発表・掲載日:2002/03/19

人間型ロボットのソフトウェアプラットフォームを開発

- 人間型ロボットを用いた研究開発が容易に -

ポイント

  • シミュレータと制御ソフトウェアから成る人間型ロボットの基盤ソフトウェアを開発。
  • シミュレータは、ロボットの動きと視野画像を生成。
  • 制御ソフトウェアは、ロボットの歩行と全身動作を生成。
  • シミュレータ上で開発したバイナリソフトウェアがそのままハードウェア上で稼動。
  • 既に2種類の人間型ロボットハードウェア上で稼動中。
  • シミュレータ部分は、ホームページにて公開中であり、多くのユーザーに利用されている。
  • 今後、ベンチャー企業を設立し、成果ソフトウェアを販売することも計画中。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「 産総研 」という)は、東京大学【総長 佐々木 毅】と共同で、人間型ロボットのシミュレータ及び制御ソフトウェア等から構成される「人間型ロボットのソフトウェアプラットフォーム OpenHRPOpen Architecture Humanoid Robotics Platform )」を開発した。

 シミュレータでは、人間型ロボットの動力学のシミュレーション、視野画像の生成を行うことができ、制御ソフトウェアでは、人間型ロボットの二足歩行、体操等の全身動作を制御することができる。シミュレータ上で開発したソフトウェアが、バイナリ互換で実機に適用できる点と、標準的分散オブジェクトシステムCORBAを利用することにより拡張が容易で、ネットワーク上に分散可能なアーキテクチャとなっている点が特徴である。これまでに、本田技研工業株式会社【取締役社長 吉野 浩行】(以下「本田技研」という)が製作した人間型ロボットHRP-1、川田工業株式会社【代表取締役社長 多田 勝彦】と産総研他2社が共同で開発したHRP-2プロトタイプのシミュレーション及び制御に適用され、有効性が確認されている。また、OpenHRPのシミュレータ部分は、既にホームページ上に公開され、多くのユーザーにより利用され始めている。

 今後は、共通基盤技術として、人間型ロボットのシミュレーション及び二足歩行制御等に利用されることにより、人間型ロボットを用いた研究開発に大きく貢献するものと期待される。

 共同研究の分担は、産総研知能システム研究部門ヒューマノイド研究グループ【金広 文男 研究員ら】が、全体の設計、ユーザーインターフェイス、視野画像シミュレータ、制御ソフトウェア等を担当し、東京大学大学院情報理工学系研究科【中村 仁彦 教授ら】が、動力学シミュレータの計算エンジンを担当した。

 OpenHRPは、経済産業省が1998年から5ヵ年計画で実施中の「人間協調・共存型ロボットシステムの研究開発」【プロジェクトリーダー 井上 博允 教授( 東京大学 )】( HRP:Humanoid Robotics Project )の一環として開発された。

  【 産総研(AIST)と、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)【理事長 牧野 力】から委託された財団法人 製造科学技術センター(MSTC)【理事長 菊池 功】との共同研究による 】


研究の背景

 我が国の産業用ロボットの市場規模は、世界最大であるとは言え、1980年代から年間5,000億円~6,000億円程度で横ばい状態にある。その最大の理由は、「ロボットに出来る仕事の種類が増えなかったこと」と、「出来る仕事の種類が増えるほど技術革新が進まなかったこと」にある。

 ところが、現今、人間型ロボットにおいては、1996年に本田技研が人間型ロボットP2を発表して以来、幾つかの人間型ロボットが開発され、一つの技術エポックを迎えている。最近では、2000年に本田技研がASIMO、ソニー株式会社【会長兼CEO 出井 伸之】がSDR-3Xを発表し、ASIMOのイベントへのレンタルも開始された。しかしながら、これらのロボットの利用目的は、現在までのところエンターテインメント分野に特化されており、「仕事をする人間型ロボット」を志向したものとはなっていない。ロボットの市場規模を飛躍的に拡大するためには、ロボットに出来る仕事の種類を大きく増やすことが必須である。

 HRPは、人間型ロボットの応用事例を研究することにより、「働く人間型ロボット」の実現可能性を世の中に示すことを目的としている。20世紀最大の商品の一つは自動車であったが、人間型ロボットは21世紀最大の商品の一つになる可能性を秘めており、HRPはその第一歩となるものと期待されている。この様な背景の下で、OpenHRPは、人間型ロボットを用いた研究開発の共通基盤技術、ソフトウェアプラットフォームとして研究開発の促進に大きく貢献するものと期待される。

研究の経緯

 HRPは、1998年からの5年計画のプロジェクトであり、前期2年間で研究の共通基盤となるプラットフォームを開発し、後期3年間でプラットフォームを用いた応用研究を実施中である。前期に開発したプラットフォームは、人間型ロボットHRP-1、遠隔操作コックピット、仮想プラットフォームから構成されている。OpenHRPは、全軸同時動作対応のシミュレータ及び基本動作ライブラリとして研究を開始した。後期で実施中の応用5分野の内2分野は、本田技研が製作したハードウェア及びソフトウェアから構成されるHRP-1を用いて研究開発を行っているが、その他の2分野ではHRP-1ハードウェアにOpenHRPを搭載した構成のHRP-1S、もう一つの分野である屋外共同作業分野ではHRP-2プロトタイプにOpenHRPを搭載して研究開発を行っている。

 OpenHRPWindows及びLinux上で稼動し、実機の実時間制御はLinuxの実時間拡張であるART-Linux上で稼動する。実装は、C++及びJavaを用いて行われている。

今後の予定

 現在は、主としてロボットの自由度数に対して計算量が3乗で増加する方法を動力学シミュレーションに利用しているが、今後は、より高速な自由度数に対して線形にしか増えない方法に移行していく予定。

 また、現在、シミュレータ部分のみをホームページで無償提供しているが、近い将来には、ソフトウェアベンチャー会社を設立し、成果ソフトウェアの販売、受託開発等の事業を行っていく計画である。


用語の説明

◆シミュレータ
物理現象等を模擬するソフトウェア。本件の場合、ロボットの動作の力学的な模擬を行う。[参照元へ戻る]
◆視野画像
ロボットのカメラから見た画像。[参照元へ戻る]
◆バイナリソフトウェア
コンパイラ等によって計算機で直接実行可能な形式に変換されたソフトウェア。[参照元へ戻る]
◆CORBA
Common Object Request Broker Architecture。国際的標準化団体であるOMGが規約を定めている分散オブジェクトシステム。[参照元へ戻る]
◆計算エンジン
特定の計算を行うための核となるソフトウェア。本件の場合、順動力学計算を行う。[参照元へ戻る]
◆全軸同時動作対応のシミュレータ及び基本動作ライブラリ
人間型ロボットの腕と脚を同時に動かすのに対応したシミュレータ及び制御ソフトウェアのこと。[参照元へ戻る]
◆動力学シミュレーション
一般の物体やロボット等の動きを、物体やロボットに働く重力、慣性力、遠心力等から計算し、動きを模擬すること。実機を用いた実験を行うまえに、制御ソフトウェアの性能を評価するために利用する。次の2つの方法がある。
  1.ロボットの自由度数に対して計算量が3乗で増加する方法
  2.より高速な自由度数に対して線形にしか増えない方法
このうち、1は物体の自由度(ロボットの場合関節の数)が少ない場合には計算が速いが、2は自由度が多い場合に高速になる。人間型ロボットの場合の様に自由度が30程度になると、2の方法が有利になる。[参照元へ戻る]

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