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発表・掲載日:2016/10/12

従来の限界を超える高温環境で動作する不揮発性メモリー

-人類が初めて手にする600 ℃超での書き換え・記録技術-

ポイント

  • ナノメートルの「すきま」を利用するナノギャップメモリーの高温耐性を実現
  • 耐熱性を有する白金ナノ構造を利用することで従来を大きく上回る600 ℃超での書き換え・記録技術を実現
  • 超高温での記録技術によりフライトレコーダーなどの耐環境性電子素子への応用に期待


概要

 千葉工業大学(学長 小宮 一仁)(以下「千葉工大」という)工学部(工学部長 平塚 健一)機械電子創成工学科 菅 洋志 助教は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(理事長 中鉢 良治)(以下「産総研」という)ナノエレクトロニクス研究部門(研究部門長 安田 哲二)、内藤 泰久 主任研究員、および国立研究開発法人 物質・材料研究機構(理事長 橋本 和仁)(以下「物材機構」という)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 塚越 一仁 主任研究者と共同で、白金ナノギャップ構造を利用し、600 ℃でも動作する不揮発性メモリー素子をはじめて開発した。

 通常のシリコン半導体を用いたメモリー素子では、バンドギャップに起因する半導体性を高温では保持できなくなり、メモリー機能を維持出来ない。今回、情報記憶部に耐熱性を有する白金ナノ構造を利用する方法によって、非常に高い温度で動作する不揮発性の抵抗変化メモリーの実現に成功した。このメモリー素子は、高温環境下でのメモリーやセンサーへの応用、たとえばフライトレコーダーや惑星探査機への応用が期待される。なお、この技術の詳細は、Springer Natureが発行する学術雑誌Scientific Reportsに論文として掲載される予定であり、10月11日付けで電子版に掲載される。

600 ℃高温下での動作確認の図
600 ℃高温下での動作を確認


開発の社会的背景

 紙や可燃性の記録媒体に蓄積された情報は、火災などの際に、高温による損壊によって失われてしまう。通常のシリコン半導体を用いたメモリー素子では、高温時に半導体性を発揮するバンドギャップが小さくなり、200 ℃を超える高温では、情報を維持することはできない。つまり、これまでは高温環境下での書き込みや読み込みを行うことはできず、高い温度で記録を守る技術はほとんどなかった。一方で、高温環境下で記録を守る技術は、航空機のフライトレコーダーや自動車のドライブレコーダー、惑星探査機などで希求されており、安全・安心な社会の実現や、知識を確実に次世代へ伝えることで科学の発展に寄与できると考えられる。

研究の経緯

 産総研は、次世代不揮発性メモリーの研究開発において電子素子の利用拡大を目指しており、その一端として、世界にさきがけて金属原子のナノ構造を用いた不揮発性メモリーの開発に取り組んできた(2007年6月19日 産総研主な研究成果)。今回、千葉工大と産総研、物材機構の研究チームは、千葉工大がもつナノギャップ電極の電極金属の結晶性改善技術を用いることで、高温時にメモリー性に寄与するナノ構造の構造変化のメカニズムを解明した。今回、この現象解明をもとに、電極金属に高温でも構造変化しにくい白金を電極素材として採用することで、高温でのメモリー動作を実現した。

 なお、この研究開発の一部は、科研費 JP23760320、平成27~32年度 文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(S1511002)、および、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST)「素材・デバイス・システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの創成」(研究総括 桜井 貴康)の研究課題「デジタルデータの長期保管を実現する高信頼メモリシステム」の支援を受けて行った。

研究の内容

 ナノギャップメモリーは、図1に示すようにナノギャップの空隙に可逆変化するナノピラーが成長し、接近と乖離を行うことで抵抗値を変化させる。接近時と乖離時にはトンネル電流の抵抗値が大きく変わるので、オンとオフの2状態を作ることができる。ナノギャップメモリーは、金属構造が維持される限り、記憶が保持できる。今回、千葉工大がもつナノギャップ電極の電極金属の結晶性改善技術を用いることで、高温時メモリー機能の維持に寄与するナノ構造の構造変化のメカニズムを解明した。図2は白金ナノギャップメモリー記憶部の走査型電子顕微鏡像である。高い結晶性を有しスイッチ動作後の大きな形状変化が起こりにくいことが、今回のメカニズム解明に貢献した。

ナノギャップメモリーの原理概要の図
図1 ナノギャップメモリーの原理概要
ナノピラーが成長することによりナノギャップの間隔が変化

ナノギャップメモリー(ナノギャップを備えた絶縁基板(シリコン酸化膜)上の白金電極)の走査型電子顕微鏡像の図
図2 ナノギャップメモリー(ナノギャップを備えた絶縁基板(シリコン酸化膜)上の白金電極)の走査型電子顕微鏡像

 図3は600 ℃で抵抗値をオンとオフを交互に100回切り替えた結果である。高温環境下でもオンとオフの抵抗値が分離することがわかる。図4は室温から600 ℃までの間の各温度のオン/オフ比である。400 ℃付近で低下する金に比べ、高融点の白金ナノギャップメモリーは高温環境下でも高いオン/オフ比を示す。高温環境下でのナノピラーの形成メカニズムを温度依存性の観点から明らかにした。詳細には、ナノピラー形成時に、ピラーを形成するための原子移動とともに形成を阻害する原子拡散の2つの効果が同時に発生することが判明した。白金ナノギャップは、高温環境下でも原子移動が後者の効果を上回ることができ、メモリーとして動作可能であることが分かった。さらに、本白金ナノギャップメモリーは高温環境下でも室温と同じく安定に情報を維持し、書き込んだ状態も600 ℃で8時間以上保持した。

600 ℃環境下でのナノギャップメモリーのオン/オフ値の図
図3 600 ℃環境下でのナノギャップメモリーのオン/オフ値

白金ナノギャップメモリーオン/オフ比の温度依存性の図
図4 白金ナノギャップメモリーオン/オフ比の温度依存性

今後の予定

 災害時などの高温下で守ることができなかったデータを保存できるようになることで、安心・安全な社会の構築に寄与することが期待できる。また、データセンターなどで排熱を気にせず使用することができるため、冷却エネルギーを削減でき、省電力への期待も大きい。しかし、電子素子の高温耐久に関する研究は始まったばかりであり、今後も基礎研究を継続し、実用化に向けた研究および更なる高温に対応できる材料探索を行う。今回、明らかになったナノギャップメモリーの高温耐久性能は、室温で保存すればさらに情報保持時間が長いことを示唆しており、長期記録メモリーの開発も期待できる。



用語の説明

◆ナノギャップ
シリコン基板上に作製した約10 nmの微小間隙(かんげき)。このナノギャップを有する金属電極をナノギャップ電極と言う。[参照元へ戻る]
◆不揮発性メモリー
電源を供給しないと記憶している情報を保持できないメモリーを揮発性メモリーといい、電源の供給なしでも情報を保持できるメモリーを不揮発性メモリーという。[参照元へ戻る]
◆バンドギャップ
バンド構造における電子に占有された最も高いエネルギーバンド(価電子帯)の頂上から、最も低い空のバンド(伝導帯)の底までの間のエネルギーの差。電子がバンドギャップを越えて価電子帯と伝導帯の間を遷移するには、バンドギャップ以上の大きさのエネルギー(光や熱)を吸収または放出する必要がある。半導体素子はバンドギャップによって電子の遷移(移動)を制御することによって、さまざまな機能を実現している。[参照元へ戻る]
◆抵抗変化メモリー
金属元素の酸化物に電圧パルスを印加すると抵抗値が変化することを利用したメモリーのこと。次世代不揮発性メモリー実現に向けて精力的に研究が行われている。[参照元へ戻る]
◆オン/オフ比
ナノギャップメモリーの場合、印加する電圧を制御すると、抵抗値を104から1010オーム程度まで、変化させることができる。電圧印加により変化させた、高い抵抗値と低い抵抗値の比をいう。[参照元へ戻る]


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