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発表・掲載日:2006/01/18

小型高効率のマイクロ燃料電池の開発に成功

-高出力密度な固体酸化物型燃料電池の実現へ向けて-

ポイント

  • 高度なセラミック製造プロセス技術の適用により、500~600℃の低温領域で動作できるミリ~サブミリ径チューブの固体酸化物型燃料電池(SOFC)の作製に成功。
  • セラミック電極構造の最適化により、セリア系セラミック材料で初めて1W/cm2の発電密度を570℃で可能にし、世界最高レベルのエネルギー変換特性を達成。
  • このSOFCのマイクロセラミック部材の開発により、耐熱衝撃性が飛躍的に向上し急速起動停止運転にも対応可能なコンパクトなSOFCモジュールの実現が可能に。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)先進製造プロセス研究部門【部門長 神崎 修三】機能モジュール化研究グループ【研究グループ長 淡野 正信】の鈴木 俊男 研究員らは、500~600℃の低温作動が可能な小型チューブ式の固体酸化物型燃料電池(SOFC)の開発に成功した(図1、2を参照)。SOFCは高い温度で動作する電池にも関わらず全てを固体材料で実現できるため、信頼性が高く、取り扱いも容易という優れた特徴がある。しかし、これまでのSOFCは800~900℃の動作温度が必要なので適用分野が限られており、低い温度で動作可能なSOFCの実現が望まれていた。

 産総研では、SOFCの電解質材料に低温での酸素イオン伝導度が高いセリア系イオン伝導体セラミックスを用い、これをミリ~サブミリ径のチューブ形状にすることで、燃料の反応効率が向上するとともに、耐ストレス性を向上させ、熱ひずみに弱いとされていたセリア系セラミックスの破損問題を解決した。更には、発電出力効率も従来のセリア系に比べ飛躍的に高めることに成功した。今後、この技術の完成により、家庭用分散電源、移動電子機器用電源や自動車等の補助電源等としての幅広い応用が見通せるようになった。

 本成果は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という)プロジェクト「セラミックリアクター開発」で得られたもので、2006年1月25日から開催の“FC EXPO2006”及び2006年7月に行われる「7th EUROPEAN SOFC FORUM</」で発表予定である。

チューブ型マイクロSOFCの写真   マイクロSOFCによる発電実証試験結果の図
図1 チューブ型マイクロSOFC
 
図2 マイクロSOFCによる発電実証試験結果

開発の社会的背景

 燃料電池は小型でも高い効率が実現できるため地球温暖化の原因の1つと言われるCO2の発生を大幅に削減できるので、固体高分子型(PEFC)溶融炭酸塩型(MCFC)リン酸型(PAFC)、固体酸化物型(SOFC)等、種々の方式が開発されている。PEFCは動作温度が100℃程度であり家庭用や自動車用の燃料電池として注目されているが、燃料電池の中で最も効率が高いのはSOFCである。SOFCは我が国が得意とするセラミックス技術を利用する燃料電池であるが、これまでのSOFCは動作温度が800~900℃と高温であり、大型発電設備への応用などに限られていた。そこでSOFCを家庭用分散電源移動電子機器用電源自動車等の補助電源等に応用できるように、動作温度が500~600℃のSOFCの実現が望まれていた。

研究の経緯

 電気化学的に物質やエネルギーを変換する高効率セラミックリアクターは、燃料電池に限らず、環境汚染物質の分解浄化フィルター等、多様な応用が可能な技術として期待されている。特に、セラミックリアクターを固体酸化物型燃料電池(SOFC)として使うと、燃料電池として最も高い効率を示すが、動作温度が800~900℃と高いため、応用は大型発電設備用に限られていた。しかし、SOFCの高効率な特性を有効に生かすには、家庭用分散電源や移動電子機器用電源、自動車等の補助電源等の分野で実用化が不可欠とされている。これを受けて、産総研はNEDOプロジェクト「セラミックリアクター開発」(平成17~21年度)の一環として、動作温度が500~600℃で、高出力で熱歪にも強いSOFCを実用化させる研究を行ってきた。

 動作温度を下げるためには、これまでにもセリア系セラミックスやランタンガレート等のセラミック電解質材料が開発され、動作温度も500~600℃に下がっていた。しかし、動作温度を下げても頻繁に起動・停止が必要な機器には、依然、熱歪問題は大きな障害で有り抜本的な解決策が必要であった。

 そこで、産総研では、ミクロなチューブ構造のセルを開発し、セルにかかる熱歪を抜本的に小さくする方法の検討を行ってきた。

研究の内容

 産総研は、セラミックリアクターとして機能するミリ~サブミリオーダー径の高性能チューブ型マイクロSOFCの開発に成功した(図1参照)。これはSOFCを超小型化することにより、熱ひずみの問題を解決したものである。動作温度を500~600℃に下げることが可能なセリア系セラミックスは機械的強度に脆く微細に加工することは、従来、不可能とされていた。今回、燃料側電極材料にニッケル-セリア系セラミックスを、空気側電極材料にランタンコバルト-セリア系セラミックスを用い、微細構造制御を可能とするマイクロチューブ製造技術及び緻密膜コーティング技術を発展・高度化することで、セリア系セラミック電解質の微細加工を実現すると同時に、燃料の反応効率を大幅に向上させる電極構造の最適化に成功した。

 実際に作製したマイクロSOFCは、長さ1cm程度、直径が0.8~1.6mmのマイクロチューブ構造体であり、例えば、1.6mm径のマイクロチューブに450~570℃で水素を流通した結果、0.17~1W/cm2(450~570℃)の電力が得られた(図2参照)。この値は、これまでのセリア系セラミックSOFCの単位電極面積あたりの燃料電池特性として世界最高レベルであった。

 本開発のマイクロSOFCは、例えば0.8mm径の場合では1cm3当たり約100本のマイクロSOFCが集積可能であり、これらの発電性能として1cm3当たり7W(500℃作動時)、15W(同550℃時)の特性が期待できることから、SOFCの家庭用分散電源や移動電子機器用電源、自動車補助電源等への応用に向けて道を拓くものと考えられる。

今後の予定

 今後は得られたチューブ型マイクロSOFCの集積化について検討を行い、多数のマイクロチューブを正確に並べた立方体ユニット(キューブ)の作成や、各チューブへの燃料ガス供給や電力回収を行う接続部分(インターフェース)の精密作製技術を確立し、最終的には、耐衝撃性急速運転に対応した小型高効率のスタックモジュールの製造技術開発を検討していく (図3参照)。

今後の展開の図
図3 今後の展開

用語の解説

◆固体酸化物型燃料電池 (SOFC)
燃料電池は、水の電気分解の逆反応で、水素と酸素の化学反応から直接発電することができる高効率でクリーンな発電方法として、いくつかの方式について開発が進められている。なかでもSOFCは酸化物を用いた燃料電池であり、600-1000℃において運転を行うことから、高効率、高耐久性であり、さらに排熱を、分散電源で利用することで総合効率が非常に高くなるため、実用化が期待されている。[参照元へ戻る]
◆酸素イオン伝導度
物質内の酸素イオンの流れやすさを示す物理量で、伝導度は大きいほど酸素イオンが流れやすい。高温ほど伝導度は大きくなり、燃料電池においては高い発電性能を得ることができる。[参照元へ戻る]
◆セリア系イオン伝導体セラミックス
セリア(CeO2)をベースにしたセラミックス。セリアにガドリニウム(Gd),サマリウム(Sm)などを添加することで、高いイオン伝導体を得ることができる。セリア系イオン伝導体はそれらの総称を指す。[参照元へ戻る]
◆耐ストレス性
温度変化やガス雰囲気の変化によってセラミック構造体に膨張収縮のようなストレスが生じる。これらのストレスに対する耐性を高めることが、セラミック構造体の設計には重要である。[参照元へ戻る]
◆熱ひずみ
温度変化によってセラミック構造体が膨張、収縮することで生じる歪み。[参照元へ戻る]
◆セラミックスの破損問題
多くのセラミックスは温度変化によって膨張、収縮をするが、物質によってその振る舞いが異なる。特に異なるセラミックスの接合面は温度変化によって歪みを生じやすく破損に至る場合が多々ある。[参照元へ戻る]
◆固体高分子型燃料電池(PEFC)
高分子を用いた燃料電池であり、70-100℃において運転を行う。低温で高いエネルギー密度を有することから、移動用電源及び小容量電源に適している。現在、燃料電池自動車に採用されているタイプの燃料電池である。[参照元へ戻る]
◆溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)
リチウム・ナトリウム炭酸塩などを用いた燃料電池であり、650-700℃において運転、SOFCと同等の発電効率を有する。[参照元へ戻る]
◆リン酸型燃料電池(PAFC)
リン酸水溶液を用いた燃料電池。200℃付近の低温動作が可能で、商用化段階まで開発が進んでいる。[参照元へ戻る]
◆家庭用分散電源
家庭敷地内に設置し、各家庭において独立運転、供給が可能な電源。[参照元へ戻る]
◆移動電子機器用電源
移動、携帯が可能な電子機器(携帯電話、ノートパソコンなど)用の電源。[参照元へ戻る]
◆自動車補助電源(APU)
自動車の高性能化に伴い、近年の自動車はより多くの電力を必要としている。その際に必要な電力を供給できる補助的な電源のことである。一般的にはハイブリット車等の発進・加速時や、トラック等に搭載される高電力消費装置(冷蔵庫など)の運転に補助電源を利用することで、アイドリングによるエネルギーロス、大気汚染物質の排出を最小化することができる。[参照元へ戻る]
◆セラミックリアクター
物質・エネルギー変換が可能な機能性セラミック材料を利用する化学反応制御システム。例えば、イットリアを固溶したジルコニア(ZrO2)セラミックス(YSZ)等の酸素イオン伝導性材料では結晶中を酸素イオンが拡散して移動する性質を利用し、センサー、燃料電池発電およびガス浄化等へ利用可能。[参照元へ戻る]
◆分解浄化フィルター
ガス状の環境汚染物質の分解・浄化を行うフィルター。[参照元へ戻る]
◆ランタンガレート
ランタン(La)とガリウム(Ga)を主に構成される酸化物で、高い酸素イオン伝導を有する。この材料系を用いたSOFCが500~600℃域で最も高い発電性能を有することが九州大 石原研によって報告されている。[参照元へ戻る]
◆ニッケル-セリア系
ニッケル(Ni)とセリア(CeO2)系セラミックスを混合したもので、SOFCの燃料極材料として一般的に使用されている材料。[参照元へ戻る]
◆ランタンコバルト-セリア系
ランタン(La)とコバルト(Co)を主に構成される酸化物とセリア(CeO2)系セラミックスを混合したもので、高い電子伝導を有する。SOFCの空気極材料として一般的に使用されている。[参照元へ戻る]
◆耐衝撃性
車などに燃料電池を搭載する、あるいは移動電子機器に利用する際、衝撃に対する燃料電池の耐性が必要となる。特にSOFCはセラミックスを利用するため、耐衝撃性を実現するために材料構造の高度化に関する研究が盛んに行われている。[参照元へ戻る]
◆急速運転
SOFCを利用するには運転温度までSOFCを昇温する必要がある。その際、急速昇温・停止は使用便宜上好ましいが、一方で急速昇温・停止は大きな熱歪みを生じさせ、セラミック構造体の破損に至る場合がある。そのため急速運転はSOFCの大きな技術的課題となっている。[参照元へ戻る]
◆スタックモジュール
スタックとはセル(SOFC等)の集合体であり、通常、燃料と空気の分離のための仕切り版(セパレータ)などで単セル同士が接続され、ガス通路などを確保しつつ集積されたものを指す。チューブ型セルを用いる場合、そのセパレータ材料は必要ないという利点がある。チューブ型セルのモジュールはそのスタックを基本要素として集積化したものを指す。[参照元へ戻る]

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