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発表・掲載日:2010/02/08

ダイヤモンドLEDで殺菌を確認

-深紫外線の発光出力を増強-

ポイント

  • 0.3 mWの発光出力を達成し、大腸菌を殺菌
  • 従来の水銀灯に代わる殺菌用LED実現へ道筋
  • 光記録用光源、蛍光物質との組み合わせでさまざまな可視光の光源、蛍光分析への応用を期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)エネルギー技術研究部門【研究部門長 長谷川 裕夫】山崎 聡 主幹研究員および電力エネルギー基盤グループ【研究グループ長 西澤 伸一】牧野 俊晴 研究グループ員らは独立行政法人 物質・材料研究機構【理事長 潮田 資勝】(以下「物材機構」という)と株式会社シンテック【代表取締役社長 山崎 進】の協力の下、ダイヤモンド半導体を用いた紫外線LEDの高出力化に成功し、岩崎電気株式会社 技術研究所【所長 木下 忍】と共同で大腸菌の殺菌を確認した。

 新型インフルエンザなど世界的な流行性疾患の増大傾向から、社会や生活の中での殺菌の必要性が今後ますます増していくものと考えられている。殺菌手段の中でも紫外線による殺菌はドライ方式で多くの場面で使われており、水銀灯による紫外線が利用されている。しかし、環境に好ましくない水銀を使うことや装置が大掛かりなことから、水銀フリーで手軽に殺菌できる紫外線LEDの開発が望まれている。LED照明はクリスマス電飾など省エネ的な光源として利用が広まっているが、紫外線発光するLEDはまだ実用化していない。水銀を使わない紫外線LEDの開発ができれば、どこでも簡便に使える殺菌灯として応用できる。

 産総研では究極の半導体と呼ばれるダイヤモンド半導体の高品質化を進め、電子デバイス応用を目指した研究開発を進め、励起子と呼ばれる状態を使った新原理で235 nmの波長をもつ紫外線の光を発するLEDの開発を進めている。今回、ダイヤモンドの品質の向上とデバイス構造を改良することにより、0.3 mWという実用化に近づく発光出力を持つダイヤモンドLEDの開発に成功し、実際に大腸菌を殺菌することを確認した。この成果は、どこでも使える殺菌灯としての実用化に道筋をつけるものである。

 本研究成果は、2010年2月17日から東京ビッグサイトで開催されるnano tech 2010国際ナノテクノロジー総合展・技術会議において展示される。

ダイヤモンド紫外線LEDとその紫外線による殺菌の写真
図1ダイヤモンド紫外線LEDとその紫外線による殺菌

開発の社会的背景

 新型インフルエンザなど世界的な流行性疾患の増大傾向から、社会や生活の中での殺菌の必要性が増加している。殺菌には高温の熱による殺菌、化学薬品による殺菌、紫外線による殺菌が用いられている。これら殺菌手段の中でも、紫外線による殺菌は、耐熱性の菌にも有効で、化学薬品による悪影響もなく、菌のDNAに直接作用し増殖を抑制する。特にDNAが吸収する波長260 nm前後の光は殺菌効果が高い。現在は低圧水銀灯からの254 nmの紫外線を用いた殺菌が多く使われているが、環境に漏れると好ましくない水銀を用いることなどで、半導体を用いた発光素子(LED)の開発が期待されている。

 現在広く使われている窒化ガリウム系材料を用いたLEDでも紫外線を発光するLEDの開発が進められているが、波長が短くなるほど技術的に困難で、350 nm以下の波長のLEDは市販されていない。

研究の経緯

 ダイヤモンドは半導体としての性質でも優れた性質を持っていることは知られていたが、高品質化や加工が困難であったため、シリコンのように応用されることがなかった。産総研の研究グループはダイヤモンドの作製技術から電子デバイスに必要な技術やダイヤモンドの物理に関する知識を蓄積してきた。その積み重ねに基づいて、ダイヤモンドの最初の電子デバイス実用化を目指して、ダイヤモンドに特徴的な励起子と呼ばれる状態を使って高効率の紫外線発光に成功した(2006年8月28日プレス発表)。この新原理LEDの光は波長235 nmであり殺菌に有効な紫外線である。今回、ダイヤモンドのさらなる高品質化とデバイス構造の改良により、発光効率の向上に成功し、殺菌に有効なことを実証した。

 本研究開発は平成19年度と20年度には独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ナノテク・先端部材実用化研究開発」の支援の下、物材機構、株式会社 神戸製鋼所【代表取締役社長 佐藤 廣士】との共同研究で進め、平成21年度は「中小企業等製品性能評価事業」の支援の下、岩崎電気 株式会社【代表取締役社長 熊坂 隆雄】と株式会社シンテックとの共同研究の下に進めている。

研究の内容

 今回開発したLEDは、図2に示すようにn層、i層、p層からなる3層構造である。チタン電極を裏側は全面に、また、表側は直径0.15 mmの円状に堆積した。これらの構造体は産総研の培ってきた技術であるマイクロ波プラズマCVD法によって作製した。

 動作原理は発光層であるi層にn層側からは負の電荷をもった電子が流れ込み、p層側からは正の電荷をもった正孔が流れ込み、励起子と呼ばれる電子と正孔のペアーが生成される。ダイヤモンドLEDはこの励起子が消滅するときにi層で発生する光を利用する。一般のLEDは負の電荷をもった電子と正の電荷をもった正孔が直接消滅するときの光を利用するのに対し、ダイヤモンドLEDは励起子を利用した新しい原理のLEDであるという特徴を持っている。

ダイヤモンド紫外線LEDの断面図
図2 ダイヤモンド紫外線LEDの断面図

 図3に発光の写真を示した。図4はこの光を分光したスペクトルで、ピークの光の波長はダイヤモンド励起子に特徴的な235 nmで紫外線である。同時にダイヤモンドの格子欠陥から生じる可視光の光も見ることができる。図5にあるように、発生した紫外線の多くが電極に隠れ取り出せていないにもかかわらず、紫外線の発光強度は0.3 mW、また、量子効率としては0.01 %程度を得ることができた。

ダイヤモンドLEDの発光の写真
図3 ダイヤモンドLEDの発光の写真。紫外線は見ることはできないが、同時に発光する弱い可視光の発光が見える。

発光のスペクトルの図
図4 発光のスペクトル。235 nmの光が強く出ている。同時に弱い可視光も観測された。

 図5に示したように、大腸菌を分散させた寒天上に、2 mm程度離した場所にダイヤモンドLEDを置き、電流300 mA(ほぼ0.1 mWに対応する。)を100秒間照射し(実際には、10ミリ秒当てた後、90ミリ秒休むというパルス的照射をするので、所要時間は1000秒となる。)、照射後24時間培養して大腸菌の増殖の様子を見た。24時間後の写真が図6である。紫外線を当てた部分は大腸菌が増殖しておらず、ダイヤモンドLEDによる大腸菌の殺菌が成功したことが分かる。

 殺菌が行われた部分は10 mm程度の円状で、電極の大きさである直径0.15 mmの円から比べると、殺菌された領域は電極面積の1,000倍程度になる。

 今回の構造ではi層で発光した光のほとんどは電極に遮蔽されて内部で吸収されてしまい、電極の周りから漏れる発光だけによって殺菌されていることがわかった。それでも殺菌能力の確認ができる程度の光強度はあることがわかったので、構造を工夫することによって光を取り出す効率を高めたい。

電極の端から漏れる紫外線で殺菌可能の概要図
図5 赤い部分が発光領域で電極の端から漏れる紫外線で殺菌が可能になった。

中央部にダイヤモンドLEDによる紫外線を照射し、24時間培養した後の写真
図6 シャーレ全体に大腸菌を分布させ、中央部にダイヤモンドLEDによる紫外線を照射し、24時間培養した後の写真。紫外線があたった中央部分は大腸菌が死滅し増殖していないが、まわりの灰色の部分は大腸菌が増殖している。

今後の予定

 今後はデバイス構造を改良することにより、発光強度をさらに増強していき、短時間での殺菌を実証し、ダイヤモンド紫外線LEDの実用化に繋げたい。


用語の説明

◆ダイヤモンド半導体
ダイヤモンドは炭素のみからできているが、炭素は元素周期表では第IV族であり、電子部品の主役ケイ素(シリコン)も同じ第IV族にある。第IV族の中で炭素はケイ素の近くに位置し、ケイ素と似た性質を持っている。しかし、不純物や格子欠陥の少ない高品質のダイヤモンドがなかったことから、半導体としての研究は進んでいなかった。しかし、1980年ころに、現在のシリコン半導体にも使われている化学気相合成法でダイヤモンドも作ることができるようになり、高品質なダイヤモンドが人工的にできるようになった。その後、急速に半導体としての研究が進み、ひとつの応用としてLEDが作製できるようになった。[参照元へ戻る]
◆励起子
負の電荷をもった電子と正の電荷をもった正孔がカップリングした状態で、通常の半導体でも、非常に低い温度にするとこの状態を見ることができる。ダイヤモンドの場合には特殊で、この励起子が室温でも安定に存在することができる。[参照元へ戻る]
◆マイクロ波プラズマCVD法
化学気相合成(CVD)法のひとつで、2.5 GHzのマイクロ波でメタンなどの気体をプラズマ状態にし、基板にダイヤモンドを堆積させる方法。気相中の化学反応により薄膜を形成する技術。[参照元へ戻る]

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