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発表・掲載日:2008/11/18

二酸化炭素から作るプラスチックの飛躍的改質に成功

-ポリ(プロピレンカーボネート)を複合化して汎用ポリマーに勝る高弾性率を実現-

ポイント

  • 二酸化炭素から作るプラスチックの複合化により2.4 GPaの弾性率を有する高性能材料を開発
  • ポリエチレン、ポリプロピレン等化石資源由来プラスチックの代替材料として普及可能
  • 国内外で大量に排出されるCO2の固定化・利用技術として、地球温暖化対策への貢献に期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ナノテクノロジー研究部門【研究部門長 南 信次】ナノ構造制御マテリアルグループ 清水 博 研究グループ長とLi Yongjin研究員は、二酸化炭素(CO2)を原料とするプラスチック(脂肪族ポリカーボネート)に他のプラスチックをブレンド、複合化することにより、実用には程遠かった弾性率や強度などの力学的性能を大幅に向上させることに成功した。脂肪族ポリカーボネートのうち、特に、CO2とプロピレンオキシドから作られるポリ(プロピレンカーボネート)(PPC)を、他のプラスチックと複合化することで、弾性率 2.4 GPa、強度17.9 MPaという優れた力学的性能をもつプラスチックを開発した(図参照)。複合化PPCは、力学的性質だけでなく耐熱性も向上した高性能材料であり、今後ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の石油資源から作られている汎用プラスチックを代替していくことが期待される。

 PPCはCO2から製造すると、その重量の43%はCO2が固定化された材料となる。高性能化のために他のプラスチックを少量複合化する必要がありCO2の重量は約30%となるものの、この複合化PPCは汎用プラスチックに比べるとCO2排出量削減の見地から有利である。国内でも発電所ならびに製鉄所から排出されるCO2は年間5億トンレベルに達しており、CO2の隔離・固定化技術の確立が早急に求められている。今回開発した複合化PPCが汎用プラスチックに代わって広く利用されることで、地球温暖化対策への貢献や、石油資源への依存度の低減化につながると期待される。

PPC、複合化PPCおよび汎用プラスチックの弾性率の図
図 PPC、複合化PPCおよび汎用プラスチックの弾性率

開発の社会的背景

 二酸化炭素(CO2)からプラスチックをつくるスキームは40年も前に 井上 祥平 教授(現東京理科大学)が発見したものであるが、昨今、地球温暖化対策としてCO2を固定化・利用する材料及び技術として注目されている。現在、脂肪族ポリカーボネートの技術開発に関しては、国内では基礎研究レベルに留まっているが、中国では国家予算を投入して各地にPPC製造のパイロットプラントが作られ、すでに工業化のレベルでPPCの大量生産が始まっている。しかしながら、現時点では、生産されているPPCの力学的性能は実用化には程遠く、外観もプラスチックというより“べとべとした柔らかいゴム”のような物質であるため、大幅な性能改善が必要とされている。

研究の経緯

 産総研は非相溶性高分子ブレンドの混合をナノメートルレベルで実現できる“高せん断成形加工法”(2006年7月11日プレス発表)の開発など、プラスチック材料同士のナノメートルレベルでの混合化やカーボンナノチューブ等のナノメートルサイズの粒子やフィラーを樹脂に分散させる技術の開発を行ってきた。

 今回、PPCの力学的性能を大幅に改善するために、どのような複合化が有効かを検討した。この材料の基本コンセプトからも、複合化するPPCにおいて材料に占めるCO2重量を30%前後に維持することを目標とした。第2成分、第3成分となる脂肪族ポリエステルを添加して、複合化PPCの微細構造を制御することにより、力学的性能の大幅な向上を目指した。

研究の内容

 今回試料として用いたPPCの重量平均分子量(Mw)は447000に達しているが、そのガラス転移温度(Tg)は30℃と低い。また、200℃で熱分解してしまう極めて耐熱性に劣る高分子である。外観は透明なゴム状で粘着性があり、放置しておくと試料同士がくっついてしまい、実用には耐えない高分子である。

 このPPCに、脂肪族ポリエステル(X)を添加して複合化した高分子ブレンドを作製した。さらに、この第2成分の高分子(X)の他に、第3成分の脂肪族ポリエステル(Y)を少量添加(2~20 wt%)した複合化PPCを作製した。

 図1に今回開発した様々な組成の複合化PPCの応力-ひずみ曲線を示す。また、応力-ひずみ曲線や動的粘弾性測定から得られた弾性率等の性能を表1に示す。比較のために、汎用プラスチックである低密度ポリエチレン(LDPE)とポリプロピレン(PP)の性能も示した。

 PPC自体は弾性率が極めて小さく、破断伸び(%)が大きい(図1曲線1)というゴムのような特徴を示している。このPPCと脂肪族ポリエステル(X)を複合化した高分子ブレンドでは(混合比70:30)、図1曲線2のように、破断伸びはわずかに低下するものの、弾性率を約15倍も向上させることができた。この第2成分の脂肪族ポリエステル(X)に加えて、さらに別の脂肪族ポリエステル(Y)を添加した高分子ブレンドでは、ある最適組成のところで弾性率が24倍に向上した(図1曲線5)。複合化によってガラス転移温度(Tg)が10℃近く高くなり、耐熱性も大幅に改善されている。

 このような力学性能の向上は、複合化PPC試料の内部構造によるもので、複合化PPCの組成がPPC/X/Y=70/30/5の時に最も微細な構造が形成されるためと考えられる。

PPCおよび複合化PPCの応力-ひずみ曲線の図
図1 PPCおよび複合化PPCの応力-ひずみ曲線
【1:PPC 単体、2~5:複合化PPC(2:PPC/X=70/30、3:PPC/X/Y=70/30/2.5、4:PPC/X/Y=70/30/10、5:PPC/X/Y=70/30/5)】

表1 室温(25℃)における力学的性能などの比較
試料
弾性率(MPa)*
強度(MPa)
破断伸び(%)
ガラス転移温度Tg (℃)*
PPC
PPC/X=70/30
PPC/X/Y=70/30/5
101
1564
2431
4.8
8.4
17.9
578
391
322
30.4
36.7
39.8
低密度ポリエチレン
ポリプロピレン
142
979
16.6
26.1
616
1077
-128
-0.1
(表中、*印のついたものは動的粘弾性測定、無印のものは応力-ひずみ測定による結果を示す)

今後の予定

 今後、複合化PPCの更なる性能改善を進めるとともに、汎用的な構造材料の分野だけでなく、透明性を生かしたフィルム材料分野やガスバリアー性を生かした包装材料分野へと展開し、実用材料としての評価を行っていく。そのため、関心のある企業には積極的に技術移転を行っていく予定である。


用語の説明

◆脂肪族ポリカーボネート
ポリカーボネートのうち、主鎖に脂肪族を含むもの。二酸化炭素(CO2)から作ることができるので、CO2を固定化・利用する材料及び技術としてクローズアップされている。下記のスキームのように、CO2とエポキシドとをジエチル亜鉛を触媒として反応させることで、脂肪族ポリカーボネート(APC)が合成される。[参照元へ戻る]

脂肪族ポリカーボネートの構造図


参考文献
1) S. Inoue et al., J. Polym. Sci., Polym. Lett. Ed., 7,287 (1969).
2) S. Inoue et al., Makromol. Chem., 130, 210 (1969).

◆弾性率
応力とひずみとの比であり、弾性率=(応力/ひずみ)の関係がある。弾性率の値は金属などで大きく、プラスチックでは小さいので“剛さ”の目安となる。プラスチックも材料によって固有の弾性率は大きく変化する。ゴムなどは柔らかいので、弾性率は小さいが、剛直な構造の主鎖を持つプラスチックでは、弾性率はそれらよりも数十倍も高い値を示す。[参照元へ戻る]
◆ポリ(プロピレンカーボネート)(PPC)
下記のスキームに示されるようにCO2とプロピレンオキシドとの反応で得られる脂肪族ポリカーボネートの1種。[参照元へ戻る]

ポリ(プロピレンカーボネート)の構造図

◆CO2の隔離・固定化技術
CO2の増加を主原因とする地球温暖化の対策としてCO2の地中・海洋隔離等が検討されている。しかしながら、それらの技術には貯留地点での貯留可能性や貯留に伴うリスク、環境への影響等を詳細に検討することが求められている。従って、我が国においては技術開発というよりはむしろ社会的な信頼を獲得することに重点が置かれている。[参照元へ戻る]
◆非相溶性高分子ブレンド
異種高分子を混合して高分子ブレンドを作製するのは、困難な場合が多い。互いに溶け合う場合(相溶性がある)であれば、混合した方がエネルギー的に有利なので容易に作製できる。しかし、異種高分子を混合するとエネルギー的に不利なことが多く、分子鎖が相互に混ざらない(非相溶性)。非相溶性高分子ブレンドでは、それぞれの高分子鎖がお互いに排除し合うため、数µmから数十µmのかたまり(相)に成長し、いわゆる相分離した構造を形成する。[参照元へ戻る]
◆高せん断成形加工
従来の成形加工機ではスクリュー回転数はせいぜい300rpm程度(相当するせん断速度は100 sec-1以下)であった。産総研で開発した高せん断成形加工機は最高3000rpmのスクリュー回転数(最高せん断速度は4400 sec-1)の安定した出力が可能である。また、フィードバック型スクリューを採用することで、原料を長時間高せん断流動場下で混練後、成形加工できる。
産総研では、この高せん断成形加工法を用いて従来は不可能であった非相溶性高分子ブレンドのナノメートルレベルでの混合化に成功している。[参照元へ戻る]
◆重量平均分子量(Mw)
一般的に合成高分子は分子量の異なった混合物からなり、分子量に分布がある。実験によって測定されるのは高分子の分子量の平均値であり、測定法によって得られる平均値の種類が異なる。
数平均分子量Mnは、分子の個数についての平均であり、末端基定量法や浸透圧法などで測定される。これに対して、高分子量成分の寄与を重視した重量平均分子量Mwは、重量分率による分子量の平均であり、光散乱法を利用して求められる。重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)は、分子量分布の広がりの目安となる。[参照元へ戻る]
◆ガラス転移温度(Tg)
高分子(プラスチック)は、液体状態では高分子の主鎖が盛んに動いている(ミクロブラウン運動)。しかし、冷却するにつれて運動が減少して、やがて凍結したとみなせる“ガラス状態”となる。分子量が大きくなると、ガラス転移の転位温度(Tg)は一定とみなすことができ、物質定数のように扱われる。構造の似た非晶性の高分子などではTgが耐熱性などの目安として比較される。[参照元へ戻る]
◆応力-ひずみ曲線
物体に力が作用すると変形する。力の大きさは、それが作用する面の面積で割った応力(stress)で表し、変形の大きさは変形した量を元の寸法で割ったひずみ(strain)で表す。応力-ひずみ曲線は応力(stress)とひずみ(strain)との関係を表す曲線(略してS-Sカーブ)であり、通常、引張応力とひずみの関係を意味することが多い。試料を均一な速度で伸ばし、試料が破断するまで、伸びと力とを同時に測定する。一般的には、応力-ひずみ曲線の測定から、その物質が硬い(あるいは脆性)とか粘り強い(延性)という性質がわかる。特に、試料が破断するまでの伸びの大きさ(%)を“破断伸び”といい延性の目安となる。[参照元へ戻る]
◆動的粘弾性測定
高分子(プラスチック)材料は、弾性と粘性とを合わせ持つため変形の際に、粘弾性的挙動を示す。ある周波数で力を加えながら測定する粘弾性を動的粘弾性という。温度を変化させながら、動的粘弾性を測定することで、高分子の側鎖の運動、主鎖の局所的な運動、主鎖のミクロブラウン運動、結晶内分子鎖の運動などの分子運動を観測することができる。[参照元へ戻る]
◆破断伸び
応力-ひずみ曲線の項を参照のこと。破断伸びが大きいものは、粘り強い性質を持った材料ということになる。[参照元へ戻る]

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