発表・掲載日:2016/08/08

赤穂市は恐竜時代のカルデラの中にできた町だったことが判明

-播州赤穂地域の詳細な地質図幅を刊行-

ポイント

  • 「播州赤穂」地域の地質情報を5万分の1地質図幅として刊行
  • 白亜紀の巨大カルデラ(コールドロン)を発見し、「赤穂コールドロン」と命名
  • 白亜紀から現在までの地盤形成の歴史を解明


概要

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質調査総合センターは、地質情報研究部門【研究部門長 牧野 雅彦】地殻岩石研究グループ 佐藤 大介 研究員らがとりまとめた「播州赤穂地域の地質」を刊行した。これは、平成23~25年度の3年間にわたり実施した兵庫県赤穂市を中心とした「播州赤穂」地域周辺の詳細な地質調査を基にまとめた資料である。兵庫県と岡山県にまたがるこの地域全域の5万分の1の地質図幅は、今回が初となる。

 今回、「播州赤穂」地域の火山の噴火活動が盛んだった後期白亜紀の状況と、地盤が形成された歴史を解明した。「播州赤穂」地域では後期白亜紀に大量の火砕流を噴出した火山活動が複数あった。その際に形成された当時のカルデラコールドロン)を埋めるように火砕流堆積物が分布していることが明らかになった。今回確認された赤穂市付近の白亜紀のカルデラ(コールドロン)は、現在は浸食によりカルデラ地形は失われて火山体の地下構造が露出しているが、カルデラ(コールドロン)としては国内でも有数の大きさであり、「赤穂コールドロン」と命名した。

 なお、この地質図幅の価格は1,600円(税抜き)で、8月9日頃から産総研が提携する委託販売店(https://www.gsj.jp/Map/JP/purchase-guid.html)で販売する。

「播州赤穂」地域の地質図幅の一部(一部修正、加筆)の図
「播州赤穂」地域の地質図幅の一部(一部修正、加筆)
図中の実線がコールドロン縁で、破線は推定。


開発の社会的背景

 地質図は、資源開発や防災、土木・建設、地球環境対策など、幅広い分野で基礎資料として必要とされる。また、日本列島の成り立ちや歴史を探るための学術資料としても重要である。産総研 地質調査総合センターは全国各地域の地質を調査・研究し、過去に刊行された地質図幅の精度向上や、公開されていない地域の地質図幅の作成に取り組んでいる。しかし、地域によって現地調査の進捗度合に差があり、兵庫県と岡山県の県境周辺の「播州赤穂」地域はほとんど調査されていなかった。

研究の経緯

 産総研 地質調査総合センターは、平成23~25年度の3年間にわたり、「播州赤穂」地域全域の現地調査と岩石の年代測定を行った。そして、平成28年7月、その成果を「播州赤穂地域の地質」として地質図幅と説明書にまとめあげて刊行に至った。

研究の内容

 「播州赤穂」地域周辺を含む地表踏査を行い、堆積物の分布や種類を調べ、また採取した岩石の年代測定を行った。

 「播州赤穂」地域の地質を(1)後期三畳紀~ジュラ紀(2億3700万年前~1億4500万年前)、(2)後期白亜紀(1億50万年前~6600万年前)、(3)古第三紀(6600万年前~2303万年前)、(4)第四紀(258万8000年前~現在)の4つの年代に区分した。

 「播州赤穂」地域に広く分布する後期白亜紀の岩石は、35年前に刊行された20万分の1の地質図幅では、白亜紀~古第三紀の時期に堆積した火砕岩と溶岩によって広く覆われているとされていた。しかし、今回、後期白亜紀に、大規模な噴火によってできた当時のカルデラ(コールドロン)が複数あり、これらを火砕流堆積物が埋めていることが分かった(図1)。特に、赤穂市周辺のコールドロンの大きさは長径21キロメートルに及び、国内最大級の第四紀カルデラである阿蘇カルデラ(長径約25キロメートル)や姶良(あいら)カルデラ(直径約20キロメートル)に匹敵していた(図2)。また、今回発見されたコールドロンを「赤穂コールドロン」と命名した。

 また、今回新たにウラン-鉛法による火山岩の放射年代測定を実施した。後期白亜紀の火山岩は、熱水活動などの二次的な影響により変質・風化していることが多いが、ウラン-鉛法は、火山岩中の変質に強い鉱物を用いて年代測定をするため、従来のカリウム-アルゴン法、ルビジウム-ストロンチウム法による放射年代測定に比べて、火山が噴火した年代をより高精度で特定できる。

 さらに、この地域の鉱山、断層などについても、地質図幅と説明書にまとめた。「播州赤穂」地域には、日本最大級のろう石鉱床や昭和に発見された金鉱床があるが、これらは後期白亜紀の火成活動に伴って形成されたものである。今回、鉱床地域を含む「播州赤穂」地域の地質がより詳細に明らかになったことにより、鉱床の成因の解明や新たな鉱山開発土木・建設のための基礎資料、さらにはジオパークなど観光資源となりえると考えられる。

赤穂コールドロンと第四紀カルデラ(阿蘇、姶良)の比較の図
図2 赤穂コールドロンと第四紀カルデラ(阿蘇、姶良)の比較
地質図は産総研 地質調査総合センター シームレス地質図(https://gbank.gsj.jp/seamless/)、
姶良のカルデラ縁は日本の火山(https://gbank.gsj.jp/volcano/)による。

今後の予定

 今後は、まだ現地調査を行っていない周辺地域の調査を行うとともに、この地域を含む広域的な地質の成り立ちを解明し、地質図幅の更新を図ることを目指す。


プレスリリース修正情報

修正箇所
 「赤穂コールドロン」の用語の説明に記載の「約8,300万年前」を「約8,300~8,200万年前」に修正。(修正日時:2016年8月10日 16:00)


用語の説明

◆地質図幅、地質図
国土がどのような地層や岩石でできているのか、それらがいつ頃できたものなのか、地層や岩石の関係がどうなっているのかを、地図上に色や記号で表したものを地質図という。地質図幅は、国土地理院が発行する地形図や地勢図の図郭に合わせて作成した地質図である。[参照元へ戻る]
◆カルデラ、コールドロン
カルデラは、火山活動によってできた大きなくぼ地状の地形であるのに対して、コールドロンは、火山性の陥没構造の総称である。削剥・浸食により陥没してできた地形が失われたものはコールドロンと呼称するのが一般的である。カルデラは地形用語で、陥没があったかは問わないため、カルデラの大きさは浸食などの二次的影響により、実際に陥没した大きさよりも大きくなることがある。阿蘇は浸食により、当初の陥没地形から広がったことが知られている。[参照元へ戻る]
◆火砕流堆積物、火砕岩
火山の噴火や溶岩ドームの崩壊により放出された火山砕屑物と火山ガスが混じり合い、高速で流走する現象(火砕流)により運ばれてできた堆積物で、火山砕屑物が固まってできた岩石を火砕岩という。カルデラを形成するような噴火は、莫大な量のマグマ噴出を伴い、火砕流堆積物が厚く堆積する。[参照元へ戻る]
◆赤穂コールドロン
兵庫県赤穂市周辺に、約8,300~8,200万年前の巨大噴火により生じたカルデラ(長径約21キロメートル)。現在、カルデラ地形は浸食により失われており、火山体の下部構造(コールドロン)が露出している。コールドロン内を埋める火砕流堆積物の厚さは700メートルを超える。コールドロン内には、カルデラ形成後の熱水活動によりできた金やろう石鉱床がある。[参照元へ戻る]
◆地表踏査
地質調査の最も基本的なことのひとつで、地表を自らの足で歩いて、表土を除く地学現象(岩石や地層の種類、前後関係、広がりなど)を調査すること。[参照元へ戻る]
◆放射年代測定
放射性核種の壊変を利用した年代測定で、ウラン238(約45億年の半減期)とウラン235(約7億年の半減期)は、それぞれ鉛206と鉛207に壊変する。ウラン-鉛法は、この性質を利用し、ジルコンなどの鉱物中のウラン238や鉛206などの数比から年代を測定する方法。[参照元へ戻る]



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