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発表・掲載日:2007/10/22

乾電池で動作する超小型電子加速器を開発

-プラントや建造物のX線非破壊検査が容易に-

ポイント

  • 乾電池で動作し、持ち運びが容易な超小型電子加速器を開発。
  • 高エネルギー電子ビームを発生でき、X線非破壊検査に利用可能。
  • 従来困難だった狭い現場でも検査可能。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)計測フロンティア研究部門【研究部門長 秋宗 淑雄】極微欠陥評価研究グループ 鈴木 良一 研究グループ長、光・量子イメージング技術研究グループ 小池 正記 研究グループ長は、乾電池で動作し、かつシステム全体を容易に持ち運びができる超小型電子加速器システムを開発した。

 この超小型電子加速器は、大型加速器と同じように高周波(マイクロ波)を用いて電子ビームを加速する電子線形加速器である。この加速器は、本体部の長さは約20cm、重量は約1.5kgで、単三乾電池10~12本を電源として100キロ(10万)電子ボルト以上の高エネルギー電子ビームおよびX線を1時間以上発生できる。このX線により、1~10分程度で1枚のX線透過像を撮影できる。

 この加速器システムは、小型ケースにすべて収まり、片手で容易に持ち運びができることから、作業現場で使うポータブルX線非破壊検査用X線源として期待される。

超小型加速器本体部の写真   システム一式の写真
図1 超小型加速器本体部   図2 システム一式


開発の社会的背景

 社会の安全を確保しつつ環境・資源を守るには、工業製品・各種設備・建造物について、それらの安全性を確認しながら可能な限り長期間にわたって有効に利用することが必要である。この安全性の確認のため、物を壊さないで測る非破壊検査の重要性が高まってきている。特に、建物などの構造物や工場プラント等では、検査したい物を移動することができないので、その場で使用する非破壊検査機器が必須である。X線透過検査法は非破壊検査の主要な方法の一つであり、この検査を現場で行うために可搬型のX線検査装置が市販されている。しかし、これらのX線源は主にX線管に高電圧を印加して電子をターゲットに当ててX線を発生する管球型のX線源である。この管球型のX線源はX線のエネルギーが高くなると高電圧の絶縁部が大きく重くなり、狭い場所に持って行くことができない。そのため、プラントの配管や建造物の狭い場所の非破壊検査を行う場合、管球型のX線源では対応できない箇所が多かった。

 これに対し、高周波(マイクロ波)を用いた電子加速器は、空洞共振器に発生する高周波の周期的電場によって電子を加速することから、加速部には大きな絶縁体が無くとも高エネルギー電子ビームを発生できる。さらに、空洞共振器の共振周波数を上げることにより管球型よりも小型にすることが可能であるため、電子加速器技術を用いた超小型X線源の開発が望まれていた。

研究の経緯

 産総研は、前身の通商産業省工業技術院の時代から約半世紀にわたって電子加速器による高エネルギー電子ビームの発生およびその応用研究を行ってきた。特に近年は電子加速器システムの小型化および省エネ化の研究に重点をおいている。加速器の小型化の研究では、加速周波数を上げることにより加速管の空洞共振器のサイズが小さくなることから、加速周波数を従来のSバンド(2.9 GHz)から、Cバンド(5.7GHz)やXバンド(9.4~11.4GHz)に高めた加速器の開発を行っている。また、放射光リングへの電子入射などに用いている従来型のSバンド電子線形加速器システムにおいて、省エネ化を目的とした改造を行い、電子線形加速器の電力消費量を従来より大幅に(7割以上)減少させた。この加速器の小型化技術と省エネ化技術を超小型電子加速器の開発に応用し、乾電池で駆動できる電子加速器を実現した。

研究の内容

 マイクロ波で加速する電子加速器は、電子銃、加速管、マイクロ波源、真空排気装置、真空排気装置電源、パルス発生装置、制御システムなどで構成されている。これは、超大型の電子加速器も、今回開発した超小型の電子線形加速器も同じ構成である。

 今回、これらの各コンポーネントの小型化・省エネ化・軽量化を行い、乾電池でも駆動できる超小型加速器を実現した。図1は、電子銃、加速管、真空排気装置、X線ターゲットで構成される加速管本体部で、長さ約20cm(うち加速管は約3cm)、重量約1.5 kgである。この本体部とマイクロ波源や電源等のコンポーネントをすべて合わせても約8 kgである。これらのコンポーネントはすべて小型のケースに収めることができ、片手で容易に持ち運びできる(図2)。この加速器では、約100キロワットの電気パルスを瞬間的(約1マイクロ秒)に発生し、これを加速器の電子銃とマイクロ波発生管(マグネトロン管)に供給する。このマイクロ波発生管で発生した9.4GHzのマイクロ波を加速管に供給することにより、電子ビームを加速する。これにより、100キロ(10万)電子ボルト以上の高エネルギー電子ビームを発生する。この電子ビームを金属ターゲットに入射することにより、X線が発生する。

 このシステムは、全消費電力を20W以下とし、広範囲の電源電圧(10V~18V)で動作可能にすることにより、単三乾電池10~12本で1時間以上X線を出すことができる。このX線にイメージングプレートや高感度X線カメラなどのX線イメージングシステムを組み合わせることにより、X線による非破壊検査が可能である。なお、この超小型加速器を用いたX線検査装置は、従来の非破壊検査用X線検査装置と同様の手続き・管理が必要である。ただし、装置表面(ターゲットのX線出射口直後)において実効線量を1ミリシーベルト/週 以下にすることができるため、X線検査業務において「管理区域」の設置は必要であるが、「立入禁止区域」の設置をせずに放射線業務従事者の資格のある者であれば装置周辺で作業することができる。

 図3~図5は、この超小型加速器X線源とイメージングプレートを用いて撮影したX線透過像である。図3は、保温材付き配管試験体の透過像である。保温材ではX線はあまり吸収されないことから、保温材に覆われて外からは見えない配管の外形を非破壊で見ることができる。この配管(外径49mm)は図の矢印の部分に1mm程度の凹みをつけており、露光時間が2.5分を超えると凹みを認識できるようになる。図4は、X線画像の解像度測定用テストチャートを露光時間を変えて撮った透過像である。1分の露光時間でテストチャートの1mmあたり2本のラインが見え始め、5分の露光時間で1mmあたり4本のラインを識別できるようになる。 図5は、パソコンの周辺機器の一部で、外からは見えない0.2mm程度のワイヤーやパターンなどの細かい構造を見ることができる。このように、X線透過像を得るための露光時間は測定対象物によって異なるが、通常1~10分程度の露光時間でX線の透過像を撮ることができる。

保温材付きステンレス配管試験体のX線透過像
図3 保温材付きステンレス配管試験体(ステンレス配管の外径49 mm, 保温材の厚み10mm)のX線透過像。矢印の部分に凹み。露光時間2.5分

解像度測定用テストチャートのX線透過像(露光時間1分)解像度測定用テストチャートのX線透過像(露光時間5分)   中央の図の中心部拡大図
図4 解像度測定用テストチャートのX線透過像。(左)露光時間1分、(中央、右)露光時間5分。右図は、中央の図の中心部を拡大したもの。

パソコン周辺機器のX線透過像
図5 パソコン周辺機器のX線透過像

今後の予定

 今回開発した超小型加速器は、原理実証を目的にした試作機である。今後、さらなる小型化・軽量化・高エネルギー化を進め、現場での非破壊検査などに利用しやすい加速器の開発をめざしていく。



用語の説明

◆電子線形加速器 ◆空洞共振器
電子リニアックあるいは電子ライナックと呼ばれる加速器で、電子銃から出た電子ビームの軌道を曲げずに直線的に加速する装置。高エネルギー線形電子加速器の電子を加速する部分(加速管)は通常複数の空洞共振器で構成される。この共振器に高周波を供給して共振器内に時間的に変化する電界を生じさせ、この電界で電子ビームを加速する。一つの空洞共振器で加速できるエネルギーは限られるが、空洞共振器の数を増やすことにより、加速できる電子ビームのエネルギーには制限が無い。加速管(空洞共振器)のサイズは、使用する加速周波数が高くなれば小さくすることができるが、技術的に難しくなる。[参照元へ戻る]
◆放射光リング
光の速さに近い高速で走る電子が磁場などの力を受けて急激に進行方向を変えられるとき、電子の運動エネルギーの一部が光となって放出される。この光を放射光と呼ぶ。放射光は赤外線、可視光、紫外線、さらにはX線までのすべての波長の光を含むとても強力な光である。
放射光リングとは、放射光を発生する目的のため電子の軌道を曲げる働きのある偏向電磁石をリング状の真空チャンバーの周囲に配置した装置である。国内では、産総研(TERAS)や兵庫県の高輝度光科学研究センター(SPring-8)等の施設において、タンパク質などの巨大分子の3次元構造など物質の種類や構造、性質を詳しく知るために用いられている。[参照元へ戻る]
◆イメージングプレート
X線等の放射線の観測に用いるフィルム状の検出素子。IPとも呼ばれる。これはプラスチックのフィルムの上に特殊な蛍光体(輝尽性蛍光体)が塗布された構造になっており、放射線が当たった蛍光体にある波長の光を当てると蛍光が出る性質を利用して、放射線の二次元イメージを得る。イメージングプレートは、従来のX線フィルムよりも高感度かつ広いダイナミックレンジを示すことから、低線量・低被爆の放射線イメージングに使用されている。[参照元へ戻る]
◆管理区域 ◆立入禁止区域(X線検査における規制区域)
労働安全衛生法および労働安全衛生法施行令 の規定に基づく電離放射線障害防止規則第三条により、3か月間につき1.3ミリシーベルトを超えるおそれのある区域を管理区域としなければならない。さらに、第十八条により、工業用等のX線装置又(また)は放射性物質を装備している機器を放射線装置室以外の場所で使用するときはX線管の焦点又(また)は放射線源および被照射体から5メートル以内の場所を立入禁止区域にしなければならないが、外部放射線による実効線量が一週間につき1ミリシーベルト以下であれば第十八条の規則から除かれる。[参照元へ戻る]


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