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発表・掲載日:2004/05/20

ナノレベルの粒子破砕でセラミックス膜の常温形成に成功!

-機能材料の集積化、窯業プロセスの省エネ化を加速-

ポイント

  • 世界で初めて常温、かつ結合剤を用いずにセラミックス微粒子を固化し、焼結体と等しい電気機械特性のセラミックス厚膜を実現
  • 金属、ガラス、プラスチック基板上に1µmの厚み以上のセラミックス厚膜を高密着力で常温形成
  • セラミックス微粒子の衝突による破砕・変形・活性化が膜の緻密化、固着を促進
  • 機能材料を用いた電子デバイスや半導体関連部材、耐磨耗性機械構造部材の開発を加速、常温プロセスにより窯業プロセスの省エネルギー化へも期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)先進製造プロセス研究部門【部門長 神崎 修三】は、東陶機器株式会社【代表取締役社長 木瀬 照雄】(以下「TOTO」という)総合研究所【所長 佐伯 義光】と共同で、エアロゾルデポジション法(以下「AD法」という)を利用して、サブミクロン粒径のα-アルミナ微粒子を基材に吹き付け、焼結することなく常温で金属基板上に固化させ、バルク焼結体と等しい電気機械特性を持つ1µm( 1マイクロメートル:100万分の1メートル)以上のセラミックス厚膜を形成することに成功した。また、産総研では、この様なα-アルミナ微粒子の常温固化によるセラミックス厚膜の形成は、α-アルミナ微粒子が基材に吹き付けられた衝突時の温度上昇による表面熔融ではなく、粒子の破砕現象による微結晶粒子の変形と新生面形成による表面活性化が支配的である事を明らかにした。表面の硬さや耐薬品性などの表面機能を主に用いる窯業製品において、従来必要とされてきた1000℃以上の焼結工程を必要としなくなり、飛躍的な省エネルギー効果が期待できる。

 TOTOでは、200mm四方の面積に均一な製膜を実現【図1参照】しており、実用化の対象として、液晶パネルや半導体などの製造装置部品や、電子基板などへの応用を検討している。

 この様なAD法を利用したセラミックス微粒子の常温固化によるセラミックス膜の形成は、常温衝撃固化現象と名づけられ、これまでも産総研で圧電セラミックス材料であるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などで確認されてきた。

 産総研とTOTOは、共同で研究を推進し、原料微粒子の粒径分布、機械特性に注目し詳細な検討を重ねたところ、α-アルミナ微粒子の常温固化によるセラミックス厚膜の形成に成功し、バルク焼結体に相当するビッカース硬度ヤング率絶縁破壊強さ体積抵抗率誘電率を達成した。形成された膜は緻密でナノスケールの微結晶組織になっている【図1参照】。

エアロゾルデポジション法により金属基板上に常温形成されたα-アルミナ厚膜とその結晶組織の図

図1 エアロゾルデポジション(AD)法により金属基板上に常温(室温)形成されたα-アルミナ(Al2O3)厚膜とその結晶組織。
右上のリング状のパターンは、形成された膜の電子線回折像で、膜が周期的な結晶構造をもっている場合に現れる。膜がアモルファス(非結晶質)で無いことの証明。

研究の背景

 一般にセラミックス材料は1000℃以上で焼き固める(焼結)のが常識であり、このため融点が低い金属やガラス、プラスチックとの複合化、集積化が困難で、セラミックス電子部品の高性能化や構造部品の軽量化の大きな課題となっていた。これまでもエネルギー消費の低減や金属、ガラス材料などと集積化することで新しい機能部品を実現するため、この焼き固める温度(焼結温度)を下げる試みが様々な研究者の間で検討されている。

 この焼結温度を下げるには、1000℃以下の温度で熔融結合を促進する材料(焼結助剤)をセラミックス原料に添加したり、セラミックス原料粒子径をナノオーダーまで微細化することが検討されてきたが、一般に焼結温度の低減は、900℃程度が限界であった。また、多くの場合これらの低温で焼結した低温焼結体の特性は従来の高温で焼結した焼結体に比べ、密度は低く、機械的に脆い、絶縁性が低い、耐蝕性が低いなど、その電気的、機械的、化学的特性は劣っていた。

研究の経緯

 産総研 先進製造プロセス研究部門では、AD法を利用したセラミックス微粒子の常温固化によるセラミックス膜の形成に関する研究を、5年前の旧工業技術院 機械技術研究所の時代から、微粒子衝突によるセラミックス材料のコーティング技術として研究開発がなされた経緯があり、このとき圧電セラミックス(PZT)材料で金属、ガラス、シリコン基板上に緻密かつ高透明、高密着力の膜が形成できることを見出し、常温衝撃固化現象と名づけていた。

 本研究開発は、主にこの旧工業技術院 機械技術研究所時代の研究成果を基にし、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 牧野 力】(以下「NEDO技術開発機構」という)が、経済産業省からの交付金を原資として実施する「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発」事業の「衝撃結合効果を利用した窯業プロセスのエネルギー合理化技術に関する研究開発」として、NEDO技術開発機構の委託契約に基づき、窯業製品における機能向上、省エネルギープロセスの実現を目指し、平成13年度から3年間にわたり産総研とTOTOが共同実施してきた成果である。現在、NEDO技術開発機構が、経済産業省からの交付金を原資として実施する、「ナノテクノロジープログラム/ナノ加工・計測技術」に係る「ナノレベル電子セラミックス材料低温成形・集積化技術(平成14~18年度)【プロジェクトリーダー 産総研 先進製造プロセス研究部門 集積加工研究グループ長 明渡 純】」プロジェクトの中でさらなる応用展開を推進中である。

研究の内容

 今回の研究で産総研は、高分解能透過型電子顕微鏡(HR-TEM)による膜の微構造解析、微粒子衝突の計算機シミュレーション、製膜効率の評価や原料粒子の圧縮破壊強度測定などを実施し、サブミクロン粒径の原料粒子(α-アルミナ微粒子)は、基板上に吹き付けられた衝突時の温度上昇による表面熔融を殆ど経ないで、10~30nm(1ナノメートル:10億分の1メートル)前後の微結晶粒子に破砕・変形され緻密なナノ結晶組織【図1、2参照】のセラミックス厚膜が形成されること、また、破砕時に形成された新生面による活性効果が粒子間結合に対し支配的に働くことをつきとめた。【図2】はこの微結晶粒子破砕の様子を実験的に確かめた結果である。鉛などの重い元素を含むPZT(圧電材料)とアルミと酸素などの軽元素からなるα-アルミナ微粒子を混合して基板に吹き付け、常温でPZT/アルミナの混合膜を形成、これを電子顕微鏡(TEM)で組織観察すると、重い元素を含むPZTは黒く、軽い元素からなるアルミナは白く写り、膜内に存在する二つの材料の分布が明るさの違いとして観察できる。この結果、【図2】の左側の断面TEM写真にあるように基板面に平行な方向(基板衝突方向と垂直)に黒い層状のPZTの領域が観察され、この部分の領域がほぼ原料粉末の大きさに一致した。また、このとき膜内の変形した各原料粒子の領域内にも【図1】のTEM写真にあるような粒子径20nm前後のより微細な結晶組織が観察される。以上のことから、【図2】右側のモデル図にあるようにPZTの粒子は基板や膜表面への衝突で破砕・変形し、結晶組織が微細化していることが明らかになった。このため形成されたセラミックス膜は、常温でアモルファス相を殆ど含まないナノサイズの結晶構造体となる。また、この様なAD法を利用したセラミックス微粒子の常温固化によるセラミックス膜形成(常温衝撃固化現象)は、限られたセラミックス材料だけで生じるものでなく、セラミックス回路基板材として注目されている窒化アルミや超伝導材料でもある二硼化マグネシウムなど、窒化物、硼化物などの非酸化物系セラミックス材料でも生じる普遍的な現象であることを明らかにした。

 そこで産総研とTOTOは共同し、上記製膜モデルに基づいて原料粒子の凝集を抑え、純度、圧縮破壊特性、製膜条件を検討し、高温(1300℃以上)でしか焼結できない99.9%純度のα-アルミナ微粒子を焼結助剤や有機バインダー(結合剤)など一切の添加剤を用いず、常温で固化することに成功した。ビッカース硬度:1500~2200Hv、ヤング率:300~350GPa、絶縁破壊強さ:150~300kV/mm以上、体積抵抗率:1.5×1015Ω・cm、誘電率(ε):9.8を達成し、世界で初めて、常温プロセスでバルク焼結体に等しい電気機械特性(バルク焼結体値では、ビッカース硬度:1400~2000Hv、ヤング率:350~380GPa、絶縁破壊強さ:10kV/mm以上、体積抵抗率:1.5×1015Ω・cm、誘電率(ε):9.9~10)のセラミックス厚膜を形成することに成功した。また、セラミックス厚膜はポア(気孔)がなく簡単な研磨を行なうと数nmレベルの平滑性も得られている。TOTOでは、プラズマ耐蝕性の開発にも取り組み200mm四方の面積への均一な製膜【図1参照】にも成功した。

 本研究開発では、窯業プロセスで一般的に用いられる安価なサブミクロン粒径のα-アルミナを原料粒子として用いながら、従来必要とされてきた1000℃以上の焼結工程を必要としなくなり、同時に高温焼結されたバルク焼結体と同等の硬さや電気特性を実現、また、ナノレベルでポアのない緻密性や平滑性を得ることに成功した点で画期的なプロセスと言える。

エアロゾルデポジション法により形成されるPZT/アルミナ混合膜微細組織と粒子破砕による膜緻密化メカニズムのモデル図
図2 エアロゾルデポジション(AD)法により形成されるPZT/アルミナ混合膜微細組織と粒子破砕による膜緻密化メカニズムのモデル

今後の予定

 焼結せずに緻密なセラミックス部品が作れるため、焼き縮みなどの問題がなく、金属部材やガラス材料と高精度な集積、一体化が容易になり、様々な分野への応用展開に結びつくと考えられる。例えば、半導体関連産業や電子部品産業では、絶縁材料や高周波誘電体材料など電子セラミックス部品の回路基板との一体化、部品点数の削減などが強く求められており、本プロセスは携帯電話やパソコンなどの高速化、小形、低コスト化に繋がると期待される。

 また、現在、研究開発が活発なMEMS(微小電気機械システム)などの分野で、プロセス温度の低減により、圧電セラミックスなど機能性酸化物材料を既存の半導体微細加工(Si微細加工)プロセスに導入でき、大幅な機能向上が図れると期待され、その実用化に弾みをつけると考えられる。この様な電子セラミックス分野への応用展開は、現在進行中のNEDO技術開発機構のナノテクノロジープログラム/ナノ加工・計測技術「ナノレベル電子セラミックス材料低温成形・集積化技術」プロジェクトの中で推進していく。

 さらに、従来技術をはるかにしのぐ密着性と緻密性、平滑性が得られるため、耐磨耗性コーティングとして、機械、航空、エネルギー関連分野に、また、生体適合性セラミックス材料の金属部材コーティングを通して、耐久性の高い人工関節や生体インプラントの開発など医療関連分野などに結びつく可能性もある。

 以上のような用途に対して、産総研 先進製造プロセス研究部門では、窯業プロセスにおける高効率化、高機能化の実証を目指して、引き続き研究開発を進める予定である。

 一方、TOTOでは、まず液晶パネルや半導体の製造装置部品として静電チャックやプラズマ耐蝕性の高い部品の高機能化を図り、実用化、製品化を予定している。



用語の説明

◆エアロゾルデポジション法
製膜法の中で液相を用いないドライプロセスの一種。結晶化したセラミックス微粒子をガスと混合・攪拌して煙草の煙のような状態(エアロゾル化)にし、それを減圧下の製膜室に搬送、ノズルを通して基板上に吹き付けて緻密で結晶化した膜を形成する手法。
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◆α-アルミナ
セラミックス材料の一種。酸化アルミニウム(Al2O3)の多形の1つ。化学的に安定で融点が高く(2050℃)、機械的強度が高い、硬度が高い、電気絶縁抵抗が高いなど優れた特性を有する。[参照元へ戻る]
◆セラミックス厚膜
通常、物理蒸着法(PVD)、化学蒸着法(CVD)などで作製される薄膜は、1µm以下の厚みであるが、これに対して、1µm以上の膜厚の作製手法を厚膜技術と呼ぶ。セラミックスの分野では、スクリーン印刷法やグリーンシート法が良く知られる。[参照元へ戻る]
◆圧電セラミックス(PZT)
機能性セラミックスのひとつ。電気エネルギーと機械エネルギーをお互いに変換する機能を有する。圧電セラミックスに電圧をかけるとセラミックスは伸び縮みし、逆に圧力をかけると電圧が発生する。PZTはチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)で圧電セラミックスの一種。[参照元へ戻る]
◆ビッカース硬度
対面角が136°のダイヤモンド正四角錐(ピラミッド型)圧子を一定荷重で試料に押し込み、そのくぼみ(圧痕)の大きさや押し込み深さから材料の硬度を測定する方法。くぼみが大きければ軟らかい試料であり、逆に小さいものは硬い試料である。[参照元へ戻る]
◆ヤング率(圧縮弾性率)
ヤング率とは硬さを表す指数。ある物質を圧縮し、厚みをゼロ(実際にはありえない)とするのに単位面積あたりどれだけ力を掛ければよいかの値。圧縮弾性率とも呼ばれ、この値が大きいほど硬い物質になる。
一般にヤング率は静的(時間で変化する力が掛かっていない状態)な状態での弾性率を表し、動的な値は復素圧縮弾性率と呼ばれる。[参照元へ戻る]
◆絶縁破壊強さ
絶縁破壊電圧とは、絶縁体にかかる電圧がある限度以上になった時に、絶縁体が電気的に破壊し絶縁性を失って電流を流すようになる電圧のことをいう。この絶縁破壊電圧を材料厚みで割った値が絶縁破壊強さになる。単位は(kV/mm)で表し、物質固有の値だが、材料中に気泡が混入した時や、材料が吸湿した場合には値が低くなる。絶縁体としては、絶縁破壊強さが大きいものが望まれる。[参照元へ戻る]
◆体積抵抗率
体積抵抗率は、単位体積当たりの電気抵抗値。つまり、1m3の立方体の互いに向かい合う2面間の抵抗値のことで、単位は(Ω・m)で表される。その他に(Ω・cm)を使うこともあり、この場合、1cm3の立方体での抵抗値を表し1Ω・m =100Ω・cmとなる。
材料全体の抵抗値は体積抵抗率に長さを掛けて断面積で割ると求まる。体積抵抗率は物質固有の値 (物性値) で、同じ寸法で比較した場合には体積抵抗率の大きな物質が抵抗値も大きいということになる。絶縁材料としては体積抵抗率の大きいものが望まれる。[参照元へ戻る]
◆誘電率
誘電率とは分極のしやすさ (蓄える電気量の大きさを示す) のことをいい、絶縁体としての性能を評価する一つの基準となる。
コンデンサーの場合を例にとると、極板間に絶縁体を介在させて電圧を印加した場合、電気は通さないが、分子内で正負の電荷が分離する分極という現象が起こることにより電気を蓄えられるようになる。このとき、蓄えられる電気量は電界の強さと極板の面積に比例して大きくなるが、この際の変化率のことを誘電率という。誘電率が高くなると蓄える電気量も大きくなる。
一般的には、誘電率より比誘電率 (絶縁体の誘電率と真空の誘電率との比) がよく用いられている。比誘電率の値が小さいことが絶縁体に望まれる。[参照元へ戻る]
◆高分解能透過型電子顕微鏡(HR-TEM)
高分解能透過型電子顕微鏡(High Resolution Transmission Electron Microscopy)。高い電圧(数百kV)で加速された電子を数十nm以下に薄くした試料に照射し、試料の内部を通過した電子の影絵から試料のナノオーダー以下の微細構造を分析する装置。結晶組織を原子オーダーで観察でき、格子構造の乱れや結晶粒界の様子などを観察できる。ちなみに高分解能で無い場合は、単にTEMと呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆プラズマ耐蝕性
半導体製造装置などで多用されるプラズマガスなどによるエッチング効果に対する耐性。[参照元へ戻る]
◆MEMS
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システム)。半導体微細加工プロセスを用いてシリコン基板上に微小な歯車やギヤ、ポンプ、ピンセットなどの微小機構と電子回路などを作り込み集積化した微小デバイス。[参照元へ戻る]
◆静電チャック
半導体製造装置などに用いられる試料台。静電気の力でシリコンウエハなどを吸着、固定する道具。本開発ではエアロゾルデポジション法を用いることで吸着力を強化することができ、ガラス材に対しても十分な吸着力が得られるようになった。[参照元へ戻る]

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