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発表・掲載日:2007/01/25

単分散・球状の酸化セリウム/ポリマーハイブリッドナノ粒子分散液を開発

-ガスセンサ、UVカット化粧品、研磨剤など様々な応用へ広がる可能性-

ポイント

  • セリウムの金属塩と有機ポリマーが溶解した有機溶媒を加熱するだけで簡単に分散液を作製。
  • 粒径は作製時に用いる有機ポリマーの分子量を変えるだけで50から120nmの範囲で制御可能。
  • 乾燥後も水系及び非水系溶媒に再分散可能であり、高濃度分散液も調製可能。
  • 容易に酸化セリウムコロイド結晶が作製可能でフォトニック結晶の性質を示す。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)先進製造プロセス研究部門【研究部門長 三留 秀人】センサインテグレーション研究グループの伊豆 典哉 研究員および松原 一郎 研究グループ長は、ガスセンサ、UVカット化粧品などの様々な応用が考えられる、粒子の大きさがそろっている(粒度分布が狭い)球状の酸化セリウム/ポリマーハイブリッドナノ粒子の分散液を開発した。セリウムの金属塩および有機ポリマーのみを有機溶媒に溶かした均一溶液を20分間加熱するだけで、析出した酸化セリウム一次粒子が球状に集合し、その周りを有機ポリマーが被覆した構造を持つナノ粒子が溶液中に自己組織的に生成し、前述の分散液を作製することができた。この分散液に含まれるナノ粒子は、乾燥させても水系及び非水系溶媒への再分散が非常に容易で、また、粒子の高濃度分散液を調製可能である。このナノ粒子の平均粒径は作製時に添加するポリマーの分子量を変化させることで50から120nmの範囲で制御可能であり、粒度分布は単分散に近い。また乾燥させて得られる集積体は、紫外可視分光測定においてナノ粒子配列の周期性に起因すると考えられる反射ピークが330nmに観察されたため、フォトニック結晶として機能する可能性が示された。

酸化セリウム/ポリマーハイブリッド球状ナノ粒子の走査電子顕微鏡像

酸化セリウム/ポリマーハイブリッド球状ナノ粒子の透過電子顕微鏡像

図1 酸化セリウム/ポリマーハイブリッド球状ナノ粒子の走査電子顕微鏡(SEM)像。球状で粒度分布が狭い。 図2 酸化セリウム/ポリマーハイブリッド球状ナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)像。黒い部分が酸化セリウム(CeO2)の一次粒子の集合部分。その表面にある灰色部分は添加したポリマー。


開発の社会的背景

 金属酸化物微粒子の分散液は科学的、技術的に興味が持たれている。例えば、誘電デバイスを作製するための誘電材料となる金属酸化物微粒子の分散液、シリカなどの球状微粒子のコロイド結晶を作製するためのシリカ微粒子の分散液、化学的機械研磨(CMP)に用いる酸化セリウム微粒子の分散液など、広い分野で応用されている。

 金属酸化物の中でも酸化セリウムは種々の優れた機能(高い酸素貯蔵能、高い酸化物イオンの拡散係数、高い屈折率、高い紫外線遮蔽効果など)を有するため、CMP用途以外にも種々の用途がある。例えば、自動車の三元触媒用助触媒抵抗型酸素センサ、酸素イオン伝導体などの用途を目指して研究開発が進められ、一部実用化されている。特に、コロイド結晶やガスセンサ応用には、単分散でナノレベルでの粒径や粒子形状が制御された分散液の製造が望まれていた。均一沈殿法等により球状酸化セリウムナノ粒子は既に合成されているが、凝集等の問題が解決されていないため、これらの高分散液はまだ得られていなかった。

研究の経緯

 産総研では、これまで、酸化スズ、酸化セリウムなどの酸化物ナノ粒子の合成に取り組んできており、種々の合成手法を開発してきた。例えば、沈殿法で得られる沈殿物にカーボンブラック粉末を混合し焼成するという手法を開発し、簡便に数十ナノメートルの酸化物ナノ粒子が得られることを見出してきた。また、ナノ粒子は種々の溶媒などに分散して原料とすることも多いことから、ナノ粒子の分散・凝集などの研究にも取り組んできている。今回このようなポテンシャルを活かして、粒度分布が狭く、ナノメートルレベルで粒径や粒子形状が制御された球状の酸化セリウムナノ粒子分散液の開発を行った。

研究の内容

 
水中での粒度分布測定結果の図
図3 高分子が表面被覆した酸化セリウム球状ナノ粒子の乾燥粉末を水に再分散した後、1日放置後の水中での粒度分布測定結果。
 
酸化セリウム/ポリマーハイブリッドナノ粒子の分散液は、セリウムの金属塩および有機ポリマーのみを有機溶媒に溶かした均一溶液を20分間加熱するだけで得られた。分散液中のナノ粒子は図2に示すように、5nm以下の酸化セリウム一次粒子が集合した球状の二次粒子であり、その粒子表面をポリマーが被覆したハイブリッド粒子となっている。酸化セリウムの球状ナノ粒子表面を被覆しているポリマーは酸化セリウムと強固に付着していた。このようなハイブリッド粒子は、加熱時に自己組織的に形成した。粒径の変動係数(CV)は約0.1から0.15であり、狭い粒度分布を示した。このような単分散酸化物球状粒子分散液はこれまでシリカでのみ得られていたが、今回の成果により、材料の選択肢が増えた。

 従来、溶液プロセスによる酸化物粒子の調製においては、原料濃度などを変化させて粒径を制御することが一般的であったが、今回、合成時に添加する有機ポリマーの分子量を変化させることで粒径の制御が可能となり、分子量を大きくすることで粒径を小さくできた。

 このナノ粒子を乾燥させたあと、新たに分散剤を加えなくても、水や有機溶媒への再分散が可能となった。これはナノ粒子表面が溶媒と親和性の高いポリマーで強固に被覆されているためと考えられる。動的光散乱法により求めた水に再分散後の分散液中での平均粒径は約120nmであり(図3)、SEM像の解析結果から求められた乾燥状態での球状ナノ粒子の粒径とほぼ一致した。このことから、水中で球状ナノ粒子が完全に分散していることが確認できた。有機溶媒に再分散させた分散液は、1ヶ月以上経っても、ナノ粒子の沈降により生じる上澄み層および沈殿層がほとんど観察されず、非常に安定であった。さらに、再分散性を利用することで、50wt%以上の含有量を有する高濃度ペーストを調整できた。

 得られたナノ粒子を水、エタノールなどの各種溶媒に再分散したのち、乾燥するとコロイド結晶が生成した(図4)。酸化セリウムは一般に知られているコロイド結晶用球状粒子であるシリカやポリマーよりも屈折率が高いため、フォトニック結晶の高機能化が期待されている。紫外可視光の反射スペクトルを測定したところ、ナノ粒子の周期性に起因すると考えられる反射ピークが330nmに観察された。反射ピークの波長は粒径および酸化セリウムの屈折率から計算される値とほぼ一致することからこのナノ粒子のコロイド結晶が高機能なフォトニック結晶として機能する可能性が示された。


コロイド結晶の写真
図4 高分子が表面被覆した酸化セリウム球状/ポリマーハイブリッドナノ粒子を水に再分散した後、乾燥して得られたコロイド結晶。

今後の予定

 ナノ粒子の単分散性の向上や、更に粒径の小さいナノ粒子作製を目指すと共に、ナノ粒子の生成メカニズムの解明にも取り組む。今回の製造方法は、溶液を原料とするシンプルなプロセスであり、量産化が期待できる。また、酸化セリウムナノ粒子を被覆しているポリマー種を変化させることも可能である。これらの特徴を生かし、ガスセンサを始めとする様々な分野への応用を視野に入れた研究を進める。

 なお、開発したナノ粒子またはその分散液などの試料は、産総研の産学官連携制度に基づき提供可能である。


用語の説明

◆分散液
微粒子やナノ粒子が液体中に分散しているもの。ゾル、スラリー、サスペンジョン、懸濁液、コロイド、分散系、分散体などとも呼ばれる。分散液では、分散している粒子を分散質(dispersoid)、粒子が分散している媒質を分散媒(disperse medium)と呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆コロイド結晶
球状の微粒子やナノ粒子が周期的に配列した構造体。このコロイド結晶は、長距離的な秩序構造に由来して,種々の機能性材料として期待されている。このコロイド結晶は原子や分子の結晶がX線を回折するように,ブラッグの条件に従って光を回折する。その特性を利用して新たな光学デバイスとして精力的に研究が進められている。[参照元へ戻る]
◆フォトニック結晶
屈折率が周期的に変化するナノ構造体。前述のコロイド結晶はフォトニック結晶の一種であって、フォトニック結晶は機能に着目した呼び方である。一方、コロイド結晶は構成単位に着目した呼び方である。[参照元へ戻る]
◆化学的機械研磨(CMP)
半導体製造における研磨技術の一つ。粒子を基板上に展開し、化学的な研磨と機械的な研磨を同時に行う方法。半導体の製造工程、特にリソグラフィー工程の際にはナノメートルレベルでの平坦性確保が要求されており、その平坦性確保のためにはスラリーの粒子径の制御が必須である。[参照元へ戻る]
◆三元触媒用助触媒
三元触媒とは、自動車等の排ガスに含まれる一酸化炭素、窒素酸化物、炭化水素の有害成分を同時に浄化できる触媒である。助触媒とは、触媒反応を促進させるための成分物質であり、促進剤ともいう。三元触媒の浄化効率が最大を示すのは、エンジンに導入される空気と燃料の比(空燃比)が過不足ない状態(理論空燃比)である。自動車では、加速や減速を繰り返し、絶えず空燃比が変動するため、理論空燃比からずれることが多い。このとき、空気が不足したときに酸素を供給したり、空気が多すぎるときに酸素を吸蔵したりできる能力(酸素貯蔵能)を有する助触媒があれば、理論空燃比に近づけることができる。酸化セリウムは高い酸素貯蔵能を有するため、助触媒用の材料として用いられている。[参照元へ戻る]
◆抵抗型酸素センサ
酸素分圧が変化すると、酸化セリウムや酸化チタンなどの材料の電気抵抗は変化する。このことを利用したセンサであり、例えば、自動車排気ガス中の酸素分圧を検出するために用いられる。エンジンに導入される空気・燃料の比(空燃比)と排気ガス中の酸素分圧とに密接な関係があるため、排気ガス中の酸素分圧を測定することにより、空燃比を求めることができる。このセンサからの空燃比の情報を基に、空燃比を制御している。[参照元へ戻る]
◆変動係数
標準偏差と平均の比をいう。CV (coefficient of variation)値とも言う。[参照元へ戻る]
◆動的光散乱法
溶液中に分散している粒子にレーザー光を照射し、その散乱光を解析することにより、溶液中に分散している粒子の粒径を求めることができる手法である。溶液中で、粒子が凝集している場合は、凝集粒子径が粒径として求められる。[参照元へ戻る]


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