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発表・掲載日:2017/07/11

電気探査で水道管周辺の土壌を調査する技術を開発

-路面を傷つけずに水道管の腐食リスクを推定-

ポイント

  • 路面から水道管周辺の地盤の比抵抗を計測し、水道管の腐食リスクを推定
  • 路面を掘削せずに短時間で計測可能
  • 急増する老朽水道管更新の優先度の決定に寄与


概要

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地圏資源環境研究部門【研究部門長 光畑 裕司】物理探査研究グループ 神宮司 元治 主任研究員は、路面を傷つけずに、地盤の比抵抗を測定できる高周波交流電気探査装置を開発した。この技術は、路面下に敷設された水道管周辺の地盤の比抵抗を測定して、その水道管の腐食リスクを推定できる。

 近年、老朽化した水道管の劣化リスクを評価する技術の開発が喫緊の社会的課題になっている。水道管の腐食は地盤の比抵抗が低いほど進行しやすい。路面を掘削して土壌試料を採取して比抵抗を測定する調査があるが、コスト・時間・労力がかかり、これらを低減できる技術が必要とされていた。

 今回開発した技術は、路面から地盤の詳細な比抵抗を計測でき、水道管の腐食リスクを効率よく評価できる。この技術は、急増する老朽水道管更新の優先度の決定に寄与すると期待される。

 なお、この技術の詳細は、2017年7月19~21日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催される第9回インフラ検査・維持管理展で発表される。

今回開発した装置を用いた路上での比抵抗測定調査の写真
今回開発した装置を用いた路上での比抵抗測定調査


開発の社会的背景

 我が国の水道管は高度経済成長期から急速に整備されてきたが、その多くが法定耐用年数の40年を超え老朽化が急速に進んでいる。国土交通省の試算では、2025年には設備更新費用が水道料金収入から賄える投資額を上回ると予測されており、老朽水道管を計画的に更新する必要性が増している。

 水道管(鉄管)の腐食は、地盤の環境、特に地盤の比抵抗に依存し、例えば比抵抗が低い塩分を含む粘土質土壌ほど腐食が進行しやすい。そこで、一部の地方自治体では、水道管の交換や修理などの更新優先度を決定して計画的に更新するために、地面を開削して採取した土壌の比抵抗を計測する腐食性調査を行っている。しかし、この方法では水道管の管体を露出させるために地面を掘削し、土壌を採取した後には地面を埋戻すなどの一連の作業が伴い、コストや時間、労力の負担が大きく、多数の水道管埋設箇所での腐食性調査はできない。そのため、比抵抗を簡単に測定できる手法が求められていた。

研究の経緯

 産総研では地質構造や地盤物性の評価や、浅部の地質環境の評価などへの適用をめざした物理探査法の開発を進めてきた。今回、水道インフラの維持管理技術の向上を目的とした研究開発の一環として、地表から路面を傷つけずに高精度で浅部の地盤の比抵抗を計測して、水道管の更新優先度を決定するための調査に寄与できる技術の開発に取り組んだ。

研究の内容

 電気探査技術は、これまで資源探査から土木調査まで幅広く応用されてきた地盤調査技術であり、近年では、地下の比抵抗断面図を取得できる2次元探査から、より広域の比抵抗の3次元立体構造を取得できる3次元探査が可能なまでに発展してきた。その一方で、地表から地盤の比抵抗を計測する一般的な電気探査法では、一対の金属電極のセット(送信ダイポール)を地面に差し込んで、電流を地盤に通電し、それによって地盤内に発生した電位の広がりを、もう一対の電極のセット(受信ダイポール)で電位差として検出して地盤の比抵抗を計測することが必要であった。そのため、地表面がアスファルトやコンクリートで覆われていると、そこに穴を開ける必要がある。また、コンデンサーの原理を応用して地表面上から高周波の交流電流を地盤に通電する方法もあるが、流せる電流と検出できる電位差がともに極めて小さくなるため、電流をより多く流して電位をより確実に計測するためには、大きな面積や長さの電極と、ダイポールを長くする必要がある。そのため、水道管が埋設されるような深さ1 m程度の浅い部分の比抵抗を正確に測定することは難しい。

 今回開発した電気探査測定装置は、高周波を送信する送信機と送信ダイポール、受信する受信機と受信ダイポールで構成される(図1)。今回、超吸水スポンジを用いて地表面への密着度を高めるとともに、通電能力が高い小型のローラー電極を新たに考案した。このローラー電極を送信ダイポールとして用いて地中に高周波交流電流を効率的に流せるようにした。受信ダイポールにも同様のローラー電極を用いて、お互いに独立した送受信機間でGPS信号により完全に相互同期した直交同期検波により極めて微弱な電位差を検出できる。また、この電気探査測定装置は、極めてノイズ耐性の高い直交同期検波による信号検出を行っているため、同時にさまざまな電気ノイズが発生しても高い耐性を持つ。ローラー状の電極を用いるため前後方向への可動性(移動性)が良くなるとともに、スポンジ素材の電極が路面の凹凸や勾配を埋めるなどして良好な接地性が得られた。

開発した測定装置の写真

ローラー電極の平面図
図1 開発した測定装置(上)と、ローラー電極の平面図(下)

 開発した電気探査測定装置で比抵抗を測定する際には、送信ダイポールと受信ダイポールを路面上に配置し、受信ダイポールと受信機を一定間隔で移動させて、送信ダイポールI(電流送信)と受信ダイポールV(電位差計測)の間隔を変えて測定する。それぞれの電極間隔で計測された電位差と電流値から、地下の見かけ比抵抗を算出する(図2)。その後、電極間隔と見かけ比抵抗から逆解析によって、図3に示すような、深度ごとの比抵抗を求める。この深度と比抵抗の関係の図から、水道管が埋設されている深度の比抵抗を推定する。推定した比抵抗をANSI/AWWA C105/A 21.5に示された地盤の腐食性評価基準の指標のうち比抵抗に関する評価点数から、水道管の腐食リスクを判定できる。なお、土壌の比抵抗の値が、小さい(例えば15 Ωm)場合は、比抵抗の配点のみで腐食性土壌と判定できる。

開発した装置を用いた測定原理概念図
図2 開発した装置を用いた測定原理の概念図(断面図)

 今回開発した装置を用いて、横須賀市上下水道局と株式会社管総研の協力のもと、横須賀市内の市街地で実際に測定を行った。測定地点のデータから、比抵抗は水道管の直上で11.2 Ωm、水道管下で7.6 Ωmと推定された(図3)。その後、実際に水道管まで地盤を掘り下げて土壌を採取し、実験室で比抵抗を計測したところ、水道管の直上で、8.19~12.5 Ωm、水道管下で、5.91~7.31 Ωmであり、今回開発した装置で路面上からの測定結果から推定した比抵抗と良く一致した。なお、これらの比抵抗は、ANSIの腐食性評価基準の15 Ωmを下回っており、単独でANSIの評価配点の10点を超えていることから、腐食の可能性が高い土壌と判断された。

計測データから逆解析によって推定した比抵抗と深度の関係(黒線)の図
図3 計測データから逆解析によって推定した比抵抗と深度の関係(黒線)

 また、今回開発した技術では計測地点の深さ方向の比抵抗の変化を推定するだけではなく、送信ダイポールと受信ダイポールの両方を移動させて2次元的な地盤の比抵抗断面図も推定できる。過去に横須賀市内で水道管調査を行った別の地点で、今回開発した装置で測定・作成した比抵抗断面図を図4に示す。水道管の周囲の土壌の比抵抗を断面図で見ることができるため、1次元探査に比べてより多くの情報が得られる。

 これまでの地盤の腐食性調査では、一カ所だけの調査でも、水道管の管体を露出させるための地面の掘削や土壌の採取と、採取後の埋戻しなどの一連の作業が必要で、大幅な労力や費用が必要であった。しかし、今回開発した装置では、測定前の準備から測定後の撤収まで30分程度で行えるので時間とコストを大幅に削減できる。また、これまでは難しかった交通量が多い道路での腐食性調査も可能になり、老朽化対策が急がれる水道管の更新優先度の決定を大幅に効率化できると期待される。

比抵抗の断面図
図4 比抵抗断面図
調査地点の水道管深度の地盤の比抵抗は50 Ωmで、ANSIによる比抵抗に関する評価点数が0のため、腐食リスクは小さいと考えられるが、深度2 m 以下では、比抵抗が15 Ωm 以下でANSI による評価点数が10点を超え、腐食性土壌と判断された。

今後の予定

 今後は、水道管をはじめとする老朽化した埋設管インフラ更新の優先度を決定し、合理的・効果的なインフラ整備を進めるためのツールとして今回開発した技術を発展させる。更に、各地方自治体への普及を働きかけ、実施例を増やしていくことで実用化を目指す。また、水道管については、液状化対策のための耐震管路への更新も行われている。本技術は、路面上から計測した比抵抗分布から、液状化層の有無やその層厚・深度の推定にも応用できるため、液状化簡易スクリーニング技術としても開発を進めていく。



用語説明

◆比抵抗
単位断面積を通る電流に対する単位長さ当たりの電気抵抗。導電率の逆数である。単位は、Ωm(水道分野ではΩcmが使われる)。比抵抗は、物質固有の電気的特性として取り扱うことができる。地盤の比抵抗は、間隙率、飽和度、固結度、粘土含有率、地下水の導電率などの地盤パラメータと相関を示すことが多く、電気探査によって地下の比抵抗を計測して地盤構造(地層構造)を調べることができる。[参照元へ戻る]
◆高周波交流電気探査
一般的な電気探査では、金属電極を地面に差し込み、交替直流(周期的に直流電流の極性を切り替える矩形波のこと)を地盤に流して調査する。これに対して高周波交流電気探査では、20 kHz程度の高周波の交流を用いてキャパシタンス電極(地表面に設置できる電極)を用いて電気探査を行う。通常、キャパシタンス電極は、地表面と絶縁された金属板からなる。金属板に高周波の交流電圧を加えると地盤との間に電荷が蓄えられて、地盤と金属板の間にコンデンサーを形成する。このコンデンサーによる容量成分を利用することで、地盤に電流を流し、電気探査を実施する。[参照元へ戻る]
◆腐食性調査
土壌の腐食性を評価する調査であり、その評価には、アメリカ合衆国で定められたANSI/AWWA C105/A21.5による土壌の腐食性評価基準が我が国ではよく用いられる。腐食性調査では、埋設管に用いられる鋼管の腐食評価に対応し、埋設管の埋設深さ付近の土を分析し、腐食性土壌かどうかの評価を行う。 ANSIによる評価基準は、土壌の比抵抗、pH、酸化還元電位、水分、硫化物判定の測定結果を点数化して総合得点で評価を行う。ANSIによる評価基準の中でも比抵抗は、15 Ωm以下で、単独で腐食性土壌と判断される10点に達するため、腐食性土壌の評価基準として重要である。[参照元へ戻る]
◆超吸水スポンジ
従来のウレタンスポンジに比べて、極めて親水性が高く、容積の90 %を超える微細孔による毛細管現象により極めて高い吸水性と保水性を示すスポンジ。吸水した状態で、高い柔軟性と弾力性があり、多少の凹凸がある地表面でも張り付くように接触できる。[参照元へ戻る]
◆直交同期検波
無線通信などに使われる技術で、極めて微小な信号を抽出できる検波方式である。送信機から出される送信信号と同じ周波数・位相をもつ同期信号と、位相が90度ずれた信号の二つの信号を用いて、受信機から受信される信号に乗算し、乗算された信号の中から低域通過フィルタフィルターを用いて高周波成分を除去して、送信波と全く同じ周波数の信号を抽出する。[参照元へ戻る]
◆見かけ比抵抗
地下の地層構造(比抵抗構造)がない均一な大地を仮定して、測定した電気抵抗値から求める比抵抗のこと。[参照元へ戻る]
◆逆解析
見かけ比抵抗などの観測値から、本来の比抵抗モデルなどの物理モデルを求める解析方法。物理モデルを設定し、その物理モデルから求められる見かけ比抵抗などの理論値と観測値との差異を最小にするようにモデルを最適化していく解析方法である。[参照元へ戻る]
◆ANSI/AWWA C105/A21.5
アメリカ合衆国の国家規格「Polyethylene Encasement for Ductile Iron Pipe Systems(ダクタイル鋳鉄管類のポリエチレン装着)」であり、本規格の中で、鉄管に対する土壌の腐食性を評価する基準が示されている。この基準は、水道管埋設深さ付近の土を分析し、腐食性土壌かどうかを検査する指標として我が国においても標準的に用いられている。土壌の比抵抗、pH、酸化還元電位(Redox電位)、水分、硫化物判定を分析し、ANSIによる評価基準に照らし合わせて測定結果を点数化して総合得点で評価する。
ANSIによる評価点数は、表1に示されるように配点されており、この合計点数が10点以上になれば腐食性の土壌と判断して、ポリエチレンスリーブ法により、水道管設置時に防食対策を考慮することとされている。当評価基準は、水道管設置時の腐食評価基準であるが、水道管の腐食に関する標準的な評価基準としても用いられ、リスク評価の指標としても使われている。[参照元へ戻る]
調査項目 測定値  評価点数 
比抵抗
(Ω・cm)
  <1500
1500~1800
1800~2100
2100~2500
2500~3000
   >3000
10
8
5
2
1
0
pH値 0~2
2~4
 4~6.5
6.5~7.5
7.5~8.5
   >8.5
5
3
0
0
0
3
 Redox電位 
(mV)
  >100
50~100
 0~ 50
  < 0
0
 3.5
4
5
水分 排水悪く常に湿潤
排水良く一般に湿っている
 排水良く一般に乾燥している 
2
1
0
硫化物 検出
痕跡
なし
 3.5
2
0
表1 ANSI/AWWA C105/A21.5 による土壌の腐食性評価基準



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