発表・掲載日:2018/06/25

人工知能を用いた火山灰粒子の形状判別

-噴火状況の迅速な理解を目指して-

要点

  • 人工知能を用い、火山灰粒子の形状を判別・分類
  • 4種類の特徴的な粒子形状を学習後、あやふやな形状の粒子も分類可能に
  • 解析者の知識や経験の差によらない客観的な火山灰粒子解析の支援を目指す


概要

東京工業大学と産業技術総合研究所、統計数理研究所の共同研究グループは、人工知能(AI)を用い、火山灰粒子形状の判別・分類を行った。

火山灰粒子の形状は、噴火様式などの情報を得る手がかりとなるため、専門家による目視や縦横比のような形状の数値化により、解析が行われてきた。しかし、目視による判別には経験が必要で、限られた数の専門家だけでは対応できる範囲に限界があり、また、数値化による分類では、複雑な形状をどのように数値化するのかという問題があった。

研究グループは、伊豆半島、三宅島、アイスランドから集めた火山灰の画像から「ブロック状」「えぐれている」「長細い」「丸い」の4つの特徴的な形状をもつ粒子を選び、AIに学習させたところ、約92%の精度で特徴的な形状を判別できた。次にあいまいな形状の粒子についても、学習済みのAIで、4つの特徴的形状の確率(あいまいな形状の粒子一つずつについて、4つの特徴的な形状のいずれかである確率を4つの形状それぞれについて算出)を出力したところ、一つの粒子についての4つの特徴的な形状の確率の割合が一つの粒子に含まれる4つの特徴的形状の構成比率とみなせること、また、その構成比率(確率の割合)によって、判断が難しいあいまいな形状の粒子も分類可能であることが分かった。さらに精度を高め、専門家がその場にいなくても火山灰の解析が可能となることを目指す。

研究成果は英国の科学誌「Scientific Reports(サイエンティフィック・リポーツ)」に掲載された(オンライン掲載日:2018年5月25日)。


この成果は東京工業大学地球生命研究所の庄司大悟日本学術振興会特別研究員、同理学院火山流体研究センターの野口里奈研究員(現宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層・火山研究部門の大槻静香産総研特別研究員、統計数理研究所モデリング研究系の日野英逸准教授の研究グループによって得られた。



研究成果

研究グループは、畳み込みニューラルネットワーク(脳内にある神経細胞、すなわちニューロンのつながりである神経回路網を表現しようとする数式的なモデルであり、AIの基本の一つとして、画像に写った物体の形状や模様のパターンを学習し、その物体が何かを判別する)に火山灰粒子の画像を学習させ、粒子形状の判別を試みた。ニューラルネットワークの学習には、人間が正解(例えば、粒子の形状が長方形か丸いか)を与える必要があるが、火山灰のような複雑な形は人間でも正解を決定することが難しい。そのため研究グループは、はっきりとした形状を持つ粒子だけでニューラルネットワークの学習を行い、複雑であいまいな形状の粒子に関しては、学習済みのニューラルネットワークが出力した各特徴的形状の確率(あいまいな粒子形状が、それぞれの特徴的な形状である確率)を、一粒子に含まれる形状の構成比率とみなし、その比率の値によって分類することにした。

粒子の画像は、ガラス上に散布した火山灰の下からライトを当てて撮影し、一粒子ずつに画像を切り取ったものを使用した。火山灰は、伊豆半島、三宅島、アイスランドで採取したものを用いた。これらの粒子画像から、4つの特徴的な形状のみを持つ粒子(図1)を選び出し、ニューラルネットワークに学習させたところ、判別精度はおよそ92%であった。

その後、この学習したニューラルネットワークに、あやふやな形状の粒子を含めた全粒子について、4つの形状の確率をそれぞれ出力させた(図2)。シンプルなニューラルネットワークと少ない枚数の画像を用いたため、値には不定性があるが、概ねうまく粒子の特徴的な形状の確率を表している。

図1
図1: 学習に用いた特徴的な形状の火山灰粒子の例。ブロック状、えぐれている、長細い、丸いの4種類の形状をニューラルネットワークに学習させた。

図2
図2: 粒子画像の例と各特徴的形状の確率。確率の値は一つの粒子に含まれている各形状の割合に対応する。

背景

火山灰の形状は、その火山がどのように噴火したか(マグマの粘性や水との接触の有無)を考察するための重要な手がかりとなる。しかし、火山灰のような複雑な形状を観察し、判別や分類を行うには、専門家による高度な知識や経験が必要となる。

また、人里離れた火山で噴火が発生した場合、採取された火山灰を速やかに研究機関に持ち込んで火山灰解析を行うには、時間や距離の制約上、どうしても限界がある。今後、遠隔地でも適切に火山灰画像を共有する環境を整えて、AIによって火山灰の形状を解析できれば、火山灰の形状判別をする人の知識や経験の程度に左右されずに、客観的かつ迅速に噴火に関する情報を得ることが可能となる。

研究の経緯

近年、画像認識の分野では、AIが顔認証などで大きな成果を上げている。この技術を用いれば、火山灰の画像からでも、さまざまな情報を即座に抽出することができるのではないかと考えた。

今後の展開

現段階では、シンプルな画像とニューラルネットワークを用いているため、実用化にはさらに改良が必要である。しかし将来、火山灰の詳細な形状を学習させ、精度の高いニューラルネットワークを使用できるようにすれば、噴火発生時、専門家がその場にいなくても、迅速に火山灰の解析ができるようになる。

そのため今後は、細かい特徴まで写された画像(例えば図3のようなもの)を用いて、火山灰粒子の色合いや質感(ザラザラ具合など)も機械学習で認識できることを目指す。また、今回用いた基準の形状に対する確率による分類は、火山灰以外にも、複雑な形状を持つ物体や生物を分類する際に応用できる可能性がある。

図3
図3:色合いや質感も判断できる火山灰画像。将来はこのような複雑な画像からでも機械学習で火山灰解析ができるようになることを目指す。

論文情報

掲載誌:Scientific Reports
論文タイトル:Classification of volcanic ash particles using a convolutional neural network and probability
著者:Daigo Shoji, Rina Noguchi, Shizuka Otsuki, Hideitsu Hino
DOI:10.1038/s41598-018-26200-2





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