English

 

発表・掲載日:2015/02/25

ウェアラブルデバイスの耐久性を劇的に向上させる高伸縮性導電配線を開発

-伸縮自在で体にフィットする圧力センサーシートへの応用を実現-

ポイント

  • 導電性繊維を用いて高伸縮性・高耐久性の導電配線を開発
  • 繰り返し伸ばしても折り曲げても安定な電気特性を持続
  • 快適で信頼性の高いウェアラブルデバイスや医療・ヘルスケアデバイスの実現に期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)フレキシブルエレクトロニクス研究センター【研究センター長 鎌田 俊英】印刷エレクトロニクスデバイスチーム 吉田 学 研究チーム長、植村 聖 主任研究員、延島 大樹 産総研特別研究員は、伸縮性の高いデバイスを実現するため、導電性繊維をバネ状に形成した高伸縮性バネ状導電配線を開発した。

 また、導電性の短繊維を高い配向性を持たせてパターニングした高伸縮性短繊維配向型電極を用いて、静電容量の変化を用いた容量型圧力センサーを作製し、この圧力センサーを多数、高伸縮性バネ状導電配線を用いてマトリクス状にし、高伸縮性圧力センサーシートとした。このマトリクス状圧力センサーシートは、伸ばしても折り曲げても壊れにくい高い耐久性を持ち、柔軟で人体表面などへのフィット性が高い。今回開発した高伸縮性導電配線は、各種の高伸縮性センサーシートにも応用できると考えられ、快適で信頼性の高いウェアラブルデバイスや心拍・血流センサーなどの医療・ヘルスケアデバイス実現への貢献が期待される。

 なお、この技術の詳細は、2015年3月4~5日にドイツ・ミュンヘンで開催される7th International Exhibition and Conference for the Printed Electronics Industry(LOPEC 2015)と2015年3月11~14日に東海大学 湘南キャンパス(神奈川県平塚市)で開催される第62回応用物理学会春季学術講演会で発表される。

今回開発した高伸縮性・高耐久性の導電配線を用いた電極を伸長した時の様子の写真
今回開発した高伸縮性・高耐久性の導電配線を用いた電極を伸長した時の様子

開発の社会的背景

 近年、人体に装着可能なウェアラブルデバイスが注目を集め、特に医療・ヘルスケア分野での活用が期待されている。例えば、長期の心拍モニタリングや体の動きのセンシングなどに用いて日常の体調管理を行うことが検討されている。ウェアラブルデバイスは、人体表面などの曲面にフィットさせて用いるため、高い伸縮性と共に、伸縮・屈曲の繰り返しに対する耐久性が必要である。伸縮性の高いウェアラブルデバイス実現のために、さまざまな伸縮性配線が開発されてきたが、伸長時の抵抗値変化が大きく(伸長率が200 %の時に抵抗値が100倍以上変化)、センサーなどの信号配線に用いる場合には、20~30 %程度までしか伸長できなかった。また、従来のセンサーシートの信号配線として用いられるフラットケーブルは、屈曲耐性が低く、曲げ半径を10 mmとしたとき1万回程度の屈曲耐性しかなかった(折り曲げると断線)。

 このため、快適で信頼性の高いウェアラブルデバイスを実現するため、高伸縮性・高耐久性の導電配線やそれを用いたセンサーシートの開発が不可欠であった。

研究の経緯

 産総研では大面積フレキシブル電子デバイスや形状任意性の高い電子デバイスの研究開発を進めている。印刷製造プロセスを中心とした技術の開発を目指しており、これまでに全印刷メモリーアレイRFタグ蒸散量センサー大面積圧力センサーなどを開発してきた。特に、最近は人体などの曲面にフィットする柔軟な大面積デバイスの開発に注力している。

研究の内容

 高伸縮性樹脂シート上に導電性繊維をバネ状に形成し、高伸縮性の導電配線を開発した。この導電配線は、3倍以上伸長(伸長率200 %以上に相当)しても、20万回以上折り曲げても(曲げ半径0.1 mm以下)抵抗値変化は1.2倍程度と安定な電気特性を示す。図1(A)にLED用配線として用いた場合の写真を示す。伸長時に配線抵抗が大きく変化すると、LEDの発光輝度も大きく変化するが、今回開発したバネ状導電配線を用いると、200 %以上に伸長してもLEDの発光輝度がほとんど変化せず、伸長時の抵抗値変化が非常に小さいことが分かる。また、一般に伸縮性の導電配線を伸長・収縮させた場合、電気抵抗の緩和現象が発生し抵抗値が安定するまでに時間がかかる。一方、今回開発した導電配線は伸長・収縮時の抵抗値変化や安定するまでの時間が短く特性が安定しており、センサーなどの信号配線として利用できる。(図1(B))。

(A)
高伸縮性バネ状導電配線をLED用配線として用いた場合(伸長率200 %以上)のLED発光輝度の写真
(B)
0→200 %の伸長を繰り返した時の抵抗値変化の様子の図
図1高伸縮性バネ状導電配線とその電気的特性
(A)高伸縮性バネ状導電配線をLED用配線として用いた場合(伸長率200 %以上)のLED発光輝度
(B)0→200 %の伸長を繰り返した時の抵抗値変化の様子

 ウェアラブルデバイスでは、デバイスを任意の形状に作製する必要があるため、高伸縮性電極も任意のパターンに形成する必要がある。今回、導電性の短繊維を高い配向性を持たせパターニングすることにより高伸縮性を持つ電極を形成する方法を開発した(図2)。この電極は、広い面積に形成できるため、図3に示すような高伸縮性キャパシタを作製することができる。このキャパシタは柔軟なため、圧力などの力学的変化により発生する容量変化を検出する容量型圧力センサーとして利用できる。

短繊維配向型電極の写真
図2 短繊維配向型電極
高伸縮性短繊維配向型電極にLEDを接続し2倍に伸長した時の様子(左)
高伸縮性樹脂シート上に配向した導電性短繊維の顕微鏡写真(右)

短繊維配向型電極を用いたデバイスの図
図3 短繊維配向型電極を用いたデバイス
高伸縮性短繊維配向型電極を用いたキャパシタの構造(左)
センサーに加えた圧力と静電容量の関係(右)

 従来のマトリクス状圧力センサーシートは、フレキシブルだが伸縮性のないものがほとんどであった。そこで、今回開発した高伸縮性短繊維配向型電極を用いて、容量型圧力センサーをマトリクス状に形成し、信号配線として高伸縮性バネ状導電配線を用いて、高伸縮性と高屈曲耐性を合わせ持つ新たなマトリクス状センサーシートを作製した(図4)。このセンサーシートは200 %伸長しても、0.1 mm以下の曲げ半径で20万回以上折り曲げても安定に動作する。伸縮性・耐久性は十分に実用化スペックを満たすものであり、靴の中のように人間の体重の負荷が長時間かかり変形を繰り返すような過酷な環境でも使用できるため、靴底圧力分布センサーとして用いることができる。

高伸縮性バネ状配線と高伸縮性短繊維配向型電極を利用した靴底圧力センサーシートの写真
図4 高伸縮性バネ状配線と高伸縮性短繊維配向型電極を利用した靴底圧力センサーシート

今後の予定

 今後は、産業化に対応するため効率的な生産プロセスを開発していくと共に、今回開発したマトリクス状センサーシートを用いた日常的な体調管理システムや高齢者介護のための見守りセンサーシステムなどのトータル設計を推進していく予定である。



用語の説明

◆導電性繊維
ポリエステルやナイロンなどの繊維の表面に無電解メッキで銀や銅などの金属被覆をつけ、導電性を付与したもの。制電繊維、抗菌繊維などに利用されている。[参照元へ戻る]
◆短繊維
導電性繊維をある長さにカットしたもの。パイル、カットファイバーとも呼ばれる。[参照元へ戻る]
◆配向性
細長い材料を一方向に揃えて配列させることを配向といい、配向の度合いを配向性という。[参照元へ戻る]
◆ウェアラブルデバイス
人体表面に装着することを目的として設計されたデバイス。腕時計型やメガネ型(アイウェア)などが一般的。スマートフォンなどと通信することができ、心拍などの生体情報をモニタリングできるものもある。[参照元へ戻る]
◆伸長率
(伸長時の全長 - 初期の全長)×100/初期の全長 = 伸長率(%)で表される。
例えば、初期の全長の2倍に伸ばした時、伸長率100 %となる。[参照元へ戻る]
◆屈曲耐性、曲げ半径
一般に屈曲耐性は、フラットな電気配線などを繰り返し屈曲したときに断線するまでの回数で表される。屈曲部にできる円弧の半径を曲げ半径というが、この曲げ半径が小さいほど断線しやすくなる傾向がある。[参照元へ戻る]
◆メモリーアレイ
記憶素子をマトリクス状に配列したもの。[参照元へ戻る]
◆RFタグ
無線を用いて情報の読み取りや書き込みを行うことができるタグ。[参照元へ戻る]
◆蒸散量センサー
植物の気孔から蒸散する水分を検出するためのセンサー。果物などへの最適な水やりのタイミングなどを判断するために用いられる。[参照元へ戻る]
◆大面積圧力センサー
スクリーン印刷法で電極、圧電体を形成したメートル級圧力センサー。[参照元へ戻る]
◆電気抵抗の緩和現象
樹脂に導電性の微粒子を分散させた導電ペーストなどに変形を与えた場合に観察される現象。樹脂の変形が導電性微粒子同士の接合に影響を与えるために起こると考えられている。[参照元へ戻る]
◆キャパシタ
誘電体を二枚の平行平板電極で挟んだものをキャパシタという。キャパシタの能力を表すものがキャパシタンス(静電容量)であり、誘電体の膜厚とキャパシタンスは反比例の関係にある。電子部品として用いられているコンデンサーもキャパシタの一種である。[参照元へ戻る]



お問い合わせ

お問い合わせフォーム

▲ ページトップへ