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発表・掲載日:2016/09/12

微細構造の毛細管力を利用した超高精細・厚膜印刷技術を開発

-透明性が高く応答の速いタッチパネルや、次世代装飾印刷への応用に期待-

ポイント

  • 毛細管力を利用して原版パターンの1/30以下に細線化できるサブマイクロメートル印刷技術
  • 従来技術では困難な25以上の高アスペクト比の厚膜印刷を実現
  • 自動車の内装パネルなどの製造技術であるフィルムインサート成形が可能


概要

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)集積マイクロシステム研究センター【研究センター長 廣島 洋】マルチスケール機能化表面研究チーム【研究チーム長 高田 尚樹】 穂苅 遼平 研究員、栗原 一真 主任研究員は、ナノインプリントスクリーン印刷を融合し、従来と同じ印刷原版を用いて、原版パターンの1/30以下に細線化できる超微細印刷技術を開発した。

 今回開発した技術は、低コストでナノメートルサイズの構造を成形加工できるナノインプリント技術によりフィルム表面に微細な凹凸構造を形成し、微細間隙に生じる毛細管力を利用して、機能性インクを間隙の中に閉じ込め、従来の印刷技術では困難な高アスペクト比厚膜印刷ができる。

 スクリーン印刷では、微細パターンを印刷するために開口パターンを微細化すると、原版部でのインク詰まりが避けられない。今回開発した技術では、原版の開口パターンを微細化しなくても微細なパターンを印刷できるため、高精細パターン印刷の量産性向上が期待できる。また、高アスペクト比で超微細なパターンが印刷できるため、抵抗が低く、透明性は高い配線を形成できる。

 この技術は近年注目されている自由曲面で透明なタッチパネルの配線への応用が期待でき、さらには次世代加飾技術などへの応用も期待される。なお、2016年9月14~16日にパシフィコ横浜で開催されるMEMSセンシング&ネットワークシステム展2016の産総研ブース(P-9)にて、今回開発した技術を用いた開発品を展示する。

従来技術(左)と今回開発した技術(右)で印刷したパターンの図
従来技術(左)と今回開発した技術(右)で印刷したパターン
インク滲み・拡がりを防いで高いアスペクト比を保ち、フィルムの透明性も向上している(右)。


開発の社会的背景

 現在、自動車産業では、ミラーレス車の解禁などに関連して、表示ディスプレイを含む内装パネルのデザイン性の向上が求められており、今後、自由曲面形状の車載パネルの需要が増大すると考えられる。このような車載パネルの意匠性や、曲面ディスプレイのタッチセンサーの透明性を向上させるため、高精細な配線を印刷する技術が求められている。これらの製造には一般的にスクリーン印刷が用いられるが、印刷原版を高精細化すると開口部のインク詰まりなどが生じるため、量産時のパターンの線幅は約50 μmが限界であった。また、微細な印刷パターンを電気配線として用いる場合、電気抵抗を低く抑えるために高アスペクト比が求められるが、一般的な印刷技術では1を超えるアスペクト比の配線を印刷することは難しい。

研究の経緯

 産総研 集積マイクロシステム研究センターは、ナノインプリント成形や射出成形による微細成形技術により、大面積ナノ構造体による反射防止レンズや、微細凹凸による表面濡れ性制御技術、スクリーン印刷と微細成形技術の融合による次世代MEMS製造技術の研究開発に取り組んできた(2007年4月23日2009年10月13日2012年7月10日 産総研プレス発表)。今回、加飾やエレクトロニクス、光学などの業界からの要望に応えるため、これまでの研究開発を通じて蓄積した微細成形技術や微細凹凸構造による表面濡れ性制御技術をもとに、微小間隙に生じる毛細管力を利用した高精細印刷技術の開発に取り組んだ。

 なお、この開発は、JSTマッチングプランナープログラム 平成28年度企業ニーズ解決試験「ナノインプリントによるナノスクリーン印刷技術開発」による支援を受けて行った。

研究の内容

 今回開発した技術では、まずナノインプリント成形によりフィルム表面に、大きな毛細管力が生じるように適切に設計したナノメートルからマイクロメートルの凹凸構造を形成する。その後、凹凸構造を形成したフィルムにスクリーン印刷を行うと、凹凸構造により大きな毛細管力が生じ、構造の微細な間隙に機能性インクを充填でき、数μmの線でも印刷可能である(図1)。この技術では原版パターンの1/30の線幅のパターンでも印刷できるため、従来の技術のように原版パターンの開口部を微細化する必要がなく、開口部のインク詰まりの問題は生じない。インク詰まりの問題を解消することで、印刷品質を確保するために必要な原版の洗浄回数を少なくすることができ、量産性の向上にも貢献できる。

ナノインプリントとスクリーン印刷による微細な厚膜印刷の工程の図
図1 ナノインプリントとスクリーン印刷による微細な厚膜印刷の工程

 図2a、 2bに導電性のインクを用いて配線を印刷して試作した透明導電フィルムとその透過スペクトルを示す。従来の印刷技術(200 μmの原版開口幅)による導電フィルムでは、波長550ナノメートルの光の透過率は43 %であった。一方、今回開発した技術を用いると、線幅3 μmという超微細な配線を印刷でき、導電フィルムの透過率は90 %であった。印刷前のフィルムの透過率は91 %であることから、配線による透過率の低下はごくわずかと言える(図2b)。今回の技術によって配線を印刷すれば、非常に透明性の高い導電フィルムが作製でき、タッチパネルへ応用した際には画面のコントラスト比が向上する。

 また、従来の印刷技術では、微細化すると配線の高さも低くなり、シート抵抗が増加してしまう。今回の技術では、凹凸構造の微細間隙内にインクを閉じ込めるため、配線を微細化しても高さを保つことができる。このため、高いアスペクト比の配線を印刷でき、シート抵抗の増大を抑制できる(図2c)。タッチパネルはRC回路になっており、応答の時定数は回路の抵抗と静電容量の積により決まる。シート抵抗が小さいと回路の抵抗が小さくなり、タッチパネルの応答が速くなる。

 すなわち、今回開発した技術によって、視認性に優れ応答の速いタッチパネルの実現が期待できる。


印刷により試作した透明導電フィルムの図
図2a 印刷により試作した透明導電フィルム
透明導電フィルムの透過スペクトルの図 印刷線幅とシート抵抗の関係の図
図2b 透明導電フィルムの透過スペクトル 図2c 印刷線幅とシート抵抗の関係

 今回開発した技術は、透明導電フィルムのように、微細な配線をまばらに印刷できるだけではなく、微細な配線の高密度印刷も可能である。微細な配線と原版の開口部とは一対一に対応している必要はなく、原版の一つの開口部からのインクを複数の微細間隙内に充填することによって、高密度の微細配線を印刷できる。なお、微細な凹凸構造の上部にインク溜まりが残り、その除去が必要な場合もあるが、すでに除去方法の目途は立っている。図3に今回の技術で試作した高密度の微細配線を示す。高密度で微細な配線の作製(図3a)や、線幅0.8 μmの微細配線では25の高アスペクト比を実現できた(図3b)。今回の技術はナノインプリント技術を用いているため、印刷パターンの一層の高精細化や高密度化、印刷寸法誤差の減少も期待できる。現在確認している最小線幅は0.8 μmであるが、原理的には0.1 μm以下の微細パターンの印刷も可能と考えられる。

試作した高密度微細配線の図 サブマイクロメートル配線(インク溜まり除去前)の図
図3a 試作した高密度微細配線 図3b サブマイクロメートル配線
(インク溜まり除去前)

 今回開発した技術と、自動車用の曲面パネルの製造技術の一つであるフィルムインサート成形により曲面部分に微細な厚膜パターンが印刷された部品を試作した(図4)。まず、今回の技術によりフィルムに微細な厚膜を印刷した。そのフィルムを金型の曲面に合わせて曲げ、金型内部に挿入して、射出成型によって部品を作製したところ、インク流れも見られず、曲面部分にパターンが印刷された部品を作製できた。このように、今回開発した技術は、自動車や家電などの曲面パネルのフィルムインサート成形にも応用できる。

フィルムインサート成形の工程と試作した結果の図
図4 フィルムインサート成形の工程と試作した結果

今後の予定

 今回開発した技術が多くの産業分野で使われることを目指して、高精細・厚膜印刷フィルムのサンプル提供や共同研究などにより、技術の高度化と橋渡し連携活動に注力していく。

 また、非常に微細な印刷パターンによる構造色の発現やインクの発色の向上などが期待され、これまでにない深みのある表現の加飾フィルムの実現をめざす。



用語の説明

◆ナノインプリント
ナノメートルサイズの微細構造をもつ金型を用いて、プラスチック表面などに微細構造を転写する加工技術。光硬化方式と熱方式がある。[参照元へ戻る]
◆スクリーン印刷
開口部を持つ原版を通してインクを被印刷物に擦りつける印刷方式。[参照元へ戻る]
◆印刷原版
複製印刷に用いる、もとになる版。今回は、スクリーン印刷版を表す。ポリエステルやステンレスの繊維で織った網状の版。開口部の網目部をインクが通過することで印刷できる。従来の微細印刷の場合、小さな開口部と高密度な網目が必要であるため、網目部にインクが詰まる問題が起こりやすい。[参照元へ戻る]
◆毛細管力
微細構造の微小間隙部に特に液体が浸入する物理現象を毛細管現象というが、そのときに作用する力。表面張力、接触角、微小間隙の幅などによって決まる。[参照元へ戻る]
◆アスペクト比
要素の縦横比であり、この場合は印刷パターンの高さと幅の比。同じ幅であればアスペクト比が大きいほど高さが高い。[参照元へ戻る]
◆厚膜印刷
数μm以上の厚みがあるパターンを形成できる印刷技術。[参照元へ戻る]
◆自由曲面
曲率が一定ではない任意の曲面形状。[参照元へ戻る]
◆タッチパネル
液晶などのディスプレイとタッチセンサーなどの位置入力装置で構成される電子デバイス。ディスプレイ表示の視認性を向上する技術が求められている。[参照元へ戻る]
◆加飾技術
器物の表面に装飾を加える技術。家電製品や自動車パネル、包装フィルムなどに高級感や独特の質感・色合いを持たせることで、製品に付加価値を与えることができる。[参照元へ戻る]
◆シート抵抗
表面抵抗率。同じ材料の配線の場合、配線の高さが高いほど小さい。[参照元へ戻る]
◆RC回路
抵抗とコンデンサで構成される電気回路。Rは電気抵抗、Cは静電容量。[参照元へ戻る]
◆時定数
出力信号が定常状態になるまでの時間の目安。[参照元へ戻る]
◆フィルムインサート成形
通称IMF(In Mold Forming)成形。金型にフィルムを挿入した状態で射出成形を行う成形技術。車載用の曲面パネルなど自由曲面にも対応できる。加飾フィルムを用いることで、成形後の印刷や塗装の工程を省略できる。[参照元へ戻る]
◆構造色
微細構造による発色現象。モルフォ蝶やタマムシの鮮やかな見た目も微細構造による光の干渉や回折などを利用したもの。[参照元へ戻る]


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