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発表・掲載日:2005/02/22

カーボンナノチューブを配向させて偏光発光性フィルムを開発

-高品質薄膜の実現でカーボンナノチューブの機能解明と実用化を加速-

ポイント

  • 単層カーボンナノチューブは極めて凝集しやすく、従来、チューブが一本ずつに分離した薄膜を作製することは極めて困難であった。
  • 今回、ゼラチンフィルムを分散媒体として用いることにより、チューブが一本ずつ均質に分散し、しかも一定方向に配向した薄膜を作ることに成功した。
  • チューブの配向効果により、この薄膜は強い光学的異方性(偏光吸収・偏光発光・複屈折)を示す。このようなナノチューブ薄膜の実現は世界的に類例のないものであり、カーボンナノチューブの光・電子機能開拓へ向けて大きな寄与をなし得る成果である。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ナノテクノロジー研究部門【部門長 横山 浩】は、単層カーボンナノチューブを配向させて偏光発光特性を持つ薄膜を開発した。

 単層カーボンナノチューブ(以下「SWNT」という、Single-wall Carbon  Nanotubeの略)を様々な用途に用いるためには、高品質薄膜を実現することが重要であるが、これまでのSWNT薄膜化手法では、チューブ同士が凝集して束になるのを防ぐことができなかった。束になるとチューブ間の強い電子的相互作用のため、SWNTが本来有している半導体としての機能、特に発光機能や光電変換機能を発揮させることができないという大きな問題があった。

 今回、生体高分子の一種であるゼラチンを分散媒体として用いることにより、チューブが一本ずつ均質に分散した薄膜を形成し、更に延伸処理によって、孤立SWNTが一定方向に配向した薄膜を作ることに成功した【写真参照】。この薄膜に、(偏光していない)可視光を照射すると、チューブの配向方向に強く偏光した近赤外域の発光が観測された【図1参照】。光るSWNT薄膜はこれが初めてのものであるが、それに更に偏光という新たな特性を賦与したことによって、今後、SWNTの光・電子機能開拓や電子物性解明に大きな弾みを与えるものと期待される。

 本成果は、米国物理学会発行のApplied Physics Letters 2月14日号に掲載された。
Highly polarized absorption and photoluminescence of stretch-aligned single-wall carbon nanotubes dispersed in gelatin films」, Y.Kim, N.Minami, and S.Kazaoui,Appl. Phys. Lett. 86, 073103 (2005).

延伸したナノチューブ分散ゼラチン薄膜の写真  
今回作製された薄膜の偏光発光特性図

写真 延伸したナノチューブ分散ゼラチン薄膜

 

図1 今回作製された薄膜の偏光発光特性
配向ナノチューブ薄膜に偏光していない可視光を照射すると、偏光した発光が近赤外域に生ずる。すなわち、偏光方向がチューブの配向方向に平行(//)か垂直(⊥)かにより発光強度が大幅に異なる。



研究の背景

 単層カーボンナノチューブ(SWNT)はグラファイトシートをクルッと丸めた筒状の構造を持つが、シートをどの方向に丸めるかによって、金属になったり半導体になったりするという極めてユニークな性質を持つ。また、炭素という単一元素から成る物質でありながらチューブの太さに依存してエネルギーギャップの大きさがほぼ連続的に変化する、異方性が大きくチューブの長さ方向と太さ方向とで諸物性が大きく異なる、成分元素がすべて表面に存在する等、他に比類のない特徴を有しており、全く新しいタイプの半導体材料として大きな期待が寄せられている。SWNTを用いた半導体素子としては、これまで電界効果トランジスタ(FET)に関して多くの研究が行われているが、その一方で、半導体の重要な特性である光との相互作用を用いた素子(光電変換、電界発光等)の研究は、ほとんど進展していなかった。SWNTを界面活性剤によって分散した水分散液からの発光は以前から知られていたが、薄膜にするとチューブが凝集して発光機能が失われ、薄膜としての光・電子機能を調べることが困難であった。

 産総研 ナノテクノロジー研究部門では、「SWNTの持つユニークな光・電子機能を実用化に結びつけるためには、まず光るSWNT薄膜を実現することが絶対に必要である」という観点から、過去3~4年間にわたって研究を進めてきた。

研究の経緯

 同研究部門では、これまでにラングミュア・ブロジェット(LB)法を用いて、SWNTが配向した均質薄膜の形成に成功している(AIST Today 2002年10月号掲載、Japanese Journal of Applied Physics Part 1, 2003年12月号掲載、2004年7月特許登録済み)。しかし、LB法は一層ずつ累積できるという利点がある一方で、原料の合成過程でチューブ同志が強く凝集してしまうため、半導体SWNT本来の光・電子機能を発揮させることができなかった。

  SWNTの集合体としての光・電子機能を活用するためには、チューブを孤立させた上でその方向を揃えることが重要であり、本研究では、分散媒体であるゼラチンフィルムが延伸可能なことを利用してチューブの配向を実現したものである。

研究の内容

 本研究では、ゼラチン水溶液に原料SWNTを分散させ、その分散液からフィルムを作るという極めて簡便な方法で、孤立SWNTが均質に分散した薄膜を形成することができた【図2参照】。ゼラチンフィルムは写真感光体の優れた分散媒体として100年以上にわたって使われており、今回の方法もそのような特性を利用したものである。特に、SWNTの凝集防止という点では、ゼラチン溶液のゲル化が重要な役割を果たしている。すなわち、ゼラチンの温水溶液を放置・冷却すると、40℃付近で流動性のある状態(ゾル)から無い状態(ゲル)へ変化(食用ゼリーを作るのと同じ原理)し、これによって分散したSWNTの動きが凍結され、その後の膜が乾燥する過程で起こるチューブの凝集を防止できたものと考えられる。

 今回作製された薄膜は光学的に均質で、可視光を照射すると近赤外域にSWNT特有の発光が観測された。これは半導体SWNTのバンド間光学遷移に由来するものである。チューブが凝集した薄膜では、チューブ間相互作用のために発光機能が失われていたが、この製膜手法によれば、ゼラチンの分散作用によりチューブ同士が孤立しているため、光るSWNT薄膜を実現することができた。更にこの薄膜を延伸することによりSWNTを一定方向に配向することを試み、これに成功した。実際にチューブが配向していることは、光学的異方性の測定(偏光吸収特性、偏光発光特性、複屈折)によって確認した【図1・3・4参照】。SWNTがランダムな方向を向いていると、このような特性の発現はみられない。

基板上にSWNT/ゼラチン分散水溶液をキャストの図 乾燥の図 剥離の図 アルコール中で膨潤の図 機械的に延伸の図
基板上にSWNT/ゼラチン分散水溶液をキャスト
乾燥
剥離
アルコール中で膨潤
機械的に延伸
図2 ナノチューブをゼラチンの中に分散して配向膜を作る手順

今回作製された薄膜の偏光吸収特性図
図3 今回作製された薄膜の偏光吸収特性
配向ナノチューブ薄膜は、偏光方向が、延伸方向に平行(//)か垂直(⊥)かによって光吸収強度が大きく異なる。

カーボンナノチューブの光学的異方性の図
図4 カーボンナノチューブの光学的異方性
ナノチューブは異方性が大きいため、偏光方向(光の振動方向)によって光学特性が大きく異なる

今後の予定

 現在のところ、SWNT薄膜からの発光は微弱であるが、これがSWNT本来の性質なのか、それとも工夫によって発光効率を向上できるのかを明らかにすることは、光機能応用を目指す上で極めて重要な課題である。

 また、これは同時に、SWNTの基礎電子物性解明という点でも未解決の課題である。これまでは光るSWNT薄膜そのものが存在しなかったため、このような研究自体が不可能であったが、今回の成果により基礎・応用の両面で、新たな研究アプローチを切り拓くことができたといえる。

 今後、研究の進展により強く光るSWNTが実現すれば、様々な光・電子機能素子の開発につながるものと期待される。一例として、発光波長が制御できる近赤外発光素子や広い感光波長域を持つ近赤外光電変換素子等が実現すれば、光通信の分野で利用できる可能性があり、更に、nm(ナノメートル:1nmは10億分の1m)サイズの極微小近赤外光源として利用できる可能性もある。また、本薄膜形成技術は、SWNTを用いたガスセンサーの開発にも利用できるものと期待される。



用語の説明

◆単層カーボンナノチューブ
グラファイトのシート1枚を筒状に丸めた構造を有する直径0.4nm~数nmのチューブ状物質。長さは数µm~数100µm(マイクロメートル:1µmは100万分の1m)の場合が多いが、数mmに達するものも作られている。丸める方向によって、金属になったり半導体になったりするという極めてユニークな性質を持つ。直径の異なる複数のチューブが入れ子状になったものを多層カーボンナノチューブという。[参照元へ戻る]
◆チューブ間の強い電子的相互作用
ナノチューブが束になっていると、吸収した光のエネルギーがチューブ間を動き回るようになる。動き回っている間に、エネルギーが熱として放出され、光エネルギーが有効に利用できなくなる。[参照元へ戻る]
◆近赤外域
目に見える光(可視光線)よりも波長の長い光を赤外線と呼ぶが、そのうち可視光線に最も近い波長域の光を近赤外線と呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆エネルギーギャップ
半導体の電子的性質を特徴づける量であり、金属には存在しない。電子が完全に詰まったエネルギー的に低い状態(価電子バンド)と、電子が詰まっていないエネルギー的に高い状態(伝導バンド)の間の分裂の大きさを指す。[参照元へ戻る]
◆バンド間光学遷移
価電子バンドにある電子が光を吸収して伝導バンドに上がること、あるいは、伝導バンドに上がった電子が光を放出して価電子バンドに移ること。半導体のエネルギーギャップが大きい程、吸収あるいは放出される光の波長が短くなるという関係がある。[参照元へ戻る]
◆光学的異方性・偏光
光は波の性質を持ち、光の進行方向に垂直な面の中で振動している。その振動方向が特定の方向に偏っている場合を偏光という。物質の光に対する性質(光吸収、発光、屈折率)が、偏光方向によって変化する場合に、光学的異方性を持つと言う。[参照元へ戻る]


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