発表・掲載日:2002/04/01

従来の1/1000以下の微細液滴を吐出する「超微細インクジェット技術」を開発

- デスクトップで数ミクロン幅の超微細配線形成が可能に -

ポイント

  • 従来技術に比べ1/1000以下の超微細液滴の吐出が可能なインクジェット技術を開発。
  • 線幅が数ミクロンの銀の超微細配線パターンを、基板上に直接描画する事に成功。
  • 大気中しかもデスクトップでの超微細配線の形成は、表面実装技術に革新をもたらす。
  • バイオ、光、超微細加工技術などナノテクノロジー分野における様々な革新的応用が期待される。


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【 理事長 吉川 弘之 】(以下「 産総研 」という)ナノテクノロジー研究部門【 部門長 横山 浩 】の 村田 和広 主任研究員は、従来のインクジェット技術に比較して1/1000以下の超微細液滴(サブフェムトリットル)の吐出が可能な技術( サブミクロンインクジェット技術 )を開発した。この技術を用いて、導電性高分子や金属超微粒子などの様々な材料を、直径1ミクロン以下のドットで、基板上に精密に配列させることに成功した。【図1~3】

サブミクロンドット印字例1の写真
図1 サブミクロンドット印字例
(ドット間隔は3µm)
 
サブミクロンドット印字例2の写真
図2 サブミクロンドット印字例
(ドット間隔は3µm)
 
複雑図形の描画例の写真
図3 複雑図形の描画例 【導電性高分子】
(線幅3µm、格子部分のピッチ10µm)

 さらに、ハリマ化成株式会社【 代表取締役社長 長谷川 吉弘 】(以下「 ハリマ化成 」という)筑波研究所【 所長 松葉 頼重 】が開発した「安定分散した金属ナノ粒子ペースト( ナノペースト )【図4】」をインクとして用いた共同研究によって、表面実装技術の鍵を握る線幅が数ミクロンの超微細配線を基板上に直接描画することに成功した。【図5】 大気中しかもデスクトップでの超微細配線の形成は、表面実装技術に革新をもたらし、電子機器の一層の小型化を可能にし、開発・製造スピードを大幅に短縮することができるものと期待される。

安定分散した金属ナノ粒子電顕写真
図4 安定分散した金属ナノ粒子の電顕写真
(粒径は約5nm)
  ナノペーストのポリイミド基板上への印字例の写真
図5 ナノペーストのポリイミド基板上への印字例
(線幅3.6µm、ラインスペース1.4µm)

 また、本技術は、表面実装技術分野のみならず、バイオ、光、超微細加工技術などのナノテクノロジー分野における様々な革新的応用が期待される。

 産総研では、さらに、この技術分野の研究の深化と応用範囲の拡大のために、今回発表した金属ナノ粒子以外の分野についても広く共同研究を行うことを検討しており、ナノテクノロジー分野の研究の活性化と幅広い応用分野の開拓を目指していく。



研究の背景と経緯

 急速に進む電子情報機器の小型化の一方で、従来の半導体製造技術は、高価な装置、複雑な工程、膨大な資源消費など高環境負荷の装置産業として抱える問題も大きい。一方、こうした技術の対局に位置する簡便な製造プロセス、低コスト、低環境負荷、省資源、省エネルギーの新プロセスである直接回路描画法の開発は、プリンタブル電子回路のみならず、従来の半導体産業においても革新をもたらすと期待されていた。

 また、現在、世界的に研究が進められているナノテクノロジー分野の研究成果の実用化にあたっては、「ナノの世界」と「マクロの世界」を有効に結ぶ手段が不可欠で、有機、無機、バイオなど様々な材料を「微細量・任意の位置」に配置するツールの開発が強く望まれていた。

 現在、一般に市販されているインクジェット方式の最小ドット量は、4ピコリットル程度である。4ピコリットルの体積とは、直径20ミクロン程度の球体積に相当する。人間の目には可視限界が存在するため、通常の印刷用途としては数ピコリットルの吐出量でも十分であるが、微細回路形成などの産業用途を考えた場合、さらなる液滴の微細化が望まれていた。しかしながら、微細液滴の吐出には、ノズルのつまり、使用できる溶液の制限など多くの問題があり、実現が困難であった。

 こうしたニーズを背景に、産総研では、ナノテクノロジー分野での研究開発ツールとして「サブミクロンインクジェット技術」を開発した。

成果の内容( 開発機器の性能 )と今後の予定

 今回、産総研は、従来のインクジェット方式とは異なる「独自のインクジェット方式」を開発し、最小ドット径1ミクロン以下、液滴体積量としては“サブフェムトリットル”の微細液滴の形成と配列に成功した。これは市販のインクジェット方式に比べ、1/1000以下の体積の微細吐出量であり、インクジェットによる回路形成技術として、現在、世界最高レベルである。産総研では、この装置を用いて、カーボンナノチューブ、導電性高分子、セラミックスなど様々な溶液の配列が可能な事を確認している。さらに、ハリマ化成が開発した「安定分散した金属ナノ粒子ペースト(ナノペースト)」をインクとして用いて、ガラス基板やポリイミド基板状に回路描画を行った結果、数ミクロンの線幅の金属微細配線を直接描画することに成功した。

 従来の技術が、資源、エネルギー、環境、設備投資など多くの問題を抱えているのに対し、今回開発した技術は、“必要な部分にだけ必要な資源を配置する”省資源、省エネルギーの環境適応型技術であることが大きな特徴である。また、高価な製造設備は必要とせず、大気中でしかもデスクトップで超微細加工を行うこともできるので、「電子インク有機EL有機トランジスタなどの印刷プロセスにより作製可能な革新的デバイスの製造法」への応用も期待できる。さらに、露光マスクや蒸着マスクなどを必要としないため、回路設計から試作までの時間が大幅に短縮され、開発速度の飛躍的な向上をもたらすことも期待される。

 開発した装置は実験室レベルではあるが、装置構成が簡単であり、実用化にあたっての問題はない。このようなサブミクロンのドットなどを印字できるインクジェット技術は世界的にも例が無く、今回、ハリマ化成との共同研究で行った表面実装技術分野における応用例のみならず、バイオ、光、超微細加工技術などのナノテクノロジー分野はもちろん、多くの産業および研究開発分野においても幅広い応用可能性を持つ。

 産総研では、さらに、この技術分野の研究の深化と応用範囲の拡大ために、今回発表した金属ナノ粒子以外の分野についても広く共同研究を行うことを検討しており、ナノテクノロジー分野の研究の活性化と幅広い応用分野の開拓を目指していく。



用語の説明

◆インクジェット技術
プリンタの印字方式の一つでインクを細かいノズルから吐出し、写真や文字などをプリントする方式。現在、最も普及している印字方式の一つ。市販のインクジェットプリンタに用いられている方式は、圧電素子を用いるピエゾ方式と、熱によりノズル内で泡を発生させるサーマル方式(バブルジェット方式)が代表的である。両方式とも現在、数pl(ピコリットル)の微細液滴を吐出することが可能とされる。[参照元へ戻る]
◆フェムトリットル
flと表記する。フェムトは10のマイナス15乗。吐出液滴を球体と仮定すると、1flで直径1.5ミクロン程度のサイズになる。今回、産総研が開発したサブミクロンインクジェット方式では、シリコンやガラス基板上の印字状態で評価して1ミクロン以下のドットが形成されており、生成液滴サイズとしては、1fl以下のサブフェムトリットルが達成されている。[参照元へ戻る]
◆ナノペースト
ハリマ化成が開発した、安定分散した金属ナノ粒子の導電性ペーストの名称で、粒子径が5ナノメートル(ナノメートルは10のマイナス9乗メートル)程度の微細粒子が主成分である。一般的に金属ナノ粒子は、表面活性が高いために室温で粒子同士が溶け合い、数十個-数百個の凝集体を形成しやすいが、粒子の表面を特殊な分散剤で覆って安定分散したナノ粒子は、凝集することなく有機溶剤中に安定な形で存在させることができる。ハリマ化成では、安定分散したナノ粒子を熱硬化性樹脂中に均一分散したペースト組成物をつくり、ナノ粒子表面の分散剤を加熱時に化学反応で除去するプロセスを確立し、導電性と、密着性、印刷性などを両立することに成功した。印刷後200℃という比較的低温で焼結反応が進行し、緻密で良好な電気伝導性を有する金属配線が出来る。現在、金と銀のナノペーストが実用化されている。[参照元へ戻る]
◆表面実装技術
プリント基板の表面に各種電子部品を直接ハンダ付けする技術。電子部品は表面にのみ接続され、貫通穴を必要としない。このため、多層基板の内部においては自由な配線ができ、部品も小型化が図れ、実装密度が増大する。携帯電話をはじめ、多くの電子機器においてこの方式が採用されている。サブミクロンインクジェット技術は、配線パターンの描画だけでなく、従来、ワイヤーボンディングやハンダ等が用いられていた接合部、スルーホールにおける結線などにおいても応用可能性がある。[参照元へ戻る]
◆直接回路描画法
インクジェット技術やディスペンサー技術などにより、基板上に直接回路パターンを形成する方法。従来の回路パターンの形成法としては、フォトレジストなどを用いる露光法、スクリーン印刷法、蒸着法などが用いられてきた。これらは、いずれも回路パターンの原版が必要であった。一方、直接回路描画法では、原版を必要としないために回路設計から試作までの時間が大幅に短縮される。また、多品種少量生産などの用途にも向く。[参照元へ戻る]
◆プリンタブル電子回路
印刷工程によりフレキシブル基板などに形成される電子回路。スクリーン印刷やインクジェット技術によって配線パターンを形成する。さらに、単なる配線パターンのみならず、トランジスタや発光素子、表示素子、センサーなどの素子も印刷工法で作製する試みが盛んに行われている。特に、有機トランジスタ、有機LED(有機EL)、電子インクなどにおいて研究が盛んである。また、米国ベンチャー企業のAlian technology社の様に、シリコンベースの微細な素子をフレキシブル基板に配列させる試みもある。[参照元へ戻る]
◆ピコリットル
plと表記する。ピコは10のマイナス12乗。吐出液滴を球体と仮定すると、4plで直径20ミクロン程度のサイズになる。インクが染み込みやすい紙などへの印刷と違い、シリコンやガラス基板上では、液滴が基板上で2次元的に広がるため、最終的にはより大きなサイズのドットとなる。そのため、写真画質と呼ばれるような微細液滴をもってしても最終的には100ミクロン近いドット径にまで広がって印字される場合もある。[参照元へ戻る]
◆電子インク
マイクロカプセルの中に染料と反射率の高いチップが入っている。透明電極などでサンドイッチして電圧をかけると、カプセル内のチップが色素の中で浮いたり沈んだりすることで、カプセルの反射率を変える。このマイクロカプセルを、電極パターンが印刷されたフレキシブル基板上に一面に塗布することで、紙のように薄く丸めることができる可搬性に優れた低コストのディスプレーが製造できる。消費電力が少なく、印刷工程のみで製造できるため、コストも安くなると期待され、紙の代わりの電子媒体として期待されている。米国のベンチャー企業E・ink社などが開発している。[参照元へ戻る]
◆有機EL
有機物を動作体とする自発光素子。電極から注入された正負の電荷が有機物中で再結合することで、有機物自身が発光する。有機物の種類を選ぶことで、RGBのほか様々な色が発光可能で、次世代のフラットパネルディスプレーの候補として期待されている。動作機構的には、EL(電界発光素子)というよりもむしろLED(発光ダイオード)に近いため有機LEDとも呼ばれる。有機物の種類により、低分子系と高分子系があり、前者は蒸着により作製されるが、後者は溶液を基板に塗布することで作製される。このため、インクジェット技術を応用してディスプレーを開発する試みがある。[参照元へ戻る]
◆有機トランジスタ
シリコン等の無機半導体材料ではなく、導電性高分子などの有機材料を用いた薄膜トランジスタ。印刷工程によりフレキシブル基板などに形成することが可能である。有機半導体の移動度は、無機半導体に比べ大きく劣るため、これまで十分な性能は得られなかったが、最近、ベル研のグループなどで実用に耐えうるような性能を持ったトランジスタが試作され注目されている。有機ELや電子インクなどの駆動回路、電子タグなどへの応用が期待されている。[参照元へ戻る]


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