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発表・掲載日:2006/08/28

ダイヤモンド半導体で高効率の紫外線発光に成功

-間接遷移型半導体の常識を破る高効率発光を実現-

ポイント

  • 間接遷移形半導体であるダイヤモンド半導体pnダイオードを用い、高効率の紫外線発光を実現。
  • 250nm以下の極短波長紫外線発光を、200℃以上の高温下でも動作。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ダイヤモンド研究センター【センター長 藤森 直治】 山崎 聡 主幹研究員と、独立行政法人 科学技術振興機構【理事長 沖村 憲樹】(以下「JST」という)の戦略的創造研究推進事業(CREST)「高密度励起子状態を利用したダイヤモンド紫外線ナノデバイスの開発」プロジェクト(研究代表者:大串 秀世)の牧野 俊晴 研究員らは共同で、波長250nm(ナノメートル:ナノは10億分の1)以下の深紫外線を放射できるダイヤモンドのダイオードの開発に成功しました。開発したダイオードは、200℃以上の高温動作が可能で、効率もダイヤモンドのような間接遷移型半導体の常識を破る発光の内部量子効率10%以上を達成しました。

 波長が350nm以下の紫外光源は、殺菌・浄水、高密度光記録用光源・蛍光分析等の各種情報センシング、医療・バイオ分野、等への幅広い応用が期待されています。このため小型軽量化が可能な深紫外線LEDの実現が望まれています。しかし、深紫外線を放射するLEDの材料としては、これまで窒化アルミニウム・ガリウム(AlGaN)のような直接遷移型の化合物半導体しか実用にならないと考えられていました。

 ダイヤモンドは、単元素半導体材料であるため構造欠陥が無く、優れた機械的特性、化学的特性、光学特性も兼ね備えており、室温以上でも高密度に存在できるダイヤモンドの励起子を用いることによって、間接遷移半導体ではあっても、室温以上で波長250nmの深紫外線を発光できることが知られています。今回、ダイヤモンドでの励起子の発光機構に関する詳細な研究を基に、この特徴を生かしたデバイス構成によって、高い発光の内部量子効率を持つダイオードの試作に成功し、ダイヤモンド半導体が紫外光源材料となる可能性があることを示すことができました。【図1参照】

 本研究の詳細は2006年 8月29日から滋賀県草津市で開催される応用物理学会および2006年9月3日から8 日までポルトガルのエストリール市で開催されるダイヤモンドの国際会議 (17th European Conference on Diamond and Related Materials, Diamond 2006)で発表されます。

ダイヤモンドp-i-n接合構造写真
ダイヤモンドp-i-n接合の断面構造図

ダイヤモンドp-i-n接合構造の写真

ダイヤモンドp-i-n接合の断面構造

研究の背景

 波長が350nm以下の紫外光源は、殺菌・浄水、高密度光記録用光源・蛍光分析等の各種情報センシング、医療・バイオ分野、等への幅広い応用があり、現在は紫外線ランプなどが使われています。しかし、紫外線ランプは高い電圧が必要である上、小型化が難しいなどの問題があります。このため、深紫外線を放射できる半導体LEDの実現が望まれています。深紫外線 LEDの開発は、これまで青色LEDで成功した窒化ガリウム(GaN)系の直接遷移型半導体を中心に進められています。しかしながら、深紫外線領域のLEDにはアルミニウム原子を加えたAlGaN系や窒化アルミニウム(AlN)の化合物半導体を使用しなくてはなりません。これらの半導体材料では化合物・多元系特有な構造欠陥の存在や自ら放射する高いエネルギーを持つ深紫外線による結晶劣化の問題が生じてしまい、実用化には時間がかかると見込まれています。

 一方、ダイヤモンドは室温で5.47eVという大きなバンドギャップを持つ半導体で、物質中最高の熱伝導率を持つ特性をはじめ、物質中最高レベルの硬度を持つ機械的特性、その他優れた化学的特性、光学特性を兼ね備えています。そして、高温下でも励起子によって波長が250nm以下の深紫外線発光が可能であることが知られています。 実際、これまでに独立行政法人物質・材料研究機構によってn型ダイヤモンド半導体の合成の成功とこれを用いたp-n 接合ダイオードによる深紫外線発光特性の報告、あるいは東京ガス株式会社によるダイヤモンドp-n 接合LEDの研究が展開されてきました。

研究の経緯

 産総研では、ダイヤモンドの優れた物性を生かしたダイヤモンドのデバイスの実現に向けて研究を行っています。この中で、高品質な合成ダイヤモンドを使い、電子ビームを用いるカソードルミネッセンスによる観察で、高強度の235nm波長の紫外線発光の観測に成功しています。

CVDダイヤモンドでの励起子発光強度とスペクトルの励起プローブ電流依存性の図

図1 CVDダイヤモンドでの励起子発光強度とスペクトルの励起プローブ電流依存性。

 図1は、ダイヤモンド半導体に電子ビームを照射した時の励起子発光強度の変化を示したものです。電子ビームの励起電流(励起プローブ電流)30µAをしきい値として指数関数的に増大し、50µA以上では検出器で測定できないほどの強い発光が観測されます。この現象は室温でも高密度な励起子が存在できる特長に由来しています。この現象を利用すれば、原理的には間接遷移型であるダイヤモンド半導体であっても、直接遷移型半導体による発光デバイスと等価の発光効率を得られることが期待できます。

 産総研は、この現象を利用するための基盤技術の研究を行ってきました。とくに困難とされていた(001)面をもつリンドープによるn型ダイヤモンドを世界に先駆けて成功し、これを用いたp-n接合ダイオードで紫外線発光の動作確認に成功しています。高効率のLEDには、平坦な表面が得られやすく電気的特性が良い(001)面の結晶面をもつダイヤモンドで製作する必要がありますが、それまで(001)面のn型ダイヤモンド半導体の合成は困難でした。この壁を越えたことが今回の高効率な発光を得ることに結び着きました。

 本研究は産総研の内部資金及びJSTの戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)の「新しい物理的現象や動作原理に基づくナノデバイスの創製領域」/「高密度励起子状態を利用したダイヤモンド紫外線ナノデバイスの開発」(平成13~18年度)によって推進されました。

研究の内容

●ダイヤモンド励起子ダイオードの構成

従来のp-n接合LEDの構造図と今回試作したp-i-n接合LEDの構造図
図2 従来のp-n接合LEDの構造 図3 今回試作したp-i-n接合LEDの構造

 図2は、報告されている従来型のp-n接合ダイヤモンド半導体ダイオードの断面図です。一方、図3は、今回開発したp-i-n接合ダイヤモンド半導体ダイオードの断面図です。ダイオードの面積はともに50nm×50nm 前後です。今回のダイオードの構造がp-n接合タイプと異なるところはn型ダイヤモンド半導体とp型ダイヤモンド半導体の間に純粋ダイヤモンド活性層(i型ダイヤモンド半導体層)を挿入したことと、従来型ではホウ素(B)を高濃度に添加した低抵抗ダイヤモンドを高温高圧合成法で合成した基板を使用していますが、今回は窒素を添加した市販の高抵抗ダイヤモンド基板上にホウ素を高濃度に添加したp+型ダイヤモンド半導体層をマイクロ波プラズマCVD法で合成して、ダイオードの動作部分の構造はすべてこのマイクロ波プラズマCVD法によるダイヤモンド薄膜で作製した点です。

●発光特性

 ダイヤモンド半導体を素子化するプロセス技術は、これまで困難とされていましたが、今回、マイクロ波プラズマCVD法を用いる合成技術を中心にデバイス化技術の課題を1つ1つ解決することにより、ほぼデバイス設計通りのダイオードを試作することに成功しました。今回ダイヤモンドの励起子が高密度に保たれる性質を考えて、i型ダイヤモンド半導体層をその励起子の集積場所になるようにしたことにより、図4で示すように、これまでのp-n接合LEDに比べ、今回のp-i-n 接合ダイオードの発光特性では、紫外線以外の波長400nm付近をピークとした欠陥等に起因したブロードな発光を励起子発光のピーク強度と比較して大幅に(10分の1以下)に抑制されました。

ダイヤモンドLEDの発光特性の図
(a) 図4 ダイヤモンドLEDの発光特性 (b) 
(a) p-n接合LED: 観測条件44V-56mA, (b) 今回のp-i-n 接合LED: 観測条件30V-79mA 

 ここで、図4(b)の観測条件である印加電圧30V電流79mAは通常の可視光を放射するダイオードの動作電圧や電流と比較しかなり大きな値になっています。これは今回のp-i-n接合ダイオードの特性の最適化が十分でないため、ダイオードそのものの抵抗がまだ大きいことが主な理由ですが、放射する光のエネルギーが5eV以上(光の波長が250nm以下)と通常のLEDよりかなり大きいために大きな外部電力が必要になることにも関係しています。図4(b)の場合、ダイオードには2.4ワットの電力を外部から与えていますので、ダイオードの温度は室温より上昇しています。発光スペクトルの波形解析やダイオードの発熱のデータから少なくとも200℃以上の高温になっているのが確認されました。この高温にもかかわらず、図のような理想に近い発光特性が観測されるのはダイヤモンドの優れた物性によります。

 図4の結果からは、今回のp-i-n接合ダイオードの内部量子効率が、従来発表されているダイヤモンドp-n接合ダイオードの発光特性と比較して、少なくとも10倍以上改善されていることを示しています。 さらに、詳しい解析から内部量子効率が10%以上であることがわかりました。

成果の意義と波及効果

 LEDの発光効率は、内部量子効率と取り出し効率、電圧効率の積で見積もられます。今回の研究では、取り出し効率と電圧効率については深紫外線という特殊な光のため正確な測定を実施しておりません。そのためLEDの効率を議論する時よく使われる外部量子効率(内部量子効率と取り出し効率の積で定義)については正確な数値を言及できません。今回の結果は、まだ初期の段階のダイオードの発光特性であり、取り出し効率(今回1%程度と予想)や電圧効率(図4(b)の場合では15%程度)は今後材料プロセスやデバイス化プロセスの改良によって大きく改善できると考えられます。

 今回の成果の重要な点は材料の物性で決まる内部量子効率が10%以上となった点です。この値は、間接遷移型の常識を破る値です。励起子発光を用いることにより、直接遷移型半導体に近づくような高効率が得られることを実証したことになりました。さらに、今回の成功は、現在のエレクトロニクスの基盤材料として知られている同じ単元素で間接遷移型のシリコン半導体でダイオードからの発光が確認できたとした場合と同様の意味を持ちます。ダイヤモンドは種々の特性でシリコンを凌駕する半導体材料であり、今回の発光のためのダイオードを組み合わせたことによって、シリコンでは実現できていない1つの材料で両方の機能をもつ夢のデバイスのダイヤモンドによる実現の可能性が見えてきました。

 また、今回のダイヤモンドダイオードは200℃以上の高温でも動作可能なので、高温環境の中で深紫外線を自由に放射させることができることになります。このダイオードからの発光を殺菌・浄水、高密度光記録用光源・蛍光分析等の各種情報センシング、医療・バイオ分野に適用すること考えると、その機能は紫外線の効果だけでなく、高温での動作という因子により有効性が大きくなります。たとえば、殺菌には高温処理も有効ですが、ダイヤモンドダイオードの発光を用いれば、この高温下で紫外線による殺菌作用ができることになり、殺菌プロセスを簡素化することが可能です。

今後の課題と予定

 今回試作したダイオードを紫外線LEDとして実用化するためには、紫外光の取り出し効率の改善、電圧効率の改善が必要で、材料プロセス技術、デバイス化プロセス技術などの技術課題を解決しなくてはなりません。現在、半導体材料としてのダイヤモンドの研究は大きく進展していますが、半導体としての本格的研究が開始したばかりですので、研究人口も少なく他の半導体と比較してまだ遅れているのが実情です。 

 しかし、逆の見方をしますと、わずかな研究期間と少人数でここまでの成果が得られたことは、ダイヤモンドのもつ半導体材料としての物性が如何に優れているかを示しているとも言えます。上記の技術課題を解決することにより、比較的早い時期にダイヤモンドによる深紫外線LEDが実用化されるものと期待できます。

 今後はこの発光機構のさらなる解明と、高効率な実用デバイスの実現に向けて、プロセスや構造を検討し、早期にLEDとしての可能性を明確にする予定です。また、ダイヤモンドの励起子発光は様々な新しい物理現象を付随している可能性があり、これらの研究を通じて新たな応用へ向けた発展も期待できます。ダイヤモンドを広くエレクトロニクスへ応用を進める研究の一環として今後も取り組んでいきます。


用語の説明

◆深紫外線
紫外線の中でも波長が短く、エネルギーが強い200nmから350nm付近の光を深い紫外線といいます。[参照元へ戻る]
◆間接遷移型半導体
発光は半導体中の電子と正孔が結合して起こりますが、間接遷移形半導体では、半導体結晶中の自由な電子と正孔が、お互いに別な結晶の対称点に存在するため、電子と正孔が再結合するのに格子の熱振動のエネルギーが必要になります。このため電子と正孔が光を放射して直接再結合することがほとんどなく、発光デバイスには不向きとみなされています。単元素の半導体であるシリコンやゲルマニウムおよびダイヤモンドがこの型の半導体である。[参照元へ戻る]
◆内部量子効率
LEDに電流を流すことによって発生する電子と正孔の対は、光を放射して再結合するか、結晶中に存在する欠陥を介在して光を放射しないかあるいは別な波長もつ光を放射して再結合します。 内部量子効率はこの電流によって発生する電子と正孔の対がどれだけ、目的の波長をもった光を放射して再結合するかの割合を示します。したがって、この値は、結晶中の欠陥の濃度や発光機構などの材料の物性によって決まり、100%が理想的な値となります。実用レベルでのLEDでは、10%以上の内部量子効率が要求されます。[参照元へ戻る]
◆励起子
エキシトンとも呼ばれます。半導体結晶中にある電子と正孔対がクーロン力で弱く結合して一つの結合体として結晶中を動く中性の電子・正孔対の状態をいいます。 励起子は結晶の本来の性質として存在するもので、結晶が欠陥や不純物原子ない高品質であればあるほど結晶内に多く存在できますが、結晶の温度が高いと励起子状態より、通常の自由な電子と正孔になってしまいます。そのため従来の半導体では励起子は低温で低密度しか存在しなく、室温下では励起子状態は考慮されていませんでした。しかし、ダイヤモンド等のバンドギャップが大きい半導体では高温でも励起子のほうが自由電子・正孔対より安定で高密度状態がとれます。[参照元へ戻る]
◆直接遷移型半導体
直接遷移型半導体とは、結晶の同じ対称点で自由電子・正孔対が直接再結合できる半導体をいいます。電子と正孔が効率よく結合するため発光効率が非常に高く、発光デバイスに向いている。現在一般的なLEDやレーザダイオードはこの直接遷移型半導体で作られます。[参照元へ戻る]
◆バンドギャップ
半導体中に存在する電子と正孔のエネルギーの最も少ないエネルギーに対応しています。 どの半導体も、固有のバンドギャップを持っています。ダイヤモンドのバンドギャップは約5.5eVで半導体のなかでは大きな値を有しています。[参照元へ戻る]
◆カソードルミネッセンス
材料に電子ビームを照射すると蛍光(ルミネッセンス)が観測され、これをカソードルミネッセンスという。通常のルミネッセンスの強度は、照射する電子ビームの電流値(励起プローブ電流)に比例することが期待されます。[参照元へ戻る]
◆励起プローブ電流
材料に電子ビームを照射すると蛍光(ルミネッセンス)が観測され、これをカソードルルミネッセンスといいます。励起プローブ電流とはこのカソードルミネッセンスを観測するときの電子ビームの電流に対応し、通常のルミネッセンスの強度はこの電流値に比例することが期待されます。[参照元へ戻る]
◆しきい値
ある物理量が別な物理量に依存して変化するとき、その物理量のある値からを越えると急激に変化するときの値をしきい値と呼びます。[参照元へ戻る]
◆リンドープ
半導体を合成するとき、不純物を少量混混ぜることをドーピングといい、リン原子を混ぜることをリンドープといいます。[参照元へ戻る]
◆n型ダイヤモンド半導体、p型ダイヤモンド半導体、i型ダイヤモンド半導体
n型ダイヤモンド半導体とは、リン原子などのマイナスの電荷である電子を作り出す不純物原子をダイヤモンド半導体に少量混ぜることにより得られる。また、逆にホウ素原子などをダイヤモンド半導体に混ぜるとプラスの電荷である正孔が発生し、p型ダイヤモンド半導体が得られる。i型ダイヤモンド半導体は不純物原子を混ぜずに合成したダイヤモンド半導体で、真性(intrinsic)という意味でi型と呼んでいます。[参照元へ戻る]
◆高温高圧合成法
天然ダイヤモンドは、地中の非常に深い場所で形成され、地球の造山活動で地上近くまで出てきたものが採掘されている。産業用に使用されるダイヤモンドは人工的に安価に大量生産されたもので、人工合成ダイヤモンドと呼ばれる。合成法には2種類あり、高圧(約5万気圧)と高温(約1,500℃)で作る高温高圧合成法と、低圧(約0.03気圧)のメタンと水素から成る原料ガスをプラズマ中で反応させ、約900℃の基板上に堆積させる気相合成(CVD)法があります。[参照元へ戻る]
◆マイクロ波プラズマCVD法
気相合成((CVD)法のひとつで、2.5 GHzのマイクロ波でメタンなどの気体をプラズマ状態にし、基板にダイヤモンドを堆積させる方法。気相中の化学反応により薄膜を型成する技術です。[参照元へ戻る]
◆取り出し効率、電圧効率
LEDは電流を流すことにより電気エネルギーが光エネルギーに変換され、最終的に外部に取り出されて利用します。このとき、発生した光エネルギーのうちで外部に取り出される光エネルギーの割合を取り出し効率と言います。また、発生する光子のエネルギーに対する1電子あたりの動作電圧の割合を電圧効率と言います。さらに、最初に注入された電気エネルギーのうちで外部に取り出される光エネルギーの割合を外部量子効率と言います。外部量子効率は先に説明した内部量子効率と取り出し効率の積になります。[参照元へ戻る]

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