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発表・掲載日:2017/02/06

LED照明に対応した高輝度、長残光の蓄光材料を開発

-フレキシブルコーティングや多様な蓄光色も可能に-

ポイント

  • LED照明に対応し従来の約3倍高輝度で従来の約2倍の残光時間の蓄光材料を開発
  • 産総研独自の低温コーティング法(光MOD法)により高輝度な蓄光シートの作製も可能
  • 災害時の避難誘導の安全性向上や省エネ照明システム構築への貢献に期待


概要

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)先進コーティング技術研究センター【研究センター長 明渡 純】土屋 哲男 副研究センター長(兼)グリーンデバイス材料研究チーム 研究チーム長は、立山科学工業株式会社【代表取締役社長 水口 昭一郎】(以下「立山科学工業」という)と共同で、LED照明に対応した高輝度・長残光時間の蓄光材料を開発した。

 蛍光体材料は、賦活材料ふかつざいりょう母材料ぼざいりょうの金属の組成のわずかな違いにより特性が変わるため、その精密な制御が極めて重要である。今回、金属有機化合物を用いた化学溶液法により、金属イオンの注入(金属イオンドーピング)を精密に制御し、さらに新しい合成プロセスを用いて、紫外光を含まないLED照明でも従来の約3倍の明るさ(輝度)、約2倍(4時間)の残光発光時間の蓄光材料を合成した。また、産総研オリジナルのコーティング技術である光MOD法により、今回開発した蓄光材料をポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂基板上にコーティングした高輝度蓄光シートを開発した。この蓄光材料を安全誘導標識などに用いれば、超高層ビルなどの災害時に、長時間にわたって安全な避難誘導が可能となる。

 なお、この技術の詳細は、2017年4月5~7日に東京ビックサイト(東京都江東区)で開催される第2回高機能セラミックス展で発表される。

LED照明に対応した蓄光材料とその応用例(避難誘導)の図
LED照明に対応した蓄光材料とその応用例(避難誘導)


開発の社会的背景

 国外、特にアジア各都市でのビルの高層化はとどまるところを知らない。日本でも、300 m級の超高層ビルやタワーマンションが建設され、今後さらなる高層ビルの建設も予定されている。こうした超高層ビルでの災害時の安全な避難誘導には、無給電で発光できる部材・デバイスが欠かせない。蓄光材料は、停電時も発光し続けるため安全誘導標識など災害時の安全誘導部材として活用されている。しかし、省エネ化のため、室内照明は蛍光灯からLED照明への置き換えが進んでおり、紫外光を含まないLED照明では、残光輝度や残光時間が低下する問題が生じてきている。このため、残光の高輝度化、長時間化が望まれていた。

研究の経緯

 産総研では、低炭素化社会と安全・安心な社会の構築を目指したグリーンデバイス開発の一環として、高機能な材料、部材や、さまざまな材料にコーティングできる革新的な製造プロセスの研究開発を進めている。先進コーティング技術研究センターでは、蛍光体材料の金属組成を精密に制御できる化学溶液を用いた合成法による高機能な蓄光材料(高輝度・長残光時間・多色化)の開発や、紫外光を使った成膜法(光MOD法)による、低温・高速コーティング技術の開発に取り組んできた。特にこれまでに、新たな赤色蓄光材料の開発、さらに蛍光体膜の応用では、従来の蛍光体膜より約2倍高輝度のフィルムを開発し、国内外で特許を取得している。こうした蛍光体材料・部材は、発光を起こさせる光の波長により発光特性が変わってしまうため、今回、紫外光を含まないLED照明でも高輝度、長残光時間を示す蓄光材料・部材の開発に取り組んだ。

研究の内容

 今回の研究開発では、化学溶液法を用いた精密な組成制御技術により、蓄光材料へ異種金属ドーピングを行う新規蓄光材料開発とその新たな合成プロセスを考案し、高輝度、長残光な蓄光材料を開発した。今回開発した材料に、LEDの光(波長:460 nm)をあてると、材料中の電子が励起されることで発光し、励起停止後も発光し続ける。図1に励起停止後の輝度と、暗所で非常にはっきり認識できる明るさの10 mcd/m2に減衰するまでの時間を示した。10分後の輝度は、602 mcd/m2と市販蓄光材料の約3倍であった。また、市販蓄光材料では、LEDによる励起停止後、2時間で10 mcd/m2に減衰したが、今回開発した蓄光材料は4時間後まで10 mcd/m2の輝度を維持した。蓄光材料の発光は、発光の中心である賦活材料の濃度を高くし過ぎると逆に濃度消光が起こったり残光時間が短くなったりするが、今回、母材料のバンドギャップ、賦活材料の濃度、トラップ準位の濃度をイオン半径の異なった異種金属のドーピングによって制御し、かつ新しい合成プロセスを考案することで、高い結晶性と賦活材料の最適な酸化状態を実現したことにより、残光の長時間化と輝度の向上を両立できた。

今回開発した蓄光材料とその残光特性の図
図1 今回開発した蓄光材料とその残光特性

 今回開発した蓄光材料と金属有機化合物からなるハイブリッド溶液を用いて光MOD法により、PETなどの樹脂基板上に蓄光材料をコーティングして高輝度蓄光シートを作製した。従来は蓄光材料を樹脂バインダーで基板上に固定化していたため、耐熱性・耐候性に問題があった。また、蓄光材料では発光を支配する希土類金属の酸化状態の制御が重要であるが、従来の高温熱処理による無機材料での固定化では、樹脂基板の劣化や蓄光材料の酸化反応による蛍光特性の低下が大きな課題であった。しかし、光MOD法を用いると、金属有機化合物の光反応で生成した無機材料で蓄光材料を固定化するため、耐熱性・耐候性にも優れ、蛍光特性も低下しなかった(図2)。

光MOD法で製膜した蓄光シートの図
図2 光MOD法で製膜した蓄光シート

 今回開発した蓄光材料を安全誘導標識などに用いれば、超高層ビルやタワーマンションなどの災害時に、長時間にわたる安全な避難誘導が実現する。また、省エネ照明、住宅建材、鉄道、モバイル機器などにコーティングして災害時避難システムの構築が可能である。さらに、産総研で開発した赤色蓄光材料などとの混合による蓄光の多色化技術は、パスポートなどの公文書偽造防止システムなど、さまざまな分野へ適用でき、安全、安心な社会への貢献が期待される。

今後の予定

 今後は、今回開発した蓄光材料と蓄光シートを基に、安全誘導標識、照明、住宅建材、交通・モバイル機器などへ適用して、安全、安心な社会に必要なシステムの構築へ貢献していく。



用語の説明

◆LED照明
一般的には白色光が使われている。青色LEDが発光した光(波長:460 nm前後)の一部を、黄色系の蛍光体によって変換し、もとの光とあわせて白色光を出している。LEDはlight emitting diodeの略。[参照元へ戻る]
◆蓄光
光をエネルギーとして蓄積し、その蓄積したエネルギーが放出され発光する現象。[参照元へ戻る]
◆蛍光体
外部からエネルギー(光、電子線、放射線、応力、熱など)が与えられた時に発光する材料。[参照元へ戻る]
賦活ふかつ材料ざいりょう
賦活材料とは、もととなる材料(母材料)に添加して、電子励起を起こさせることで蛍光させる材料。蓄光材料は母材料と発光に関与する希土類イオンなどの賦活材料からなる。このため、賦活材料の種類やドーピング濃度が発光特性に影響する。[参照元へ戻る]
◆金属有機化合物
カルボン酸塩、β ジケトナートなどの、金属を含む有機化合物。[参照元へ戻る]
◆光MOD法
光有機金属分解法。従来、高温での熱処理が必要だったセラミックス膜を、大気中で低温でも結晶面をそろえて配列するエピタキシャル膜や多結晶膜を樹脂上に成膜できる、産総研が開発した新しいコーティング技術。原料溶液の光反応により低温でセラミックスの膜が成膜できるため、熱に弱い樹脂、金属、ガラスなどに対して機能性セラミックスのコーティングが可能。[参照元へ戻る]
◆濃度消光
発光イオンの濃度が高くなりすぎると、蛍光強度が低下する現象。発光イオンが近接した位置に存在することにより、金属イオン間同士で発光に関与しないエネルギー遷移が生じることが考えられている。[参照元へ戻る]
◆バンドギャップ
価電子帯と伝導帯のエネルギー差のこと。[参照元へ戻る]
◆トラップ準位
光で励起された電子や正孔が捕獲される準位。[参照元へ戻る]
◆ハイブリッド溶液
光MOD法の前駆体溶液の一つで、金属有機化合物溶液と金属酸化物ナノ粒子から成る溶液。光反応により金属有機化合物が無機材料となり金属酸化物ナノ粒子と薄膜を形成する方法。[参照元へ戻る]
◆耐候性
材料を太陽光、風雨などにさらされる屋外で使用する際の耐久性。[参照元へ戻る]
◆希土類金属
スカンジウム、イットリウムの2元素と、ランタンからルテチウムまでの15元素(ランタノイド)の17元素の総称。[参照元へ戻る]



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