発表・掲載日:2018/02/08

カーボンナノチューブを用いた電磁波遮蔽(しゃへい)コーキング材を開発

-隙間充填(じゅうてん)性・金属接着性に優れた割れない電磁波遮蔽コーキング材-

ポイント

  • スーパーグロース法による単層カーボンナノチューブを常温大気硬化型液状ゴムと複合化
  • 開発したコーキング材は隙間などへの塗布・充填性に優れ、金属との接着が可能
  • 遮蔽材間の隙間などからの電磁波の侵入を防ぎ、コーキング材が割れずに振動やひずみを吸収

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)ナノチューブ実用化研究センター【研究センター長 畠 賢治】CNT用途チーム 堅田 有信 特定集中研究専門員、電子光技術研究部門【研究部門長 森 雅彦】分子集積デバイスグループ 周 英 研究員、物理計測標準研究部門【研究部門長 中村 安宏】電磁気計測研究グループ 堀部 雅弘 研究グループ長、加藤 悠人 研究員らは、スーパーグロース法で作製した単層カーボンナノチューブ(SGCNT)をフィラー(添加材)として、常温大気硬化型液状ゴム中に分散させた電磁波遮蔽コーキング材を開発した。このコーキング材は、金属などの遮蔽材間の隙間や溝に密着性良く塗布・充填でき、常温大気下で硬化する。このコーキング材の硬化後は金属との接着性も高く、電磁波の侵入を防ぎ、また、遮蔽材の振動や微小変形により生じる遮蔽材間の隙間や溝の振動やひずみを割れずに吸収できる。

この技術は2018年2月14日~16日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されるnano tech 2018 第17回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議で展示される。

今回開発した電磁波遮蔽コーキング材(A:硬化前、B:硬化後)の写真
今回開発した電磁波遮蔽コーキング材
(A:硬化前、B:硬化後)

開発の社会的背景

近年、無線通信の発達に伴い、電磁波を通信に利用する電子機器が増加している。それに伴い、これらの電子機器が周囲からの電磁波に干渉を受けて誤動作をする危険性や、自ら発する電磁波により情報漏えいしてしまう危険性が生じている。これらの危険性を低減させるためには、電子機器自体から発せられる不要な電磁波を遮蔽することはもちろんであるが、電子機器を設置する空間における電磁波隔離・遮蔽技術も求められている。空間、例えば部屋の電磁波を隔離・遮蔽するために、部屋の床、壁、天井、窓、扉などに電磁波遮蔽材が用いられている。しかし、それらのつなぎ目に隙間ができると、その隙間から電磁波が漏れて遮蔽が不十分になる。そのため、隙間充填性や金属接着性に優れ、割れにくい電磁波遮蔽コーキング材の開発が求められていた。

研究の経緯

産総研ではSGCNTを開発し、ゴム材料に分散させる際に、SGCNTが網目状に広がる技術を確立し、わずかな量のSGCNTの添加で高い電気伝導性を持つSGCNTゴム複合材料を開発したり、30 dB以上の高い電磁波遮蔽能を持ち、複雑な形状のさまざまな基材表面に塗布膜を形成できるSGCNT系水性塗料の開発に取り組んできた。(2011年10月12日2017年6月12日産総研プレス発表

研究の内容

今回産総研のCNT複合材料研究拠点では、これまでに開発したSGCNTの分散技術や複合材料作製技術を活用して、常温大気硬化型液状ゴムにSGCNTをフィラーとして分散、複合化させた電磁波遮蔽コーキング材の開発に取り組んだ。

このコーキング材は、常温大気下で硬化する液状ゴムを母材としているため、ヘラや、シリンジ、コーキングガンを用いて、隙間や溝に密着性良く塗布・充填できる。塗布・充填後は常温大気下で硬化するため、それらの隙間や溝をゴムとして埋めることができる。さらに、図1に示すように、硬化後のコーキング材は、金属などの電磁波遮蔽材との接着性にも優れる。

今回開発した電磁波遮蔽コーキング材と、これまで漏えい電磁波対策に用いられてきたカーボン系コーキング材(既存品-1)、スチールウール(既存品-2)、銀系粘土パテ(既存品-3)とを比較した結果を表1にまとめた。

今回開発のコーキング材は、電磁波を遮蔽できるSGCNTを分散しているので、ゴムの硬化後5 mm程度の厚みで金属並みの60 dBという電磁波遮蔽能を示す。パテと異なり、ゴムの性質によって遮蔽材の振動や微小変形時にも割れることが無く、振動や微小変形から生じる遮蔽材間の隙間や溝のひずみ、振動を吸収する。スチールウールとも異なり、シーリング性にも優れる。このように、今回開発の電磁波遮蔽コーキング材は、さまざまな既存品に比べて、操作性においても物性においてもバランス良く良好な性質を示すという特長を持つ。

今回開発した電磁波遮蔽コーキング材(赤矢印部)の様子の写真
図1:今回開発した電磁波遮蔽コーキング材(赤矢印部)の様子
A:金属板間に充填し、硬化した状態
B:硬化後、硬度測定時の様子
 
表1
今回開発した電磁波遮蔽コーキング材、これまで漏えい電磁波対策に用いられてきたカーボン系コーキング材(既存品-1)、スチールウール(既存品-2)、銀系粘土パテ(既存品-3)の比較の表
 

今後の予定

nano tech 2018 第17回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議に出展し、企業からの相談に応じて評価用のサンプルを提供する予定である。


用語の説明

◆スーパーグロース法
スーパーグロース法(SG法)は、2004年に産総研で見いだされた単層カーボンナノチューブ(単層CNT)の合成手法。化学気相成長(CVD)法を用いた単層CNT合成法であり、高温に加熱した加熱炉内で単層CNTを合成する際に、水分を極微量添加することで、触媒の活性時間や活性度を大幅に改善した。高純度単層CNTを高効率で合成できる。さらに、合成された単層CNTの配向性も高く、マクロ構造体も作製できる。2015年11月に日本ゼオン株式会社によって工業的量産が開始されている。[参照元へ戻る]
◆カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブ(CNT)は炭素原子だけで構成される、直径が0.4~50 nmの1次元性のナノ炭素材料である。その化学構造は、グラファイト層を丸めてつなぎ合わせたもので表され、層の数が1枚だけのものを単層CNTと呼び、複数のものを多層CNTと呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆電磁波
空間中の電場の変化と磁場の変化の相互作用によって形成される波動である。一般には電波を指すことが多いが、正確には、マイクロ波、赤外線、可視光、紫外線、エックス線、ガンマ線も含まれる。例えば、ラジオ、携帯電話、無線LANといった放送・通信技術、車載レーダーなどのセンサー技術や電子レンジなどの調理・加工技術に活用されている。[参照元へ戻る]
◆CNT複合材料研究拠点
産総研のCNT技術を企業へ効率的に橋渡しするために2017年1月に産総研内に設立された日本ゼオン・サンアロー・産総研 CNT複合材料研究拠点。[参照元へ戻る]
 

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