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発表・掲載日:2003/11/13

世界初、ミサイルドラッグ用DDSナノ粒子の作製に成功

-各種の炎症性疾患部位を狙い撃ちする治療薬開発が加速-

ポイント

  • 世界で初めて、炎症性疾患治療用アクティブ・ターゲティング(能動的・標的指向性)機能を有するDDS(ドラッグデリバリーシステム)ナノ粒子の作製に成功した。
  • 炎症性疾患モデル動物として、眼炎症モデルマウスを作成し、上記の標的指向性DDSナノ粒子が炎症疾患組織へ選択的にアクティブ・ターゲティングされることを実証した。
  • 本研究は、炎症性疾患全般(脳炎、網脈絡膜炎、肺炎、肝炎、関節炎など)、並びに、続発的に炎症を引き起こす疾患(悪性腫瘍、リウマチ、脳梗塞、糖尿病、アルツハイマー病など)の治療に応用可能なDDS製剤開発を加速するものである。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】ナノテクノロジー研究部門【部門長 横山 浩】(以下「産総研・ナノテク部門」という)の 山嵜 登 主任研究員 と 大阪大学【総長 宮原 秀夫】医学部眼科学教室【教授 田野 保雄】(以下「阪大・医学部」という)の 大黒 伸行 講師 らのグループは、世界で初めて、炎症性疾患治療用アクティブ・ターゲティングを可能にする糖鎖導入型のDDSナノ粒子を作製し、そして、炎症性疾患モデルとしての眼炎症モデルマウスを作成して、この標的指向性DDSナノ粒子が炎症疾患組織へ標的分子としてのレクチンを利用して疾患部位選択的にアクティブ・ターゲティングされることを実証した。

 従来、アクティブ・ターゲティング用の各種リガンド(抗体、ペプチド、糖質など)を結合したリポソームなどのDDSナノ材料について多くの研究がなされてきた。しかしながら、それらは、生体外では標的細胞に結合しても、生体内では期待される標的細胞や組織にターゲティングされないものがほとんどであった。本成果は、産総研・ナノテク部門の開発した糖鎖導入型のアクティブ標的指向性DDSナノ粒子の作製技術と、阪大・医学部が開発した炎症性疾患組織の標的分子へのアクティブ・ターゲティング機能解析技術とを融合することにより達成したものであり、本技術開発によって、炎症性疾患全般(脳炎、網脈絡膜炎、肺炎、肝炎、関節炎など)、並びに、続発的に炎症を引き起こす疾患(悪性腫瘍、リウマチ、脳梗塞、糖尿病、アルツハイマー病など)の治療に応用可能なDDS製剤開発を加速するものである。

 今後は、本技術を癌治療、遺伝子治療、再生医療などの各分野での新しい治療を実現させるために必要なデリバリーシステムの開発・実用化へと展開する予定である。



研究の背景

 DDSは Drug Delivery System の略称で薬物送達システムと訳されている。その中でも標的指向(ターゲティング)DDSとは、癌など各種疾患部位の標的細胞・組織を認識し局所的に薬剤や遺伝子を送り込むためのシステムである。この分野での現在の開発動向は、パッシブ・ターゲティング(受動的・標的指向性)DDSナノ材料が販売あるいは開発されつつある状況である。一方、高機能のターゲティングを可能にするためのアクティブ・ターゲティング(能動的・標的指向性)DDSはミサイルドラッグとも呼ばれ、21世紀の夢のターゲティングDDSとして大いに期待されている。

 高齢化社会になるに従い癌の罹患率・死亡率は年々増えており、新規な治療用ナノ材料である標的指向性DDSの開発が待望されている。その他の病気においても副作用のないアクティブ標的指向性DDSナノ材料技術開発の重要性が注目されており、その市場規模は将来10兆円を超えるとの予測もある。本技術を確立・発展させることにより、癌や炎症性疾患など各種疾患患部の標的細胞や組織を認識し、局所的に薬剤や遺伝子を患部に送り込むための治療用のドラッグデリバリーシステムや診断用の細胞・組織センシングプローブとして利用できる標的指向性ナノ粒子の創製技術など、これら市場規模の大きな医療分野でのナノテク応用新規産業への迅速な参入と国際競争力の強化を図ることができる。

研究の経緯

 本研究では、核酸、蛋白質に次ぐ第三の鎖として現在のライフサイエンスで注目されている糖鎖のかかわる分子・細胞認識機能に着目して、新規な分子認識素子としての糖鎖導入型の高機能な標的指向性DDSナノ材料の合成技術の基盤整備を目指してきた。そして、糖鎖構造の異なる多種多様な糖鎖導入型DDSナノ粒子を合成してそれらの分子認識や体内動態を調べることにより、これらの新規なDDSナノ材料構築のための基本技術の確立を図っている。そして、これらの新規DDSナノ粒子の生体内における機能解明や新規治療用製剤開発など実用化へ向けての研究を阪大・医学部との協力により推進している。

研究の内容

(1) アクティブ標的指向性DDSナノ粒子の作製技術
 本技術の課題は、生体内で各種組織の細胞表面上に存在する各種のレクチン(糖鎖認識蛋白質)に対して特異的な結合活性を有する糖鎖を導入したリポソームであって、実際の生体内の細胞、組織を識別して薬剤あるいは遺伝子を効率的に輸送し得るリポソームを提供することにある。この課題を解決するために、本研究者らは、リポソーム表面の性質あるいは該表面に結合させる糖鎖およびリンカー蛋白質について種々の実験、検討を加え、該結合糖鎖分子の構造設計により各組織への標的指向性を実際に制御できることを見いだし本技術を完成するに至ったものである。【図1】

新規DDSナノ粒子の作製方法の一例の図

図1 新規DDSナノ粒子の作製方法の一例
※図をクリックすると拡大図が表示されます

(2) 炎症性疾患組織の標的分子によるアクティブ・ターゲティング機能の解明
 本研究では、炎症性疾患部位の標的組織に集積し、局所的に薬剤や遺伝子を患部に送り込むための治療または診断用のDDSとして利用できるアクティブ標的指向性DDSナノ粒子の機能解析を行った。具体的には、炎症性疾患部位の血管内皮細胞に発現する複数の標的分子と特異的に結合しうる糖鎖を導入したリポソームの炎症性疾患組織への標的指向性機能の解明を目指した。この課題を解決するために、本研究者は、この標的指向性リポソームの炎症性疾患領域への応用について鋭意検討を行い、炎症性疾患モデル動物として眼炎症モデルマウスを作成し、上記標的指向性リポソームが眼の炎症部位に選択的に取り込まれることを見出し本技術を完成するに至ったものである。【図2、図3、図4】

アクティブ・ターゲティング機能模式図

図2 アクティブ・ターゲティング機能の模式図
※図をクリックすると拡大図が表示されます
  炎症モデルマウスの炎症性疾患組織へのDDSナノ粒子の選択的組織分布を示す図
 
図3 炎症モデルマウスの炎症性疾患組織(この場合は眼炎症部位)へのDDSナノ粒子の選択的組織分布を示す図(各臓器分布の正常マウスに対する相対値%で表示、尾静注30分後)
 

炎症モデルマウスの眼炎症部位の網膜及び脈絡膜細胞へのDDSナノ粒子のアクティブ・ターゲティングを示す蛍光顕微鏡写真
図4 炎症モデルマウスの眼炎症部位の網膜及び脈絡膜細胞へのDDSナノ粒子のアクティブ・ターゲティング(写真D)を示す蛍光顕微鏡写真

今後の予定

 基本特許は既に出願済みであり、今後は実用化に向けて、本技術をコアとするコンソーシアムを設立して、医薬品メーカーとの共同研究による産学官の連携を強化していく予定である。



用語の説明

◆DDS
Drug Delivery Systemの略称。ドラッグデリバリーシステムの和訳は薬物送達システムであり、吸収制御型DDS、放出制御型DDS、標的指向型DDSに分類することもある。理想的なDDSは、薬物を「体内の必要な部位に」、「必要な量を」、「必要な時間だけ」送り込むシステムである。[参照元へ戻る]
◆ターゲティングDDS
Targeting DDSと書き、和訳は標的指向性DDSである。これは、パッシブ・ターゲティング(受動的・標的指向性)DDSとアクティブ・ターゲティング(能動的・標的指向性)DDSとに分類される。前者はキャリアー(薬物運搬体)の粒子径や親水性など物理化学的性質を利用して体内挙動を制御する方法である。後者はこれらに特殊な仕組みを付け加えて積極的に標的組織への指向性を制御しようとする方法であり、例えば標的組織を構成する特定細胞の標的分子への特異的分子認識機能を有する抗体や糖鎖などを結合したキャリアーを利用する方法があり“ミサイルドラッグ”と呼ばれることもある。[参照元へ戻る]
◆糖鎖
約20種類の単糖(ブドウ糖など)が鎖状につながった物質で、生体の細胞内外の蛋白質や脂質に付いている。単糖の配列によって機能が異なり、通常は複雑に枝分かれしていて、人体には数百種類以上の多様な構造の糖鎖があると予想されている。細胞間での分子・細胞認識機能など蛋白質や脂質が生体内で果たす高次機能に関係していると見られているが、そのメカニズムは未解明の部分が多い。核酸、蛋白質に次ぐ第3の生命鎖として現在のライフサイエンスで注目されている。とりわけ、細胞認識におけるリガンド(情報分子)としての糖鎖の機能が期待され、その高機能材料開発への応用が研究されている。[参照元へ戻る]
◆レクチン
lectinと書き、糖鎖認識蛋白質とも呼ばれる。植物レクチンについての研究は古く、既に約300種類が知られている。最近、動物レクチンについても活発に研究が行われており、新規レクチンの発見が続いている。動物細胞膜上に在る主要なレクチンファミリーのレクチン群(約100種類)に基づく多彩な糖鎖認識機能が研究されている。とりわけ、多様な構造をもつ糖鎖リガンドの構造情報を受け取るレセプター(情報受容蛋白質、又は、標的分子)としての機能が注目されている。[参照元へ戻る]
◆リガンド
生物化学では蛋白質に特異的に結合する物質をリガンドという。例えば、酵素に結合する基質や、細胞膜上に存在する各種の受容体蛋白質(レセプターという)と結合するペプチド、ホルモン、神経伝達物質などをそれぞれの蛋白質に対するリガンドと呼ぶ。そこで、本研究の場合は、標的組織の特定細胞膜上に存在する各種のレクチン蛋白質(レセプターの一種として機能するもの)を標的分子として利用するために、その蛋白質のリガンドである糖鎖をリポソーム表面に導入してアクティブ・ターゲティング機能を付与したDDSナノ粒子の作製を行ったことになる。[参照元へ戻る]
◆リポソーム
脂質人工膜の一種。脂質を水?塩類溶液に、その脂質固有の相転移温度以上で懸濁すると、自発的にスメクチック型液晶と呼ばれる二分子膜よりなる閉鎖小胞が形成される。この小胞をリポソームとよぶ。コレステロール、糖脂質などを組み込ませることも可能である。リポソームは内部に水を含んだ閉鎖小胞であるため、水溶性の薬剤などを小胞内に保持させることも可能である。したがって、このようなリポソームによって、細胞膜を通過しえない薬物や遺伝子などを細胞内に送達するのに使われる。また、生体適合性も良いのでDDS用のナノ粒子性キャリアー材料としての期待が大きい。[参照元へ戻る]


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