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発表・掲載日:2013/12/24

単層カーボンナノチューブの量産技術を開発

-産総研発ナノテクノロジーの研究成果を社会に還元-

ポイント

  • 工業生産プラントを開発し従来の100倍の製造スピードの量産性を実証
  • このプラントで合成した高品質・高純度の単層カーボンナノチューブを2014年に上市予定
  • 産官連携推進によって最先端材料の研究開発用途の市場を開拓し、企業の実用化研究を加速

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)ナノチューブ応用研究センター【研究センター長 飯島 澄男】流動気相成長CNTチーム 斎藤 毅 研究チーム長らは、ナノテクノロジー最先端材料である単層カーボンナノチューブの製造に関する産総研のシーズ技術(eDIPS法)を株式会社 名城ナノカーボン【代表取締役 橋本 剛】(以下「名城ナノカーボン」という)に技術移転し、両者の共同研究によりeDIPS法による単層カーボンナノチューブの工業生産プラントを開発し、量産性を実証した。

 今回、開発したeDIPS法による工業生産プラントのさまざまな反応条件を最適化して、これまで名城ナノカーボンで製造販売してきた高品質カーボンナノチューブ製造に比べて100倍の製造スピード向上を実現した。この成果に基づき、名城ナノカーボンは、国産としては初めて化学気相成長(CVD)法で合成された単層カーボンナノチューブを2014年に上市する予定である。これによって高品質、高純度の試料を大量に研究開発用途の市場に投入できるため、単層カーボンナノチューブの実用化研究が加速されると期待される。

 これは民間企業との連携・共同研究開発によって、公的研究機関の研究成果を社会に還元する方法のモデルケースとなるとも考えられる。

開発した工業生産プラントで合成した単層カーボンナノチューブの塊(左)とシート状に加工した高純度の単層カーボンナノチューブ(右)の写真
開発した工業生産プラントで合成した単層カーボンナノチューブの塊(左、比較はスマートフォン)とシート状(直径15 cm)に加工した高純度(99 %以上)の単層カーボンナノチューブ(右)

開発の社会的背景

 単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は、鋼の20倍の強度、銅の10倍の熱伝導性、アルミニウムの半分の密度、シリコンの10倍のキャリア移動度など、その優れた特性から広い分野への応用が期待されており、ナノテクノロジーの最も有望なマテリアルの一つとして多くの研究が世界的に行われてきた。

 しかし、これまでSWCNTは量産が困難であり、また現在市販されているSWCNTには構造欠陥が多く純度が低い、あるいは品質にバラツキがあるなど、研究開発用の試料製品としてもさまざまな問題があり、SWCNTの実用化を阻害する要因となっている。

研究の経緯

 産総研では高品質のカーボンナノチューブの合成技術の研究を行い、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ナノカーボン応用製品創製プロジェクト」(平成14年~平成18年)の成果として2006年にCVD法の一種であるeDIPS法を開発し、小規模の装置でも精製が不要となるほどの高純度SWCNTを合成できることを実証した(2006年5月11日 産総研プレス発表)。これまでこの優れたSWCNT合成技術であるeDIPS法について、研究成果の社会還元を目指して複数の企業への技術移転を行ってきたが、高品質SWCNTの市販には至らず、課題となっていた。

 一方、名城ナノカーボンでは主に従来のアーク放電法によるSWCNTを製造販売してきた。しかしアーク放電法は量産性が低く、またアモルファスカーボンやグラファイト性の不純物カーボンが多いことなどが問題であった。これまでSWCNTの純度を向上させるための精製技術や分離技術の開発を進めてきたものの、量産性が高く合成時に高純度高品質なSWCNTを製造する技術開発の必要性を感じていた。

 そこで今回、コア技術である産総研のeDIPS法と名城ナノカーボンの持つSWCNT製造に関する各種技術を組み合わせて、eDIPS法の量産技術実証と工業生産プラントの開発を共同で行うこととした。

研究の内容

 産総研のeDIPS法による実験室規模の製造装置や各種ノウハウなどの技術情報を基にして、名城ナノカーボン尾張瀬戸工場内に工業生産プラントを新たに設置した。このプラントの種々の反応条件を最適化した結果、これまでの名城ナノカーボンのSWCNT製造スピードの100倍の製造スピードを達成した。また、今回開発した工業生産プラントによって、産総研の実験室規模の装置によって合成したものと同程度の高純度SWCNTが高効率で生産できることも確認した。これはeDIPS法に名城ナノカーボン独自の工程を加えることによって実現したものである。開発した工業生産プラントで合成されるSWCNTの特徴は以下の通りであり、このSWCNTを上市する予定である。

  • 高結晶性(ラマン分光法と透過型電子顕微鏡観察による評価)
    ラマン分光法による品質評価の基準であるG/D比(数字が高い程、品質の良さを示す)が、市販品が10~20程度であるのに対し、今回のSWCNTでは100以上であった(図1)。これは不純物カーボンや欠陥が少なく、結晶性が高いことを示している。また、透過型電子顕微鏡による観察からも不純物が少ないことが確認できた(図2)。
  • 高純度(熱重量測定による評価として純度99 %以上)
    乾燥空気中で加熱すると500~600 ℃で燃焼が始まり重量が減少していった。燃え残った不純物の触媒などの残渣が1 %未満であり、純度としては99 %以上を実現した(図3)。
  • 直径(ラマン分光法による評価)
    ラマン分光法によりRBMを測定したところ、その振動数から直径2 nm程度(RBM:110~120 cm-1)のSWCNTであることが確認できた。
ラマン分光(レーザー波長532 nm)のG/D比の図
図1 ラマン分光(レーザー波長532 nm)

TEM(透過型電子顕微鏡)写真
×50万倍 ×100万倍
図2 TEM(透過型電子顕微鏡)写真

熱重量測定(乾燥空気中)の結果の図
図3 熱重量測定(乾燥空気中)

今後の予定

 引き続き共同研究を進め、量産化技術のさらなる向上と効率化を目指しつつ、用途開発や周辺技術開発を希望する企業や研究機関に高純度で高品質なSWCNTを供給することにより、カーボンナノチューブを利用した製品開発に貢献していく(図4)。

 また、生産規模拡大や各種の応用製品開発において連携を希望する企業を募り、名城ナノカーボンのSWCNTの分散技術や塗布技術、半導体型・金属型SWCNTの分離技術とも組み合わせて、カーボンナノチューブの工業化へ向けた企業連携・協業体制を積極的に構築していく予定である。

想定される各種用途の図
図4 想定される各種用途

用語の説明

◆カーボンナノチューブ
炭素原子が平面状で蜂の巣格子状に並んだ構造を持つグラフェンが丸まって筒になった構造のもの。一層からなるものを単層カーボンナノチューブ(SWCNT:single-walled carbon nanotube)と呼び、グラフェンシートの巻き方により金属的な特性になったり、半導体的な特性になったりする。またSWCNTが入れ子状になり複数層からなるものを多層カーボンナノチューブ(MWCNT:multi-walled carbon nanotube)と呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆eDIPS法
改良直噴熱分解合成法(enhanced Direct Injection Pyrolytic Synthesis method)。化学気相成長(CVD)法の一種である気相流動法をさらに進化させた触媒/気体接触反応法の一種で、基板を用いない連続法によりカーボンナノチューブを合成する方法。これまでカーボンナノチューブを気相流動法で合成した際に不可避であった不純物の混入が、生成されるSWCNTの量と比較して非常に少ないため、精製がほとんどいらない連続カーボンナノチューブ合成技術である。[参照元へ戻る]
◆化学気相成長(CVD)法
さまざまな分解反応など各種化学反応を利用して原料となる物質から化学種を発生させ、それを基板や触媒に供給して、それらの表面あるいは気相中で目的とする物質を製造する技術。製造コストが低い/製造速度が速い/製造規模拡大が容易であるといった特徴を持ち大量生産に向いていることから、シリコン系半導体プロセスでの薄膜製造など工業的に広く用いられている。[参照元へ戻る]
◆キャリア移動度
主に半導体材料の中での電気伝導を担うキャリア(電子やホールなど)の移動のしやすさを示す量。[参照元へ戻る]
◆ラマン分光
物質に光を照射すると、レイリー散乱光と呼ばれる入射光と同じ波長の光のほかに、非常に弱いが入射光の波長と異なる光が散乱される。この現象は発見者の名前からラマン散乱と呼ばれる。単一の波長の光を照射して、この弱いラマン散乱光を分光計測する方法がラマン分光で、入射光との振動数の違いから、分子振動や結晶の格子振動などを測定できる。[参照元へ戻る]
◆G/D比
CNTのラマン分光で観測されるCNTのグラファイト構造における面内の伸縮振動に起因するラマンバンドであるGバンドと、欠陥に由来するDバンドの強度比をG/D比という。CNTの品質を表す客観性の高い指標としてしばしば用いられる。[参照元へ戻る]
◆熱重量測定
試料の温度をプログラムに従って変化させながら、その試料の質量を温度の関数として測定する評価手法。[参照元へ戻る]
◆RBM
ラディアルブリージングモード(radial breathing mode: RBM)と呼ばれるカーボンナノチューブ固有の振動で、ラマン分光法で測定できる。カーボンナノチューブが直径方向に伸縮する振動である。この振動数はカーボンナノチューブの直径の逆数に比例するため直径の見積もりにしばしば用いられる。[参照元へ戻る]

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