独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)バイオマス研究センター【研究センター長 坂西 欣也】は、産学官連携プロジェクト「産総研産業変革研究イニシアティブ」(以下「産業変革イニシアティブ」という)の一つである「中小規模雑植性バイオマスエタノール燃料製造プラントの開発実証」の中で、エタノール燃料一貫製造プラントのベンチプラントを産総研中国センター(広島県呉市)内に建設し、製造プロセスの実証試験を開始した。
今回、産総研が考案・研究開発したバイオマス原材料の前処理技術を中心とした環境負荷の小さい非硫酸方式によるエタノール燃料一貫製造プラントのベンチプラント(1回処理量200kg木材)を開発・設置した。試運転において、原料からエタノール燃料までの一貫した製造が行えることを確認した。今後、本格稼動を行い、食料と競合しない多様なセルロース系バイオマス(針葉樹、広葉樹、わらなど、雑植性バイオマスと呼称)を原料にエタノール燃料生産技術を実証する。
このプラントで得られる実証データを基に経済性評価、ライフサイクル評価を行い、プロセス全体の改良とともに、より大規模なプラントの設計・開発等に生かすことで、持続可能な社会のための産業化シナリオを描いていきたい。
なお、本プロジェクトは、平成19年12月から平成23年3月までの約3年半のプロジェクトとして実施されている。(平成20年1月31日プレス発表)
また、本ベンチプラントの一部には新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)先導研究の成果を活用している。
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図1 非硫酸方式によるバイオエタノール製造プラント |
近年のアジア地域の経済成長による石油の需要拡大や原油の供給不安、また深刻化が増している地球温暖化問題等の状況のもと、世界各国では原油需要の一部を補完するエネルギーとして再生可能エネルギーであるバイオ燃料への期待が高まっている。
わが国においても、地球温暖化対策のための京都議定書目標達成計画の中でバイオ燃料の導入目標値が示され、バイオマス・ニッポン総合戦略や新国家エネルギー戦略においても長期的な視点に立ったバイオ燃料の導入戦略策定の必要性が指摘されている。また、アジア各国を中心にバイオ燃料の開発導入に係る動きが急であるなど、今後バイオ資源の確保がエネルギー政策の重要な課題の一つとなっている。
ガソリンをバイオ燃料の一つであるバイオエタノールで代替することによりCO2削減効果は、ライフサイクル評価(LCA)によって明確に示されている。しかしブラジルやアメリカにおいては、サトウキビやトウモロコシなどを用いたエタノール製造が急増し、食料や家畜飼料の価格を押し上げ、大きな社会問題となっている。その一つの解決策として、食料と競合しない木材や稲わらといったセルロース系資源からのバイオエタノール製造が注目されている。
セルロース系資源からのエタノール燃料転換技術としては、既に濃硫酸法や希硫酸二段糖化法、そして希硫酸・酵素糖化法の実証が進められている。しかしこれらの方法は硫酸を用いるため、廃棄物処理や環境負荷の低減に係るコストが必須であり、低コスト化およびエネルギー変換効率に限界があるといわれている。したがって、できる限り硫酸を使用しないセルロース系バイオマスを用いたエタノール製造プラント技術の開発およびその実証が重要である。
これらを踏まえて、産総研は産業変革イニシアティブプロジェクトの中で、セルロース系バイオマスを用いた非硫酸方式の中小規模エタノール燃料一貫製造法を開発してきた。
産総研バイオマス研究センターで開発した独自の手法を実証するために、非硫酸方式の中小規模エタノール燃料一貫製造ベンチプラント(1回処理量200kg木材)を建設した。
このベンチプラントでは、非硫酸方式の低エネルギー型前処理技術と糖化・発酵などに係る要素技術を最適化することによって、エタノール収率や廃液処理等で課題のある硫酸を用いることなく独自の手法を基幹とした低コスト・高効率・低環境負荷のプラントプロセスによるエタノール燃料製造を実証しようとするものである。
低エネルギー型の前処理技術として、産総研で開発した水熱処理技術と湿式メカノケミカル処理技術を組み合わせた。この前処理では、セルロース等のバイオマス成分の組織構造をナノメートルレベルで変化させることによりセルロース糖化酵素(セルラーゼ)との接触が改善され、酵素糖化率が大きく向上した。
プロセス全体の経済性に大きく影響を及ぼす酵素糖化工程のコストパーフォーマンスを向上させるため、糸状菌による糖化酵素の生産は、プラント内で行った。用いる糸状菌は、産総研が単離・育種した高セルラーゼ生産菌アクレモニウム・セルロリィティカスなどである。
このように、本ベンチプラントでは、独自技術をベースとして日本のベスト技術を組み合わせ、バイオマス原料200kg/バッチの規模で、原料チップの受け入れから無水エタノールの製造までを行う。
本プラントは、大きく分けて5つの工程、粗粉砕工程、水熱処理工程、微粉砕工程、糖化・発酵工程、蒸留・脱水工程からなる。
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粗粉砕機
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湿式カッターミル
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湿式カッターミル処理物
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水熱処理装置
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湿式ディスクミル
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湿式ディスクミル処理物
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主糖化・発酵タンク |
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一次蒸留装置
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二次蒸留装置・膜脱水装置
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本プラントを設計する上で、特に前処理技術の選定に係る経済性評価を行っている。先行技術である濃硫酸法、希硫酸・糖化法、ならびに非硫酸方式である微粉砕(ボールミルまたは湿式ディスクミル)・糖化法の必要エネルギーを示したものが図2である。
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図2 各前処理技術の必要エネルギー (ただし、熱回収やエネルギー残渣のエネルギー利用は含めない) |
図2では、先行技術である2種類の硫酸法のうち、濃硫酸糖化法は酸回収に必要なエネルギーが全体の2/3を占める。また、希硫酸・糖化法は酸回収が計上されておらず、必要エネルギーは濃硫酸糖化法の半分程度である。これは、処理後の希硫酸を石灰にて中和して石膏にし、そのまま廃棄しているためである。
一方、非硫酸方式の2方法では、硫酸方式に比べて圧倒的に前処理に係るエネルギーが高い。特にボールミルを用いたプロセスでは、前処理に要するエネルギーが全体の8割近くになる。そしてボールミルの代わりに湿式ディスクミルを用いることにより、必要エネルギーを大きく低減できることが分かったため、湿式ディスクミルを本プラントに採用した。
湿式ディスクミルを用いた前処理技術は、希硫酸・糖化法とほぼ同レベルの必要エネルギーであり、また硫酸を使わないため石膏を排出しない。さらに、現場での酵素生産を採用したことにより、システムの経済性がより一段と向上することが示されている。
外部機関との連携および協力体制の下で、要素技術の評価などを個別に進めると同時に、特にプラントシステム・事業化を担う民間企業との強力で密接な連携によって市場化シナリオや実用化プラントの設計などを実施し、平成23年度以降の実用化プラントの検討を目指す。これによって、海外展開を視野に入れたセルロース系バイオマスを原料とする再生可能エネルギー産業の創出に貢献する。
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図3 研究年度展開
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わが国では、セルロース系原料を安定的に確保できる地域が限定されており、また稲わらのようにある季節に集中して発生するため、大量かつ安定供給の観点からは多種多様なセルロース系バイオマスを幅広く原料とすることが重要である。
本実証試験の中では、エタノール燃料の地産地消型や製造プラントの一部を原料産地に運ぶモバイル型などの製造プラントプロセスを開発し、バイオマス原材料の種類やその集積状況にフレキシブルに対応させることも計画している。
さらに、独立行政法人森林総合研究所と協力して原料供給・利活用モデルを確立するとともに、経済性評価・ライフサイクル評価によるエタノール製造から消費までの種々のコスト削減、あわせて燃料性能評価による高品質・高性能なエタノール燃料の製造を試みる。これによって、セルロース系バイオマスによる再生可能エネルギー産業およびそのプラント産業の創出を図る。
独立行政法人 産業技術総合研究所 広報部 報道室