発表・掲載日:2013/12/11

20 nm幅の高性能なグラフェン微細配線を開発

-LSI銅微細配線の代替に期待-

ポイント

  • 幅20 nmの多層グラフェン配線を作製、微細化しても抵抗が大きくならないことを実証
  • 真空中250 ℃で107 A/cm2の電流を100時間以上流しても断線しない高信頼性
  • 最先端研究開発支援プログラム(FIRST)のプロジェクト「グリーン・ナノエレクトロニクスのコア技術開発」(中心研究者:横山 直樹)の助成による成果

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)ナノエレクトロニクス研究部門【研究部門長 金丸 正剛】連携研究体グリーン・ナノエレクトロニクスセンター【連携研究体長 横山 直樹】(以下「GNC」という)近藤 大雄 特定集中研究専門員、中野 美尚 特定集中研究専門員、佐藤 信太郎 特定集中研究専門員らは、二次元ナノカーボン材料である多層グラフェンを利用した20nm幅の微細配線を作製し、低抵抗、高信頼性を実証した。

 現在の大規模集積回路(LSI)では銅配線が用いられているが、配線の微細化を進めると、実効抵抗率が上昇したり、信頼性が低下したりすることが知られている。グラフェン配線は低い抵抗率と高い信頼性をもち、銅配線の代替として注目を集めている。しかし、グラフェン配線を数十nm幅にまで微細化しても、抵抗率などの性質を維持しているかどうかはこれまで不明であった。今回、化学気相合成(CVD)法により形成した多層グラフェンの層間に塩化鉄を入れるプロセス(インターカレーション)の最適化によりマイクロメートル幅のグラフェン配線として4.1 µΩcmという低い抵抗率を達成した。さらに配線を電子線リソグラフィーにより幅20 nmに細線化した。この微細配線の抵抗値は、細線化前の数マイクロメートル幅の配線とほとんど変わらず、また、真空中250 ℃で107 A/cm2の電流を100時間以上流しても断線せず、銅よりも高い信頼性を持つことが分かった。低消費電力化のためのLSI微細配線への応用が期待される。

 この技術の詳細は、2013年12月11~13日に米国メリーランド州ベセズダ市で開催される2013 International Semiconductor Device Research Symposium (ISDRS 2013)で発表される。

20 nm幅グラフェンテスト配線模式図とその走査電子顕微鏡(SEM)像
20 nm幅グラフェンテスト配線の模式図とその走査電子顕微鏡(SEM)

開発の社会的背景

 携帯情報端末の普及やIT機器の高機能化に伴って消費電力が増大しており、電子情報機器の消費電力低減が求められている。LSIはこれまで、微細化により低消費電力化を図ってきたが、微細化の限界が近づくとともに、さまざまな弊害が指摘されている。最先端LSIの微細配線には銅が使用されているが、配線の微細化に伴い電流密度が高くなるとともにエレクトロマイグレーション耐性も低くなるため、信頼性の低下が指摘されている。さらに、微細化に伴い、結晶粒境界や表面での電子の散乱や、薄膜化に限界があるバリアメタルにより、銅配線の実効抵抗率が上昇しつつある。そのため、銅に代わる微細配線の材料が求められている。グラフェンは、マイクロメートルサイズ幅の配線では低抵抗や高信頼性を示すためLSIの配線材料として期待されている。

研究の経緯

 GNCは、内閣府と独立行政法人 日本学術振興会によって運営される最先端研究開発支援プログラム(FIRST)に採択されたプロジェクトを実施するために2010年4月に設立された。企業5社(富士通株式会社、株式会社 東芝、株式会社 日立製作所、ルネサスエレクトロニクス株式会社、株式会社 アルバック)からの出向研究者と産総研研究者によって構成されている。

 GNCでは平成23年度より、従来のLSIの消費電力を10分の1~100分の1に低減することを目標に、グラフェン、カーボンナノチューブを配線やトランジスタへ応用するための研究に取り組んできた。多層グラフェンを用いた微細配線作成技術についても開発してきた(2013年6月17日 産総研プレス発表)が、配線幅を数十nm程度まで微細化することは行っていなかった。

 この研究開発は、最先端研究開発支援プログラム(FIRST)のプロジェクト「グリーン・ナノエレクトロニクスのコア技術開発」(中心研究者:横山 直樹)の助成により行われた。

研究の内容

 今回、多層グラフェンは、サファイア基板上にエピタキシャルコバルト薄膜を形成し、その上にCVD法を用いて合成した7-15層の高品質なものを用いた。原料はメタンをアルゴンと水素で希釈したガスで、合成温度は約1,000 ℃である。この多層グラフェンを別の基板に転写し、幅が4~20 µm、厚さが2~5 nm程度のテスト配線を作製した(図1a)。グラフェン配線の抵抗率の分布を図1bに示す。さらに、塩化鉄を層間に入れるインターカレーション技術の条件を最適化したところ、最も低い抵抗率は、従来より低い4.1 µΩcmを達成した。これは銅配線の抵抗率に近い。

多層グラフェンのテスト配線のSEM像と配線の抵抗率の分布図
図1 (a)多層グラフェンのテスト配線のSEM像 (b)配線の抵抗率の分布

 次に、この配線を電子線リソグラフィー装置で細線化した。図2に、微細配線の模式図と、20 nm幅の配線のSEM像を示す。図3に、20 nm幅への細線化前後での抵抗率の変化を示す。配線長が長いと1桁程度抵抗が大きくなったが、配線長が4 µmの場合、抵抗はほとんど変化しなかった。

20 nm幅グラフェン配線の模式図と20 nm幅グラフェン配線のSEM像
図2 (a)20 nm幅グラフェン配線の模式図 (b)20 nm幅グラフェン配線のSEM像

多層グラフェンを20 nm幅に加工する前後の抵抗変化の配線長依存性の図
図3 多層グラフェンを20 nm幅に加工する前後の抵抗変化の配線長依存性

 続いて、真空中250 ℃で107 A/cm2の電流を流して、20 nm幅のグラフェン配線の信頼性を評価した。グラフェン配線は110時間電流を流しても断線せず(図4)、160 nm幅の銅配線よりも高い信頼性を示した。また、信頼性評価中に抵抗はほとんど変化せず、インターカレーションされている塩化鉄がこのような環境下でも脱離しないことが分かった。

温度250℃における20 nm幅グラフェン配線の信頼性試験の結果の図
図4 温度250℃における20 nm幅グラフェン配線の信頼性試験の結果
青丸は銅が断線した条件。多層グラフェン配線は107 A/cm2の電流を110時間流しても断線しなかった。

今後の予定

 今回の研究で得られた微細幅の多層グラフェン配線は、LSI配線への適用が期待される。今後、10 nm以下の幅の多層グラフェン配線についても低抵抗・高信頼性を実証するとともに、多層グラフェンやカーボンナノチューブを利用した3次元配線を開発し、配線幅が10 nm程度まで微細化される2020年頃にLSIへの適用を目指す。


用語の説明

◆グラフェン
グラファイトを構成する単原子薄膜で、炭素原子が平面上で蜂の巣格子状に並んだ構造をもつ。多層グラフェンはこれが積層化したもの。[参照元へ戻る]
◆大規模集積回路(LSI)
多数のトランジスタなどを、半導体表面に集積して構成される大規模な回路。現在、ほぼ全てがシリコン結晶の表面に形成されている。現代のエレクトロニクスの基幹を成す。[参照元へ戻る]
◆化学気相合成(CVD)法
反応容器内で原料ガスを熱などにより分解して基板上に薄膜や構造体を合成する方法。グラフェンの場合は、一般的にメタン(CH4)やアセチレン(C2H2)などの炭化水素系ガスを原料とし、遷移金属の触媒膜上に合成する。CVD法によれば、500~1,100 ℃程度の比較的低温でグラフェンを合成できる。[参照元へ戻る]
◆インターカレーション
分子または分子集団が別の二つの分子または分子集団の間に入る反応のこと。グラファイトや多層グラフェンの場合は、その層間に他の物質が入り込む現象のことをいう。[参照元へ戻る]
◆リソグラフィー
基板上に素子や回路を作製する技術で、基板上に塗布されたレジスト(感光剤)を、光や電子線などを照射して状態を変化させ、その部分だけ(またはそれ以外の部分だけ)のレジストを除去する。レジストが除去されて露出した基板の部分に対してだけ、エッチングやイオン注入などの処理が可能となる。[参照元へ戻る]
◆走査電子顕微鏡(SEM)
電子線を絞って電子ビームとして試料に照射した際に、試料から出てくる電子の情報を基に、試料の形状や組成の違いによるコントラストを得る手法。通常は二次電子像が用いられる。[参照元へ戻る]
◆エレクトロマイグレーション
金属配線中に電流を流した際、電子と金属原子の間で運動量の交換が行われるために、原子が空孔などを介して徐々に移動することで、配線に欠損が生じる現象。[参照元へ戻る]
◆結晶粒
金属を構成する多数の微小な結晶の一つ。研磨、調製された試料では顕微鏡によって観察できる。[参照元へ戻る]
◆バリアメタル
金属材料の拡散防止や相互反応防止のために用いられる金属膜の総称であり、母材と密着性が良く、反応しない材料が用いられる。銅配線においては、通常、タンタル(Ta)や窒化タンタル(TaN)が使われている。[参照元へ戻る]
カーボンナノチューブ
グラフェンが丸まって筒になった構造のもの。丸まった時のグラフェンの方位や直径により、金属や半導体となる。一層からなるものを単層カーボンナノチューブ、複数層からなるものを多層カーボンナノチューブと呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆エピタキシャル
基板表面の結晶原子配列に従って結晶の向きの揃った単結晶的な薄膜の状態。[参照元へ戻る]

関連記事


お問い合わせ

お問い合わせフォーム