成する方法であり、世界最高の成長効率を誇る。本手法では、800℃近くの温度条件下で、水素還元雰囲気、水分添加、酸化雰囲気に対して高い耐久性を示し、かつカーボンナノチューブの合成を阻害しない基板が必要となる。検討を重ねた結果、特定のニッケル合金が要件を満たしていることを発見した。特にこれらの合金の板状あるいはリボン状のものを用いることにより、目的とする性質を持つ単層カーボンナノチューブの配向構造体が得られることを確認した。ここで用いたニッケル合金上では、単層カーボンナノチューブの品質、収量、選択性はシリコン基板上と同等であった。すなわち、大きさの制限が少なく、シリコン基板よりもはるかに安価なニッケル合金基板で大量の単層カーボンナノチューブを合成することが可能となった。

 日本ゼオンと共同で、今回開発した技術を適用できる大面積スーパーグロース合成炉を設計・試作し、A4サイズの金属板の全面に均一な単層カーボンナノチューブ構造体を合成することに成功した。合成された単層カーボンナノチューブは、世界最高レベルの高純度(炭素純度99.9%以上)、高比表面積(非開口状態で1000m2/g以上)、長さを持ち、かつ配向しており、スーパーキャパシタ、アクチュエータなど様々な用途において非常に有用なものと考えている。

各種Ni-Fe-Cr合金上での単層カーボンナノチューブ構造体の合成の図
図3 各種Ni-Fe-Cr(ニッケル-鉄-クロム)合金上での単層カーボンナノチューブ構造体の合成。
拡大図 ナノチューブが構造体中で垂直に配向している様子。スケールバーは1µm。

今後の予定

 今後、今回開発された、スーパーグロース金属基板カーボンナノチューブ合成技術をコア技術とし、これまで小型基板バッチ処理で行われてきた合成反応を、スケールアップ・連続化・高効率化することにより、従来の数百分の一という大幅な単層カーボンナノチューブの製造コストダウンを図る。今回の成果により、従来の小型バッチ、シリコン基板上での数ミリグラム単位の生産量から、一気にグラム単位の生産が可能となり、キャパシタなどの応用開発に弾みがつくと期待される。NEDOの委託事業「カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」の支援を得て、数年以内に、配向、長尺、高純度、高比表面積のバルク単層カーボンナノチューブの工業的量産化を目指す。また、本法によって合成された単層カーボンナノチューブは、比表面積あたりの電気容量が活性炭より大きく、高エネルギー密度かつハイパワーのキャパシタ材料となる可能性を持つ。こういった特性を利用し、キャパシタの需要に求められる高出力、高エネルギー密度、長寿命の電気二重層キャパシタを開発する。

大面積スーパーグロース単層カーボンナノチューブ合成炉の写真
図4 大面積スーパーグロース単層カーボンナノチューブ合成炉


用語の説明

◆単層カーボンナノチューブ(SWNT:Single-Walled Carbon Nanotube
カーボンナノチューブは炭素原子のみからなり、直径が0.4~50nm(1ナノメートル:10億分の1メートル)、長さがおよそ1~数10µmの一次元性のナノ材料である。その化学構造はグラファイト層を丸めてつなぎ合わせたもので表され、層の数が1枚だけのものを単層カーボンナノチューブと呼び、グラファイト層の巻き方(らせん度)に依存して電子構造が金属的になったり半導体的になったりする。[参照元へ戻る]
◆スーパーグロース法
単層カーボンナノチューブの合成手法の一つであるCVD法において、水分を極微量添加することにより、触媒の活性時間及び活性度を大幅に改善し、ナノテクノロジーの中核素材として期待される単層カーボンナノチューブの合成において、従来の500倍の長さに達する超高効率成長、不純物が従来の1/2000の超高純度単層カーボンナノチューブを合成する技術。さらに、配向性も極めて高く、マクロ構造体も作製できる。[参照元へ戻る]
◆CVD法(化学気相成長法:Chemical Vapor Deposition
ナノサイズの遷移金属の触媒下、メタン(CH4)やアセチレン(C2H2)などのガスを反応させて、カーボンナノチューブを得る方法。CVD法は炭化水素を原料に用いるのと、500~1200℃の比較的低温で反応を行うのが特徴である。[参照元へ戻る]

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