発表・掲載日:2004/11/19

画期的な単層カーボンナノチューブ合成技術を開発

-単層カーボンナノチューブの応用研究が加速-

ポイント

  • 単層カーボンナノチューブ(SWNT)の合成において、従来技術では、合成効率の悪さ、不純物の含有、構造体作製の困難等の問題が有った。
  • SWNTの合成における触媒活性発現の重要なポイント(水分の添加)を発見し、上述のSWNT合成の最大課題を複数同時に克服する画期的合成技術を開発。
  • 世界中の研究者が知りたがっていたSWNT成長の「謎解き」がほぼ解明され、これを機会に応用研究が加速されると期待される。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という) ナノカーボン研究センター【センター長 飯島 澄男】の 畠 賢治 主任研究員らは、単層カーボンナノチューブSWNT:Single-Walled Carbon Nanotube)の合成手法の一つであるCVD法において、水分が触媒活性の発現、持続を促進することを発見し、CVD法における触媒の活性時間及び活性度を大幅に改善し、ナノテクノロジーの中核素材として期待されるSWNTの合成において、従来の500倍の長さに達する超高効率成長、従来の2000倍の超高純度の合成技術(スーパーグロース技術と命名)の開発に成功した。さらに、配向性も極めて高く、マクロ構造体の作製にも成功した。

 本研究成果は、米国科学誌サイエンス2004年11月19日号に「Water-Assisted Highly Efficient Synthesis of Impurity-Free Single-Walled Carbon Nanotubes」のタイトルで掲載された。

世界記録高密度高純度配列制御成長の図
図1 世界記録高密度高純度配列制御成長
基盤上で従来(4~5ミクロン)の500倍(2500ミクロン)の長さに達する超高密度成長に成功。


研究の背景・経緯

 従来の単層カーボンナノチューブ(SWNT)の合成技術では、合成効率の悪さ、不純物の含有、マクロ構造体作製の困難等の問題が有った。ナノカーボン研究センターでは、飯島 澄男 センター長の指導の下、このSWNTの合成と応用の研究開発を重点課題として注力してきており、畠 賢治 主任研究員らは、SWNTのCVD法合成に精力的に取り組み、SWNTのCVD法合成における触媒活性発現の重要なポイントを明らかにし、それに基づいて従来のCVD法の改良を行い、触媒の活性時間及び活性度を大幅に改善した。

 本研究は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 牧野 力】の委託事業、ナノテクノロジープログラム・ナノマテリアル・プロセス技術「ナノカーボン応用製品創製技術プロジェクト(平成14~17年度)」の支援を得て実施された。

研究の内容

 畠 賢治 主任研究員らは、SWNTのCVD法合成の研究において、水分が触媒活性の発現、並びに活性の持続を促進することを発見し、それに基づいて従来のCVD法を改良した結果、高さ2.5mm(2500µm(1マイクロメートル:100万分の1メートル))にも達する配列したSWNTの合成に成功した【図1参照】。これは、従来法での配列SWNTの高さ(4~5µm)を大きく上回るもので、従来法の500倍の長さに達する超高効率成長を達成した。更に、得られたSWNTの純度は99.98%以上(不純物濃度0.013%)【図2参照】であり、従来法(不純物濃度約30%)の2000倍以上の超高純度を達成している。

超高純度単層ナノチューブの図
図2 超高純度単層ナノチューブ(写真左:未精製で純度:99.98%)
従来(写真右:不純度30%)の2000倍以上の純度(不純物0.013%)

 本合成技術は、SWNTの合成における触媒活性発現の重要なポイントを明らかにし、それに基づいて触媒の活性時間及び活性度を大幅に改善したものである。前述の合成の最大課題を全て克服する画期的な合成技術であり、スーパーグロース技術と命名した。さらに、配向性も極めて高く、マクロ構造体の作製にも成功した【図3参照】。

マクロ構造体の作成図
円柱状に配列した単層ナノチューブ
板状に配列した単層ナノチューブ
図3 マクロ構造体の作成

 このスーパーグロース技術の開発は、SWNTの合成技術に大きなブレークスルーをもたらしただけで無く、世界中の研究者が知りたがっていたSWNT成長の「謎解き」がほぼ解明され、これを機会に応用研究が加速されると期待される。スーパーグロース技術は、日本発の技術(基礎特許出願済み)で、SWNT合成において、現時点での世界最高の技術であり、技術優位性は非常に高いと考えられる。

今後の予定

 スーパーグロース技術を用いて、エレクトロニクス、エネルギー、化学、複合材料、ナノテクノロジー、電子放出等の様々な分野【図4参照】での画期的な性能を持つ新製品の開発が期待される。


ナノチューブの応用図
図4 ナノチューブの応用


用語の説明

◆単層カーボンナノチューブ(SWNT:Single-Walled Carbon Nanotube
カーボンナノチューブは炭素原子のみからなり、直径が0.4~50nm(1ナノメートル:10億分の1メートル)、長さがおよそ1~数10µmの一次元性のナノ材料である。その化学構造はグラファイト層を丸めてつなぎ合わせたもので表され、層の数が1枚だけのものを単層カーボンナノチューブと呼び、グラファイト層の巻き方(らせん度)に依存して電子構造が金属的になったり半導体的になったりする。[参照元へ戻る]
◆CVD法(化学気相成長法:Chemical Vapor Deposition
ナノサイズの遷移金属の触媒下、メタン(CH4)やアセチレン(C2H2)などのガスを反応させて、カーボンナノチューブを得る方法。CVD法は炭化水素を原料に用いるのと、500~1200℃の比較的低温で反応を行うのが特徴である。[参照元へ戻る]


関連記事


お問い合わせ

お問い合わせフォーム