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発表・掲載日:2009/02/09

バイオマスから超軽量の中空炭素微粒子を製造

-弾力性のある紙風船のような中空微粒子-

ポイント

  • 直径数ナノメートルから数十マイクロメートルの超軽量中空炭素微粒子を開発
  • 製紙工業などの副産物であるリグニンと無機塩から製造
  • ゴムやプラスチックなどと複合化することで、大幅な軽量化や特性の改善に期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)バイオマス研究センター【研究センター長 坂西 欣也】水熱・成分分離チーム【研究チーム長 遠藤 貴士】亀川 克美 主任研究員は、製紙原料のパルプバイオエタノールを生産するときの副産物であるリグニンから、無機塩を用いて、直径数ナノメートルから数十マイクロメートルの超軽量の中空炭素微粒子を製造する技術を開発した。

中空炭素微粒子の写真

 地球温暖化や石油資源の枯渇が世界的規模で問題となり、さまざまな分野において、石油などの化石資源から生物資源への転換が急がれている。一方、製紙工業の副産物であるリグニンは、国内で年間700万トンにも達する生物資源(バイオマス)であるが、現在、そのほとんどが焼却処分されている。

 今回開発した技術は、副産物であるリグニンを無機塩と複合化した後、600~800℃で熱分解し、それを洗浄乾燥して、サブマイクロメートルサイズの弾力性のある中空炭素微粒子や、外径が3~30 ナノメートルの中空炭素ナノ微粒子を製造するものである。この中空炭素微粒子は、写真のように、200 mL容器に入った試料の重量はわずか3g弱であり、非常に軽量な素材である。

 この素材は、カーボンブラックの代替などとして、ゴムやプラスチックなどと複合化することで、大幅な軽量化や特性の改善が期待される。

 本技術の詳細は、2009年2月18~20日に東京ビッグサイトで開催されるnano tech 2009で発表される。



開発の社会的背景

 近年、地球温暖化や石油資源の枯渇が世界的に問題となっており、さまざまな分野において、石油などの化石資源から生物資源への転換が急がれている。また、従来の炭素微粒子であるカーボンブラックは、タイヤの補強材、顔料などとして世界で年間1000万トン程度生産されているが、これらは通常、石油などの化石資源を1400℃程度の高温で熱分解することにより製造されている。

 一方、製紙工業の副産物であるリグニンは国内だけで年間700万トンにも達する生物資源であるが、用途が限られているため、ほとんどが焼却処分されている。また、木材などを原料としてバイオエタノールを大量に生産することが計画されており、将来的には、さらに大量のリグニンの発生が予想され、その有効利用技術の開発が望まれている。

研究の経緯

 産総研では、化石資源から生物資源へ転換するためのさまざまな技術開発を進めており、リグニンの有効利用技術の開発もその一環として実施してきた。水溶性リグニンは、その大半が10 nm(ナノメートル)以下の分子であるが、基本的に熱可塑性樹脂であるために、単に加熱した場合には溶融して炭素の塊になってしまう。今回、高温でも溶融しない無機塩と予め複合化することで、加熱したときに分子同士が溶融して塊になるのを防ぐことを試みた。

 なお、本研究開発の一部は独立行政法人 科学技術振興機構「シーズ発掘試験」の助成を受けて行ったものである。

研究の内容

 水溶性リグニンと無機塩を水溶液とし、スプレーや超音波霧化によって小さな液滴にする。それを乾燥させると、リグニンと無機塩の複合微粒子が得られる。この複合微粒子を600~800℃で熱分解した後、洗浄乾燥することにより、サブマイクロメートルから数十マイクロメートルの中空炭素微粒子を作製する技術を開発した。

超軽量中空炭素微粒子の写真
図1 超軽量中空炭素微粒子

 無機塩の種類によっては、その添加量が増加するにつれて製造される中空炭素微粒子の殻が薄くなる傾向があり、無機塩の添加量を制御することで、嵩(かさ)密度が10g/L以下の非常に軽量な微粒子も作製できた。また、作製条件によっては、4200kg/cm2(およそ4200気圧)の圧力で押しつぶした後も、常圧に戻したときには元の形状をほぼ復元するような弾力性をもつ中空炭素微粒子(図1)を作製できた。なお、図1は4200kg/cm2で加圧した後、常圧まで戻した超軽量中空炭素微粒子の走査型電子顕微鏡写真である。

 さらに、添加する無機塩の種類や添加量を制御して、図2の透過型電子顕微鏡写真に示すような外径が3~30 nmで、炭素壁の厚さが1~5 nmの中空炭素ナノ微粒子や、カーボンブラック粒子に類似した10~100 nmの炭素ナノ微粒子などを製造することも確認できた。これらの炭素微粒子の表面積は、いずれも活性炭と同等あるいはそれ以上であり、吸着などの表面機能も期待できる。

中空炭素ナノ微粒子の写真
図2 中空炭素ナノ微粒子

 今回の開発は原料に市販のリグニンを用いて行ったが、製紙工業(パルプ製造工業)の副産物で焼却処分されているリグニンは、他の有機物や無機塩が大量に混入した黒液と呼ばれる廃液の形で排出されている。限外濾過(ろか)膜により黒液から比較的分子量の大きな成分のみを膜分離する方法、および炭酸ガスを黒液に吸収させて中性付近で溶解性の低い成分を沈降分離する二つの方法について検討した結果、いずれの方法により分離されたリグニン成分からも中空炭素微粒子が作製でき、黒液中のリグニンを原料とすることが可能と確認できた。

今後の予定

 今回開発した炭素微粒子は、ナノメートルからマイクロメートルサイズの軽量中空炭素微粒子である。表面積が大きく、弾力性のある微粒子も製造可能であることから、ゴム補強剤、軽量充填材、柔軟性付与材、断熱素材、導電材料、静電防止材、吸着材、および徐放材として用途開発を進めていく予定である。


用語の説明

◆パルプ
木材などの植物を機械的、または化学的処理によってほぐし、セルロース繊維を分離して水に懸濁した状態や厚紙状にしたもの。製造法により化学パルプと機械パルプの二種に大別され、紙や人造繊維などの原料になる。[参照元へ戻る]
◆バイオエタノール
サトウキビ、とうもろこし、および木材などのバイオマス資源を化学処理や発酵、さらには蒸留することにより得られる植物を原料とするエタノール。このエタノール中の炭素は植物が大気中の二酸化炭素を取り込んだものであり、燃焼させても大気中の二酸化炭素が増加しないことから、新たな燃料として注目されている。[参照元へ戻る]
◆リグニン
セルロースやヘミセルロースとともに植物を形成する主要成分であり、その含有量は木材では20~30%に達する。その構造はフェニルプロパン系の構成単位が化学結合した複雑な高分子であり、地球上に存在する有機物としてはセルロースに次いで二番目に多く存在している。[参照元へ戻る]
◆バイオマス
光合成などによって作り出される生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものを表す。代表的なものは植物で、太陽光と水と二酸化炭素により繰り返し生産され、枯渇しない資源。[参照元へ戻る]
◆カーボンブラック
工業的に品質制御して製造される煤のこと。有機物質の不完全燃焼や熱分解によって得られ、基本的には炭素からできている物質。直径はおよそ10~500 nm程度の球状微粒子であり、さらにはそれが集まって集合体となったものが一般的である。[参照元へ戻る]
◆熱可塑性樹脂
 
加熱により化学反応を起こすことなく軟化し、冷却することにより再び固化することを可逆的に起こす樹脂であり、代表的な樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどがある。[参照元へ戻る]
◆超音波霧化
 
液体に高い周波数の超音波の振動エネルギーを与えると空洞現象などにより液面から霧が発生する。液体を加熱する必要がなく、また、霧が非常に細かいなどの特徴がある。加湿器などに使用されている。[参照元へ戻る]
◆嵩(かさ)密度
 
粉体を一定体積の容器に充填して粉体の質量を測定し、その質量を容器の体積で割った値である。[参照元へ戻る]
◆限外濾過(ろか)膜
 
液体を対象とするろ過膜の一種で、孔の大きさがおよそ2から200ナノメートルの膜である。孔は逆浸透膜より大きく、精密ろ過膜よりも小さい。工業分野ではタンパク質や酵素などの分離または濃縮に使用されている。[参照元へ戻る]

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