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発表・掲載日:2006/07/11

異種高分子をナノ分散・混合する技術を開発

-高せん断成形加工により非相溶性高分子ブレンドを高性能化-

ポイント

  • 高せん断流動場だけを利用して、添加剤を使わない新規な成形加工法を開発。
  • 高せん断成形加工による非相溶性高分子ブレンドの混合により、分散相サイズを従来より一桁以上改善したナノ分散化が可能に。
  • 強誘電性高分子ブレンドの高性能化により自在曲面・大面積の圧電素子(水中ソナー、遮音材)等の材料開発に有効。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ナノテクノロジー研究部門【部門長 横山 浩】ナノ構造制御マテリアルグループ 清水 博 研究グループ長らは、高せん断流動場を用いる「高せん断成形加工法」を開発し、ナノ分散化した構造をもつ非相溶性ポリマーブレンドの成形加工に成功した。この方法により、従来、ナノレベルで混ぜ合わすことのできなかった非相溶性のポリフッ化ビニリデン(PVDF)とポリアミド11(PA11)とを添加剤を使わずに混合し、十~数十nm(ナノメートル:10億分の1メートル)のサイズのPA11がPVDF中に均一に分散しているブレンドを作製できた(図1)。

 従来、相溶性のないポリマーのブレンドでは、添加剤などを用いることでナノ分散化させていたが、添加剤が不純物や欠陥の原因となり、実用上の問題となっていた。一方、機械的な混合だけでは、非相溶性ポリマーブレンド系の分散相のサイズには限界があるとされていた。今回、高せん断成形加工法により、添加剤を使わずに、その限界を一桁以上、上回るナノ分散構造を世界で初めて実現できた。また、このようなナノ分散構造により機械的特性等が著しく向上することも分かった。本加工法を用いることによりポリマーブレンドだけではなく、カーボンナノチューブ等の無機分散剤を添加する際にも良好な分散が可能となり医薬品・化粧品等にも適用可能と考えられる。さらに高せん断流動場下で混合と同時に架橋反応させることで新規のエラストマー創製への応用も期待される。

高せん断成形加工により作製したPVDF/PA11ブレンドの電子顕微鏡写真
図1 高せん断成形加工により作製したPVDF/PA11ブレンドの電子顕微鏡写真
【PVDFマトリクス(写真の白地部分)に直径十~数十nmのPA11(黒く染色された部分)が均一かつ密に混合分散している。】


開発の社会的背景

 高分子材料は広範な産業分野において機能材料や高性能材料として、さらには基盤材料として利用されている。しかしながら産業界の多様なニーズに対しては単一の高分子材料で応えることができず、最近はブレンド、アロイ、コンポジットといった多成分化することで高性能化が図られている。しかしながら、多くの実用的な高分子どうしは分子レベルでは混ざらない(非相溶性)ため、それらを溶融させて機械的に混ぜてもすぐに相分離してしまい、分散相のサイズが数~数十マイクロメートルにもなってしまう。このため、材料物性向上を期待してブレンド化しても、期待される物性が得られないでいた。ブレンド化に際して相容化剤を混合する手法や、高分子末端を界面で反応させて相溶化を図る技術(リアクティブプロセシング)も開発されてきたが両者とも技術的な限界があった。特に、相容化剤等の余分な添加剤を加えて混合したものは、例えば電子材料では添加剤が不純物や欠陥となり性能向上への大きな障害となっていた。またリアクティブプロセシング法では副反応により物性が低下してしまう問題点が指摘されていた。

研究の経緯

 産総研は高せん断流動場の利用だけで非相溶性高分子ブレンド系のナノ分散化を実現するため、単純かつクリーンな技術の基盤研究を進めてきた。独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ナノテクノロジープログラム「精密高分子技術」プロジェクト(平成13年~16年度)において高分子ブレンド系に外部場を加えた状態で“その場”相挙動解析を行い、その観測から高せん断流動場により非相溶性高分子ブレンドのナノ分散化が実現できると予想した。従来市販されていた成形加工機では、十分なせん断速度が得られないため、1000sec-1 以上の高せん断速度を発生できる成形加工装置を機械加工メーカーの株式会社 井元製作所と共に開発してきた。

研究の内容

高せん断成形加工機の写真
図2 高せん断成形加工機

 高せん断成形加工機(図2)は最大スクリュー回転数3000rpm時に4400sec-1のせん断速度が得られる。また、フィードバック型スクリューの採用により高速でスクリューを回転させながら混練時間を任意に設定可能であることを大きな特徴としている。換言すれば、この成形機では試料を高せん断流動状態で長時間滞留させることができる。非相溶性のPVDFとPA11のブレンドに適用したところ、直径十~数十nmのPA11相がPVDFマトリクス中に均一に分散しているポリマーブレンドの作製に成功した。ナノ分散構造により、性能も飛躍的に向上している。例えば、図3にPVDF/PA11=80/20ブレンド系の応力-ひずみ曲線を示す。曲線aに示されるように従来法で成形加工したブレンド試料では伸びが良くない。これに対して高せん断成形加工法により作製した試料では直径数十nmレベルのPA11相がPVDF中に入り込んでいるため、曲線bで示されるように伸びが著しく改善され、aの5倍以上の伸びを示すことが分かった。

PVDF/PA11=80/20ブレンド系の応力-ひずみ曲線図
図3 PVDF/PA11=80/20ブレンド系の応力-ひずみ曲線
a:従来法で成形加工したPVDF/PA11=80/20ブレンド、
b:高せん断成形法で作製したPVDF/PA11=80/20ブレンド

 もともとPVDF/PA11ブレンド系は強誘電性ポリマーどうしのブレンドであり、ナノ分散構造により優れた強誘電性が期待される。表1には従来法ならびに高せん断成形加工法により作製したPVDF/PA11=90/10ブレンドの強誘電性ヒステリシス(D-E曲線)における残留分極値(Pr:電界E = 0のときの電気変位Dの値)を示す。本来、PA11単体のPrはPVDF単体(Pr= 76)の半分程度であり、単純に考えればPA11がブレンドされたことにより平均化されて性能が低下してしまうと予想されるが、高せん断成形加工によりナノ分散化したブレンド系ではPVDF単体に匹敵、もしくはそれを凌ぐ性能を示すことが分かった。さらに表1からも明らかなように、従来法で作製したブレンド試料に比べ、高せん断成形加工法により作製した試料では、3~4倍の残留分極値を示すことが分かった。この違いはブレンド試料の加工時におけるナノ分散構造が形成できるかどうかに起因している。このように、高せん断成形加工法を用いてPVDF/PA11ブレンドを作製することにより、ナノ分散構造が形成されただけでなく、PVDF単体の強誘電性を維持しつつPVDFの大きな短所であった接着性や伸び等の機械的特性が著しく改善され、新規の高付加価値材料を創出することができた。なお、強誘電性の評価については学校法人 東京理科大学 理学部 化学科 古川 猛夫 教授の研究室との共同研究の成果である。

表1 従来法と高せん断成形加工法により作製したPVDF/PA11=90/10
ブレンドの強誘電性ヒステリシスにおける残留分極値の比較
残留分極値
従来法により作製したブレンド試料 高せん断成形加工法により作製したブレンド試料
Pr(mC/m2)
20 ~ 30 75 ~ 91

今後の予定

 今後、高せん断成形加工法を多様な高分子ブレンド系に適用し、相溶化、ナノブレンド化による新規材料創出を目指す。さらに、クレイ(層状ケイ酸塩)やカーボンブラック、カーボンナノチューブ等の充填材の分散性を良くするのに高せん断流動場が極めて有効であるためナノコンポジット材料創製技術としても展開していく。特に、相容化剤等の余分な添加物を一切使用せずにナノレベルの分散化が図れるためクリーンな手法として医薬品・化粧品等の製品製造にも展開可能である。高せん断流動場と動的架橋等反応場とを同時に与える手法としても利用できることから、エラストマー等の創出にも活用していく。ニーズの明確な企業等との共同研究を通じて、新規材料の創出から実用化までを目指す。



用語の説明

◆高せん断流動場
せん断流動はずり流動とも呼ばれ、固体状態の物体に応力を作用させると“変形”するように、液体状態にある物体に応力を作用させると“流動”する。物体として特に高分子(ポリマー)を溶融させた状態で応力が作用すると、せん断流動や伸長流動が生じ、高分子鎖やその集合体は応力の作用方向やそれに対して垂直な方向に配列するようになる。このせん断流動をより強くしていくと高分子鎖の絡み合いがほぐれてくるので際立った変化が期待される。せん断流動場の大きさの目安としてせん断速度(S)がある。[参照元へ戻る]
◆高せん断成形加工法
従来の成形加工機ではスクリュー回転数として300rpm程度までしか出せず、相当するせん断速度は100 sec-1以下であった。高せん断成形加工機ではスクリュー回転数として最高3000rpmまで安定して出力でき、そのせん断速度としては(回転数)×1.47 sec-1の出力が可能である。即ち、最高せん断速度としては4400 sec-1にも達する。特に、当該高せん断成形加工機においてはフィードバック型スクリューを採用しているので混練時間を任意に設定することが可能であり、原料を長時間高せん断流動場下で混練することが可能となった。即ち、従来型の成形加工機に比べ40~50倍も大きなせん断速度を付与しているだけでなく、長時間高せん断流動場下に滞留させることができることを大きな特徴としている。[参照元へ戻る]
◆非相溶性ポリマーブレンド
異種ポリマーどうしを混合してポリマーブレンドを作製する場合、水とアルコールとを混合するのとは異なり、非常に困難な場合が多い。それは、水とアルコールは分子レベルで混合するので、この系では混合した状態の方がエネルギー的に低く有利なので、相互に溶解している。これを相溶性があるという。高分子の場合には混合しても熱力学的に不利な(混合した方がエネルギーが高い)ことが多く、異種高分子の分子鎖どうしが相互に混ざることは無く、ほとんどのポリマーブレンドは非相溶性である。非相溶性ポリマーブレンド系では、それぞれの高分子鎖がお互いに排除し合いながら集合するため大きなかたまり(相)に成長し、いわゆる相分離した構造を形成する。通常、相分離した構造ではそれぞれの相のサイズは数µmから数十µmとなる。小数の限られた組み合わせの高分子ブレンド系においては相溶性ポリマーブレンドが報告されているが、それらブレンドでは水素結合等特殊な相互作用が働くことにより分子鎖レベルで相互に混合している。[参照元へ戻る]
◆添加剤
ブレンドを構成する成分ポリマーの両方もしくは一方と親和性のある、界面活性剤的な役割をもつ添加剤を加えることにより両成分ポリマー間での界面張力が低下し、その結果として分散相のサイズを小さくすることができる。ここで用いられる添加剤を“相容化剤(コンパティビライザー)”と呼んでいる。元々熱力学的に相溶しないため、相容化剤と呼んで明確に区別されている。[参照元へ戻る]
◆架橋反応
高分子は、通常原子が線状に長く連なった形であるが、そのような線状の分子の間を、ちょうど橋を架けるようにつないで、網目状にして性質を変えることがある。これを架橋という。架橋のしかたにはいくつかあるが、化学反応で分子と分子の間に化学結合を作るやり方がある。この際の反応を特に架橋反応とよぶ。[参照元へ戻る]
◆エラストマー
熱可塑性エラストマーは熱可塑性樹脂の性能とゴム弾性とを併せ持つ材料で近年注目されている材料である。エラストマーはゴム相がマトリクスとなる樹脂中に分散している構造であるが、ゴム相が樹脂中においてナノレベルで分散することにより性能・機能が著しく向上することが分かってきた。また、エラストマーを作製する場合には、架橋剤を加えてゴムを樹脂中で架橋反応させるプロセスが必要となる。このプロセスは反応を伴うので、これを高せん断流動場下で行うことにより反応の促進と同時に、いわゆる樹脂/ゴムブレンド系の構造の微細化が期待できる。つまり高せん断流動場と反応場とを同時に与えることでナノレベルの微細構造を制御し、それらナノ構造に由来する性能向上により新規なエラストマーを創製することができる。[参照元へ戻る]

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