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発表・掲載日:2011/10/11

微小な傷なら自己修復する酸素ガスバリアフィルム

-粘土を用いた食品包装材の実用化へ-

ポイント

  • 粘土とプラスチックからなるガスバリア層を塗布した透明フィルム
  • 柔軟で自己修復性も持つため、くしゃくしゃにしても酸素ガスバリア性を従来品よりも長く維持
  • 袋状に加工したり表面に文字を印刷したりすることが容易で、食品包装用フィルムなどに有望

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)コンパクト化学システム研究センター【研究センター長 花岡 隆昌】先進機能材料チーム 蛯名 武雄 研究チーム長らは、大和製罐株式会社【代表取締役社長 山口 久一】(以下「大和製罐」という)と共同で、高い酸素ガスバリア性を持つ透明フィルムを開発した。

 産総研では従来、粘土を主成分とする膜材料「クレースト®」を研究開発しており、実用化に取り組んでいる。今回、親水性の粘土と水溶性のプラスチックの混合ペーストをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに薄く塗布することで、高い酸素ガスバリア性を持つ透明フィルムを作製した。このフィルムは、ガスバリア層が柔軟であることに加え、変形などによって生じたガスバリア層のピンホールも大気中の水蒸気を吸収して膨潤することで自己修復するため、くしゃくしゃにしても酸素ガスバリア性が従来品よりも容易には劣化しないことが特長である。

 さらに、印刷技術を用いてペーストを高速にフィルム上に塗布する技術を確立し、幅50cmのロール品生産の製造にも成功した。開発したフィルム上にさらにポリプロピレン層を形成することで、袋状に加工したり、表面に文字を印刷したりすることが容易となり、食品包装用フィルムなどとして有望である(図1)。

 なお、この技術の詳細は、2011年10月13日、14日に茨城県つくば市で開催される産総研オープンラボ2011で紹介する。

今回開発した酸素ガスバリアフィルムの断面構造(左)とガスバリア層の拡大図(中)、食品包装材の試作品(右)の図
図1 今回開発した酸素ガスバリアフィルムの断面構造(左)とガスバリア層の拡大図(中)、食品包装材の試作品(右)

開発の社会的背景

 食品包装用フィルムには、食品の劣化を防ぐために、酸素や水蒸気を通しにくいガスバリア性が求められている。現在、ダイオキシン発生の懸念から塩素を含むフィルムの使用は避けられており、シリカやアルミナなどの無機層を蒸着したフィルムが一般的に用いられている。これらのフィルムは、食品包装材に十分使用できる酸素ガスバリア性と水蒸気バリア性を持つが、折り曲げたりくしゃくしゃにしたりすると、蒸着した層が損傷して、酸素ガスバリア性が劣化するなどの問題があった。また、損傷を受けて劣化した酸素ガスバリア性を回復させることができなかった。

 産総研が開発した粘土膜「クレースト®」は、柔軟でありながら、高い酸素ガスバリア性や水蒸気バリア性、透明性を持つため、食品・医薬品包装材料などへの利用が期待されている。しかし、ロール品としての連続製造が難しい、膜が脆く取り扱い性に劣るなどの課題があった。また、製膜後の乾燥に時間がかかるため製造コストが高く、食品包装材としての実用化が難しかった。

研究の経緯

 産総研は、粘土膜「クレースト®」の開発(2004年8月11日産総研プレス発表)以来、大学などの研究機関や民間企業との共同研究によって、実用化に取り組んできた。2010年5月には産総研コンソーシアム「Clayteam」を設立し、産学官連携をさらに推進し、開発を加速・展開している(2010年9月13日産総研プレス発表)。大和製罐は、従来の包装容器製品に加え、軟包材などへの展開を行う上で、産総研の粘土膜技術に注目し、共同研究を開始した。

 今回、ガスバリア層に用いる粘土やプラスチックの種類、それらの混合比、塗布厚み、塗布方法や条件などを検討し、さらに、ガスバリア層の自己修復性という新しい現象を見いだして、食品包装用フィルムの開発に至った。

研究の内容

 粘土膜は、用いる粘土やプラスチックの種類に特に制限はないため、多くの粘土とプラスチックを組み合わせて試作を行った。その結果、親水性の粘土と水溶性のプラスチックをある組成で混合し、PETフィルム上に薄く塗布すると、PETフィルムとガスバリア層が良く密着することが明らかとなった。このときのフィルムの透明度は全く変わらなかった。塗布の際にガスバリア層を厚くすると、酸素ガスバリア性は高くなるが、フィルムを二つ折りにしたときにガスバリア層が損傷し酸素ガスバリア性が劣化してしまう。一方、ガスバリア層を薄くした場合、二つ折りによる損傷は見られないが、酸素ガスバリア性が不十分になる。これらの相反する特性について検討を重ね、十分な酸素ガスバリア性と二つ折りの処理で損傷しない最適なガスバリア層の厚さを決定した。

 通常のバリアフィルムは、フィルムをくしゃくしゃにすると酸素ガスバリア性が劣化することが一般的であるが、今回開発したフィルムは、蒸着フィルムだけでなく、市販のガスバリア層塗布フィルムと比較しても、酸素ガスバリア性が容易には劣化しないことをゲルボフレックス試験によって確認した(表1)。これは、塗布したガスバリア層が柔軟であることに加え、フィルムが、空気中の水蒸気を吸収して膨潤し、変形によって生じたピンホールを塞ぐためと考えられる。実際に、意図的に傷をつけたフィルムを高湿度下に置いたところ、ひとりでに傷が消失する現象が観察された(図2)。この傷はフィルムを再び乾燥させても消失したままであった。

表1 ゲルボフレックス試験後の酸素透過度【cc/m2・day・atm】
ゲルボフレックス試験後の酸素透過度の表
数値はフィルムと25µmポリプロピレンとのラミネート品での測定値である。
ゲルボフレックス試験は、温度23℃・相対湿度65%の雰囲気にて実施した。
酸素透過度は、ガスクロマトグラフィーで温度23℃・相対湿度0%の雰囲気にて測定した。
 
傷をつけたガスバリア層の自己修復過程の光学顕微鏡写真
図2 傷をつけたガスバリア層の自己修復過程の光学顕微鏡写真(縦0.50mm、横0.62mm)
(左:傷つけた直後、右:加湿条件下で60分放置した後)

 さらに、実用化に必要な高速生産のため、印刷技術によるガスバリア層の塗布工程を検討し、均一に印刷できるペーストの開発や印刷条件を確立し、幅50cmのロール品の製造に成功した。乾燥条件でのこのフィルムの酸素ガスバリア性は約0.1cc/m2・day・atmで、食品包装材に十分であった。また、全光線透過率は約90%、耐折り曲げ性に優れ、ガスバリア層の上に鮮明な印刷ができた。ガスバリア層の上にポリプロピレン層を追加することにより容易に袋を作製できる(図1)。

今後の予定

 今回開発したフィルムについて、大和製罐が6か月以内の製品化を目標としている。また、Clayteamと連携して水蒸気バリア性の向上に取り組み、さらに幅広い用途に使用できるガスバリアフィルムの開発を行う。さらにフィルムだけでなく、プラスチックフィルム用コーティング液の開発も行っていく。


用語の説明

◆ガスバリア性
気体を遮蔽する性能。食品・医薬品包装、電子材料、ガスシール材料などの分野で、品質保持、酸化劣化防止、保香、ガス漏れ防止などの目的に特に重要である。[参照元へ戻る]
◆粘土
2µm以下の微細な層状珪酸塩。ケイ素と酸素からなる4面体シートとアルミニウム、鉄、マグネシウムなどの金属元素と酸素、および水酸基からなる8面体シートが重ね合わさり、厚さ約1nmの単位結晶となる。[参照元へ戻る]
◆クレースト®
産総研で開発された、粘土を主成分とする膜材料。厚さ約1nmの粘土結晶を緻密に積層した柔軟で耐熱性に優れた膜である。耐熱性、高ガスバリア性などが特徴。合成粘土を用いることにより透明なフィルムも作製可能。 [参照元へ戻る]
◆ポリエチレンテレフタレート(PET)
ポリエステルの一種。エチレングリコールとテレフタル酸の脱水縮合により作られ、飲料容器として知られるペットボトルのほか、フィルムの基材、衣料用の繊維などに用いられる。[参照元へ戻る]
◆ピンホール
ガスバリア材料では、気体分子が透過する貫通孔のこと。製膜時あるいは折り曲げ時などに発生し、ガスバリア性能を劣化させる原因となる。[参照元へ戻る]
◆膨潤
形のある物質が液体を吸収して体積を増大させる現象。[参照元へ戻る]
◆蒸着
金属や酸化物などの材料を加熱するなどして蒸発させ、素材の表面に付着させる表面処理あるいは薄膜を形成する方法の一種。[参照元へ戻る]
Clayteam
粘土膜や無機ナノ素材の製品化などを目的とした産総研コンソーシアム。研究機関、民間企業などが参加し、2011年10月11日現在で企業52社が入会している。粘土原料のデータベース作成、セミナー事業、技術情報提供、製品試作評価支援、見学会などを行っている。[参照元へ戻る]
◆ゲルボフレックス試験
主に包装用フィルムの評価法の一つであり、フィルムに繰返しよじれを加えるもの。[参照元へ戻る]


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