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発表・掲載日:2017/01/19

サンゴの骨格形成の高精度な可視化に成功

-サンゴは能動的に体内のpHを調整して成長する-


 琉球大学 大学院理工学研究科 大学院生の大野良和さん(指導教員・中村 崇 理学部 准教授)をはじめとする研究グループは、沖縄工業高等専門学校、沖縄科学技術大学院大学(OIST)、産業技術総合研究所、岡山大学との共同研究で、サンゴが骨格を作る際の細胞群の動きを世界で初めて詳細に捉えることに成功しました。この成果は、生きたサンゴが体内の環境を最適な状態にしながら骨格を作る様子を報告しつつ、これまでの定説に疑問を投げかけるものです。将来的には、この知見を基に、骨などの硬組織の形成メカニズムの進化過程をより深く理解するための研究展開が期待されます。さらに、今後、サンゴがどの程度の海水温上昇や海洋酸性化などの環境問題に対応可能なのかを、細胞・組織レベルで明らかにする上で重要な知見になります。研究成果は、平成29年1月18日(現地時間)に英国のNature Publishing Group のオープンアクセス誌「Scientific Reports」に掲載されました。



研究概要

 造礁サンゴ類(以下サンゴ)は炭酸カルシウムを主成分とする骨格を形成することで知られています。サンゴは、長い年月をかけて複雑な地形(サンゴ礁)を形成し、多くの海洋生物の生息場所を提供するようになります。サンゴ礁生態系はその生き物の豊かさから、「海のオアシス」とも例えられ、海洋の生態系を支える上で重要な場所と言えます。しかしながら、サンゴがどのようにして骨格を形成するのか、その根本的なメカニズムについていまだはっきりとは明らかとなっていません。

沖縄県石垣市(石西礁湖)のサンゴ群集の写真
沖縄県石垣市(石西礁湖)のサンゴ群集(2006年6月:中村崇 撮影)

沖縄県石垣市(石西礁湖)白化直後の浅瀬のサンゴ群集の写真
沖縄県石垣市(石西礁湖)白化直後の浅瀬のサンゴ群集(2016年9月:中村崇 撮影)

沖縄県石垣市(石西礁湖)白化直後の礁斜面部のサンゴ群集の写真
沖縄県石垣市(石西礁湖)白化直後の礁斜面部のサンゴ群集(2016年9月:中村崇 撮影)

 サンゴの骨格形成(石灰化)は生きたサンゴの組織と骨格に挟まれた間隙に含まれる石灰化母液(※1)で進行します。骨格が作られる際には、骨格形成を妨げてしまう水素イオン(H)がこの間隙から適切に除去される必要があります。石灰化の進行は、石灰化母液内のpH(水素イオン濃度指数)(※2)で化学的に規定されるため、内部のpH変化を知ることは骨格形成の一つと指標となります。これまでの定説では、サンゴの石灰化母液中におけるpHはほぼ一定に保たれており、サンゴが積極的にpHの調整を行っているとは考えられていませんでした。

 本研究では、pHイメージング法(※3)を応用することにより、石灰化母液のpH変化を生体内で高精度に測定・観察することができるようになりました。これにより、サンゴが能動的に石灰化母液のpHを調整する様子を世界で初めて明らかにすることに成功しました。本研究成果は、サンゴの石灰化メカニズムの理解を深めるために必要不可欠な成果です。さらに、海洋酸性化やサンゴの白化現象といった環境問題などが、どのようにサンゴの成育を阻害するのか、その詳細過程の解明や、多様な生物群における硬組織形成メカニズムの進化過程の解明などへの応用も期待されます。

 本研究は、日本学術振興会科研費(15J04797、15H02813)、キヤノン財団研究助成事業、JST/JICA SATREPS による研究事業の一環で行われました。

新規性

  • サンゴ石灰化母液のpH変化を高精度に測定可能な実験手法を新たに開発した。
  • 世界で初めてサンゴが石灰化母液のpHを能動的に調整する様子を明らかにした。
  • 本研究成果は、サンゴの白化現象や海洋酸性化とサンゴの生育阻害の関係性の解明などへも応用が期待される。

研究内容

  • 実験手法の開発

 本研究では、pHイメージング法(※3)を応用することで、生きたサンゴの組織内に存在する石灰化母液のpH変化を非破壊的に測定することが可能になりました。実験で使用したコユビミドリイシ(Acropora digitifera(※4)は、一斉産卵を介して浮遊プラヌラ幼生を発生させ、サンゴ初期ポリプ(※5、図1)への変態を誘導することができます。初期ポリプの状態でガラスプレート上に着底させることで、サンゴの体の底面から石灰化部位の観察を行うことが可能になります。また、共生藻を獲得していないサンゴ初期ポリプを実験に使用することで、共生藻類の影響を排除して石灰化母液内のpHを測定することが可能になりました(図2)。

コユビミドリイシの初期ポリプの図   石灰化母液と海水に含まれる試薬の蛍光測定値を疑似カラー変換し、pH測定値と対応させた図
図1. コユビミドリイシの初期ポリプ。共生藻類を獲得する前の初期ポリプを使用することで、共生藻類の影響を排除した実験が可能である(スケールバー:200 μm= 0.2 mm)。   図2. 石灰化母液と海水に含まれる試薬の蛍光測定値を疑似カラー変換し、pH測定値と対応させた図。石灰化部位(初期ポリプの着底部)をガラス越しに直接観察することができる。

  • サンゴが石灰化母液のpHを能動的にコントロールする様子を可視化

 石灰化母液のpH変化を高精度に捉えることが可能となったため、今後、さまざまな研究に応用することができるようになりました。本研究では、石灰化母液のpHを低下させた(※6)ところ、その数分後にサンゴが能動的に石灰化母液のpHを上昇させる現象を発見しました。このメカニズムの背景には、サンゴがpH変化を感知し、石灰化母液のpHを最適にコントロールすることで、精巧な骨格形成をおこなう仕組みが存在することを示唆しています。

今後の展望

 生きた状態でサンゴの骨格形成過程を可視化できるようになったため、今後はサンゴの骨格形成メカニズムをより詳細に明らかにすることができます。例えば、本研究を基礎として、石灰化母液内のpH調整に関与するタンパク質の働きなどについて、検証することが可能になります。また、将来予測されている海洋環境の変化に対して、サンゴがどのように対応していくのかを明らかにすることができます。



用語解説

※1:石灰化母液
サンゴの骨格を造る細胞と骨格の間隙を満たす液体で、サンゴの骨格が造られる場所と考えられている。石灰化母液内のpH は8.5~9.0程度の弱アルカリ性であり、骨格ができやすい環境になっている。石灰化母液の組成は海水の組成とは異なっていると想定されているが、その詳細は明らかになっていない。[参照元へ戻る]
※2:pH(水素イオン濃度指数)
pH(ピーエイチ)は溶液中の水素イオン濃度 (H+)の量を表しており、水素イオン濃度が大きいほど値が小さくなる。中性はpH 7であり、海水はpHが約8.1なので弱アルカリ性である。[参照元へ戻る]
※3:pHイメージング法
pH変化に伴い蛍光特性が変化する薬剤を使用することで、蛍光顕微鏡観察で生きたサンゴ組織でのpH勾配の可視化と測定を行うことができる実験手法である。本研究では共焦点顕微鏡を使用し、サンゴを生かした状態で石灰化母液中のpHを高精度に連続測定することを可能とした。[参照元へ戻る]
※4:コユビミドリイシ(学名:Acropora digitifera
枝状の造礁サンゴ類の一種で、沖縄近海で広く分布している。2011年には全遺伝子情報が新里宙也博士を中心とする沖縄科学技術大学院大学(OIST)のグループにより解読された(Shinzato et al., 2011, Nature 476:320-323)。遺伝子情報が解読されたため、様々な研究への応用が可能となっている。[参照元へ戻る]
※5:サンゴ初期ポリプ
沖縄島では、6月の満月の頃にサンゴの産卵が行われると、サンゴから放出された卵と精子は海面付近で受精し、約3日後には遊泳力のあるサンゴ浮遊幼生(サンゴプラヌラ)となる。実験室内ではHym-248神経ペプチドを投与することで、ミドリイシ属のサンゴプラヌラはサンゴ初期ポリプに変態し、その後、約半日で石灰化を開始する。自然環境下では初期ポリプは共生藻類を獲得し、親サンゴへと成長するが、本研究ではサンゴの宿主側の石灰化メカニズムに注目するため、共生藻類を獲得させずに実験を行った。[参照元へ戻る]
※6:飼育海水中のpHを塩酸により低下させたところ(pH 7.1~7.3。通常の海水はpH 8.1)、石灰化母液内に水素イオン(H+)が流入することも、本研究で明らかとなった。[参照元へ戻る]
 



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