発表・掲載日:2018/02/08

樹脂のように低温で液相から成形できるLED部材用低融点ガラスを開発!

-ユーザーによる成形を可能にする耐光性・耐熱性に優れた実用的なガラス-

ポイント

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「研究者が語る! 1分解説」動画(1分57秒)
  • 500 ℃程度で溶融できる無色透明な低融点ガラスを、液相反応を利用して合成
  • 組成の改良により、これまでの課題であった耐水性が向上
  • 優れた耐光・耐熱性を生かし、LED用のレンズ、封止剤などへの応用を期待


概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)無機機能材料研究部門【研究部門長 淡野 正信】高機能ガラス研究グループ 正井 博和 主任研究員は、内閣府が進め、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 古川 一夫】(以下「NEDO」という)が管理するプロジェクトにおいて、石塚硝子株式会社【代表取締役 石塚 久継】(以下「石塚硝子」という)と共同で、液相法によって500 ℃程度で作製できる、耐水性、耐熱性、耐光性を持つ無色透明な低融点ガラスを開発した。

この技術は、ガラス前駆体液(ガラス化する前の液体状の原料混合物)を加熱し、500 ℃程度で溶融させて型に流し込み成形できるガラス作製技術である。得られたガラスは、LED用のレンズや透明封止剤などさまざまな光学材料への応用が期待される。

なお、この技術によるサンプルは、平成30年2月14~16日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されるnano tech 2018第17回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議で展示予定である。

今回開発したガラス作製技術概念図
今回開発したガラス作製技術の概念図


開発の社会的背景

シリカガラスに代表される一般的なガラスは、耐熱性、耐光性、光透過性に優れており、光ファイバーや光学レンズなどさまざまな光学材料に用いられ、われわれの生活になくてはならない基盤材料である。しかし、ガラスを溶融・成形するためには高い温度を必要とするため、一般のユーザーが自由に成形することは難しいという課題があった。一方、有機高分子(樹脂)は、耐熱性、耐光性、光透過性の点ではガラスに劣るものの、成形温度が低く、かつ、安価なため、その特徴を生かし、LED用の封止剤やレンズなどの光学材料に用いられている。溶融・成形温度の低いガラスを開発できれば、ガラスの特性を生かし、光学デバイスの耐久性、性能が向上すると期待できる。例えば、近年、LEDデバイスは高輝度化、短波長化が進んでおり、樹脂製のレンズや封止剤用樹脂の劣化が大きな課題となっているが、無色透明なガラスで代替して解決できると期待されている。そのため、ガラスを樹脂に近い低温度域で、液相合成から成形加工までを行えるプロセス技術が必要とされていた。

研究の経緯

産総研と石塚硝子は、平成26年度より、内閣府が進める戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)/革新的設計生産技術(管理法人:NEDO)の研究テーマのひとつ「ガラス部材の先端的加工技術開発」【研究開発責任者 国立大学法人 京都大学 三浦 清貴 教授】において、500 ℃程度で溶融可能なガラスや、そのための合成プロセスの開発を進めてきた。開発したその基本プロセスについては、第二回高機能セラミックス展(2017年4月)にて石塚硝子より発表した。今回、この手法について、さらに実用化に向けた開発を進め、ガラスの耐水性などの物性値の向上に取り組んだ。

研究の内容

低温でガラスを作製する手法としては、金属アルコキシドを液相中で反応させるゾルゲル法が知られているが、反応で得られたゲルはそのままでは光学材料として使えず、緻密なガラスを得るために、さらに1000 ℃程度で焼成する必要があった。

今回開発した技術では、まず、図1で示すように、常温で流動性を示すリン酸と、物性を制御するための種々の金属化合物を原料とし、ガラスの前駆体液を調製する。この前駆体液を加熱すると、500 ℃程度で流動性を示すガラス融液が得られ、これを型に流し出し冷却することで、ガラスが得られる。ガラスの屈折率などの物性は、前駆体液に添加物を加えておくことで調整できる。

さらに、組成及びプロセスを検討・改良することで、低融性、耐水性、耐光性、耐熱性を併せ持つガラスの開発に成功した。今回開発したガラスは、有機物を含まない材料でありながら、低温で軟化するため(ガラス転移温度:約235 ℃、屈伏点:約260 ℃)、低温で成形加工できる。

今回開発したガラス作製技術概念図
図1 今回開発したガラス作製技術の概念図

一般に、リン酸を主成分とするガラス(リン酸塩ガラス)は耐水性が悪いが、今回開発したリン酸塩ガラスは、組成を改良することで実用に耐える耐水性を持つようになった。図2に、組成改良前と後のガラスの写真と、それぞれ50 ℃の水に4時間浸した後の写真を示す。これまでの組成改良前のガラスでは表面が水と反応して不透明になったのに対して、組成改良後のガラスでは、浸す前とほぼ同様の透過特性を示している。

組成改良前の低融点ガラスと今回開発した組成改良ガラスの耐水性の比較写真
図2 組成改良前の低融点ガラスと今回開発した組成改良ガラスの耐水性の比較(提供:石塚硝子)

図3に示すように、今回開発したガラスの屈折率は波長633 nmで1.65程度であり、シリコーンやエポキシ、ポリカーボネイトといった樹脂、BK7ガラスや、ソーダライムガラスに比べて高い。この屈折率は、工業的に用いられている半導体素子の屈折率との差が小さいので、発光素子に用いれば、光の取り出しに有利と予想される。

従来の光学ガラス、樹脂との波長633 nmの屈折率の比較図
図3 従来の光学ガラス、樹脂との波長633 nmの屈折率の比較

ガラスの利点には、樹脂と比べて高い耐光性、耐熱性がある。図4に、加速試験として、今回開発したガラスと代表的な樹脂であるポリカーボネイト(PC)に、(1) 波長365 nmを中心とした紫外光を700時間照射した後と、(2) 200 ℃で1000時間加熱後の光の透過率を示した。今回開発のガラスは、両試験後も透過率に変化はなかったのに対して、PCは著しく透過率が低下した。

耐紫外光(UV)と耐熱加速試験後の今回開発したガラスとポリカーボネイト(PC)の透過率(上)と外見の写真(下)の図
図4 耐紫外光(UV)と耐熱加速試験後の今回開発したガラスとポリカーボネイト(PC)の透過率(上)と外見の写真(下) (提供:石塚硝子)

今後、LED光源が高輝度化するに伴い、その部材にも耐熱性が求められると予想される。今回、開発したガラスは低温で成形可能であり、耐熱性と耐光性を併せ持つため、LED用のレンズや封止材としての利用が期待できる。また、低温で作製・加工できるため、低温の溶融設備しか保有していない幅広いユーザーが利用でき、様々な型を用いた多様な形状のガラスが比較的簡便に作製ができる(図5)。

現在、エンジニアリングプラスチックが用いられている分野でも、将来的に、優れた耐光性・耐熱性を持つガラスが活用される可能性を広げたといえる。

500 ℃で成形した今回開発のガラスの写真
図5 500 ℃で成形した、今回開発のガラスの写真 (提供:石塚硝子)

今後の予定

今回開発した低融点ガラスの実用化を目指し、構造解析を基にした反応プロセスの最適化や、用途に合わせた材料設計などの検討を進める。

また、石塚硝子ではレンズ、封止剤などの光学用途を想定しているが、光学用途にとらわれない幅広い応用を検討してゆく予定である。



用語の説明

◆液相法
溶液などの液体を原料とし、固体、粉末、薄膜などを合成する方法。[参照元へ戻る]
◆低融点ガラス
おおよそ600 ℃以下で軟化流動するガラスの総称。[参照元へ戻る]
◆シリカガラス
ケイ素と酸素が組成比で1 : 2で構成されるガラス。作製には一般的に1800 ℃以上の必要とされるが、高い化学的安定性を持つため、光ファイバーを含めさまざまな光学部材として用いられている。[参照元へ戻る]
◆ゾルゲル法
原料を混合して得られる溶液を、流動性を持つゾルから固体状のゲルに変化するプロセスを経て固体化させる手法。原料として、金属と有機部が直接結合した金属アルコキシドと水、それに必要に応じて水以外の溶媒を加える。金属アルコキシドの加水分解・縮重合により金属-酸素間の結合を形成してゾルとなり、反応の進行とともにゲルとなる。ゲルを加熱することによりガラスやセラミックスを作製する。[参照元へ戻る]
◆ガラス転移温度
ガラスが弾性体から粘弾性体に変化する温度。この温度を境にして、ガラスの熱膨張曲線の傾きに不連続性が表れる。[参照元へ戻る]
◆屈伏点
ガラスの熱膨張曲線において、最大値を示す温度。[参照元へ戻る]
◆BK7ガラス
ナトリウム、カリウム、バリウム、ホウ素、ケイ素などの酸化物からなる光学ガラスの一種。[参照元へ戻る]
◆ソーダライムガラス
窓ガラスや食器用ガラスなどに用いられる一般的なガラスの総称。主に、ナトリウム、カルシウム、ケイ素の酸化物から構成される。[参照元へ戻る]



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