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発表・掲載日:2016/05/23

電池内部の反応不均一性を可視化

-長距離走行を可能とする自動車用電池設計へ適用-


 京都大学の 内本 喜晴 大学院人間・環境学研究科教授、折笠 有基 同助教(現 立命館大学 准教授)らの研究グループは、立命館大学、国立研究開発法人 産業技術総合研究所、株式会社KRIと共同で、リチウムイオン電池1内部の反応不均一現象を可視化し、その発生要因を解明しました。実用の電池設計はトライ&エラーの要素を多く含んでいますが、今回の成果を用いることで、より科学的な観点からの高性能な電池の設計が可能になります。今後、電気自動車の走行距離拡大へ向けた二次電池開発への適用が期待されます。

 本研究内容は、2016年5月19日午後6時(日本時間)付けで、英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されます。



概要

 リチウムイオン電池は携帯電話、スマートフォン、ノートパソコン用の電池として広く普及しています。近年では電気自動車用もしくは電力貯蔵用への展開が加速されており、電池がますます大型化しています。電池性能を左右する因子として、電池内部の反応不均一現象が関与していることは、多くの研究者が予測していますが、実験的に検証し解析するツールはこれまでほとんどありませんでした。また、不均一性は電池内部の電子伝導率とイオン伝導率の違いによるものと考えられていたものの、これを実測する手段もありませんでした。

 本研究では、反応不均一現象を可視化するために、2次元データが取得可能なX線吸収分光測定2を行いました。また、リチウムイオン電池の電極における、電子伝導率とイオン伝導率の計測手法を確立しました。性能が異なるリチウムイオン電池の電極を用いて、上記手法によって解析した結果、電極内部の反応不均一性はイオン伝導によって決定されており、これが性能に大きく影響していることを突き止めました。

 今回の成果はリチウムイオン電池の実用的な設計に貢献し、電池性能の向上に有用です。特に反応の不均一性は大型電池では顕著となるため、自動車用リチウムイオン電池の設計へ適用され、走行距離が長く、高い安全性を有する電池の実現につながると期待されます。

 本研究の一部は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が共同で推進している革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISINGプロジェクト:プロジェクトリーダー 小久見善八 名誉教授)の一環で行われました。

研究の背景

 リチウムイオン電池は、小型携帯機器用途から電気自動車等の大型蓄電デバイスまで使用されている、現代では必要不可欠な電池です。リチウムイオン電池は、エネルギーを貯める2つの電極とイオンが行き来するための電解質から構成されています。電極はリチウムイオンを貯蔵する活物質、電子伝導パスを形成する導電剤、それらを結合させる結着剤で構成されており、この空隙に電解液が存在してイオン伝導パスをつくる極めて複雑な構造の合剤電極です。図1に合剤電極の模式図を示しています。リチウムイオン電池の充放電反応は、電解質から供給されるイオンと外部回路から供給される電子との反応により進行します。反応が起こる合剤電極内では電子伝導、イオン伝導ともに多数の抵抗成分が存在しており、電子抵抗とイオン抵抗のバランスによって、電池性能が左右されると推測されています。合剤電極の作製条件が特性に大きく影響を与えることは経験的に認識されており、電極構造をトライ&エラーによって最適化し、その性能向上を図ってきました。リチウムイオン電池の性能をさらに向上させるには、電極内部で発生する現象を直接観測して、特性支配因子を明らかにし、理想的な反応を引き起こす合剤電極の設計を行う必要があります。合剤電極において、電子伝導、イオン伝導のバランスにより引き起こされるのが反応の不均一性です。不均一な反応により、電極利用率の低下や特定部位の劣化が促進されるため、反応分布の発生状況を把握し、この結果を合剤電極の設計へ反映させることが実用上極めて重要です。しかしながら、電池の充放電反応中にモニターできる電位・電流の情報は合剤電極全体の情報を反映し、電極内部の反応サイトや抵抗の不均一性を直接測定することはできません。合剤電極の反応不均一性を直接測定する新たな手法が必要です。また、リチウムイオン電池合剤電極中の反応を支配する電子伝導率とイオン伝導率を分離して計測することは、一般的に困難でした。つまり、リチウムイオン電池の合剤電極の設計には、反応不均一現象の直接測定と電子・イオン伝導率分離計測の二つの計測手法を開発し、両者を併せて議論する必要があります。

得られた成果

 本研究では、組成は同じで、電池性能が異なる合剤電極を対象にしました。まず、合剤電極内の断面方向の反応不均一現象を計測するために、二次元イメージングX線吸収分光法を用いました。X線吸収分光法はリチウムイオンの出入りに伴う遷移金属の酸化還元を利用した電極活物質の価数を見積もることが可能で、どの程度充電しているかの指標を与えます。今回は2次元化した検出器を使用することで、合剤電極中の位置ごとの充電状態をマッピングしました。また、より広い領域の情報を得るために、大きなビームを作ることが可能な立命館大学SRセンター3にて実験を行いました。放電途中で取り出した合剤電極断面の反応不均一マッピングを図2に示しています。合剤電極中の隙間(空孔率)が大きい電極では反応が均一に進行していましたが、空孔率が小さい電極では、電極・電解質の界面から優先的に反応が進行し、内部に大きな不均一性があることが示されました。

 さらに、合剤電極中の電子・イオン伝導率を分離計測するために6本の端子を用いて計測する測定法(図3)を開発し、測定を行いました。この結果、合剤電極中では電子伝導率に比べてイオン伝導率が非常に小さいこと、空孔率が小さい場合はイオン伝導率がさらに小さくなることが明らかになりました。以上から、リチウムイオン電池の実用的な合剤電極中では、イオン伝導が律速になっている可能性が極めて高く、反応の不均一性が性能支配因子であることを実証しました。

今後の展開

 今回得られた情報を基に合剤電極の設計を行うことで、リチウムイオン電池の更なる性能向上が加速できます。また、今回適用した二次元イメージングX線吸収分光法と電子・イオン伝導率分離測定法は、合剤電極中で起きている現象を解析するツールとしての幅広い適用が期待されます。反応不均一性と電子・イオン伝導率の要因を組み合わせた基礎的な学理に基づいた合剤電極の設計・開発は、我が国の電池産業が世界トップレベルで有り続けることに貢献できます。

リチウムイオン電池合剤電極の模式図、電子は集電体側、リチウムイオンは電解質側から供給される図
図1 リチウムイオン電池合剤電極の模式図、電子は集電体側、リチウムイオンは電解質側から供給される

同じ組成で空孔率が異なるリチウムイオン電池合剤電極の断面における二次元イメージングX線吸収分光測定の結果(上:電極表面側、下:集電体側)の図
図2 同じ組成で空孔率が異なるリチウムイオン電池合剤電極の断面における二次元イメージングX線吸収分光測定の結果(上:電極表面側、下:集電体側)、色の変化は反応進行度を表しており、空孔率が小さい試料ほど色の不均一性が顕著に見える

リチウムイオン電池合剤電極中の電子・イオン伝導率分離測定法模式図
図3 リチウムイオン電池合剤電極中の電子・イオン伝導率分離測定法の模式図

書誌情報

タイトル:“Ionic Conduction in Lithium Ion Battery Composite Electrode Governs Cross-sectional Reaction Distribution
著者:Yuki Orikasa, Yuma Gogyo, Hisao Yamashige, Misaki Katayama, Kezheng Chen, Takuya Mori, Kentaro Yamamoto, Titus Masese, Yasuhiro Inada, Toshiaki Ohta, Zyun Siroma, Shiro Kato, Hajime Kinoshita, Hajime Arai, Zempachi Ogumi and Yoshiharu Uchimoto
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/srep26382

 

1 エネルギー密度が高く、携帯電話やノートパソコンなどの携帯機器の中心的な電源として利用されている二次電池。最近ではハイブリッド自動車、電気自動車、旅客機、大型蓄電池への利用が進められている。正極・負極の電極と有機電解液が主な構成要素であり、リチウムイオンが動くことで充放電反応が進行する。移動用電源として用いられる場合、大型化とともにさらなる安全性の向上が開発の至上命題である。[参照元へ戻る]

2 高エネルギーのX線を試料に照射し、対象とする元素に特有なエネルギーを持つX線の吸収率を観察することにより、物質内原子の電子構造や、隣接原子との結合などの局所構造に関する情報を得る解析手法。実験は放射光施設で行われることが多い。[参照元へ戻る]

3 日本の私立大学が所有する唯一の放射光施設で滋賀県草津市の立命館大学びわこ・くさつキャンパス内にある。ほぼ光速で進む電子の軌道が電磁力によってその進行方向を変えられると、接線方向に電磁波が発生するが、その電磁波を放射光という。SRセンターでは、学術界、産業界における電池分野のユーザーが数多く利用しているだけでなく、学内附置の施設として学部生の実験カリキュラムでも使用されている。[参照元へ戻る]


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