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発表・掲載日:2009/02/12

高効率マイクロ燃料電池モジュールの開発に成功

-高出力な小型固体酸化物形燃料電池システムの実現へ向けて-

ポイント

  • 450~550℃の低温領域で動作する1cm3クラスのマイクロ固体酸化物形燃料電池モジュール
  • 自然拡散による空気供給でも、2W/cm3以上の発電電力密度を550℃で実現
  • 小型軽量で急速起動・停止運転にも対応できる、ポータブルSOFCシステムの実現が可能に

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)先進製造プロセス研究部門【研究部門長 三留 秀人】機能モジュール化研究グループ 淡野 正信 研究グループ長、鈴木 俊男 研究員らは、日本特殊陶業 株式会社(以下「日本特殊陶業」という)の協力のもと、450~550℃での低温作動が可能な小型チューブ型固体酸化物形燃料電池(SOFC)を利用したマイクロ燃料電池モジュールの開発に成功した。このモジュールはミリメートルからサブミリメートル径の小型チューブ型SOFCを利用したもので、550℃以下の低温領域でも2W/cm3発電電力密度を持つ1cm3クラスのマイクロ燃料電池モジュールである。

 SOFCは種々の燃料電池の中で最もエネルギー変換効率が高く、全て固体材料で構成できるため高い信頼性があり、取り扱いが容易で、炭化水素系燃料の使用も可能という優れた特長がある。しかし、これまでのSOFCは800~900℃の動作温度が必要なため大型・定置用電源といった分野での利用に限られており、低温作動が可能で小型・可搬型電源に利用できるSOFCの実現が強く望まれていた。

 産総研はこれまで日本特殊陶業と共同でキューブ型マイクロSOFCを開発してきたが、超小型発電モジュールとしてのニーズにも対応できるようにモジュール構造やセラミック電極構造を最適化し、今回のマイクロ燃料電池モジュールの開発に成功した。このモジュールは、多孔質体の中に空気を送り込むための動力がほとんど不要で、自然拡散による空気供給が可能であるため、飛躍的なシステムの効率向上や小型化が可能である。この技術により、小型移動電子機器用の電源としての幅広い応用が期待できる。

 本成果は、2009年2月18日~20日に東京ビックサイトで開催されるnano tech 2009、および2009年2月25日~27日に同じく東京ビックサイトで開催されるFC EXPO 2009にて発表予定である。

新開発のマイクロSOFCモジュールの写真   マイクロSOFCモジュールの性能試験結果の図
新開発のマイクロSOFCモジュール
 
マイクロSOFCモジュールの性能試験結果

開発の社会的背景

 燃料電池は燃料と酸素の化学反応から直接電気エネルギーを取り出すことができ、CO2を排出せず、しかも高いエネルギー変換効率を有することから、次世代のクリーンなエネルギー源として、実用化に向けた研究開発が活発に行われている。燃料電池は構成材料によって、固体高分子形(PEFC)溶融炭酸塩形(MCFC)リン酸形(PAFC)、固体酸化物形(SOFC)等に分類される。その中でPEFCは動作温度が100℃と低温であるため家庭用や自動車用の燃料電池として、実用化の段階にまで進んできている。

 一方、SOFCは最も高い発電効率を有し、全て固体材料で構成できるため信頼性が高く、取り扱いが容易で、炭化水素系燃料の使用も可能という優れた特長をもっているものの、動作温度が800~900℃と高温であることから、従来その用途は大型発電設備などに限られていた。

 しかし、エネルギー変換効率が高く、多様な燃料が利用可能であるという大きな利点があるため、家庭用分散電源移動電子機器用電源自動車補助電源(APU)等にも利用できるように、動作温度が500~700℃で、急速起動・停止運転が可能な高性能SOFCの実現が強く望まれていた。

研究の経緯

 電気化学的に物質やエネルギーを変換するセラミックリアクターは、SOFCを構成する最も重要な要素である。このセラミックリアクターのセルをマイクロ化し高集積化することによって、熱衝撃にも強い高性能なセラミックリアクターが実現できると考えられる。これをSOFCに適用することによって作動温度の低温化、急速起動運転が可能になるものと考え、動作温度が650℃以下においても高出力で熱衝撃にも強いSOFCを実用化させるための研究を行った。

 動作温度を下げるために、これまでにもいくつかのセラミック電解質材料や電極材料が開発されてきており、動作温度も500~600℃にまで下がっていた。しかし、一般的なセル構造である平板型セルにおいては急速起動・停止運転の際の熱ひずみの問題が大きな障害となっており、抜本的な解決策が必要であった。

 そこで産総研では、日本特殊陶業と共同でチューブ構造を有するマイクロSOFCおよび集積技術の開発を進め、これまでに急速起動運転ができるセルバンドルの作製に成功している(2007年3月29日 プレス発表)(図1)。

従来のキューブ型マイクロSOFCの図
図1 従来のキューブ型マイクロSOFC

 これらは主として数100W~kWクラスのシステムへの適用を目標として開発が進められてきたものであり、数W~数10Wクラスの小型燃料電池システムの構築に必要なマイクロSOFCモジュールに関しては、さらなる技術課題を解決する必要があった。この技術課題の中で、セルの高集積化は空気通路の確保、熱バランスとのトレードオフとなるため、その最適化が最も重要な課題となっていた。

 なお、本研究は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構プロジェクト「セラミックリアクター開発」の一環として実施されている。

研究の内容

 産総研は日本特殊陶業の協力のもと、セラミックリアクターとして機能するサブミリメートル径の高性能チューブ型SOFCを用いた低負荷型のマイクロSOFCモジュールの開発に成功した(図2)。これはマイクロSOFCバンドルの内部構造および配列を最適化することによって、空気供給動力の最小化および熱バランスの制御を容易にする構造としたもので、自然拡散による空気の供給によっても高い性能を発揮するモジュールとなっている。燃料はマニホールドからスタックに供給され、空気はモジュール面内を流れ、自然拡散によってスタック内に供給される。

新開発のマイクロSOFCモジュールの図
図2 新開発のマイクロSOFCモジュール

 使用したチューブ型マイクロセルは直径0.8mmのチューブ形状を有し、電解質材料にセリア系セラミックス、燃料側電極材料にニッケル-セリア系セラミックス、空気側電極材料にランタンコバルト-セリア系セラミックスを用いている。これらのマイクロチューブセルを、ランタンコバルト系セラミックスで作製した多孔質構造体の中に集積し、マイクロバンドルとした。図3は実際に作製した10x10x2mmのマイクロSOFCバンドル(直径0.8mmのマイクロチューブセルを5本集積)が3段直列に接続されたスタック(0.6 cm3)である。

マイクロSOFCスタックの写真
図3 マイクロSOFCスタック(0.6 cm3

 このスタック構造体に燃料マニホールドを装着することでマイクロSOFCモジュールを構成した(図4)。

マイクロSOFCモジュールの外観写真
図4 マイクロSOFCモジュールの外観

 このモジュールに450~550℃の水素を流し性能試験を行った結果、0.88~2.2W/cm3(450~550℃:スタック体積当り)の発電電力密度が得られた(図5)。

マイクロSOFCモジュールの性能試験結果の図
図5 マイクロSOFCモジュールの性能試験結果

 このスタックの重量はわずか2g程度であり、重量あたりの発電電力出力についても、優れた性能を示した。本開発のマイクロSOFCモジュールを使用すれば、必要な電力に応じてモジュールを積層することにより、数十Wクラスまでのシステム構築が可能になると考えられるため、小型電子機器等の可搬型ポータブル電源への応用が期待できる。

今後の予定

 今後は、今回開発したマイクロSOFCモジュールを用いて、さらなる集積化やモジュール構造の最適化について検討するとともに性能実証試験等を行い、耐衝撃性があり、急速起動・停止運転が可能な高出力・小型・高効率SOFCシステム(図6)の実現に向けた研究開発を推進していく予定である。

10Wクラスモジュールの概念図
図6 10Wクラスモジュールの概念図
(全体容積で20cm3程度)

用語の説明

◆固体酸化物形燃料電池(SOFC)
 
燃料電池は、水素と酸素の化学反応から直接発電することができる高効率でクリーンな発電方法として広く開発が進められている。その中でSOFCは酸化物を用いた燃料電池であり、通常600~1000℃で運転を行う。種々の燃料電池の中で、最も高効率で耐久性が高く、さらに排熱を利用することによって総合効率が非常に高くなるため、実用化が大いに期待されている。[参照元へ戻る]
◆モジュール
 
燃料電池の基本構成パーツであり、発電を行う部材であるセル(ここではマイクロチューブ形状を有している)を複数本まとめたものをバンドル(ここでは多孔質体にマイクロチューブセルを集積)、そのバンドルを電気的に直列接続したものをスタックと呼ぶ。このスタックを集積したものに燃料マニホールドを装着した1つの発電ユニットのことをモジュールという。[参照元へ戻る]
◆発電電力密度
 
単位体積、たとえば1cm3の体積を有する燃料電池スタックから取り出すことのできる発電電力量をいう。通常の電力密度は単位電極面積あたりの電力量を指すこと多いが、ここではシステムサイズの目安となる体積当たりの発電量を示した。[参照元へ戻る]
◆エネルギー変換効率
 
投入した燃料の持つエネルギー(化学エネルギー)から変換される電気エネルギーの比率。燃料電池の特徴としては、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換できることにある。[参照元へ戻る]
◆固体高分子形燃料電池(PEFC)
 
高分子を用いた燃料電池であり、70~100℃での運転が可能であることから、移動用電源や小容量電源に適している。現在、燃料電池自動車に採用されているのが、このタイプの燃料電池である。[参照元へ戻る]
◆溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)
 
リチウム・ナトリウム炭酸塩などを用いた燃料電池であり、650~700℃で運転する。SOFCと同等のエネルギー変換効率をもっている。[参照元へ戻る]
◆リン酸形燃料電池(PAFC)
 
リン酸水溶液を用いた燃料電池であり、200℃付近の作動温度で運転する。現在商用化段階まで開発が進んでいる。[参照元へ戻る]
◆家庭用分散電源
 
家庭の敷地内に設置し、各家庭において独立に運転し、電力の供給が可能な電源。[参照元へ戻る]
◆移動電子機器用電源
 
移動や携帯が可能な電子機器(携帯電話、ノートパソコンなど)用の電源。[参照元へ戻る]
◆自動車補助電源(APU)
 
自動車の高性能化・高機能化に伴い、自動車はより多くの電力を必要としている。自動車に必要な電力を供給するための補助的な電源のことである。ハイブリット車等の発進・加速時などや、トラックに搭載されている高電力消費装置(冷蔵庫など)の運転に補助電源を使用することによって、アイドリング時のエネルギーロスや、大気汚染物質の排出を最小化することができる。[参照元へ戻る]
◆急速起動・停止運転
 
SOFCを運転するには運転に必要な温度にまでSOFCを昇温させる必要がある。その際、時間をかけずに急速に昇温・停止させることができれば、使用上効率的である。一方、急速な昇温・停止は大きな熱ひずみを発生させるため、セラミック構造体を破損させてしまう場合がある。そのため、急速起動・停止運転を可能にすることが、SOFCの大きな技術課題となっている。[参照元へ戻る]
◆セラミックリアクター
 
セラミック材料を利用して物質・エネルギー変換を行う電気化学反応システム。例えば、イットリアを固溶したジルコニア(ZrO2)(YSZ)等の酸素イオン伝導性材料から構成される。応用例として、センサー、燃料電池、排ガス浄化等が挙げられる。[参照元へ戻る]
◆ニッケル-セリア系
 
ニッケル(Ni)とセリア(CeO2)系セラミックスを混合したもので、SOFCの燃料極材料として一般的に使用されている材料である。[参照元へ戻る]
◆ランタンコバルト-セリア系
 
主にランタン(La)とコバルト(Co)から構成されるペロブスカイト型酸化物とセリア(CeO2)系セラミックスとを混合したもので、高い電子伝導性を示す。SOFCの空気極材料として一般的に使用されている。[参照元へ戻る]
◆耐衝撃性
 
燃料電池を自動車や移動電子機器等に搭載する際、衝撃に対する燃料電池の耐性が必要となる。特にSOFCはセラミックスを使用しているため、耐衝撃性を確保するための材料構造の高度化に関する研究が現在盛んに行われている。[参照元へ戻る]

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