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発表・掲載日:2017/07/24

香川をつくった1億年の歴史

-香川県初の5万分の1地質図幅「観音寺」を刊行-

ポイント

  • 香川県としては初となる5万分の1地質図幅「観音寺」を刊行
  • 観音寺地域における1億年間の地史を編さん
  • 土木・建築、防災・減災の基礎資料として地質図が活用されることに期待


概要

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質調査総合センターは、地質情報研究部門【研究部門長 田中 裕一郎】層序構造地質研究グループ 野田 篤 主任研究員らが香川県観音寺地域の地質調査の結果をまとめた5万分の1地質図幅「観音寺」を刊行した。この地質図は、香川県が主要な地域となる初めての5万分の1地質図である。

 この地質図の作成を通じて、本地域に分布する深成岩類、海底や河川の堆積物からなる地層、瀬戸内地域の火山活動が活発だった時代の火山岩などの分布や特徴から、約1億年にわたる地史を編むことができた。例えば、水捌けのよい扇状地(段丘堆積物)や乾燥した気候などの小麦栽培に適した環境は250万年~100万年前頃に起きた讃岐山脈の隆起によること、その讃岐山脈は8000万年前頃の深海底に堆積した砂や泥からできていること、さらにそれらの堆積物は約1億年前の深成岩類を覆っていることなど、本地質図はこの地域がどのように形成されてきたかを知る手掛りになる。また、地質は土砂災害と密接な関係があるため、本地質図は防災や土木・建築に貢献する基礎資料として活用されることが期待される。

 この地質図幅は7月25日頃から委託販売を開始する。
(https://www.gsj.jp/Map/JP/purchase-guid.html)

観音寺地域の地質図
観音寺地域の地質


研究の背景

 地質図は、地盤や地層の様子を表した地図で、地層の種類や活断層の位置、石炭・天然ガス・温泉・地熱といった地下資源の有無、火山活動の履歴などが分かり、土木・建築、防災・減災、観光、資源探査など幅広い分野で地質図が利活用されている。産総研 地質調査総合センターでは、さまざまなスケールの地質図を作成している。最も詳細な地質図が5万分の1の地質図幅であるが、地域数が多く、全国をカバーするまでには時間を要することから、これまで人口が密集している地域や、防災・資源探査などの観点から早急に調査すべき地域、また日本列島の地質標準が確立できる地域を、優先的に調査を行ってきた。

研究の経緯

 南西日本の地質は、関東から九州にかけて位置する中央構造線の北側と南側とで大きく異なる。四国の地質は中央構造線の北側はマグマが地下で固まった深成岩(花崗岩など)や火山が噴出したマグマが固まった火山岩類、比較的浅い海域や河川の堆積岩類を主体とし、南側には海溝に堆積した堆積物が海洋プレートの沈み込みによって陸側に押し付けられた付加体とそれらが地下深くまで沈み込んで形成された三波川変成岩類が分布する。四国地域の模式的な地質標準を確立するため、南の高知県伊野地域から、南北方向に縦断する形で瀬戸内海に向かって北上しながら、地質調査を進め、5万分の1の地質図を順次刊行してきた(2007年「伊野」、2009年「日比原」、2013年「新居浜」、2014年「北川」)。

 今回、2009~2013年に、「観音寺」地域全域の現地調査と岩石の年代測定を行い、5万分の1地質図幅「観音寺地域の地質」としてまとめた。


研究の内容

 今回、地質図を刊行した観音寺地域の大部分は中央構造線の北側にあり(図1)、この北側の地域では約1億年前~8000万年前の深成岩類が最も古い岩石である。この深成岩類は、南西方向の新居浜地域に分布する深成岩類とは含まれる岩石の種類が異なることと、変形の程度が弱いことから、今回新たに観音寺深成岩類と命名した。この観音寺深成岩類を覆うように、約8000万年前頃の海底で堆積した堆積岩(和泉層群)が分布する。讃岐山脈のほとんどは、この和泉層群からできている。さらに伊吹島や七宝山地のような小高い山を作る約1300万年前の瀬戸内火山岩類(讃岐層群)、また讃岐山脈のすそ野には250万年前~50万年前の河川による堆積物(三豊層群)、三豊平野の大部分には約13万年以降に川がつくった扇状地の名残である段丘堆積物が分布する(図2)。このように、観音寺地域は1億年という長い時間を経て、多様な岩石によって形成されてきた。

 讃岐山脈の北側のすそ野に広がる三豊層群には、中央構造線の南側にしか分布しない三波川変成岩類が起源の石が含まれている。これは、昔の吉野川が讃岐山脈を越えて北側に流れていたことを示す。この地層が堆積した年代から推測すると、250万年前~100万年前頃までの讃岐山脈は現在ほど高くなく、吉野川は徳島県から香川県へ流れていたが、100万年前~50万年前頃までに讃岐山脈が十分に隆起した後には、吉野川は山脈を避けるように東方向へ流路を変えたと考えられる。このように観音寺地域の地質から、讃岐山脈が比較的若く、短期間に形成されたことが分かる。また、吉野川の流路変更に加え、讃岐山脈によって太平洋側からもたらされる水蒸気が遮断されて、香川県は乾燥した気候へ変化した。さらに、隆起した讃岐山脈の山麓には段丘堆積物が広く分布しており、その水捌けの良さと乾燥した気候と相まって、小麦栽培に適した土地となり、「うどん」文化が発展したと推測される。

観音寺地域の位置と周辺の地質概要(上)の図
観音寺地域の1億年の歴史(下)の図
図1 観音寺地域の位置と周辺の地質概要(上)と、観音寺地域の1億年の歴史(下)
中央構造線より南側の地質は付加体とそれが変成した岩石から、北側の地質は火成岩類とそれを覆う堆積岩類から構成される。(地図は、産総研の20万分の1シームレス地質図を使用して作成)



観音寺地域の地質図と各地層の写真
図2 観音寺地域の地質図と各地層の写真

 香川県は全国的に降水量の少ない地域であるため、大きな土砂災害は比較的少なかったが、近年の地球温暖化に伴う集中豪雨の頻発が危惧されている。特に、風化しやすい花崗岩は地表に厚い風化土壌を発達させ、豪雨によって崩壊する可能性がある。また、讃岐山脈は板状の砂岩と泥岩からできているため、地層の傾斜方向と斜面の方向が一致するところでは土砂災害の危険性が高くなる。地質図には花崗岩の分布域や地層の傾斜方向が示されているため、こうした土砂災害への備えに対する基礎的な地質資料としての活用が期待される。

 今回刊行される観音寺地域の地質図は、防災・減災計画を立てる上での指標として、また地域の地質の成り立ちを理解するための資料として、さらには土木・建築の関係者がインフラ整備や建造物の立地を選定するための資料として、利活用されることが期待される。


今後の予定

 現在、観音寺地域の東側の池田地域の地質を調査中である(2015年から2019年までの予定)。5万分の1地質図については、四国には未着手の地域が多く残されていたが、最近空白域が埋められつつあり、引き続き四国地域や他の地域の調査を進めていく。



用語説明

◆地質図
地質図は、地盤や地層の様子、つまり、いつの時代の、どのような種類の岩石や地層がどこに、どのように分布しているのかを表した地図である。地質図により、地層の種類や活断層の位置、石炭・天然ガス・温泉・地熱といった地下資源の有無、火山活動の履歴などが分かることから、土木・建築、防災・減災、観光、資源探査など幅広い分野で地質図が利活用されている。4つのプレートの上にある日本の地質は非常に複雑で、その成り立ちや状態がわかる地質図は、安全・安心な社会を実現する上で、重要な役割を果たしている。緯度経度で囲まれた四角の図面を地質図幅と呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆深成岩
マグマが地下深くでゆっくりと冷えて固まってできた岩石。斑晶(鉱物の粒子)のサイズが大きいことが特徴。代表的なものに、花崗岩(かこうがん)や斑れい岩(はんれいがん)がある。[参照元へ戻る]
◆段丘堆積物
河川によって運搬され、扇状地状に堆積して形成された砂礫。[参照元へ戻る]
◆中央構造線
長さ1000キロメートルに及び、日本列島の地質を二分する巨大な断層(図1の赤線)。ジュラ紀末から白亜紀の初め(約1億4000万~1億年前)、日本列島がまだアジア大陸東縁の一部となっていた頃にその原型が形成された。現在までに、複数の活動時期があったと考えられている。[参照元へ戻る]
◆付加体(ふかたい)
海洋プレートが海溝で大陸プレートの下に沈み込む際に、海洋プレートの上の堆積物が剥ぎ取られ、陸側に付加したもの。[参照元へ戻る]
◆三波川(さんばがわ)変成岩類
地下深くまで沈み込んだ付加体の堆積物や岩石が、比較的低い温度と高い圧力を受けることによって変成してできた岩石。九州地方から関東地方まで帯状に分布する。主に泥質片岩や苦鉄質片岩からなり、珪質片岩や砂質片岩を含む。[参照元へ戻る]



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