発表・掲載日:2016/05/18

富士川河口断層帯の位置を陸・海で連続的(シームレス)に特定

-駿河湾北部沿岸域の地質・活断層情報を提供-

ポイント

  • 富士川河口断層帯で、最も活動度が高い活断層とされる入山瀬断層の海陸での正確な位置を確定
  • 富士川河口断層帯の海陸の連続性と、駿河トラフとの位置関係が判明
  • 駿河湾北部沿岸域周辺での精度の高い地質情報の提供や自治体の安全な都市づくりへ貢献


概要

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質情報研究部門【研究部門長 牧野 雅彦】 情報地質研究グループ 尾崎 正紀 上級主任研究員らは、2013年に駿河湾北部沿岸域で地質・活断層調査を行い、沿岸部の陸域から海域にかけて連続的(シームレス)に富士川河口断層帯の地質構造を明らかにした。特に、富士川河口断層帯と駿河トラフは、雁行して配列する位置関係にあり、連続性があることが判明した。

 富士川河口断層帯は、南海トラフで大地震が発生した場合に、連動して大きな被害をもたらす可能性がある。中でも入山瀬断層は最も活動度が高いとされる。今回、入山瀬断層と周辺の活断層との位置関係や活動度の差を正確に把握したことにより、富士川河口断層帯のより正確な活断層評価に向けた調査研究の推進や、周辺自治体の減災計画のための詳細な地質情報を提供することで安全な都市づくりへの貢献が期待できる。

富士川河口断層帯の沿岸域における活断層の分布と駿河トラフとの位置関係の図
富士川河口断層帯の沿岸域における活断層の分布と駿河トラフとの位置関係


研究の社会的背景

 フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界である南海トラフでは、マグ二チュード9を超える大地震の発生が予測されている。駿河湾は南海トラフの東端部に位置し、更に駿河湾から富士川沿いの北方には富士川河口断層帯がある(図1)。富士川河口断層帯は、陸上に露出したプレート境界として、日本でも最大級の活動度が分かっている。

 富士川河口断層帯は、減災上、重要な断層として多くの活断層調査が実施されてきたが、海域への連続性は明らかになっていなかった。特に、入山瀬断層に関しては、この断層帯で最大の平均変位速度が推定されているにも関わらず、断層が地表に露出していないため、その実態は明らかとはいえなかった。

富士川河口断層帯の位置と、南海トラフやプレートとの位置関係図
図1 富士川河口断層帯の位置と、南海トラフやプレートとの位置関係

研究の経緯

 産総研では、2008年から「沿岸域の地質・活断層調査」プロジェクトとして、沿岸域における重要インフラの地震災害リスク軽減や産業立地の安全に資するため、五つの沿岸域について、活断層や軟弱な地層の分布など、地下地質や地質地盤に関する陸・海の連続性を把握できる総合的な地質情報の整備を進めてきた。

 本プロジェクトの一環として、プレート境界の陸側延長部であり、西南日本弧と伊豆-小笠原弧の衝突帯でもある駿河湾北部の海陸沿岸域の地質・活断層情報を整備するため、2013年に反射法地震探査反射法音波探査、表層堆積物調査、露頭断層調査、ボーリング調査、海底地形調査、地球物理調査などを実施した。

研究の内容

 沿岸海域では高分解能の海上反射法音波探査と地形調査を行い、海岸から2 km以内の沖合の海底下に見られる約2万年前に形成された浸食面を広く追跡し、浸食面を変形させる四つの活断層(富士川沖断層A、富士川沖断層B、善福寺沖断層、蒲原沖断層)を確認した(図2、3)。入山瀬断層は西側を隆起させる逆断層だが、海域延長部では西側を隆起させる逆断層は富士川沖断層Aしか見つかっておらず、大きく屈曲して富士川沖断層Aへ連続すると考えられていた。今回の調査で、新たに西側を隆起させる富士川沖断層Bを確認し、以前の調査によって位置が特定されていた吹上ノ浜の入山瀬断層との連続性が判明した。また、陸域の善福寺断層は活断層ではないが、その海域延長部である善福寺沖断層は活断層であることが分かった。善福寺沖断層は、海域の四つの活断層のうちで浸食面を最も大きく変形させている。その位置や延び方向が近いことから駿河トラフに連続する可能性が高い。

富士川河口から蒲原海岸沿岸域における地質図と活断層の分布図
図2 富士川河口から蒲原海岸沿岸域における地質図と活断層の分布

 一方、陸域沿岸域では、1854年に発生した安政東海地震で出現したとされる蒲原地震山付近で、反射法地震探査とボーリング調査を実施した。その結果、蒲原地震山を挟んで入山瀬断層は雁行または平行した二つの断層からなっている可能性が高いことが判明し、蒲原地震山と入山瀬断層との位置関係が明確になった。

 以上のように、駿河湾のプレート境界北方延長部である沿岸域での富士川河口断層帯は、幅5 kmの間に平行または雁行状に発達した少なくとも四つの活断層からなり、それぞれの断層の活動度は、陸域と沿岸海域とで異なっていることが分かった。調査によりこれらの地質情報が得られたことで、特に沿岸地域での活断層の分布を考慮した地震災害軽減対策や施設の建設計画などへ貢献することが期待できる。

海上音波探査(図2の704測線)で得られた反射断面(上)とその解釈図(下)の図
図3 海上音波探査(図2の704測線)で得られた反射断面(上)とその解釈図(下)
浸食面の変形から四つの断層が認められる。富士川沖断層AとBが入山瀬断層の延長部である。

今後の予定

 今回の「沿岸域の地質・活断層調査」プロジェクトによる駿河湾沿岸域の調査結果は、2016年6月に海陸シームレス地質情報集「駿河湾北部沿岸域」として、公開を予定している。

 また、このプロジェクトは、経済産業省の新たな知的基盤整備計画の一環として、2014年からは新たに南関東沿岸域の地質・活断層調査を開始するとともに、2017年以降は、東海、近畿・四国の太平洋側を中心とした大都市・中核都市の沿岸域を対象に地質調査を行うことを計画している。今後、これらの調査を進め、沿岸域の総合的な地質情報を整備していく。



用語の説明

◆富士川河口断層帯
富士宮市西部から富士市西部、静岡市清水区東部に至る南北方向に延びる活断層群で、入山瀬断層、大宮断層、安居山断層、入山断層、芝川断層など、多くの活断層からなる。南方は駿河トラフ(南海トラフ)に連続すると考えられており、他の陸上の活断層とは異なり、非常に大きな平均変位速度が認められている。[参照元へ戻る]
◆駿河トラフ
南海トラフのうち、駿河湾から静岡県沖に至る部分を、特に駿河トラフと呼ぶ。なお、駿河湾以西は島弧である西南日本弧と海洋プレートであるフィリピン海プレートとの境界であるが、駿河湾地域は西南日本弧とフィリピン海プレート東端の伊豆-小笠原弧との島弧同士の衝突境界である。[参照元へ戻る]
◆雁行
幾つかの断層が、斜めに並んで配列して発達していること。[参照元へ戻る]
◆南海トラフ
富士川河口付近を含む駿河湾から、東海、紀伊半島、四国沖を通り、九州南東沖に至る水深4,000 m級の海溝である。フィリピン海プレートがユーラシアプレート(西南日本弧)へ沈み込むプレート境界でもあり、広域に連動して最大マグニチュード9クラスの地震が起こると想定されている。海溝としては浅いためトラフと呼ばれる。[参照元へ戻る]
◆入山瀬断層
富士川河口断層帯の主要活断層の一つで、北北東-南南西方向に延び、富士市入山瀬から静岡市清水区蒲原の吹上ノ浜とその南方沖合に連なる。日本でも最大級の7 m/1000年の平均変位速度が推定されているが、その痕跡が地表では認められないなど、実態がよく分かっていない。[参照元へ戻る]
◆活動度
断層の活動の程度で、日本では、平均変位速度に基づいて、活断層の活動度をA級からC級の三つに分類しており、平均変位速度が1~10 m/1,000年の場合、活動度はA級とされる。[参照元へ戻る]
◆平均変位速度
断層が一定期間に平均的にどの程度ずれているかを示すもの。活断層では、1,000年あたりのずれの量で示す。活断層の活動度は、平均変位速度の大小で示される。[参照元へ戻る]
◆反射法地震探査
地表で衝撃波または連続波を発生させ、地下の反射面から地上に戻ってくる反射波を、地表の受振器で測定し、地下反射面の深度分布や地下構造を解析する探査方法。[参照元へ戻る]
◆反射法音波探査
海底下の地質構造を、音波を用いて調べる方法。海面付近で強力な音波パルスを発振し、海底下の地層面からの反射音を受信することにより、それらの深さを知ることができる。航走する船から繰り返し音波パルスを発振し受信することによって、海底下の地質構造断面のイメージが得られる。[参照元へ戻る]
◆浸食面
地層が波浪や河川の作用などで削られてできる面。それを境に地層が変化するため、探査でみつけやすい。海水準の低下によってできた浸食面の場合、元々が平坦な面であるため、その後の変形の指標にできる。[参照元へ戻る]
◆安政東海地震
1854年に発生した紀伊半島から駿河湾を震源域とした大地震である。駿河湾地域でも、震度5~6以上であったと推定されている。この地震以降、160年以上にわたって駿河湾地域では大きな地震は発生していない。[参照元へ戻る]
◆蒲原地震山
1854年の安政東海地震の際、静岡市清水区蒲原で地表が隆起したとされる地域である。入山瀬断層の活動による変形かどうかは、よく分かっていない。[参照元へ戻る]



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