発表・掲載日:2004/04/15

人間サイズ2足ロボットの走行基礎実験に成功

ポイント

  • 人間サイズの人間型2足ロボットで走行の基礎実験に成功
  • HRP-2走行脚モジュール【身長127cm、体重31kg】により実現
  • 走行速度は0.16m/s(0.576km/h)、跳躍時間は0.06s


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)知能システム研究部門【部門長 平井 成興】、川田工業株式会社【代表取締役社長 多田 勝彦】(以下「川田工業」という)は、人間サイズ(身長127cm、体重31kg、全12自由度)の人間型2足ロボットHRP-2走行脚モジュール(以下HRP-2LRという)による走行の基礎実験に成功した。

 これまでにも、身長60cm以下の小型の人間型ロボットで、走行を行えるものが開発されていたが、身長120cm以上の人間サイズの人間型2足ロボットでの走行の成功は世界初である。

 体が大きくなると、走行にともなう衝撃力が大きくなるほか、腕をもたないロボットでバランスを維持するため独自の運動パターン生成技術を開発する必要があった。

 研究の分担としては、産総研知能システム研究部門の 梶田 秀司 主任研究員、筑波大学連携大学院生 長崎 高巳 らが動作制御ソフトウェアを担当し、川田工業がHRP-2LRのハードウェア開発を担当した。

  今後は、さらなる走行速度と効率の向上、不整地等への適応などをめざしていく予定である。

走行実験中のHRP-2LRの写真
走行実験中のHRP-2LR

研究の背景

 走行を行えるロボットは1980年代半ばから研究が始まり、米国・日本・カナダ・ドイツ等で開発が進められてきた。これらのほとんどは走行をスムーズに実現するためホッピング遊具のように脚内部に大きなスプリングを組込んでいる。そのため走行は実現できても歩行は得意ではない、非人間型の走行専用のロボットとなっていた。一方、1996年に本田技研工業株式会社【取締役社長 福井 威夫】(以下「本田技研」という)が人間型ロボットP2を発表して以来、日本をはじめ全世界でヒューマノイドロボットの研究が活発化した。その一環として、ヒューマノイドロボットによる走行の実現への興味も高まっている。2003年12月にソニー株式会社【会長兼グループCEO 出井 伸之】(以下「ソニー」という)が小型のヒューマノイドロボットQRIOによる世界初の走行実現を公表したことは記憶に新しい。

研究の経緯

 産総研知能システム研究部門では、ヒューマノイドロボットの機能拡張の一つとして走行制御の研究に取り組んでいる。

 本研究で用いているロボットHRP-2LRは、経済産業省が1998年から5年計画で実施した「人間協調・共存型ロボットシステムの研究開発(Humanoid Robotics Project、以下「HRP」という)」【プロジェクトリーダー 井上 博允(当時東京大学教授、現在日本学術振興会】の一環として開発されたハードウェアHRP-2Lを改造し、軽量化と高速化を図ったものである。HRP-2Lを開発するにあたっては、HRP-1の製作を担当した本田技研が独自に開発した技術を本田技研の特許権を実施することにより利用している。また、HRP-2Lの制御ソフトウェアの一部は、本田技研が独自に開発した技術の特許権を実施することにより利用している。

研究の内容

 今回、使用したロボットHRP-2LRは、身長127cm、体重31kg、12自由度を有する人間型の2足ロボットである。歩行についてはHRPにおいて開発済みのため今回追加したのは走行技術である。

 2脚での移動においては、両足が地面から離れ、宙に浮く瞬間が存在するものが走行と定義されている。HRP-2LRにおいて走行を実現するためには、(1)空中に浮いた状態(空中期)と接地した状態(接地期)の両方を扱える運動パターン生成技術、(2)着地衝撃吸収、および姿勢誤差修正等を行うための安定化制御技術の2つが必要である。(1)に関してはロボット全体の運動量と空中期と接地期の各運動量を正確に設定できる「分解運動量制御」と呼ぶ手法を新たに開発することで解決した。この手法をHRP-2LRに適用すると腕なしで空中期のバランス維持を行うため、胴体がすばやく屈みこむパターンとなる。(2)については胴体に内蔵されたジャイロ、加速度計、および足部に内蔵された力センサの情報をもとに着地の瞬間の衝撃を吸収し、接地期に胴体の姿勢誤差の修正等を行う制御ソフトウェアを開発した。類似のソフトウェアは歩行でも用いられるが、衝撃吸収と姿勢誤差修正の機能を強化したソフトウェアを走行用に新たに開発した。

 現在、実現しているのは接地期0.3s、空中期0.06sで平均速度0.16m/s(時速0.576km)程度のごく遅い「ジョギング」風の走行である。体重31kgのロボットが床に着地する瞬間には100kgfを超える衝撃が作用するが、安定な走行を実現できている。人間のジョギングでは体重の約2.5倍程度の衝撃力が作用するのでほぼ同レベルの衝撃と言える。

今後の予定

 現状は「とりあえず」人間サイズの人間型2足ロボットで走行が可能なことを確認したにすぎない。今後、さらなる走行速度と効率の向上、不整地等への適応などをめざしていく予定である。


用語の説明

◆人間型ロボットによる走行の実現
2003年12月にソニーが発表したQRIO(身長58cm、体重7kg)による走行が人間型としては最初。非人間型で走行に特化したものとしては1980年代に米国MITで開発された一本足、二本足、四本足のロボットが有名である。国内では現在、東京工業大学、東北大学、横浜国立大学、金沢工業大学等で走行ロボットの研究が進められている。[参照元へ戻る]
◆走行速度の目安
ロボットのサイズによらない走行速度の目安としてマクニール・アレクサンダーが提案した「フルード数」がある。フルード数は F=平均速度/√(脚長*重力定数)で定義される。人間の場合、F=1以下では歩行と走行の両方が可能だが、F=1以上ではもはや歩くことはできず走行するしかない。その意味でF=1を突破できるかが今後開発されるであろう走行ロボットの性能の目安となる。ちなみにHRP-2LRではF=0.07、SONYのQRIOではF=0.17。HRP-2LRでF=1を達成するためには現在の約15倍、2.4m/s(時速8.7km)を達成する必要がある。[参照元へ戻る]

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