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発表・掲載日:2012/02/13

日々の線量を記録できる個人向け放射線積算線量計

-小型で軽く名札ケースやポケットに入れて持ち運びできる-

ポイント

  • 日常生活で携帯し数カ月の連続使用ができる警告機能付きの小型放射線積算線量計
  • パソコンで簡単に日々の被ばく量を把握できる
  • 無線チップを組み込むことで効率的な全量較正の実現に展開可能

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)計測フロンティア研究部門【研究部門長 大久保 雅隆】鈴木 良一 副研究部門長 兼 極微欠陥評価研究グループ 研究グループ長、集積マイクロシステム研究センター【研究センター長 前田 龍太郎】伊藤 寿浩 副研究センター長 兼 ネットワークMEMS研究チーム 研究チーム長、先進製造プロセス研究部門【研究部門長 村山 宣光】市川 直樹 副研究部門長は、産総研所内プロジェクト「MEMS技術を用いた携帯型放射線検出器の開発とその応用」において、小型で軽く、名札ケースやポケットに入れて持ち運びでき、長期間の連続使用が可能な放射線積算線量計を開発した。

 この放射線線量計開発は産総研のカーボンナノ構造体を用いた乾電池駆動X線源開発の小型化・省エネ化技術を応用したものである。今回開発した放射線積算線量計を用いることで、パソコンなどを通して、日々、個人の放射線被ばく量を知ることができる。放射線量の高い場所を避けることなどによる個人の被ばく量の低減が可能となり、ひいては、住民の安全性向上への貢献が期待できる。

 この開発の詳細は、平成24年2月15日~2月17日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されるnano tech 2012 第11回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議の産総研ブース特別展示「震災に立ち向かうナノテクノロジー」の一環として発表される。

開発した小型放射線積算線量計(左、中央)と比較のためのSDメモリーカード(右)の写真
開発した小型放射線積算線量計(左、中央)と比較のためのSDメモリーカード(右)


日々の線量を記録できる個人向け放射線積算線量計

開発の社会的背景

 平成23年3月の東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所での事故は、福島県を中心に放射性物質を広範な地域に拡散させた。拡散の状況は、風向きや天候の状態のほか、枯れた落ち葉が堆積する、あるいは雨水が溜まりやすいなどの地形的な影響により異なるため、局所的に放射線量の高い場所が存在することなどが特徴としてあげられる。このことから、各個人(特に児童・生徒)がどの程度の放射線被ばくを受けているか、生活の中でどのような場合に被ばく量が高いのかを知りたいという要望が高まっている。

 個人用の放射線線量計を一人一人が携帯し、日々の放射線被ばく量を自宅などで手軽に知り把握することができれば、不要な放射線被ばくを避けることが可能となる。特に被ばく量を最小限に止めたい児童・生徒が携帯できる、装着負担の少ない小型放射線線量計の開発が緊急に求められている。

研究の経緯

 個人用放射線線量計の早急な実用化のため、産総研全体の研究ポテンシャルを結集した産総研所内プロジェクト「MEMS技術を用いた携帯型放射線検出器の開発とその応用」を立ち上げ、研究開発を遂行している。

 今回、産総研所内プロジェクトにおいて、小型、低消費電力で、一定時間ごとの線量を記録でき、高線量下ではLEDやブザーによる警告機能を持つ、量産可能な小型放射線積算線量計を開発した。これは産総研がカーボンナノ構造体を用いた乾電池駆動可搬型X線源の開発(2009年3月19日 産総研プレス発表)で培ってきた小型化・省エネ化技術を放射線線量計開発に応用したものである。

研究の内容

 開発した放射線積算線量計の本体部はSDメモリーカードよりも小さく、3 Vのボタン電池1個で駆動する(図1)。この本体部に電池やブザーを付けてケースに入れた放射線積算線量計(重量10~20 g)を試作した(図2)。これらの放射線積算線量計を、図3のように名札ケースに入れたり、あるいは衣服のポケットなどに入れて携帯し、放射線線量を計測・記録することができる。

SDメモリーカードと小型放射線積算線量計本体部の写真
図1 SDメモリーカードと小型放射線積算線量計本体部

試作した小型放射線積算線量計の写真
図2 試作した小型放射線積算線量計
①バッジ型、②、③ストラップ穴付き。
①と②は直径20 mm、③は直径24.5 mmの3 Vボタン電池を使用。

名札ケースに入れた小型放射線積算線量計の写真
図3 名札ケースに入れた小型放射線積算線量計

 積算線量計の記録は、パソコンなどで電気的に非接触の光通信アダプターを介して読み取り、図4のように放射線の積算の被ばく量や、一定時間(1時間や1日)ごとの被ばく量の推移を知ることができる。

小型放射線積算線量計の測定記録のパソコン表示画面の例の図
図4 小型放射線積算線量計の測定記録のパソコン表示画面の例

 表1に今回開発した放射線積算線量計の主な仕様を示す。測定・表示可能な被ばく量は、0.1 µSv(γ線)からとなっている。この放射線積算線量計は、半導体方式で放射線を検出しているが、半導体方式は衝撃などによるノイズを誤検出する場合がある。そこで、衝撃センサーにより誤検出の可能性の高い信号を除外する機能も備えている。線量と時間データを内蔵する記憶素子に保存し、随時読み出すことにより、その時点での放射線被ばく量を知ることができる。放射線積算線量計の内部では、線量率のレベルも監視しており、ある一定以上の線量率を検出した場合にはLEDの光やブザーの音により装着者に警告することができる。電源は3 Vのボタン電池1個で、直径20 mmのボタン電池なら約2カ月、直径24.5 mmのボタン電池なら半年以上の連続的な使用が可能である。

表1 開発した小型放射線積算線量計の主な仕様
開発した小型放射線積算線量計の主な仕様の表

 開発した線量計は図5に示すような、個人(特に児童・生徒)の日常生活における放射線の被ばく量を把握する個人向け用途を目的としており、自宅から学校・職場、および公園での遊びやドライブなどの日常行動においての使用を想定している。この放射線積算線量計を携帯することで児童・生徒などが、日々の放射線の被ばく量をモニターし、どのような状況で被ばく量が高いかを把握して対策をとることで、放射線の被ばく量を最小限に止めることができると期待される。

個人向け小型放射線積算線量計の利用イメージ図
図5 個人向け小型放射線積算線量計の利用イメージ

線量計の展開

 この産総研所内プロジェクトでは、産総研全体の研究ポテンシャルを結集し、今回開発した線量計の技術を基に、さらに複数の放射線検出器を開発している。

 1つは、消費電力がきわめて小さい無線チップを組み込んだ無線機能付き小型放射線積算線量計である。データ通信の無線化により、アダプターを使わず直接スマートフォン上で日々の線量がわかるなど、非常に簡便に被ばく量の把握ができるようになる。例えば、児童・生徒などが携帯している線量計の情報を、保護者がスマートフォンで適宜、確認することが期待できる。さらに、無線化による効用としては、較正に掛かる作業コストの大幅低減による、大量の積算線量計の効率的な全量較正の実現がある。将来的には、全量較正された均一な感度特性をもつ無線機能付き小型積算線量計による、信頼性の高い個人被ばく量の把握を目指している。

 もう1つは、GPS機能付き携帯型線量率計である。既に文部科学省による放射線分布マップなどで、おおよその放射線量の空間分布は評価されているが、自宅周辺などの局所的な放射線の線量率分布はまだ十分に得られていない。そこで、GPS機能付き携帯型線量率計により、ホット・スポットを含む道路毎などの詳細な線量率マップが実現すれば、例えば個々人が無用な被ばくを避ける行動をとったり、自治体においては効果的な除染計画を策定することができ、地域単位での総合的な被ばく量の低減が期待できる。

今後の予定

 放射線検出器について、今後、使い勝手の向上、さらなる省電力化、計測線量値の信頼性の向上などに取り組むとともに、安価に入手できるようにするための量産化技術を確立し、できる限り早い時期の実用化を目指す。


用語の説明

図
単3乾電池を電源としてレントゲン撮影やX線非破壊検査ができる可搬型X線源(左図)とX線透過像の一例(右図)
◆MEMS
微小電気機械システム(micro electro mechanical system)。電気回路(制御部)と微細な機械構造(駆動部)を1つのシリコン(Si)基板上に集積させた部品をいい、半導体製造技術やレーザー加工技術など各種の微細加工技術を用いて製造される。情報通信、医療・バイオ、自動車など多様な分野における小型・高精度で省エネルギー性に優れた高性能のキーデバイスとして期待されている。本開発では、衝撃センサーや無線チップにMEMS技術が応用される。[参照元へ戻る]
◆放射線積算線量計
放射線をはかる測定装置にはさまざまな種類があるが、放射線の外部被ばく管理には、その時点での線量率や線量当量率を測る線量率計(サーベイメーター)と長時間にわたってあびた放射線の被ばく量をはかる線量計(ドシメーター)の2種類が主に使われる。一般的に、線量率計での測定値にはシーベルト毎時、線量計の測定値にはシーベルトが用いられる。今回開発した放射線積算線量計は、線量計に区分されるが、放射線の検出に半導体を用い電子的に記録するものであるため、フィルムバッジやガラスバッジのような一般的な線量計とは異なり、測定した期間の全被ばく量に加えて、いつの時間帯に放射線の被ばくが多かったかを知ることができる。[参照元へ戻る]
◆カーボンナノ構造体を用いた乾電池駆動X線源
従来のレントゲン撮影やX線非破壊検査に用いられるX線源は、ヒーターやフィラメントを使って陰極を高温にして放出される電子をターゲットに入射してX線を発生していたが、予熱時間が長いことや消費電力が大きいという問題があった。産総研は、ヒーターやフィラメントが不要な針葉樹型のカーボンナノ構造体の冷陰極電子源とそれに最適化した超省エネルギー回路技術を用いて、単3乾電池を電源としてレントゲン撮影やX線非破壊検査ができる重量4 kg程度の可搬型X線源(下記写真参照)を開発した。(2009年3月19日 産総研プレス発表参照)。 [参照元へ戻る]
◆放射線被ばく量
専門用語では線量当量といい、放射線の生物学的効果を表す量。単位はシーベルト。線量当量は、各種放射線の細胞に与える傷害を示す線質係数と吸収線量(単位 グレイ)との積で表す。γ線の場合、線質計数は1であり、吸収線量の数値と一致する。[参照元へ戻る]
◆半導体方式
放射線(γ線)を検出する方法の1つ。半導体のPN接合に放射線が入った時、電子と正孔対が生じて微弱電流が流れる。この微弱電流を増幅して放射線の信号としている。半導体方式を用いた線量計用放射線検出器は、ガイガーカウンターとして知られているガイガーミューラー(GM)管を使った放射線検出器に比べて、小型化・低価格化が可能である。[参照元へ戻る]
◆較正、全量較正
放射線の検出回路は非常に微弱な信号を増幅しているために、検出素子や増幅回路などの部品の特性のばらつきで検出感度が線量計によって若干異なる。この感度を補正し、線量計の指示値を実際の値に合わせることを較正という。高い信頼性を保った線量計とする場合には、すべての線量計に対し定期的に較正を行い、均一な応答特性を持たせることが最良である。すべての線量計に対し較正を行うことを全量較正という。[参照元へ戻る]

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