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安全無害なアスコルビン酸を燃料とする燃料電池を開発

2002/09/18

安全無害なアスコルビン酸を燃料とする燃料電池を開発

(新聞発表記事概要)


ポイント

  • アスコルビン酸を燃料とする燃料電池を開発し2002/9/12-13の電気化学会秋季大会で発表した。マイクロパワー源等としての応用が期待される。
  • 開発が行われているマイクロ燃料電池はほとんどがメタノールを燃料としているがメタノールの毒性が課題である。アスコルビン酸はエネルギー密度は低いものの人体に無害で安全性が高い。
  • メタノールを燃料とするマイクロ燃料電池では電極に多量の白金を必要とするが、アスコルビン酸を燃料とすれば金属触媒がなくても発電ができる可能性も示した。
  • これまでにアスコルビン酸を燃料として燃料電池の発電を行った例はない。
注)ただし、アスコルビン酸燃料電池はアスコルビン酸のエネルギー密度が高くない点と燃料コストが高い点が短所としてあげられ、このままでは携帯電話等小型電子機器用途には適さないと思われる。安全性が特に重視される用途向きである。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長吉川弘之】の生活環境系特別研究体【系長小林哲彦】は、アスコルビン酸を燃料とする燃料電池を開発し学会で発表した。イオンを通す高分子の膜を2枚の電極で挟み込んだタイプの燃料電池(固体高分子形燃料電池)に燃料であるアスコルビン酸を直接導入する方式。基礎研究段階の技術だが、安全性の高い燃料を使用することが特徴で、生活空間への燃料電池の浸透を促進し得る技術。

  • 超小型(マイクロ)燃料電池は小型電子機器の電源として近年注目され、実用化へ向けた開発が急速に進められている。マイクロ燃料電池はメタノールを燃料として開発が進められているが、民生用に広範に普及するためにはメタノールの毒性が問題になりかねない。
  • 産総研ではアスコルビン酸を燃料として燃料電池を駆動することに成功した。この燃料は子供が誤って飲んだりしても安全である点に特徴がある。
  • メタノールを燃料とする燃料電池では電極(燃料極)に多量の白金を必要とし高価だが、産総研ではアスコルビン酸を燃料とすると白金をはじめ金属触媒が燃料極に全くなくても発電する性質があることを掴んでいる。


研究の背景

 最近、超小型電源としてマイクロ燃料電池が大いに注目されるようになっている.燃料電池はセルと燃料が分離できるためにセル自体の大きさは小さくでき,燃料のエネルギー密度が高いほど長時間放電には有利である.燃料の入ったカートリッジを交換することで簡単に電子機器の使用を継続できることになる.マイクロ燃料電池としてはメタノールを固体高分子形燃料電池に供給する方式が主に開発対象にされている.しかし、メタノールを燃料とするマイクロ燃料電池が民生用に広範に普及するためにはメタノールの毒性が気がかりで、より安全性の高い燃料が求められている。産総研生活環境系特別研究体では、このような観点から子供が誤って飲んだりしても安全で、生活空間に燃料電池を導入するのに適した燃料としてアスコルビン酸を使う燃料電池を開発した。

 

研究の経緯

 産総研(関西センター)では古くから産業界に先駆けて固体高分子電解質を用いたエネルギー変換技術や二次電池技術の研究開発を継続して行ってきた。固体高分子形燃料電池は1992の国の開発プロジェクト立ち上げ時から参画し、研究開発や試験評価を行ってきている。最近は携帯電子機器用の超小型燃料電池の研究開発にも力を入れ、次世代の産業技術として燃料電池の早期普及に尽力している。

研究の内容

 高分子の膜を電解質とする燃料電池にアスコルビン酸の水溶液を供給し常温常圧下自然拡散の空気で発電を行った。アスコルビン酸は毒性がなく安全で、メタノール燃料電池で問題となる膜透過現象による燃料ロスが少ないのが特徴である。同じ濃度のメタノールを燃料にした場合に比べると出力はまだ半分程度ではあるが、メタノールを反応させるためには電極に高価な白金を必要とするのに対して、アスコルビン酸では白金がなくても発電する現象も見出した池の研究開発にも力を入れ、次世代の産業技術として燃料電池の早期普及に尽力している。

今後の予定

  今後、構成材料の検討や燃料供給部などシステム技術の開発を進め、貴金属触媒をできるだけ使わずに高性能化を探求する予定である。現在、環境対策技術として燃料電池の普及が急務とされているが、人体に無害で安全性の高い燃料を使うことにより燃料電池がより身近になりやすくなる。アスコルビン酸は燃料としてはエネルギー密度が高くはないが、この燃料は子供が扱うにも安全で教材や啓蒙活動にも適している。尚、今後さらにマイクロパワー源としての用途に適する新燃料の研究にも取り組んでいく。

用語の説明

◆固体高分子形燃料電池
常温から100℃以下の温度域で作動し、小型軽量、出力密度が高く起動性に優れる小型の燃料電池。水素イオン伝導性の高分子膜(厚さ20~180μm程度)を電解質とし、この両側に白金担持カーボンブラックからなる多孔性の電極を接合した全固体構造になっている。燃料極側に水素、空気極側に酸素あるいは空気を供給すると、燃料極側で水素が水素イオン(プロトン、H+)と電子 になり、水素イオンが膜中を移動して空気極側で酸素と反応して水になり、この時に外部回路を電子が流れて電流が取り出せる。PEFCの燃料としては純水素を供給すると高いセル性能が得られ、システムも簡略・コンパクトになるが、水素はインフラや貯蔵の問題がある。そこで現時点ではメタノールや都市ガスを燃料とし、改質器で水素に改質してPEFCに供給することが想定されている。PEFCは将来の自動車用動力源として本命視され開発が急がれている一方、PEFCは家庭用の熱電併給システムとしても注目されている。これらは現在実証段階にある。一方、携帯用電子機器の電源としての開発も活発に行われており、メタノールを改質せずに直接燃料電池に供給する方式が主流である。[参照元へ戻る]
 
◆アスコルビン酸
一般にビタミンCとして知られているL-アスコルビン酸のことで、生体内でも重要な働きを担っている。[参照元へ戻る]

問い合わせ

独立行政法人 産業技術総合研究所関西センター
生活環境系特別研究体 小型燃料電池研究グループ
国立研究開発法人産業技術総合研究所